やはり俺が346プロに所属するのはまちがっている。   作:巣羽流

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オリキャラすこし出ます。


9話

先週までの暑さとは打って変わり、秋を感じさせる冷たい風が朝方は吹き込む。

 

恐らくあと2週間もすれば秋は一気に深まっていくだろう。

 

静かに太陽が登り、通勤ラッシュが始まる時間の都内某公園広場に世話しなく動き回る大人の集団がいた。

 

そこそこ長いトレーニング期間を経て、

ついに今日、ここからテレビドラマの撮影が始まる。

 

「これからよろしくお願いします」

 

「よろしくお願いします!」

 

「よろしくねー」

 

俺と片桐さんは共演者の先輩方へ挨拶回りの最中だ。

 

俺のような若輩者は挨拶回りは欠かせない。

この先長いこと仕事を共にする訳だし何処かで迷惑を掛けてしまうかも知れない。

その時に失礼なやつだと思われて居たのではやはり現場の雰囲気が良くない。

 

映画撮影の時も最初はNGをかなり出してしまっていたが、共演者の人柄も相まって雰囲気は悪くならず穏やか空気を保つことが出来た。

 

「最近人気の比企谷君。是非とも人気にあやからてもらうよ」

 

「いやいや、こちらこそ吉田さんの人気にあやからせていただきますよ」 

 

「ははっ、任せとけ」

 

 

今挨拶している吉田さんは40代男性で、主に警察や医療ドラマで有名なベテラン俳優だ。

今回は俺たちが演じる警察官の課長役で上司にあたる。

高校生の頃の俺でも知っていたくらいなのでかなり有名人だ。

有名故に少しびびってたが気さくな人柄なようで少し安心する。

 

「で、そちらの女性…主役の片桐さん」

 

「は、はい!」

 

吉田さんは次に片桐さんへ目を向けた。

片桐さんはと言えばかなり緊張しているようで頬が強ばっている。

 

まぁ大人と言えどテレビの中の人と話すと緊張するよね…。

バラエティーに出て慣れてきた俺だって未だに緊張する。

 

「よろしくね」

 

「よろしくお願いします!」

 

「お芝居は今回が初めてだって?」

 

「は、はい…」

 

「まあまあそう緊張しない緊張しない。何かあっても俺たちでカバーするから」

 

そういってポンっと俺の肩に手を置いて微笑む吉田さん。

流石っていうか何て言うか…。

大人の余裕?気遣い?そういうのをひしひしと感じる

俺も40代になれば同じことが言えるのか…?まぁそれまで俳優を続ける気はないが。

まだ専業主婦の夢!諦めてないからな!

 

「ありがとうございます」

 

「吉田さん。僕もまだ駆け出しなんでフォローされる側と思って欲しいんですが…」

 

「大丈夫大丈夫!俺、あの映画見たんだけどね、比企谷君なら心配してないから」

 

「ええ…。勘弁してくださいよ」

 

はははっと朗らかに笑う吉田さんとげんなりする俺を見て片桐さんは頬が緩み始める。

 

どうやら少しは緊張が解れたみたいだ。

その事を確認してすこし安心していると、ふと吉田さんと目があう。

吉田さんはやったなと、俺にだけ見えるようにウインクをする。 

 

あらやだ男前(トゥンク)。

どこぞのアラサー女教師並みのイケメンっぷりだ。

俺が女の子なら即惚れてラブなレターを認めて、振られるまでしてただろう。

 

どうでも良いがこのイケメンは女の子を振るときはどんな風に振るのだろうか。男前な振り方を是非教えてほしい。

もちろん実践する予定など未来永劫ないだろうけどね!

 

「それじゃ、他の方にもご挨拶してきますので」

 

「おう。また後でなー」

 

さて、まだまだ共演者は沢山居るしスタッフにも挨拶せねば。

 

撮影開始時刻までそこまで余裕がないので急がなくては。

 

「じゃ、行きますよ片桐さん」

 

「うん」

 

先ほどに比べ緊張が解れた片桐さんを連れ、挨拶回りを続行した。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーー

 

「出演者のみなさん!こちらに集まってください!」

 

白い長袖Tシャツにジーンズ、頭には黒いキャップを被った若い男性が声を張り上げる。

 

撮影開始予定時刻になったと同時に、演者も含めスタッフは一ヶ所に集まってきた。

 

監督から撮影開始の挨拶があり、最初の撮影としてこの公園でオープニング用の簡単な映像を撮る。

 

主要メンバーはカメラに背を向けた状態から、振り返ってポーズを決めていくのだ。

ちなみにこのドラマの主要メンバーは主役とその同僚3人、その上司の合計5名で構成されている。

 

「最初は主役の片桐さん!よろしくお願いしまーす!」

 

 

「はい!」

 

本作の主人公で、ヒロインを勤める片桐さん。

役名は橘 優子(たちばな ゆうこ)。

交通課から少年課に配置変更が決まりったばかり。

感情のコントロールや人とのつきあい方を身に付けられておらず、非行に走ってしまう少年少女へ全力でぶつかっていく婦警さん。

 

振り返った後のポーズは両手を腰に置き、仁王立ちでにかっと笑顔を向ける、まさにイメージ通りのポーズ。

 

 

「オッケーです!次の方!よろしくお願いします!」

 

撮影は次に上司役の吉田さん、同僚役の男女二人の俳優がオープニングポーズの撮影は続いていった。

 

「最後に比企谷さん!おねがいします!」

 

「はい」

 

俺は主要キャラの一人で主人公より年下の同僚を演じる。

役名は栗田 浩一(くりた こういち) 

基本的にやる気はなくていつも愚痴を漏らしてばかりの役どころだ。

 

撮影のポーズはポケットに手を突っ込んだままゆっくりと気怠げに振り向く。

 

普段の状態ほぼそのままだ。警察だしもう少しキリッとしたほうが良かったかしら?

やばいやっぱそっちのほうが良いよな‥。

一発目からNG出しちゃう!

 

「はいオッケー!比企谷君バッチシだよ!」

 

監督がサムズアップしニカッと笑う。

 

うん知ってた。

 

ーーーーーーーーーーーーー

 

 

その後もオープニング撮影は順調に進み

ついにドラマ本編の撮影に移る。

 

場所は都内某建物を警察署風な装いに変えた場所で行う。

 

まずは片桐さん演じる橘の初対面のシーンだ。

 

少年課と書かれたプレートがぶら下がる執務室で

俺を含めた同僚役3人が警察官の制服を纏いデスクで業務を進める。

 

 

「そういえば今日からね、交通課から異動になった新人さんが来るの」

 

同僚役の女優さんは嬉しそうに話しかけてくる。なお役名は高橋だ。

 

「あー、そういやそうですね。てか高橋さん随分嬉しそうですね」

 

「そりゃ、同年代の女の人が増えるんだもん。合コンとか楽しみでしょ」

 

艶めかしい唇に指をあてほくそ笑むその姿は流石女優だ。

綺麗な外見も合わさり無敵に見える。

 

てか本当に綺麗だ…やばい見惚れてしまう。

 

「またそれですか…恋愛脳め…」

 

「なによ。文句ある?」

 

ドキドキする心臓を無理やり押さえつけ平静を装う。

平静といえばこの女優さん平塚先生と同年代だよな…。

見た目じゃそこまで差は無いのに、この如何ともし難い差は何なんでしょうかね。

志々雄と左之助くらい如何ともし難い実力差がある。

 

「いえ。てかどうせすぐ辞めるでしょ?ここの仕事きついし」

 

「まーそうかもだけどさぁ」

 

「そうとも限らないだろ?」 

 

もう一人の同僚役の男優さんが話に入ってくる。役名は加藤だ。

 

「また期待してるんですか加藤さん」

 

「栗田は期待しなさすぎなんだよ」

 

「期待を裏切られても知りませんよ?」

 

「まぁ期待するだけならタダなんだし、良いだろ?」

 

爽やかな笑顔で返される。

中学生の頃の俺なら胡散臭い顔と嘲笑したであろう顔だが、

高校生活を経て、この業界に身を置いてきたため、信用できる笑顔もの見分け方も分かって来たと自負している。

この笑顔は信用できる類の笑顔だ。

恐らくこの男優の人柄から出てくる演技だろうな。

俺には出来ない。

 

「まぁそうですけど」

 

「すみません、ちょっといいですか?」

 

突然横からハキハキした声で呼ばれ、俺たち3人は一斉に顔を向ける。

 

「みなさん、少年課の方たちですよね?」

 

「はい。そうですが?」

 

「やっぱり!今日から少年課へ異動になりました橘です!よろしく!」

 

太陽のような笑顔を振りまける片桐さん。

 

「俺は加藤。よろしく」

 

「栗田です。よろしくお願いします」

 

「私は高橋!てか橘さんかわいい!」

 

「えーっと、高橋さん?ありがとう」

 

女二人でワイワイ暫く楽しげに談笑タイムだ。

今の所元気ハツラツ系統以外の演技も問題なさそうだ。

これならこのドラマの撮影も乗り切れるだろう。

 

それにしても、なんだろう。

見目麗しい美少女二人の談笑ならいつも見ていたが綺麗なお姉さん同士の談笑も、良いな…。

え?酒の席ではよく見てるじゃないかって?

ナンノコトカヨクワカラナイ。

 

「そういえば課長には挨拶行ったの?」

 

「あっ!いけない!まだ行ってない!」

 

アワワワっと慌てて課長の方へ向かう片桐さん。

その演技キツイ。

確かにかわいいが年を考えたらかなりキツイですよね…。

 

「カット!はいオッケー!じゃあ次のシーン行こうか!」

 

そんなあざとい演技もオッケーになり撮影は次のシーンへ進んでいった。

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

その後も順調に撮影は進み気がつけば太陽は半分程沈み空を燃えるような朱色に染めていた。

 

撮影は順調に進んでおり、本日撮影予定の最後のシーンを撮影中だ。

片桐さんの演技はNGを出し取り直すこともあったがほんの数度程度だ。

前のカットまでのNG回数だけなら俺とほぼ同程度に留まる。

それほどここまでは順調だった。

 

「お前たちなんかに俺たちの悩みはわかんねぇよ!」

 

「そんなはずない!私たちにも分かる!」

 

「カット!片桐さん!まだ足りないよ!」

 

そう、ここまでは順調"だった"のだ。

これは夕日をバックに非行少年へ熱い説得を試みるも相手の心に言葉は届かず逆に自分の言葉が如何に薄いかを実感してしまうシーンだ。

 

「ここは口ではそんなことないって言いつつも心のそこでは少年の言葉に納得してしまい悔しいってシーンだけど、やっぱりまだ片桐さんはそこの悔しいが全然出てない」

 

「はい」

 

「ここは1話目の重要ポイントだ。納得いくまでやるからよろしく!」

 

「はい!」

 

 

監督は片桐さんに何処がダメなのかを指導するがこれでもう5回目の取り直しだ。最初の2回目までは確かに片桐さんの演技を改善していると感じた。

が、それ以降は悔しい感情を出そうとするあまり演技感がある演技になってきてまっている。

非常に演技っぽい演技と言えば分かるか、嘘臭いのだ。

 

度重なる失敗がプレッシャーになり、心なしか表情も引きつってきている。

 

「そんなはずない!私たちにも分かる!」

 

「カット!やっぱりまだダメだな…」

 

「監督。そろそろ時間が…」

 

「ん?…あぁ。もうすぐ日が沈むか…」

 

監督は撮影スタッフが時刻を告げた後表情が曇る。

 

出来るまでやると言うがこのシーンは夕日がバックある時に撮影する必要がある。

当然一日のうち、夕日がある時間は限られているため時間制限はどうしても設定されてしまうのだ。

 

「片桐さん!時間的に次が今日のラストチャンスだからそのつもりでよろしく!」

 

「は、はい!頑張ります」

 

元気よく、きりっとした表情で返事をする片桐さん。

あぁ…そんな気負いしすぎた状態じゃきっとだめだ。

あれだけレッスンしてきた成果を出すことなんて出来ない。

 

「カット!うーん…仕方ない、このシーンは明日取り直すことにしようか。今日の撮影はここまでです!皆さんお疲れさまでした!」

 

予想通り気負い過ぎた片桐さんは台詞を噛んでしまい

結局このシーンの撮影は明日に延期されることになった。

 

「…っ」

 

撮影が持ち越しになると告げられた片桐さんはいつものような真っ直ぐで明るい笑顔はなく、肩を震わせ俯きながら下唇を噛み、悔しさや不甲斐なさに打ちひがれる、そんな表情で現場に佇んでいた。

 

 

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