暗殺教室と将来の夢   作:マックスメンメン

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プロローグ
家庭訪問の時間 一時間目


 将来の夢。

 

 それは小学校の時の記憶。

 

『僕の将来の夢はプロのボクサーになって、世界チャンピオンになることです!』

 

 そんな希望を抱いて自分の作文を読んでいたのは小学三年生くらいの頃だったろうか?

 

『世界チャンピオンになったらお母さんに好きなもの買ってあげれて、好きなもの食べさせてあげたいです!』

 

 親孝行をしたい。そんな事を思っていたのかもしれない。

 だけど、今の自分は何をしている?

 

『毎日()()()()練習してるので、応援して下さい!』

 

 パチパチと拍手されたことは覚えている。

 確か授業参観の時だったかな。

 けど、そんな『夢』を抱いていたのは小さい頃だけだ。

 

 努力では叶わない夢もある。

 無邪気な子供でいたほうが幸せだったのかもしれない。

 

 

 ■

 

 

「『夢』か……」

 

 そう呟き、俺は自分の部屋の天井を見た起床した。

 カーテンは締め切り、辺りにはゲームや漫画などが散乱している。

 薄暗い部屋にコンコン、とノックの音が響き渡った。

 

「ねぇ、和夢ちゃん? 起きてる?」

 

 母さんの声だ。

 俺はドア越しに起きてるよ、と返事を返す。

 

「今日はいい天気だし、少し外へ出てみたらいいんじゃないかしら……まだ、学校には───」

「まだ行かないよ。ごめん、あっち行ってて……」

「……ごめん。母さんが悪かったわ」

 

 またやってしまった。

 母さんは心配してくれているだけなのに……。

 俺は布団に潜り込み頭を抱える。

 どうしてこうなった。どこで間違えた。親孝行するなんて言っておいて、迷惑しかかけてないじゃないか。

 

 そんな罪悪感が胸をキシキシと締め付ける。

 勉強でも落ちこぼれ、やっていたボクシングは挫折し、ジムにも通わなくなっていた。

 先程見た夢が頭の中で映像を見ているように再生される。

 何が世界チャンピオン……何がお母さんに好きなもの買ってやるだ。

 笑える。

 こんな自分がどうしようもなく、笑える。

 笑えると言えばアイツらだ。E組に落ちたと聞いた瞬間、手のひらを返すように俺のことを馬鹿にし、蔑んだアイツらの顔が浮かぶ。

 

『和夢の奴、E組行きだってよ』

 

 うるさい。

 

『ボクシングもダメで勉強もダメ。世界チャンピオンになるとか言ってなかったか? ブフッ……何も出来ない落ちこぼれチャンピオンにはなれんじゃね?』

 

 黙れ。

 

『おいやめてやれよ、スポーツと勉強の両立は選ばれた者だけがやればいいんだって。アイツは両方とも持ってない凡人以下だったってことだろ?』

 

 やめてくれッ!

 

 俺は気が付けば再び眠りに落ちていた。

 

 

 ■

 

 

「和夢ちゃーん? 椚ヶ丘中学校の先生が来てるわよー?」

 

 唐突に母さんが言ってきた。

 先生? 何しに? 不登校の俺を学校に来るよう呼びかけにでも来たのか?

 このまま部屋に居る……いや、この選択は間違っているだろう。

 自分を変えなくちゃいけない。だから、行かなくちゃ……。

 そう思い、重い腰をあげて嫌々俺はベットから立ち上がった。

 

「わかった。今行く……」

 

 部屋から出て、玄関へ向かう。

 二階にある俺の部屋から玄関まではそこまでの距離じゃない。なのに、階段を降りる一段一段が、崖に見えるのはなぜだろうか。

 そしてついに玄関。

 そこに居たのは俺が全く知らない先生。

 髪は短髪でスーツをビシッと決め込み、凛とした顔をしている。いかにも真面目そうでエリート的なオーラさえ感じた。

 

「初めまして、東條和夢(とうじょうかずむ)君。私は今年からE組の担任になりました、園川雀と申します」

「……はぁ、それで何の御用でしょうか?」

「少し大事な話があるので、二人だけで話したいのですが……」

 

 そう言って、園川さんは視線を母さんの方へと移した。

 俺も母さんをチラ見したが、何故だか目がキラキラと輝いている。

 そんなに俺が部屋から出たのが嬉しいのか……。

 

「わかりました、いいですよ」

「では、外の車まで同行お願いします」

 

「わかり、───は?」

 

 ポカンと口が開いてしまった。

 何故? うちの部屋の何処かじゃだめなの? まさか学校行く気?

 

「い、家じゃ駄目ですか?」

「とても大切なお話なので……お母様、よろしですか?」

「是非連れてってください! うちの息子をよろしくお願いします!」

 

 母さんは何故か園川さん両手を握り、嬉しそうに言った。

 おい待て、何勝手に決めてるんだ。

 

「では、参りましょう」

「いや、でも俺───」

「はい、和夢ちゃん早く行った行ったー♪」

 

 背中を押されてついついサンダルを履いてしまった。

 もう引き返せない。

 俺はやむなくして、園川さんに同行した。

 

 玄関を出れば、そこに止まっていたのは黒塗りの高級車。

 

「随分お高そうな車に乗っているんですね」

「いえ、これは私の車ではなく、ぼうえ───じゃなくて先輩の車です」

 

 今何か言いかけなかった?

 俺は黙って車の後部座席へと足を運んだ。

 

 

 ■

 

 

 車が発信して、少し経った頃。園川さんが口を開いた。

 

「すみません。実は私、担任というのは嘘なんです」

「え? じゃ、じゃあ、貴方は……」

 

 俺は最悪の展開を予想する。

 誘拐か? 何かヤバいことに関わってるんじゃ。

 

「嘘を付いて申し訳ありません。私は防衛省より派遣された者です。詳しくは防衛省に着いてからお話しさせていただきます」

「防衛省?」

 

 防衛省が何で俺なんかを……。

 その疑問と拉致とか犯罪めいたことじゃなくてよかったと、心の中で俺は思った。

 

 

 ■

 

 

「単刀直入にいう、君にはある生物を殺してもらいたい」

 

 防衛省の応接室的な部屋で俺は唐突にそう告げられた。

 

「いや、話の内容がイマイチ理解出来ないんですけど……」

 

 何でもマッハ20で動くタコが、最近起きた事件───月が爆発───の犯人であり、何故か椚ヶ丘中学校の担任らしく、クラス全員で暗殺して欲しいらしい。

 もし、暗殺出来なかったら来年の椚ヶ丘卒業の日に地球も月と同じ運命をたどる、との事。

 いや、何で?

 

「ちなみに成功報酬は100億円だ」

 

 なんだ、コレ。モニタリングかなんかされているのだろうか。

 周りをキョロキョロと見渡し、カメラを探すが見当たらない。うまく隠しているのか、それとも目の前の男───烏間唯臣───が本当の事を言っているのか。

 

「イマイチ信じらんないですけど、ちなみにその事を母さんに言ったら?」

「その場合、記憶消去の手術を行ってもらう」

 

 怖っ、何だそれ。

 聞いたことも無いぞ、記憶消去できる手術なんて……。

 俺は世の中の闇に触れたような気がした。

 

「一ついいですか?」

「ああ、構わない」

「俺、不登校児ってしってます? 学校あんま行きたくないってゆーか、まぁ、堂々とカッコつけて話せることじゃないんですけど……」

「一応そこら辺も踏まえた上で話させてもらっている。東條くんが学校に行くようになったら皆と協力して暗殺をして欲しい、というお願いだ」

 

 成る程、ならばまだ学校に行かなくて言い訳か。

 俺はソファーの背もたれに寄りかかりながら天井を見上げる。

 そして、再び烏間さんを見て、

 

「じゃあ、登校する気になったら電話します」

「よろしく頼む。地球の運命は君達に掛かっている」

 

 地球の運命ねぇ。イマイチ実感が湧かなかった。

 

 

 ■

 

 

 防衛省から家までは車で送ってもらった。

 家に帰るなり、母さんから色々と話を聞かれたが、はぐらかして直ぐに部屋へと逃げた。

 うっかり喋ってしまったら不味いし。

 

 すでに空は暗くなっており、空を見上げれば三日月が出ている。

 

「マジかぁ……100億あったら母さん喜ぶかな」

 

 ポツリと呟いたその時、俺は先程話された事が真実だと初めて実感した。

 

「ヌルフフフ……君が東條和夢くんですね?」

 

 その問いかけに俺答える前に、

 

「ぎゃああああああッ!」

 

 絶叫してしまった。

 

 

 絶叫してから15分ほど経過した。

 俺の叫び声にビックリしたのか母さんは俺の部屋にマッハの速度が如し入ってきた。

 嘘をついて大丈夫だと納得させ、とりあえず部屋から追い出す。

 めちゃくちゃ焦ったわ、マジで。

 

「えーと、先生まだいる?」

「も、もし訳ありません。いきなり窓から現れて驚かせてしまい……」

「本当にビックリしましたよ……アンタ、自分が国家機密だって自覚してないんですか?」

 

 マジで焦った。

 目の前のこの生物を見た時、俺は実感した。

 今日防衛省で話された事が全て現実であり、世界を滅ぼせる超生物である事を。

 

「にゅや!? い、一応自覚してるつもりなのですが……」

「てか、母さんは担任が園川さんだと思ってるんだけど、実際E組の担任は烏間さんってことになってるんだよね? どーすんのマジで」

「まあ、そこら辺は何とかなるでしょう」

「まさかの何も考えていない感じ!?」

 

 目の前の生物は、触手のようなものをクニョクニョと動かしながら何にも考えてなさそうな雰囲気すら感じる。

 実際、何も考えていないのだろう。

 あまりにも非現実的な光景なのに、不思議と俺の心情はとても穏やかだった。

 目の前の担任(超生物)はそこまで怖い見た目でもなく、愛らしささえ感じ、俺のことが心配で様子を見にきてくれたのが直ぐにわかった。

 そういえば、不登校の俺の様子を見に来てくれてた女の先生もいたっけ? あの人は移動になったのかな?

 

「おや、これは……」

 

 先生は俺の部屋を隅々まで見渡すと、あることに気付いた様子で部屋の隅っこに移動し始めた。

 

「ああ、それはアマチュアボクシングやってた時の賞状とトロフィーだね」

 

 雑な扱いで箱に押し込んであるトロフィーなどの過去の遺物。

 先生はそんな遺物をマジマジと見つめていた。

 

「凄いですね。和夢くんの若さでこの量のトロフィーや賞状の数々……幼少から努力してきたんですね。ですが何故、この様な扱いを?」

  「俺にはボクシングの才能が無かっただけですよ。背も高くないし、腕力もそんなにないし……」

 

 俺がそこまでいったところで、先生は自身の触手を伸ばして俺の体に巻きつけ始めた。

 な、何するんだよっ、と言おうとしたが、先生は動かないでいて下さい、と言葉を被せてきた。

 

「成る程、確かに君の体はボクシングには向いていないかもしれない……」

「───ッ!」

 

 その言葉に俺は歯をくいしばる。

 わかっていた。わかっていたからこそ、どうしても言われたくなかった言葉。

 所詮、目の前にいるのは怪物。誰しもがその力を認めた超生物。

 俺の様なちっぽけな存在など、視界にすら入っていない。いや、そこら辺の働き蟻くらいにしか思ってないのかもしれない。

 少し期待して損した。

 

「そんな顔をしないで下さい。先生は全てを否定した訳ではありませんよ? 君は小柄でパワーが欠けている反面、バランスが良い。真ん中を軸に一本しっかりと通っている。近距離からの殴り合いには部が悪いでしょうが……もし、君がアクロバティックな蹴り技を習得したなら君の拳は更なる力を帯びるでしょうねぇ……」

「ハッ、そんなの慰めにもなってないですよ。大体、ボクシングに蹴りは反則───」

 

 ハッと俺は気が付いた。

 この先生はこの俺にキックボクシングを勧めている事に。

 

「……でも、先生。キックボクシングとボクシングじゃ勝手が違います。チャンプ級ボクサーでさえ、蹴りがあったらキックボクサーに負けますし、チャンプ級キックボクサーも蹴りが無ければボクサーに負けます。今更、俺なんか努力したところで……」

 

 そこまで言ったところで、先生は触手を一本立て、大きな口を大きく開き笑顔で言った。

 

「なら、こうしましょう。先生が今日から勉強とキックボクシングを教えてあげます。もし、キックボクシングを初めて才能がない、努力が意味ない、と思ったなら学校に来なくても構いません。まあ、先生はキックボクシングやったことなんてありませんがね」

 

 それはあまりにも先生らしくない言葉。

 

「いや、いいよ。どうせ努力したところでたかが知れてるし、来年には地球を爆破するんだろ? なら未来は一緒。皆の死は平等にやってくるし、俺はそれまでゆっくりさせてもらうよ」

 

 そう言って、俺はカーテンと窓を閉めた。

 最後に窓の外から、ヌルフフフ……また来ますね、という言葉が聞こえたのは気のせいだろうか?

 

 俺はまだ知らない。

 次の日から、あんな目にあわされるなんて……。

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