あの、月の綺麗な日の陽だまりの中で(仮題)   作:RyuRyu(元sonicover)

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──どうやったって、俺は俺なのだから。


嘘も方便

 週明けの朝。いつもなら地獄の一週間の幕開けでもあり、ベッドから出るのすら嫌になった。

 

 でも、今日からは違う。そう信じたい。

 

 烏間さんと殺せんせーに出会った日の翌日、退院する時に防衛省の人が椚ヶ丘中学校の制服を持ってきた。どうやら本当に俺は転校した事になったらしい。烏間さんの仕事が早いのか、国の力が意図せぬ所でかかったのか。どちらにせよ、今日から俺は三年E組の一員になる。この事がどっちに転ぶかわからないが、少なくとも、この先生(殺せんせー)の事は信じてみたいと思う。

 

 トーストにジャムを塗りたくってかぶりつく。

 手早く朝食を済ませて貰ったばかりの真新しい制服に袖を通す。

 

「……うお、超ぴったり」

 卸したてのブレザーなので多少固い所があるが、それ以外は概ね問題が無い。いや、もうホントにジャストフィット過ぎて驚いた。俺サイズなんか教えてないからね?

 

 国って凄いなぁと、他人事みたいに思いつつ、いつもより早めに家を出た。

 最寄りから快速電車に揺られる事十数分。人生初の満員電車は俺のHPがゼロになるには十分でした。

 明日からは各駅停車に乗ろうと心に決めて俺は転校先へと歩を進めた。

 

 椚ヶ丘駅から歩く事十数分。夜中に1回しか通った事のない通学路だったが、それなりに憶えていたみたいで、特に迷わずに椚ヶ丘の本校舎の前に辿り着いた。

 思ったより早く着きすぎたせいか、本校舎からE組へ向かう道すがら、同じ制服を着た人は見なかった。やっぱり快速なんて乗るんじゃなかった。

 山道を登りきると、あの時以来のE組校舎が姿を現した。あの時は辺りが暗かったからぼんやりとしかわからなかったが、想像を超えるボロさ。

 何十年も前の学校の校舎の様で、今は誰も使われていない様な、廃墟と言われてもすんなり納得できるくらいのボロさ。

 

 所々に雑草が生える校庭を横切って校舎の中に入ると、先週俺が覗いた職員室を目指した。昨日のうちに烏間さんからまずこっちに来るようにと言われていた。

 

 木造りの引き戸を開けると、烏間さんがパソコンで作業していて、殺せんせーはグラビア雑誌を読んでいた。

 

 ……朝から何やってんだよ担任教師。

 

 二人と挨拶を交わし、E組で暗殺する上での大まかなルールを教えてもらった。

 

 曰く、授業中の暗殺は禁止。第三者への口外も禁止。口外した場合にも記憶消去手術が施行されるそうだ。なかなかヘビーな罰で少しだけ背筋が震えた。

 ほかにも、殺せんせーは生徒に危害を加える事はできないが、その家族、友人には当てはまらないなど、予想以上に制約があったお陰で時間はいつの間にか朝のHRが始まろうかという時間になっていた。

 

 ……今更なんだが、生徒が先生を暗殺とか、普通だったらありえないよな。マンガにして少年誌で連載しても普通に面白いでしょ。ジャンプとかどうよ?

 

 時間になったので、烏間さんと共に教室へと向かう。殺せんせーは既にE組で朝のHRの最中だ。

 

「……奴からも言われたと思うが、ここの教室の生徒達は皆奴の暗殺という一つの目標に向かっている。個性的な者ばかりだが、皆がそれぞれに長所を持っている。最初こそは戸惑うと思うが、仲良くしてやってくれ」

 

 E組のドアの前。烏間さんからそう言われた。

「……殺せんせーからも、この教室で君の学生生活を取り戻せと言われました」

 

「是非そうしてくれ。でないと君をこの教室に転校させた意味が無い」

 

「……頑張ります。それで、殺せんせーを殺します。改めてですが、これからよろしくお願いします。烏間先生」

 

 そう言って笑う俺を見て烏間先生は期待しているというふうに柔らかい笑みを浮かべてくれた。

 

「出席も取り終わった所で、皆さんにお知らせです。今日から新たに私を殺しに来るクラスメイトが一人増えます。私が望んでこの教室にスカウトしました。それでは入ってきて下さい」

 

 そのセリフで教室内のボルテージが一気に上がった様な気がした。にしても、スカウトって……。

 

 若干の入りづらさを覚え俺は引き戸を開けた。

 

 うう……緊張する……。

 

 

 

 ◆◆◆

 

 

 

 

 HR後のE組、殺せんせーに促されて通された席の周りには早くも人だかりが出来ていた。マンガとかでよく見る、転校生の席の周りに集まって質問攻めにする、アレだ。正直言って甘く見てました。質問攻めってこんなにハードだったんだな……。完璧美少女とかは嵐の様な質問を笑顔で全て受け答えするのか……凄いな。聖徳太子かよ。

 

 でもまあ、学校生活を取り戻すと言った手前、できるだけ早く溶け込むためには質問攻め位は難なくこなさないと……。

 

「赤崎ってどこから来たんだ?」

 

 …………。

 

 おおう。のっけからヘビーだな岡島とやら。一瞬フリーズしてしまったじゃないか。

 

「あ、ああ。福岡から来たんだ。あと、俺の事は好きに呼んでもらって構わないから」

 

 どうよ。さり気なく大嘘ぶっ込んでからの他人を気遣うこのコンボ。え?どうでもいいって?言うな。自分でもわかってるから。

 

「そうか?じゃあ飛翔って呼んでもいいか?」

 

「ああ、もちろん。岡島、よろしくな」

 

「おう!よろしく!」

 

 とまあ、そんな感じで質問の嵐をやり過ごして一時間目。ちなみに他の人からの質問は殆ど似たような内容だった。「好きな食べ物は?」とか、「好きな教科は?」とか。当たり障り無さすぎて逆に楽だった。それで殆どの人が俺の事を下の名前で呼ぶことになったのも同じ。最早テンプレと化してしまった感も否めない。まあ、岡島だけがだいぶ際どい質問をかましてきたからだったんだけど。

 

 

 とまあ朝の段階からいろいろあって、1時間目。

 最初の授業は英語という事で殺せんせーが教壇に登るのを待っていたが、教室に入ってきたのは黄色いタコ型生物ではなく、金髪で碧眼の巨乳の美女だった。つーか整いすぎだろ。全男の妄想上の生物だと思ってたのに。金髪碧眼巨乳美女。レア度で言ったらペガサスくらい。それってこの世にいないじゃん。

 

「あら、見ない顔ね。新入り?……なかなかイケメンじゃない」

 

 教室に入って開口一番、その金髪碧眼巨乳美女は俺目がけてツカツカとヒールを鳴らせてやって来る。

 

「……ちょ、近いんですけど」

 

 机の前に立った金髪碧眼巨乳美女は身を乗り出して俺の顔を覗き込む。うおっ、こうして近くで見るとそりゃあもう。素晴らしいモノをお持ちで。

 

「この教室の英語を担当するイリーナ・イェラビッチよ。What your name?」

 

 この人だけかもしれないけれど、ネイティブの発音ってなんかエロいよね。

 

「あ、赤崎飛翔です……」

 

「Excellent!私の事はイリーナ先生と呼んでくれると嬉しいわ。か・け・る・君」

 

 あの、これ以上は俺の精神衛生上大変宜しくないので近づかないで頂くと……ああっ!耳元で囁かないで!

 

「ビッチ先生ー。早く授業始めてよ」

 

「ビッチ言うな!わかったわよ!始めればいいんでしょ始めれば!」

 

 隣の赤髪の人に言われてイリーナ先生は教壇の方へと戻っていった。てか、あの人ビッチなんだ。……まあ、確かにビッチだな。金髪巨乳の時点でビッチ確定だろ、相場的に。

 

「ああ…その、ありがとうな」

赤髪の人にお礼を言うと、その人はお構いなくというふうに手をヒラヒラさせながらやけに親しげに答えてきた。

「んー?気にしないでいいよ。あの人皆からビッチビッチ言われてるから赤崎君くらいにはマトモに呼んで欲しかったんだよ」

 

「うっさい赤羽!ディープキスするわよ!」

 

 うわぁ、やっぱりビッチだ。

 それにしても、赤羽はそれを分かっててビッチ呼ばわりしてんのかよ。いい性格してんな。

 

「そうか。なら俺もビッチ先生って言った方がいいのか?赤羽」

 

「業でいいよ。そうだね。ビッチ先生の方がビッチ先生も喜ぶから」

 

「そうか。あ、俺の事も下で呼んでも構わないぞ」

 

 その直後、カルマにディープキスしに来たビッチ先生の口に、カルマがわさびのチューブを突っ込んでビッチ先生が悶え苦しむというイベントがあったのだが、その話の度にビッチ先生から報復ディープキスが飛んでくるのでE組のタブーになったのはあとの話。

 

 ……でも、頬を紅潮させて床をのたうち回るビッチ先生は、やっぱりとてもエロかったです。


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