IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第104話 <プレジデント・オーダー>

 とにもかくにも、対衛星攻撃パッケージ<アフタヌーン・ブルー>を用意すること。

 その<アフタヌーン・ブルー>は、イギリスの<ナイトソード・ブラックスミス社>で開発が進められていて、搬入には20時間かかるという。けれど『逸早く<アフタヌーン・ブルー>の特性を把握したい』というセシリアの要望を受け、急遽、彼女の帰国が決まった。

 

 というわけで――――

 

 IS学園近隣のプライベート空港。セシリア同様、イギリスに用事があった私は、彼女のプライベートジェットに相乗りさせてもらったのだが――

 

(きまずいなぁ……)

 

 セシリアは外の景色を眺めてばかりで、私に視線ひとつ寄こさない。完全に無視を決め込む彼女との間に会話もなく、機内はピリッとした空気に包まれている。この重々しい空気に、私は早くも根を上げそうだった。

 

(これから8時間、こんな具合か……)

 

 なんとかこの空気から逃げようと、私は紙の束を取り出した。

 スコールから受け取った<楽園計画>の資料だ。

 資料は三部構成で、第一部には「世界の食糧事情」。第二部には「飢餓レベルと倫理バイアス」第三部は「<楽園>計画の概要」、最後には賛同者のプロフィールが記載されている。記載者数はざっと100名以上。職種も、植物学者、環境学者、社会学者、心理学者、脳科学者、遺伝子学者、といった有識者から企業のCEOや資産家と幅広い。

 

(この中に、母に成りすましている人物がいるんでしょうか)

 

 先の戦いでアリーシャは「リリスはメアリー・ライオンハートの意思を体現する者」と言っていた。だとすれば、このプロジェクトメンバーの誰かである可能性が高い。

 しかし、絞り込むには人数が多すぎた。女性だけでも40人以上。はっきり言って、知っている人間に聞いた方が早いんじゃないか。そう思いながらプロフィールをめくっていると、一枚の写真がはらりと落ちてきた。

 拾い上げた写真の裏には『チーズ追いかけ祭り優勝記念』と書かれている。

 

(チーズ追いかけ祭りは、イギリスのお祭りでしたっけ)

 

 写真には大きなチーズを抱える母が写っていた。

 隣には金髪碧眼の女性も写っていて、二人の良好な関係が伝わる一枚になっていた。年齢は母と同じぐらい。やや上がった目尻から剣呑な印象を受けるが、聡い碧眼には知性を感じる。それに見覚えがあった私は、ふと右斜めで<アフタヌーン・ブルー>の資料を読んでいるセシリアを見やった。そして、思い至ったようにハっとする。

 

(写真の女性はもしかして――)

 

 女性の正体に気づき、私はプロフィールを読み直した。

 すると、あった。彼女の名前が。

 

(もしかすると、彼女が……?)

 

 脳裏にひとつの憶測が過るも、確信は持てなかった。なぜなら、彼女は既にこの世にいなかったから。だが、完全な否定も、またできなかった。彼女なら母の意思を継ぐ明確な動機がある。でも、しかし――そんなふうに思考が堂々巡りしていると、機長が「離陸します」と言った。

 

 

 

 

 

 それから8時間後、結局、機がイギリス領の空軍基地へ降り立っても、答えは宙ぶらりんのままだった。かといって、これ以上考えても仕方ないのでーーいま確かめないといけないことでもないし――、気持ちを切り替えて、機内から滑走路を眺める。

 広い滑走路には、輸送機と作業用のEOS、いくつものコンテナが見えた。

 

「では、わたくしは<アフタヌーン・ブルー>を見に行ってまいります。帰りの便は3時間後ですわ。よろしいわね」

 

 遅れたら置いていく。そんな口ぶりで、ひとりタラップを下りていくセシリア。

 私もそれに続いて、八時間ぶりに地面を踏みしめた。

 

「さ~て、私も自分の仕事を済ませますか」

 

 ロリーナの話だと「ジェーン・ドゥに会え」とのことだけど。

 とりあえず、私は近場の作業員を捕まえてみた。

 

「<デウス・エクス・マキナ>の使いです。ジェーン・ドゥに会いたい」

 

 作業員は訝しい顔をしながらも上に取り次いでくれた。

 ややして、作業員がこちらを見直す。

 

「アリス・リデルだな。七番格納庫に迎えということだ。――これを使え」

 

 作業員が私に車のキーを渡す。

 私は礼を告げ、用意された荷物運搬用の作業車に乗り込んだ。

 

「七番格納庫はここから南へ一キロほど行ったところだ」

「わかりました」

 

 エンジンをかけ、アクセルをふかし、南にハンドルを切る。

 目的地につくまでの合間、私は指名してきた相手の事を考えた。

 

「ジェーン・ドゥ、か」

 

 ジェーンは、ありふれた英国圏の名前。ドウは存在しない姓だ。

 はたして、そのコードネームが意味するものはなんだろうか。

 結局、何の見当もつかないまま車を走らせ続けると、5分ほどで車が目的地に到着した。降りて、わずかに開いていた扉を潜る。中は暗く、ほとんど何も見えなかった。かろうじて、人の気配を感じるぐらいだ。

 

「<デウス・エクス・マキナ>の使いできた」

 

 私の呼びかけに応じて、奥から人がやってくる。

 シルエットは女性みたいだった。すらっと背が高く、髪はロング。豊満な胸の膨らみと、くびれをもったモデルのような美女だ。暗闇でわからなかった素顔が鮮明になるにつれて、私は目を見開いた

 

「ナタルッ」

 

 現れたのは、かつての上官。――ナターシャ・ファイルスだった。

 

「ひさしぶりね、アリス。お互いまだ生きているようでなによりだわ」

「ええ。お互い悪運が強いようで」

 

 お互いなんどき死んでもおかしくない立場だから、生きて再会できることも当たりまえじゃない。なにより気持ちが沈んでいたいま、ナタルとの再会は嬉しかった。

 

「あたしもいるぜ」

 

 と、ナタルの背後で言ったのは、彼女のバディであるイーリス・コーリングだ。

 筋肉質な体躯に、勝気な相貌。健康そうな足取りで歩み寄ってきたその姿は、別れた時のままだ。

 

「イーリスも元気そうで。あれ、髪を伸ばしました?」

 

 長髪は邪魔になるからショートヘヤ一筋だったのに。

 

「そうなのよ。ちょっとモテるようになったから色気づきはじめてるのよ。『おしゃれに気を使うなんざ、女々しい奴がすることだ』って、誰の言葉だったかしらね」

「うっせーな。いいだろう、別に。あたしがモテるようになったから、妬いてんのか」

「これだから単細胞は。なんで私があなたみたいなマッチョ女に嫉妬しないといけないのよ」

「ああん、誰が単細胞だって? もういっぺん言ってみやがれ」

「そうやってすぐ熱くなるところが単細胞だって言っているの」

「あ、あの、それで私が呼ばれたのは? あるものを受け取れと言われてきたんですけど」

 

 二人の痴話げんかをもっと見ていてもよかったのだけど、今の私には時間がなかった。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい。――あなたにこれを渡すよう言われているの」

 

 ナタルが目線で格納庫の奥を示す。その先にはコンテナが積まれていた。大きさは人間用の棺桶ぐらい。数は4つ。ラベルはなく、外装から中身は伺えなかった。

 

「詳しいことはあなたたちの整備士が知っているわ」

 

 私は「わかりました」といい、ナタルが部下にトラックへ積むよう命じる。

 運ばれていくコンテナを見守りながら、ナタルは続けた。

 

「聞いたわよ、先月のこと。大変だったわね」

「ホントですよ」

 

 ここ半年、月ごとに事件が起こり、その都度、対処に追われてきた。

 正直、軍にいた頃よりハードな生活だと思っている。

 

「ちゃんと休めてる?」

「実はすこし休もうかと思っています。もちろん、今回の件が無事に解決したら、ですけど」

「そう。じゃあ、EUの動向に注意しておいた方がいいわ」

「EUの?」

「ええ。攻撃衛星の開発/運用は国際条約に違反する。ドイツ、フランス、とEUは不祥事つづきだから、一刻も早くこの<エクスカリバー>を破壊して事を収束させたいはず。いまは政治の意思決定がおくれて後手を踏んでいるけど、事の次第ではEU軍が動く可能性があるわ」

「事の次第……、私たちの作戦が失敗したとき?」

「ええ、もしあなたたちが<エクスカリバー>の破壊に成功したら、EUにとっては御の字でしょう。けど、失敗したときは、軍が動く。すでに<モルドレット>級と呼ばれるミサイル巡洋艦が展開しているそうよ」

「なんでも対衛星用に新型弾道ミサイルを積んでいるらしいぜ。あいつの話だとな」

 

 私は積荷作業から戻ってきたイーリスを見た。

 

「あいつって、私をここに呼んだ<ジェーン・ドウ>のことですか」

 

 「ああ」とイーリスは肩を回した。

 

「ジェーン・ドウとは誰なんです?」

 

 私は思い出したように言った。

 話の道筋からナタルたちが<ジェーン・ドウ>であるとは思えなかった。

 

「へへ、誰だろうな。会ったらきっと驚くぜ」

 

 イーリスがニタニタ気持ち悪く笑うと、ナタルが言った。

 

「そろそろ頃合いかしらね。いま会わせてあげるわ。――もういいわよ。いらっしゃい」

 

 ナタルの言葉に促されて格納庫の奥から一人の女性がやってくる。

 淡い桜色の髪に、愛らしくも賢さを宿したサファイヤアイ。懐かしくそれでいて、本当はあるはずの無い姿に、私は鼓動が止まるような錯覚に陥る。

 彼女はバージニア州のアーリントン戦没者墓地に埋葬されているはずなのに。

 

「どう、驚いた? 元気そうだね、アリス」

 

 かつて私が自らの手で殺めた親友――エイミーはそう言った。

 私は息を吸って何かを云おうとするも、何を云えばいいかわからず、むにゃむにゃ口の中を動かした挙句――。

 

「え?」

 

 なんともつまらない反応をしてしまった。

 

 

 

 

 

 期待してたのと違う! とエイミーはそう怒った。

 気持ちはわかる。でも、混乱しているのだから勘弁してほしい。感情も思考もまるで追いついていないのだ。

 

「もっとね。きゃーってなると思った。悲鳴でも歓喜でもなくて、「え?」って何。わたしが「え?」だよ。わたしがバラエティー番組のプロデューサーなら、降板させてるね、間違いなく」

 

 そういう言い回しは間違いなくエイミーだった。

 

「私は別にタレントとして食べていこう思ってませんから、いいですけど」

「シャラーップッ。わたしはアリスのそういうつまんない反応でいろいろ台無しになったことを怒ってんの。これじゃ死んだ甲斐がないよ」

「やっぱり死んでるんですか……?」

「わたしのどこをどう見たら死んでるようにみえるの?」

「見えませんけど」

 

 輪っかもないし、透けてもいない。足もちゃんとある。

 

「じゃあ、生きているんですね」

 

 エイミーは「うん」と私に笑いかけた。その笑顔を見て、ようやく目の奥が熱くなる。

 堪えられず涙ぐむ私にエイミーは「そう、それ」と満足そうに笑った。

 

「でも、どうして。――あなたは私が……」

 

 彼女は米軍が開発したVTシステムにより暴走し、私が止めた。

 そう、殺したはず。

 

「VTシステムの暴走は予定調和だったの。あのとき、あなたに(たお)されることがわたしの任務だった」

 

 私に斃されることが任務……?

 私はナタルに視線をやる。彼女は首を横に振った。

 

「ナタルが知らないのも無理ないよ。この任務は空軍(エアフォース)が計画したものじゃないから。いま、わたしは大統領直下の特殊部隊に所属してるわ。構成員はみんな、わたしと同じようにあらゆる記録や書類からその存在を抹消されている。組織内では<アンネイムド>なんて呼ばれてるわ」

 

 名もなき部隊(アンネイムド)か。

 私は任務の内容を理解した。“死”して、その存在を抹消されること。すなわち、どこの誰なのかもわからない人間――<名無しの権兵衛(ジェーンドウ)>になることが、彼女の任務だった。

 

「でも、なんでそんなもんが」

 

 解せない顔でイーリスが言った。

 

「これからの世界には<アンネイムド>のような<蜥蜴の尻尾切り(リザード・テイル)>が必要なんだよ。アメリカ政府があなたたちに過保護なのは、わたしたちのためじゃない。政府のため。戦死者を出したときの叩かれようは知っているでしょ。公的な軍事介入が政治的に難しいのは、そういう理由があるの」

 

 だけど、<アンネイムド>は既に死んだ人間(ゴーストプロトコル)。存在しない部隊であるがゆえ、殉職しても公的に政治家が責任を問われることはない。軍事作戦における政治リスクを回避するための使い捨て部隊。それがアンネイムド。

 

「なぜ政治家のために、そこまで……」

 

 政府の無謬(むびゅう)性、その限界を知って軍隊を抜けた私にはわからなかった。

 7月の<福音暴走>だって、政治の為に戦ったんじゃない。

 

「政治家のためじゃないよ。アメリカのため。もし、この世界を変えられる者がいるとしたら、わたしは<デウス・エクス・マキナ>でもなく、<亡国機業>でもない。このアメリカだと思っている。そのアメリカに、いまあの人が必要なんだよ」

 

 あの人。41代目にして初の女性アメリカ大統領ルーシー・ファイルス。彼女が仕える理由はそれだけじゃないのだろう。エイミーの聡い碧眼にはもっと別の何かが見えているのかもしれない。

 ナタルはエイミーの話を聞き、そばから離れて人知れず涙を拭っていた。

 彼女たちは殉死しても誰にも知られず、誰にも称賛されない。国家にその身のすべてを捧げた愛国者の姿に、アメリカ大統領の娘であるナターシャが何も思わないはずがなかった。

 

「あなたがそうある理由はわかりました。では、なぜ私のまえに?」

 

 死んだことが強みなら、こうして私のまえに現れることはリスクだ。

 

「わたしにはどうしてもあなたに会いたい理由があった」

 

 エイミーは振り向いて格納庫の奥を見やる。奥のハンガーには3機のISが掛けられていた。一機は銀の福音。もう一機はアメリカの第三世代型IS<ファング・クエイク>。最後は私の知らないIS。

 

「わたしはいまある任務に従事している」

「任務?」

「そう、それは新型メタルギアを見つけ、破壊すること」

 

 メタルギア。戦場に新たなムーブメントをもたらした二足歩行戦車のコードネーム。

 

「それなら遭遇しました」

 

 先々月の<キャノンボール・ファスト>で、私は新型のメタルギアに遭遇している。

 その時のことを話すと、エイミーは首を横に振った。

 

「それはメタルギアRAYね。メタルギアRAYは新型メタルギアを構成する一部に過ぎない。わたしが探している新型メタルギアは、アーセナルシップ計画をもとに開発された新型攻撃艦。コードネーム<アーセナルギア>」

武器庫(アーセナル)……」

「アリス、<白騎士事件>を思い出して。<白騎士事件>でアメリカは大量破壊兵器を使用した各国に報復しなかったわ。つまり“撃ったら撃たれる”という現実は存在しなかった」

「抑止論の崩壊」

「そう。<アーセナルギア>は、この緩んだ抑止論を再構築するために開発されたメタルギアなの。この<アーセナルギア>は数千発のミサイルと、核兵器を装備し、全世界へ報復可能よ。それを世界に示すことで“撃ったら撃たれる”という現実を取り戻そうと前政権は考えていた」

「考えていた?」

「いま、この<アーセナルギア>は合衆国の手にないの」

「まさか<彼女たち>の手に」

「もしかすると、最初からそうだったのかもしれない。核抑止論の再構築は、議会から予算を引き出すためのカバーストーリーだった。いまや連邦議会は彼女たちの傀儡だもの」

「では、<リリス>は全世界に向けて核攻撃が可能だと」

「それだけじゃない。この<アーセナルギア>は単なる核攻撃システムじゃなかったの」

「どういうことです」

「十年前、国連の推奨で、新たな核兵器の安全基準が設けられたの、覚えてる?」

「RRWですか」

 

 信頼性代理核弾頭。レライアブル・リプレイスメンス・ウォーヘッド。

 <白騎士事件>で、たくさんの大量破壊兵器が使われた。RRWは次の<白騎士事件>が起きないよう、保全性と安全性を求め、開発された核弾頭だ。21世紀の核弾頭とも呼ばれ、世界の核弾頭のほとんどはこれに置き換えられている。

 

「このRRWは、次の<白騎士事件>を防ぐ名目で開発されたけど、本当は違った。RRWは世界の核兵器を、この<アーセナルギア>でID管理するためのプログラムだったの」

「<アーセナルギア>が起動すれば、世界中の核兵器は?」

「ロックされる。撃てなくなるわ。そうなれば、誰にも<リリス>を止められなくなる。アメリカでさえね。その前に<アーセナルギア>を見つけて破壊する。わたしの命に代えて」

 

 命にかえても。

 悲壮感のない決意――すなわち死すら厭わない覚悟が、その言葉に込められていた。

 

「もしかすると、本当に会えなくなるかもしれない。だから作戦の前にどうしても会って、あなたに“生きている”ってことを伝えたかった。――わたしはあなたに罪悪感を植え付けてしまったわ。それだけがずっと心残りだった」

 

 エイミーは私の方へやってきて、やさしく手を回した。

 私の背に架せられた十字架を、そっと下すように。

 

「つらい思いさせちゃったね。でも、もういいから。わたしはこうして生きてる。あなたが罪悪を感じる必要はない。贖罪へ歩む必要なんかないからね」

 

 親友殺しの罪から真の意味で解放され、私は全身が軽くなるような錯覚に陥る。手にかけた人間から得られた許しの言葉が、心底にあった罪の意識を打ち消していくようだった。

 けれど、ひとつだけ気残りがあった。

 

「やっぱり、セシリアには会っていかないのですか」

 

 死んだということが、彼女の強み。

 セシリアには生存のことを告げずに行ってしまうのだろう。

 

「うん。あの子はもうわたしの“死”を受け入れられている。なにより、あの子には受け入れなければいけない現実がある」

 

 それがどんな現実か。私はすぐに解った。

 

「でも、わたしは既に死んだ存在(ゴーストプロトコル)。あの子の側にはいてあげられない。だから、わたしに代わってセシリアのそばにいてあげてほしいの。こんなこと、頼める人間はあなたしかない」

 

 セシリアに寄り添えるのは私だけ。だから、エイミーは私の前に現れた。

 無二の友人の頼みを、聞いてやりたい気持ちは大いにある。

 けど、セシリアの冷たい瞳が脳裏を過って、私はエイミーから視線をそらしてしまった。

 

「私はいまセシリアに拒絶されています」

「それでもだよ。腹が立つぐらいお節介で、拒まれても、誰かのために一生懸命になれる。わたしはそんなアリスを尊敬しているし、信じてる。だから、“自分”をやめないで」

 

 信じている。私の在り方を。憧れたその友人が。

 すごく自分を肯定された気になって、力が湧いてくるようだった。

 

「わかりました」

 

 強くうなずく。たとえ、拒絶されても、セシリアは守り抜く。友と友のために。

 私がエイミーの願いを受け、それを叶えることを誓うと、基地内に非常事態を知らせる警報が鳴った。

 

「奴さんがおいでなすってようだぜ」

 

 みんな動揺は見せなかった。敵側が作戦の妨害に出ることは予測の範疇。今回の作戦の要である<アフタヌーン・ブルー>を破壊しにきたのだ。

 

「アリス、私たちは積み荷を守るわ――、あなたは行きなさい」

 

 私は「了解しました」と言った。

 

「セシリアは私にまかせてください」

「ありがとう、アリス。そしてごめんね。アリスにはいろんなものを背負わせる」

「へっちゃらです。お母さんが丈夫に生んでくれましたから」

 

 自分で言っておきながら、自分らしい言葉だと思った。

 たぶん調子が戻ってきているんだ。

 

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