IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第116話 異種格闘戦Ⅱ

<倉持技研>。束専用ラボ。自室に到着したララは、置かれた一立方メートル大のコンテナに触れ、認証を行った。爆破ボルトらしき機構が働き、コンテナが開く。現れたのは狼犬を三周りほど大きくした、機械仕掛けの犬だ。ララはそれについて説明を行った。

 

「<バンダースナッチ>は、分隊支援ユニットとして開発された犬型自動人形よ。動力はプラズマバッテリー、駆動部には電磁筋肉、骨格はカーボンファイバー。だけど、頭部(鼻部分)には生体部品が使われている」

「生体部品……アーヴィングと同じ?」

 

 驚異的な跳躍力を持つ自立無人兵器の脚部には、機械部品ではなく、遺伝子改良された生体部品が用いられている。そのテクノロジーが<バンダースナッチ>にも用いられているという。

 

「そう、犬の遺伝子とES細胞で培養したバイオセンサーよ。感度は犬の嗅覚に匹敵するわ」

「なるほど、追跡犬(トレイサー)として打ってつけなわけか」

 

 つまり、匂いで一夏を追おうというのだ。

 

「さらにバイオセンサーが感知した匂いを視覚化して<ソリッドアイ>に投影することもできるわ。――あなた、<ソリッドアイ>は?」

「……ライラに奪われたらしい……」

 

 いまのラウラの右目に一夏から譲られた多機能眼帯はなかった。

 自分になりすますため奪ったのだろうか――いや、それだけとは思えなかったが、今は考えている暇はなかった。

 

「そう、ならしかたないわね。じゃあ、一夏君をお願いね」

「了解した」

 

 ラウラは<バンダースナッチ>の背に跨った。荷物持ち(ローダー)の機能と、小柄な体格が幸いし、収まりよく乗ることができた。<バンダースナッチ>は何の負荷もなく、ラウラを運んだ。

 

「出口か」

 

 出口を抜けると、<バンダースナッチ>から降りて<倉持技研>の施設内を見渡した。

 ラボの外は慌ただしい空気に包まれていた。走り回る人と飛び交う声が、情報の錯綜をラウラに教える。裡から苦い気持ちがわきあがるが、今だけは飲み込んで、追跡に意識を戻す。

 <バンダースナッチ>はすんすんと鼻を鳴らして南方向へ頭を向けた。

 

「こっちか」

 

 再び、<バンダースナッチ>に跨り、走り出す。

 人間には感じ取れない匂いを頼りに、犬型の自動人形が案内した場所はヘリポートだった。

 Hのマーク上では、ティルトローター型の輸送機が既に離陸体制に入っていた。周囲には見知らぬ兵隊が離陸前のヘリを護衛している。独自のヘルメットに、ボーディースーツ。浮かぶボディーラインは女性のもので、手にはFN-P90が握られている。サイドアームズに、Five-seveNとマチェット。見るからに<黒ウサギ隊>が運用する装備ではない。

 彼らは<バンダースナッチ>の接近に気づくと、銃を構えた。

 すかさずラウラを乗せた<バンダースナッチ>が電磁筋肉に紫電を走らせて横っ飛びする。射線を交わした<バンダースナッチ>はアーチを描いて、そのまま近場のコンテナの影に身をひそめた

 

「ぎりぎり間に合ったが、これでは……」

 

 毒づきながら、コンテナの影から様子をうかがう。敵の正体は不明だが、練度は高そうだった。容易に接近できそうにない。ラウラが手を拱いていると、気づいたライラがヘリのスライドドアを開けて叫んだ。

 

「やっと起きたか。だが、遅かったな、こいつはいただいていく」

 

 言ってヘリ後部のシートに視線をやる。

 そこには一夏の姿があった。気を失っているのか抵抗する素振りもうかがえない。

 

「そうはさせん」

 

 だが、垂直離陸式の輸送機は徐々に高度を上げつつあった。

 

「いい気迫だ。そいつを評して“部隊”は返してやろう」

 

 ライラの言葉と共に、警護に当たっていた兵隊が軽やかに跳躍した。すでに3メートル以上も離陸していたにも関わらず、わずか一回のジャンプで乗り込む。まるでカエルのような跳躍。それと入れ替わる形で下りてきたのは、全身ラバースーツの奇怪な物体だ。

 

「――ただし、こいつを倒せたらな!」

 

 いつぞやのデュノア社で戦った<ラフィングオクトパス>を思い起こさせる物体は、開花のように6つの手を咲かせた。その指先には人形が傀儡のようにぶら下がっている。目を凝らせば、そのどれもが見たことある姿をしていた。

 

「ネーナ、ファルケ、マチルダ、イヨ……?」

 

 ラバースーツを着た物体が有した人形は、みんな<黒ウサギ隊>隊員の姿を模していた。

 

「まさかこいつが<黒ウサギ隊>を操っているのか」

 

 そうだとばかりに、人形をつるした糸を操る。

 タタタタタと聞こえてきた複数の足音に、ラウラは小動物のように見回した。

 自分を取り囲んだのは、自分の部下たちだった。その全員が瞳孔の開いた目でこちらを見ながら、武器を構えている。

 

<さあ、悲鳴を上げろ! 心のそこから叫べ>

 

 ラバースーツの物体が、カランビットナイフを構えて叫ぶ。

 感情を揺さぶるような甲高い叫びを上げ、祈るように構えたその姿は叫ぶカマキリ(スクリーミングマンティス)のようだった。

 

 

         ♠        ♢        ♣        ♡

 

 

 まるで枝木が空に向かって伸びていくようだ。とマドカは思った。

 <シュヴァルツェア・ツヴァイク>の固定浮遊部位から射出されたワイヤーブレードの事だ。

 

(だがそれだけだ)

 

 16本は確かに数的脅威だが、有線制御である以上、複雑な機動は取れない。絡まるからだ。

 マドカはワイヤーブレードをギリギリまで引きつけ、密度を高めたのち、機体を反転。攻撃を受け流す。すかされたワイヤーブレードは後方でスパゲッティーみたいになった。

 

(数を増やせばいいなど、そまつなカスタムだ)

 

 絡み合って制御不能になったワイヤーを握り、マドカは44口径120mm戦車砲を発砲した。

 すさまじい反動で骨格が軋む。元は打鉄用の装備。それを無理に運用しているせいか、照準がぐらつく。しかし、クラリッサは怯んで身を引いた。そうはさせないと、握ったワイヤーブレードを手繰り寄せる。クラリッサは慌ててワイヤーブレードを破棄し、跳躍。施設を向こう側に身を隠した。

 

(妙だな……)

 

 マドカは破棄されたワイヤーブレードを見つめ思った。

 <シュヴァルツェア・レーゲン>のワイヤーブレードは4基。これは操作性と攻撃力を天秤にかけた結果だ。16本という数は、あまりに多く、運用性から見てもアンバランスな仕様といえる。ISを専門に扱うエリートフォースがそれを分からないはずがない。クラリッサは、アリスやラウラに匹敵する戦闘の専門家(プロフェッショナル)であることは確かだというのに。

 

(いや、本来は扱えるのか……)

 

 おそらく、本来は16本を操れる技量があるのだ。しかし、今は操れていない。

 どういうことか。

 しばし黙考したあと、マドカは片翼になったスラスターに火を入れて飛翔した。

 高度を上げてから、右に備わったレーダーシールドを起動させる。強力な電子兵装を持つ<ビショップ>の探索レーダーは、身を潜めていた<シュヴァルツェア・ツヴァイク>をすぐさま見つけ出した。

 望遠カメラが映し出したクラリッサは、両耳を塞ぎ(・・・・・)、肩で息をしていた。

 怯えているというより苦しんでいるようにも見える。だが、マドカは躊躇なく引き金を引いた。

 寸でのところで察知したクラリッサが咄嗟にAICで飛来する徹甲弾を受け止める。

 運動エネルギーを奪われた徹甲弾がみるみるその勢いを失っていく――かと思いきや、糠に杭が刺さるようにズンとめり込んでいった。やがてAICを突破した徹甲弾はクラリッサの胸にダメージを与えた。

 

(やはりか……)

 

 物理攻撃に絶対的な防御力を誇るAIC。それがたった一発の砲弾に打ち負ける。

 その事実にある確信を得たマドカは、腰部のプラズマブレードを引き抜き、斬りかかった。クラリッサもプラズマ手刀を展開して、攻撃を受け止める。

 火花を散らす両者の獲物。

 マドカはサイドバインダーを解放した。吐き出されたEMP(電磁波パルス)がプラズマの刃を形成する収束磁場に干渉して、それを無力化する。唐突に鍔迫り合いを解除されたクラリッサは体勢を崩した。

 すかさず、マドカが44口径120mm滑腔戦車砲を構える。

 近距離からの発砲。

 腹部に徹甲弾を喰らったクラリッサは、後方へ吹き飛ばされ、硬いアスファルトの地面に叩きつけられた。

 

(やはり集中力を欠いているな)

 

 うまくいき過ぎた戦闘にマドカはこれ以上ない確信を得た。

 彼女は戦闘に集中できていない。ワイヤーブレードの操作に精悍さを欠いていたこと、AICを維持できなかったことがその証左だ。

 では、なぜ集中できていないのか。理由もわかっていた。彼女は“洗脳”に抗っているのだ。

 

「うああぁあぁあぁぁぁあああぁぁあぁああ」

 

 両耳を塞ぎ、何かに抗おうとしているクラリッサを、マドカは銃を構えながら見守る。

 内側の戦いには、誰も加勢することができない。

 このまま屈服するか、それとも克服するか。すべては彼女次第。マドカにできることは何もなかった。

 

 

        ♣        ♢         ♠        ♡

 

 

 ラウラは地面を蹴った。こちらに銃器の類はなく、格闘戦を仕掛ける以外に手段がないから、一跳で相手の懐に飛び込む。

 ネーナはすぐさま近接ナイフを抜いた。そして、刺突を繰り出す。ラウラは右へはじき、その勢いのまま背中へ捻じ曲げた。

 

「ネーナ、相変わらず格闘戦が拙いぞ。ゲームと現実は違う。覚えておけ」

 

 度々クラリッサが日本から持ち帰ってくるテレビゲームを、部隊で一番楽しみにしているのが、このネーナだった。特に格ゲーの腕前は大したもので、無類の強さを誇っている。だが、現実の格闘戦はいまいちのようだった。

 

「ゲームもいいが、鍛練を怠るな」

 

 関節技で動きを封じたあと、ラウラはネーナのフォルスターから自動拳銃を抜いた。

 そして、彼女を楯にする形で構える。

 そのラウラと銃を突き合せたのはファルケ。そばかすがチャーミングな新米隊員だ。

 

「ファルケ。災難だったな。初めての実戦がこんな形になろうとは、私としても残念だ」

 

 そう告げた次の瞬間、ラウラの背後に影が忍び寄った。年長のマチルダだった。

 マチルダが、ナイフを抜き、ラウラに斬りかかる――寸前、何かが横殴りに彼女に飛び掛かった。犬型自動人形の<バンダースナッチ>だ。<バンダースナッチ>は、マチルダに噛みつき、組み伏せた。

 

「そういえば、おまえは犬が好きだったな。しばらくそいつと戯れていろ」ラウラは銃の照準を揺るがさず「さて、ファルケ、任務ではなにがおこるかわからない。今回の出来事も教訓として肝に銘じておけ」

 

 発砲。はじき出された9ミリの銃弾が、ファルケからPDWを取り上げる。その隙にラウラはネーナの首筋にグリップを叩き込む。次いでファルケの間合いまで詰め寄り、腹部にこぶしを叩きこんだ。

 うめき、クの字に折れるファルケを一本背負いで地面に叩きつける。

 受け身を取れなかったファルケはそのまま白目をむいた。

 

「最後はおまえだ、イヨ」

 

 イヨはPDWを捨て、腰からロングナイフを抜いた。銃よりも刃物を得意とする彼女は、部隊でも古株で、経験も実力も指折り。体格は178センチの長身。階級は中尉。指揮を執るのが少佐のラウラ、それを補佐するのが大尉のクラリッサなので、中尉の彼女は現場のリーダーを務めることが多い。それだけにラウラの信頼も厚かった。

 

「そのおまえがこうも操られるとは……」

 

 イヨがロングナイフを横一線に振るう。得物を活かしたリーチの長い一撃。そこへ彼女の鍛え挙げられた剣速が加わると、ラウラでもかわすことは困難だった。ラウラは交わすことをあきらめて、ナイフで受けとめた。だが、20センチ以上の体格差は気合で埋めることは難しく、徐々に押し込まれていく。

 しかし、ラウラは余裕を崩さなかった

 

「そうだ。整備部隊のカレシが言っていたぞ。――おまえの愛は重いそうだ」

 

 イヨ、29歳。初めて出来た恋人からの、痛い一言だった。それが響いたのか、わずかに力が緩む。そのすきに攻撃を受け流し、間合いを取る。次いで跳躍、発条のように飛んで、自重を乗せた一撃をイヨに見舞う。寸頚とよばれる中国拳法の一種で、体格差がある相手に有効な技だ。それでイヨをのしたラウラは「ウソだがな」と告げて、<スクリーミング・マンティス>をねめつけた。

 

「次はおまえだ」

 

 <叫ぶ蟷螂>は人間の感情を揺さぶるような、どこか寂しく悍ましい雄叫びを上げた。

 

<戦場がある限り、叫びは消えない>

 

 鼓膜が痛くなる。ラウラが耳を塞ぐと、背後からナイフが振り下された。咄嗟に前転するも背中に赤い線が残る。痛みをこらえて振り向けば、斬りかかってきた相手はイヨだった。それだけじゃない。ニーネ、ファルケ、マチルダたちもゆらりゆらりと立ち上がっていた。

 

「確かに気絶させたはずだぞ……」

 

 フラッと接近してきたニーネに、掌底を打ち込む。先よりも強く。確実に意識を狩る勢いで。

 だが、背中から倒れ込んだ彼女は、ビデオを巻き戻すかのように再び立ち上がった。

 

「くそっ」

 

 再び構えるが、拳は振り下せなかった。意識がなくても操れるのなら、気絶させる意味がない。戦っても、いたずらに仲間を傷つけるだけ。<バンダースナッチ>もグルルと吠えて威嚇しかできなかった。そうしている間にもヘリの機影がどんどん遠ざかっていく。

 

「おい、おまえはヘリを追え。お前の脚なら追いつける」

 

 グルと鳴いて<バンダースナッチ>はマチルダの上を飛び越えた。マチルダは怯むこともなく、フラフラとラウラへ歩み寄ってくる。覚束ない足取りはリビングデットさながらだった。虚ろだった瞳はさらに虚ろに。もはや意思の光は感じられなかった。本当に傀儡人形のようにしか見えない。きっと撃っても動くし、痛みも感じないのだろう。そう思えて銃も使えなかった。

 そうなると、ラウラに残された行動は、跳ね除けるだけだった。

 

「よるな」

 

 群がってくる仲間を突き飛ばす。だが、イヨに背後を抑えられてからは早かった。

 マチルダに手を掴まれ、ニーナに足を抑えられ、ラウラは地面に倒れ込んだ。

 そこへファルケが馬乗りになり、ラウラを押さえつける。

 

<さぁ、叫べ。共食いの時間だ>

 

 <スクリーミング・マンティス>が叫ぶ。「やめろはなせ」とラウラも叫ぶ。

 馬乗りのファルケが両手にカランビットナイフを掲げる。鋭利な三日月形のナイフを両手に構える姿は、まるでオスカマキリを捕食するメスカマキリのようだった。

 

(冗談じゃないぞ!)

 

 友人を奪われたまま、操られた部下の手で終わるなんて、本当に冗談じゃない。

 ラウラは渾身の力を振り絞るが、押さえつけられた体はびくとも動かない!

 

「やめろ、よせ!」

 

 仲間に共食いされるなんて、そんな最後は強要できない。

 できなくても世界はそれを押し付けようとする。

 ネーナがナイフを高く振り上げる。その一点がラウラの心臓に定められる。ここまでか。そう奥歯をかみしめた次の瞬間、空気を引き裂くような轟音が鳴り響いた。

 音の正体をラウラは知っていた。砲弾が音速を超える音――。すなわちレールガンの音だ。それに気づいた時には、飛来した砲弾が<スクリーミング・マンティス>の腹部を穿っていた。

 真っ二つに千切れた<スクリーミング・マンティス>の胴体が、ヘリポートに転がる。吊るされていた人形も腕ごと吹き飛び、地面の上に転がっていった。それに倣うように隊員たちも力なく倒れ込んでいく。

 

「誰がやった……」

 

 倒れかかっていたネーナを押しのけると、声が聞こえた。

 

「……隊長、………ご無事、ですか……」

 

 声はクラリッサのものだった。

 額に大粒の汗。顔色は生気が失せたように白い。酷く憔悴した様子。瞳は錯乱しているかのように定まっておらず、足はマドカに肩を借りてようやく立っているような体裁だった。だが、レールガンの銃爪にかかる指先だけには意思が宿っている。

 

「おまえ、どうして」

「話はあとだ、ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

 マドカが注意を促す。彼女の視線の先には上半身だけの<スクリーミング・マンティス>が浮かんでいた。下半身を失ってなお、まだ動いている。

 

<叫べ、戦場の悲しみを!>

 

 マシンボイスとは思えない生々しい声で、カマキリが訴えかける。

 クラリッサは呻きながら耳を抑えた。だが、あたまの中に響く叫びは、それじゃ防げない。堪えられず、クラリッサは支えていたマドカを振り払って、形振り構わず暴れまわった。

 

<さあ、叫べ。共食いだ>

 

 そして、銃の先をラウラに向けた。二枚板の間に電光が走る。

 

「やめろ、クラリッサ。おまえの撃つべき敵はわたしじゃない」

 

 わずかに銃口が緩む。しかし、電光は輝きを増す。

 

「おまえはわたしのことを気にかけてくれていた。部隊のアイパッチはおまえが、私の胸中にあった劣等感を払しょくするためだろ。そこまでしてくれたおまえが、私を撃つのか!」

 

 もうレールガンには十分な電力が蓄えられていた。あとは引き金をしぼるだけで、砲弾は発射される。クラリッサの指先に力が込もる。照準はラウラに向けられている。

 

「命令だ、クラリッサ・ハルフォーフ大尉。奴を撃て!!」

「うああぁぁあぁぁぁぁぁっ」

 

 ラウラが叫ぶ。クラリッサも叫ぶ。銃口の引き金が絞られる。

 撃発。

 撃ち出された徹甲弾が、包装を捨てて―――飛翔する。

 着弾。

 轟音。

 黒煙を上げて、落下した<スクリーミング・マンティス>を見て、ラウラは膝をついた。

 

「それでこそ軍人だ。――しかし、さすがに肝が冷えたぞ……」

 

 最後に物を言うのはハイテクではなく、戦う人間の意思だと、そう信じていても、クラリッサの行動に確信は持てなかった。一歩間違えばバラバラになっていたのは自分だったかもしれないと思うと、冷や汗が流れた。

 クラリッサも精神力を使い果たしたようだった。立つこともままならず、倒れ込んで動かなくなる。ギリギリの鬩ぎ合いだったに違いない。それでも彼女は洗脳に打ち勝ったのだ。

 だが、喜べはしなかった。

 戦闘レベルでは、確かに勝利したと言っていい。

 しかし、戦術レベルでは大敗を喫した。これ以上ないぐらい、屈辱的な敗北だった。

 

「待っていろ、ライラ。この借りは必ず返す」

 

 そして、必ず取り戻す、名誉と友人を。戦いは次のステージへ移ろうとしていた。

 

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