IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina 作:ネコッテ
放課後。来月のクラス対抗戦に備え、俺とセシリアは第三アリーナに向かっていた。
しかし、これから訓練だというのに、俺は軽い頭痛に悩まされている。
原因は俺の手にある大量の資料だ。これはセシリアが作成してくれた《シールド無効化攻撃》の戦術フローチャートなのだが、その複雑な分岐に俺は頭がパンクしそうだった。
「これ、全部おぼえないとダメか?」
「ええ。全て暗記してくださいませ。できればクラス対抗戦までに」
「わ、わかった……」
資料に目線を戻し、大量の分岐条件と睨めっこして、また頭痛に悩まされる。
この戦術チャート。ルートが樹齢百年の大木ばりに枝分かれしているのだ。そこに分岐条件が加わると、かなりの情報量だ。それをセシリアは2週間足らずで覚えろという。泣けるぜ。
「これも一夏さんのためですわ」
そういわれると、俺も何も言えなくなる。
コーチがこう言っているのだから、俺は信じて従うしかない。
「ん?」
「あら」
俺たちがアリーナに到着すると、<打鉄>を装備した箒が待っていた。
<打鉄>は堅牢な防御能力を備えた純日本製の第二世代型ISだ。武者を模ったフォルムと刀を模した専用ブレードを装備しており、それが実に日本のお国柄を表している。比較的初心者にも扱いことから、学園の訓練機として採用されていた。
「お、今日は訓練機が使えるのか」
学園の訓練機は生徒の数だけ揃っていない。なので、専用機のように“いつでも好きな時に訓練”とはいかない。本来、機材が生徒分ないというのは教育機関としてかなり致命的なのだが、ISの数が決まっているので増設は難しいらしい。
「ああ、そういうことだ。久しぶりに手合せしてくれないか」
「ん? ああ、いいぜ」
俺は<白式>を展開し、唯一の武器《雪片弐型》を抜刀した。それを正眼で構える。
冷然とした雰囲気が周囲に広がり、空気が緊迫した。おそらくこれが殺気と呼ばれるものだ。
「では、尋常に勝――!?」
緊張感がピークに達したその時、青い物体が箒の視界を遮った。
遮った青い物体は、セシリアの専用機<ブルー・ティアーズ>だ。
「お待ちなさい。一夏さんのコーチ役を任されたのは、このセシリア・オルコットでしてよ。わたくしに断りもなく勝手なことされては困りますわ。こちらにはこちらのスケジュールがありますのよ」
「ふん、セシリアの頭でっかちなやり方は一夏に向かん! こいつは戦いの中で成長するタイプだ! ずが~んとやるのが肝要なのだ。そもそも私はお前を一夏のコーチと認めてなんかいない」
「認めてもらおうとも思いませんわ。それにわたくしの理路整然としたカリキュラムこそ一夏さんに必要ですわ! 貴女こそはひとりでズカ~ンとでもガガ~ンとでもやってなさいな!」
「分からず屋め。退かないというなら、押し通すまでだ!」
何でそうなるんだよ。――って思っている内に、箒が袈裟斬りを繰り出した。
セシリアはそれをあらかじめ展開しておいたショートブレード《インターセプター》で受け止める。そして後方に跳躍して剣撃の勢いを殺しつつ、射撃に必要な間合いを確保した。
「無理を通せば、道理が引っ込むとお思いで? でしたら、大きな間違いでしてよッ」
言うが早く、流れるような動作でBTレーザーライフル《スターライトMkⅢ》を展開し、連続で引き金を絞る。相も変わらず正確無比な射撃だったが、箒は超高速で飛来する光の弾丸を<打鉄>の強固な物理シールドで凌ぐ。
お、さすが箒、剣道をやっているだけはあり、反射神経と動体視力が抜群にいいな。
「――って感心している場合じゃない! おい、俺の訓練はどうした!」
と、叫ぶがバトルフィールドを上空へ移した彼女らには聞こえない。
ああー、なんで、こうなるんだよ。そりゃセシリアの指導法には俺も一言あるが(箒のやり方にも一言ある)、肝心な俺を置き去りじゃ本末転倒だろうが。
「こうしてみると、アリスがどれだけうまくやっていたか、わかるな……」
「私がどうしました?」
「うおっ」
噂をすれば影。気づくとアリスが隣にいて、俺は腰を抜かしそうになった。
しかしアリスは気にせず、目を細め、上空を凝視する。
「模擬戦ですか。でもあれ、篠ノ之さんとオルコットさんですよね。なぜ二人が戦っているのです? もしかして“技は見て盗め”というヤツですか?」
「いや、違うんだよ。なんか、俺の指導方針の違いで衝突してさ。箒は実戦派で、セシリアは理論派みたいなんだ」
「はは、そうなりましたか」
苦笑するアリスは、なんだかこうなる事を予測できていたような口ぶりだった。
「なあ、アリス、何かいい解決法はないか。これじゃ訓練もままならん」
「はっきり意思を伝えるのが一番だと思います。これは一夏の訓練なのだし」
「でも、聞き入れてくれるか?」
箒もセシリアも我が強い。特にセシリアは自分の指導法に並々ならぬ自信を持っている。
素人の俺がとやかく言ったところで、すんなり聞き入れてくれるか怪しいものだ。論破される未来しか見えない。
「その時は強気に出ればいいのですよ。あなたには強みがあるのですから」
「強みってなんだよ。ふたりより優位に立てる要素が、俺のどこにあるっていうんだ」
「ふふ、一夏ってホント鈍いですよね」
なんだ、こいつ、いきなり意味深な含み笑いをしやがって。
まるで俺が相手の惚れた弱みを握っているみたいな言い草じゃないか。
「まあ、それはそれとて、鈴のことなのですけど」
「おお、どうだった。やっぱり断ったこと、怒ってたか?」
「ええ、多少はね」
「はは、そうか。なんだか、仲間はずれみたいなことしちまったしな」
「でも、この状況を見ていると、強ちあなたの判断は間違っていなかったと思います」
俺そっちのけで模擬戦(?)をするふたりに、アリスが苦笑をもらす。
確かに昼食での出来事を見る限り、鈴がいたら確実に三つ巴だっただろうな。
「でも、ちゃんと理解しているようでしたから、すぐ収まるでしょう。私も弁護しておきましたから。――ただ、また何か企んでいるようでしたので、その注意を呼びかけに」
「そのために来てくれたのか。――で、企むってなにをだ?」
「そこまではわかりません。けど、また騒がしくなるんじゃないですか?」
「まじかよ」
今日の昼間の出来事を思い出し、軽く頭痛がするのを感じた。
俺は真面目にISの訓練をしたいだけなんだが……。
そのとき、《スターライトMkⅢ》の流れ弾が俺たちの近場に着弾した。
その衝撃で、砂嵐が舞い、俺たちの周囲に暴風が駆け抜ける。
俺はISを装着しているので平気だが、生身のアリスはそうもいかない。
特に風に弱いスカートなんかは……。
「きゃ!?」
捲れる上がるスカートを慌てて押さえるアリスだが、ISの方が早かった。
モニターに映し出されたのは、鮮明かつ拡大化された逆三角形の布。
スカートの中は――――白式、つまり純白だった。
「み、見ました?」
見た。ワンポイントのリボンがカワイイ、白のショーツだった。――と言えるわけもなく、気まずくなった俺はアリスから視線を逸らす。けど、それがいけなかった。
「やっぱり見たんですね。しかもハイパーセンサーの
「いや、これは意図して使ったわけじゃないんだ。ISが勝手に」
俺は慌てて
く、こんな時に“保存しますか”とか訊いてくんな。しねーよ! 早く消せ!
「もお、一夏のスケベっ!」
と、真っ赤になりながら、アリスが綺麗な脚を蹴り上げる。
こら、そんな事しても
「あうッ!」
ほら、言わんこっちゃない。生身でISの装甲を蹴りゃ、そうなるだろう。
っていうか、片足でケンケンするな。またパンツ見えるぞ。
「まったく何をやってんだよ、おまえは……」
「だって、恥かしい目に遭わされたのですもの。仕返しぐらいしたくなります」
「そうか。まあ、そうだな」
派手にパンツを視られたのだ。女なら蹴りの一発ぐらいかましたくなるだろう。
しかし、こういう場合、ラッキースケベが痛い思いをするもんなんだけど――ん?
<――警告:<ブルー・ティアーズ>にロックオンされました――>
俺が「へ?」と呆けた顔をした瞬間、セシリアの狙撃が俺の腹部を打ち抜いた。
シールドで身体は無事だが、勢いは殺せない。俺はコントみたいにひっくり返った。
そんな俺を見下すようにすぅーと下りてくるセシリアの<ブルー・ティアーズ>と箒の<打鉄>。
その光景はまさに女神光臨。でも微笑は浮かべていない。代わりに血管の青筋を浮かべていた。
どうやら女神たちは大変ご立腹らしい。
「一部始終、拝見させて頂きましたわ。乙女の秘密を覗くとはいただけませんね」
「男の風上にも置けない奴め。その性根、私が叩き直してやる」
こうして俺はわりを食うのだった。
けど、俺の中で密かに芽生えた“そうだ、これでいい”という安心感はなんだろうか。
♡ ♣ ♤ ♦
特訓を終えた俺は、満身創痍の身体を引きずりながら帰路に就いていた。
アリスのパンチラ騒動のあと、ふたりは『やっぱり一夏さんは実戦の方がよろしいですわ』『そうだろ?』と意気投合するやいなや、結束して俺に襲い掛かってきた。
二人は訓練だと憚らなかったが、アリスは
今回は甘んじた――俺にも非はあったわけだし――が、これが続けば正直体がもたんな。
ともあれ、訓練が終わるころには、ふたりともやりすぎたと反省してくれたので、次回は大丈夫だろう。
「遅かったじゃない、一夏」
俺が疲れた足取りで自室に辿りつくと、部屋の前で鈴が佇んでいた。
自前のボストンバックをクッション代わりに足を組む鈴は、まるで不貞腐れて家を飛び出した家出娘のようだ。断じて口には出さないが。出したら蹴られる。
「お、鈴、今特訓が終わったところなんだよ」
「ふ~ん、随分とクタクタね。どんだけハードな訓練してきたのよ」
「一度に複数を相手する特訓とか、かな」
「随分と実戦的な訓練を積んでんのね。ちょっと感心したわ。じゃあ、これあげましょう」
そう言って鈴がスポーツドリンクを投げる。しかも、ぬるいヤツ。
さすが俺の幼馴染。俺は“スポーツ後の飲み物はぬるいもの”と決めているのだ。
「おお、悪いな、鈴。サンキューな」
「いいわよ、お礼なんて」
礼を告げる俺に、鈴がプイっと視線を逸らす。その頬はちょっと赤かった。
普段はこんな気遣いをしない鈴だから、恥かしがって照れているのかもしれんな。
「まぁ、立ち話もあれだし、中に入れよ。茶ぐらいならご馳走するぞ?」
「じゃあ、そうしようかな」
『おう、そうしろ』と俺はドアのロックを解除して、鈴を部屋に招き入れる。
そして『好きなところに掛けてくれ』と声をかけ、俺は茶を淹れるべくキッチンに向かった。
「と、ところで一夏、あんたって一人部屋なの?」
俺のベッドの淵にこしかけ、鈴がそんなことを訊いた。
「いや、私と住んでいる」
そう答えたのは俺じゃない。音も無く現れた箒だ。
おい、いつ帰ったんだ。『ただいま』くらい言えよ。びっくりするじゃないか。
「私と住んでいる」
お、二回言った。なんだ? 重要な事なのか? それはわからないけど、俺のルームメイトは箒だ。なんでも、稀有な俺の安全面を考慮した結果らしい。二人の方が襲撃され難く、でも知らない女性と二人部屋にするわけもいかないため、幼馴染の箒が選ばれたわけだ。
「へぇ~そうなんだ」
「うむ、そうなのだ」
「じゃあ、あたしと部屋代わってくれない?」
と、にっこりん。
あ、箒の眉がぴくぴくと動いた。なんだか怒ってる様子だ。
「なぜ、私がそのような事をしなくてはいけない」
うん、箒にしてはもっともな意見だ。
「えっと、ほら、篠ノ之さんも男と同室なんてイヤでしょ? その辺あたしは平気だから」
「けっこうだ! 別にイヤではない! その……い、一夏限定で、だが」
なんで俺を見る。さては、お前など男性とみていない的なことか? 別にかまわないが。
てか、鈴の奴、愛用のボストンバックを持ってきたって事は、始めからココに住むつもりだったのか?
「ともかく、あたしはどうしてもココに住みたいの。だから譲ってよ」
「断る! 私もこの部屋が気に入っているのだ。譲る気は毛頭ない」
なおも熾烈を極める幼馴染の口論。これじゃ関係は険悪になる一方だな。
何かこの場を収めるいい方法はないだろうか。――あ、いいこと思いついたぞ。
「わかった。じゃあ、今日からここに住めよ」
「お、おい、一夏っ!」
俺は詰め寄ってくる箒を「まあ、待てって」と手で制し、続ける。
「じゃあ、まずここの寮監に許可をもらわないとな」
そういって俺は寮監に電話をつなぎ、その受話器を渡す。
鈴は「まあ、そうよね」と受け取った受話器を耳にあて「あの~もしもし」と言った。
『私だ。その声は凰か。どうした』
「ち、千冬さん!?」
やっぱり今日転校してきた鈴は、この寮の管理人が千冬姉だと知らなかったらしい。
通話相手が千冬姉だと判るなり、鈴はぴ~んと背筋を正した。
『ここでは織斑先生だ。――で、どういう要件だ。こっちは忙しい。手短に話せ』
「えっと、実は部屋を移動したいな~、なんて」
鈴はおどおどしながら、相手の様子を窺うように要件を告げた。
『部屋の移動希望か。確かおまえは二組のハルミントンと同室だったな。特に素行や生活態度が悪いと聞いていないが。何か不都合でもあるのか? あるなら考慮してやるが』
「いえ、ないです……。ただ一夏と一緒の部屋になりたくてですね……」
『ふむ、気持ちはわからんでもないが、無理だ。お前の言い分を聞いてしまえば、他の生徒も同じことを言い出しかねない。それでは際限がなくなるうえ、周囲にも迷惑が及ぶ。よって部屋の移動は許可できん。わかったな。――では、私は忙しい。切るぞ』
それっきり受話器からはツーツーの音しか聞こえなくなった。
鈴は“やってくれたわね”という顔をしながら、受話器を俺に渡す。俺は得意げに言った。
「というわけだ。千冬姉がそう言ってんだ。諦めろ」
「そうだそうだ」と腕を組んで頷く箒に対し、鈴は「ぐぬぬ」と唸る。
そんな鈴の機嫌を直そうと、俺は鈴を床に座らせ、茶と菓子で持て成してやることにした。
「まあ、そう怒るなって。遊びに来るぐらいならいつでも来ていいからさ」
「む~、そういったからには毎日きてやるッ」
「おいっ!」
「まあまあ、箒。――そういえば、おばさん元気にしているか?」
と、淹れた茶を渡しながら、俺はちょっと気になっていたことを訊ねた。
実は鈴の両親は離婚しているのだ。それが転校するきっかけで、今は中国にいる母親が親権を持っているらしい。今の時代、女性の方が経済的に裕福だから。とはいえ、女手一つというのは何かと大変だ。それを案じての質問だ。
「うん、元気よ。ちょっと元気すぎるぐらい。じゃなきゃ、ここに入学したりしないわよ」
「そりゃそうか。じゃあ、またおばさんの酢豚、食わせてくれよ。あれすっげーうまかったし」
「お母さんのだけ? あ、あたしも酢豚、うまく作れるようになったわよ?」
そこで鈴は一拍の沈黙を置き、唐突に頬を赤めた。
「ねえ、一夏、あの時の、約束、覚えている」
「約束?」
「そう、あの時の約束。覚えているよね?」
鈴は急に恥ずかしそうに上目使いでこちらを見てくる。それは只ならぬ期待を寄せる目だ。
同時に間違えを許させない目でもあった。
俺は慌てて過去の記憶をサルベージする。イメージとしては、たくさんの小さい俺が図書館を走り回っている感じだ。
約束、約束。そう言えば、昔、小学生の時に何か約束してたような……。
「もしかして、あれか。小学生の時に約束した、料理の腕前が上がったら、毎日酢豚を――」
「そ、そうっ!」
と、行って立ち上がる鈴に、俺は続きを言った。
「――おごってくれるってやつか?」
確か小学生の頃にそんな約束をした覚えがある。
我ながらよく覚えていたな。偉いぞ、俺。サルベージしてくれたミニ一夏たちにも感謝だ。
「……はい?」
「だから、鈴が料理をできるようになったら、メシをタダでご馳走してくれるって話だろ?」
そのとき、パシンっと唐突に乾いた音が木霊した。
その音が鈴の平手打ちによるものだと判ったのは、俺の左頬が痛み出したあとだ。
(はっ……?)
何が起こったかわからず、面を食らう。が、その戸惑いは直ぐ怒りに変換された。
特訓で疲れていたのもある。そこに先の同居騒動だ。いい加減、俺も不満が噴出した。
「なにすんだよ、いきなりひっぱ叩きやがって!」
「あんたが悪いんでしょうが!」
「悪いってなんだよ!
「…………
口を強く結んだ鈴は、瞳に目一杯涙を溜め込んだ。俺を叩いたであろう右手は、血が滲みそうなぐらい強く握られている。それでも気丈に振舞おうとしているのが、どこか痛々しい。
流石に言い過ぎたか。
そう思った矢先、鈴は置いてあったボストンバックをひったくって部屋を飛び出していった。
開けられた自動ドアがカシャッと閉まる。そのドアが再び開くことはなかった。
「……何なんだよ、アイツ」
何が何だかさっぱりだ。俺が何をした。約束だってちゃんと思い出したじゃないか。
なのに、殴られた挙句、約束程度であんなに怒鳴られなくちゃいけないんだよ。
「一夏、お前な……」
箒の呆れた声が聞こえてきたが、俺は聞こえないフリをした。
俺は悪くない。でも、誰かの言葉を聞けば、俺が俺の正しさを信じられなくなりそうだった。
(ま、時間が解決してくれるだろ……)
俺と鈴は幼馴染だ。今までくだらない喧嘩を何度もしてきた。その度、時間が解決してきてくれた。きっと今度も時間が解決してくれるはずだ。早ければ明日。遅くても明後日には、いつもの通りの鈴が俺の前に帰ってくるはずだ。
だが、俺は後に知る。己の甘さと愚かさを。
♡ ♣ ♤ ♦
食事を終えた私は、自室に続く廊下を歩きながら二機のISカタログを見比べた。
<ラファール・リヴァイヴ>と<打鉄>。
IS学園には、この二機が訓練機として採用されているが、どちらをレンタルするか迷っていた。
私には専用機があるけど、公然で使えない。けどブランクが空きすぎると、いざという時にヘマをしかねない。そこでココの訓練機でそのブランクを埋めておこうと思ったのだ。
「ねえ、<レッドクイーン>はどちらがいいと思います?」
《………………》
本来なら直ぐに的確な意見をくれるのだが、なぜか今回は返事がない。
もしかしてシステム不備とかじゃないですよね? 困りますよ、ここじゃ整備できないのに。
「あの、<レッドクイーン>?」
《――ハニーには私以外のISに搭乗してほしくない》
ようやく返ってきた言葉がそれであった。しかも、あからさまに不服そうな声音。
どうやら、私が<赤騎士>以外のISに乗ろうとしたから、機嫌を損ねたらしい。
機械が機嫌を損ねる。通常では考えられないが<レッドクイーン>は普通のAIじゃない。
彼女の頭脳には
閑話休題。
「気持ちは解らないでもないですが、<赤騎士>を公に使用できない以上、他のISに頼らざるを得ないでしょ? わかりますよね?」
《状況は理解している。でも、乗ってほしくない》
もお、なんてワガママなAIなのでしょうか。
初期の頃は違ったのですけど、ロシアでの一件以来、こうなのですよね……。
「じゃあ<コア>のダミー国籍が手に入るまで我慢してください」
《むぅ……》
<レッドクイーン>はわかったような、そうでもないような生返事で答える。
私は勝手に『納得した』と結論付け、カタログに目を戻した。
「ここはやっぱり<打鉄>ですね」
<ラファール・リヴァイヴ>の多様な武装は捨て難いが、<打鉄>はここでしか搭乗できないレア感がある。というのも、日本は装備や武器を原則国外に輸出しない国家なので、純国産の<打鉄>に乗るにはここか、自衛隊に入隊するしかないのだ。
「では、<打鉄>っと」
ポケットから申請用紙を取り出し、その場でチェックを入れる。
《……浮気者》
AIがやきもち焼いていますけど、そんなの知りません。
「あとは、装備する武器ですが――ん?」
私が自室の前に辿りつくと、見知った顔の少女がドアの前で佇んでいた。
まるで捨てられた仔猫のような風情。その少女は2組のクラス代表――鳳鈴音だった。
「鈴、どうしたのですか、こんな所で」
声を掛けても反応がない。活発な彼女らしくない反応に、私は嫌な予感を覚えた。
すぐさま彼女の許に駆け寄り、様子を伺う。彼女の頬には涙の跡が見えた。
もしかして、泣いていた?
「鈴?」
再度の呼びかけに鈴はハッとした。ようやく私の存在に気付いたようだ。
「アリス……」
「中に入ります? 暖かいモノ、用意しますから」
とりあえず涙の理由は訊かず、彼女を自室に入るよう勧める。
私の部屋の前に居たという事は、私を頼りにきたという事。なら、力になってあげないと。
「うん……」
私は力無い声で頷く鈴を部屋に招き入れた。