IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第13話 ドラゴンスレイヤー

 クラス対抗戦当日。天気はこれ以上ないぐらいの快晴。絶好のIS日和となった。

 まぁ、ISは全天候型なので、雨でも雹でもIS日和なのだけど。

 それはさておき、朝食代わりのカロリーメイトを咥え、事前に配布された試合表を広げる。プログラムによれば一回戦から1組VS2組――つまり一夏対鈴となっていた。

 初端から専用機同士の戦い。まさに最初からクライマックスですね。

 

「一夏は勝てるでしょうか」

 

 決闘を提案した身として、公平な試合ができるよう、私は再び彼に手を貸した。

 とはいっても、前回のようにみっちり訓練したわけじゃない。操縦術そのものはオルコットさんに一任して、私はサポートに徹した次第だ。具体的には情報と装備を提供した。

 

(さて、一夏はどんな戦いを見せてくれるのか。相手は相手で強敵ですよ)

 

 例の方法で集めた情報によれば、鈴の機体は安定性と稼働率を重視したバランス型。あらゆる局面に対応できるよう設計されている。<白式>のような一点突破型では看破し難い機体だ。加え、強力な特殊兵装も積んでいる。それは間違いなく一夏の不利に働くだろう。

 

「ふふ、これは面白くなりそうですね」

 

 勝敗が分かった試合など見ていても面白くない。手を貸した甲斐あって楽しい一戦になりそうだ。

 私がカロリーメイトを食べ終えると、音だけの花火が上がった。開会を告げる合図だ。

 

 

      ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 第一アリーナ、第一試合。俺は待機時間を利用して、アリーナを見渡した。

 

「すげー人だな……」

 

 会場の観客数はクラス代表決定戦に比べ三倍以上だ。学園行事ということもあり、全校生徒が勢ぞろいしているのだろう。それだけに緊張の度合いも大きい。俺は呑まれないよう気を強く持つ。

 そうこうしていると、対戦相手である鈴のISが遅れてやってきた。

 鈴の専用機は、濃い目のマゼンタに塗装されたマッシブな機体だ。左右に浮遊する球状の棘付き非固定浮遊部位(アンロックユニット)が特徴的で、それが攻撃的な印象を与えてくる。

 アリスがくれた情報によると機体名は<甲龍(シェンロン)>というらしい。名前だけで手強そうなISだ。

 

<それでは両者、指定の位置まで移動してください>

 

 クラスの声援を受けながら、アナウンスの指示でアリーナの中央へと(おもむ)く。

 両者の間合いが縮まったところで、鈴が開放回線(オープンチャネル)でコンタクトを取ってきた。

 

『逃げずにきたわね、一夏。――で、その眼帯はなんなのよ』

 

 俺は左目に備わった(・・・・)眼帯型のゴーグル(・・・・・・・)を親指でコンコンと叩いた。

 これはアリスが情報と共にくれたアイテム、立体情報(ソリッド)型眼帯という装備だ

 

「カッコイイだろ? こいつはおまえを倒すための秘密兵器さ」

『秘密兵器? バカじゃないの。そんな装備一つであたしに勝てるとわけないし』

「だったら、そう思っていればいいさ。試合が始まったらわかることだ」

 

 俺が不敵に笑うと、試合開始のアナウンスが鳴った。

 

<両者、試合の準備を始めてください>

 

 俺は<白式>のジェネレーターのパワーレベルを上げ、模擬戦/試合用プログラムを起動する。

 800。視界の右端に現れたその数字が、競技における<白式>のHP(ヒットポイント)だ。

 ちなみに、このポイントは機体の総エネルギー量を表しているのではない。機体によって総エネルギー量が異なるので、総量=ポイントにすれば試合の公平さが失われてしまうからだ。

 

<では、開始してください>

 

 試合開始のブザーと共に俺は《雪片弐型》を展開した。鈴も倣って得物を展開する。

 鈴が展開したのは馬鹿でかい青龍刀だった。いや、青龍刀と呼ぶにはあまりに歪な形をしている。刀身の幅は鈴の身体を覆えるほど広く、柄は両手で握っても余るか、余らないかという長さ。最早、それは青龍刀と呼ぶより包丁と形容した方がしっくりくる。

 

<――武装情報:甲龍専用近接武装《双天牙月》――>

 

 少し遅れて、青龍包丁(・・・・)の情報がARタグで表示された。

 しかし、確認している余裕など、俺にはなかった。

 鈴が得物をバトンのように振りまわしながら、こちらに斬りかかってきたからだ。

 眼前に迫る攻撃を受け止めると、衝撃で全身の骨格が悲鳴をあげた。

 外観通りの威力。いや、外観から想像した以上の威力だ。

 

「ふふん、攻撃を受け止めたのは失敗だったわね。<甲龍>は根っからのパワータイプなのよ。力比べで高機動型の<白式>なんかに負けたりしないわッ!」

 

 鈴の言葉を体現するように<白式>がパワー負けし、どんどん追い詰められる。

 なんてパワーだ。どんなに力を込めても相手の刃を押し戻せないなんて。

 

(まずいな。圧し負ける……)

 

 これ以上、鍔迫り合いを続けても、挽回の余地はないだろう。そう踏んだ俺は逆推力装置(スラストリバーサー)を目晦ましに使って、鈴から距離を取る。しかし、鈴はそんな俺を追おうともせず、得意げに鼻を鳴らした。

 

「ふ~ん。うまく逃げるじゃない。イギリスの代表候補生に勝ったのはまぐれじゃなさそうね」

「ああ。だから、舐めていると痛い目を見るぞ」

 

 そう言って、《雪片弐型》にシールドを突破する能力を付加させる。

 だが、鈴はまるで警戒する様子もなく、得物の《双天牙月》を肩に担いだ。

 

「知っているわよ、それ。シールドを無力化して強制的に《クリティカル》を発生させるんでしょ? 確かにそれだけ聞くと脅威だけど――――要は当たらなければいいのよ」

 

 鈴は《双天牙月》をもう一本展開。それらを連結させ、オールのような形状にする。

 そしてミキサーのような回転を加え、臆することなく斬りかかってきた。刃に遠心力を乗せ、高速回転しながら連続攻撃してくる鈴はさながら暴風雨だ。

 俺は目を血走らせ、左右から迫る斬撃をなんとか凌ぐが、如何せん攻撃手数が多すぎて反撃に転じられない。防戦一方では、《雪片弐型》のシールド無効化攻撃も繰り出せなかった。

 

(なるほど、手数を武器に《雪片弐型》のシールド無効化攻撃を封じる気か)

 

 攻めて、攻めて、攻めまくる。まさに攻撃は最大の防御ってやつだ。

 そうやって相手を攻撃に転じさせず、防御に徹っさせてシールド無効化攻撃を使わせない。

 

(鈴の奴、ちゃんと対策をしてきたか)

 

 俺とセシリアの試合映像は学園の対戦アーカイブに保存されている。生徒が望めばその試合を何度も見直すことが可能だ。鈴の攻撃方法を見る限り、あいつも試合映像を見て対策を練ってきた可能性が高い。

 

(おまけに空中格闘(エリアル・コンバット)の技術に関しては向こうの方が手練れてる)

 

 悔しいが、こうやって相対している内は、俺の不利が続くだろう。

 微小だが、ポイントも着実に削られつつある。このままじゃ切り札まで封殺されかねない。

 

(だが、迂闊に距離を取れば――)

 

 俺は鈴との近接格闘を諦め、後方に距離を取るが――

 

「――退いたわねっ!!」

 

 直後、<甲龍>の固定浮遊部位が開き、その中央が黄金色に輝いた。

 その輝きに背筋がぞっとする。 

 次の瞬間、俺は銃撃でも斬撃でもなく、見えない何かに殴り飛ばされ、一気に高度を失った。

 

「このっ!」

 

 俺は姿勢制御装置(バランサー)を駆使して、なんとか地面寸前のところで体制を立て直す。

 そして、憎らしげに鈴を見上げた。

 

「やっぱり使ってきやがったか……」

 

 予想通りの展開に俺は苦笑を洩らした。

 先ほど、俺を襲った攻撃の正体。それは第三世代型IS<甲龍>に装備されている指向性エネルギー兵器によるものだ。

 そしてここまでの一連動作が、鈴の構築したバトルスタンス。

 つまり、接近戦では手数でシールド無効化を封じ、苦しくなって距離を取れば先の特殊兵器で狙い撃つ。接近すればまた回転攻撃で対応する。それを繰り返す。

 

(まったく、おそろしい奴だぜ)

 

 現状を分析して、俺はそう思った。――鈴の戦法を予測してい(・・・・・・・・・・)たアリスに(・・・・・)

 だから、俺もこうなることは予想できたし、予測できたからには対策もある。

 

「今のジャブだからね」

「ジャブか。なら、選択を間違えたな。今のはストレートを打つべきだった」

 

 俺は左目に備わった眼帯型ゴーグルをオンにする。

 表上のLEDが点灯し、<白式>とのデータリンクが確立したところで、俺は挑発的に言った。

 

「撃ってこいよ、鈴。次はきっと当たらないぜ?」

「いうじゃない。だったら受けてみなさいよ」

 

 挑発に乗って、鈴が再び攻撃体制に移行する。同様に<甲龍>の非固定浮遊部位が光った。

 再び見えない何かが俺に迫る。――が、今の俺にはそれが見えていた。俺はその攻撃を軽やかなステップ移動で躱してやる。

 当たると確信していた鈴はわずかに眉をひそめた。

 

「ふん、どうせまぐれでしょ!」

「なら、もう一発撃ってみろよ。偶然なら二度はないだろ?」

 

 俺が見せた余裕への苛立ちか、鈴はその見えない攻撃を連発した。

 けれど、見えている俺には避ける事も容易い。俺は機体を後方に下げ、次々に攻撃をかわす。

 外れ続ける攻撃に鈴はとうとう驚愕を浮かべた。

 

「まさか、この衝撃砲《龍咆》が見えているっていうの!?」

 

 俺は眼帯型ゴーグルを叩く事で、正解を示してやった。

 

 

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 アリーナの管制室。

 大スクリーンの中で、鈴の攻撃を易々といなした一夏に箒は目を開いた。

 

「なぜ一夏は攻撃を躱せるのだ? ――いや、そもそも鈴の攻撃はなんなのだ」

 

 画面を食い入るように見ていた箒の疑問にセシリアが答えた。

 

「衝撃砲ですわね。空間自体に圧力をかけて砲身を生成し、その余剰で生じる衝撃を砲弾化して打ち出す兵器ですわ。その特徴は砲身も砲弾も不可視ということです。それに先の一撃を見る限り、砲身斜角の制限がないようですわね」

 

 <甲龍>の武装について解析する様は、さすがイギリスの代表候補生というべきか。

 しかし、その解説だけでは一夏が攻撃を見切れる理由が解らない。むしろ疑問は深まった。

 

「なら尚更だ。一夏はなぜ鈴の攻撃を躱せる。衝撃砲とやらは攻撃が見えないのだろ?」

「それは光圧センサを応用しているのですわ」

「光圧センサ?」

 

 箒の疑問に千冬が解説を加えた。

 

「光の歪みを検知するセンサだ。衝撃砲は空間に圧力をかけて砲身を生成する。おそらく、その生成時に局所的な重力場が発生するのだろう。それも光が歪むほどのな。その歪みを検知し、視覚化して眼帯内に投影しているのだろう」

 

 千冬はセシリアに視線を遣る。セシリアはその通りですと頷き返した。

 

「じゃあ、今の一夏には砲身が見えているのか」

「ええ、砲身が見えていれば、その斜角や方位から弾道や着弾ポイントを予測できます。それに空間圧兵器はトリガーから発射までにラグがあるのですわ。あとはわたくしとの試合に使用した早期警戒ソフトと組み合わせてやれば――」

「先読みしてかわすことも可能、ということか。――空間圧兵器の原理を理解し、その上で対抗手段を練ってくるとは、さすが代表候補生といったところだな」

「い、いえ……、そ、それほどでもありませんわ……」

 

 本来なら得意げに髪を弾いて見せそうなものだが、セシリアは気まずそうに視線を逸らした。

 それに千冬は苦笑する。この対抗策を考案したのが、他の誰かなのだと察したからだ。

 

「ですが、衝撃砲の攻撃が見えたところで、<甲龍>を攻略した気なるのは早計でしょう」

 

 真耶の指摘に千冬が頷く。

 

「そうだな。なにせ<白式>には中距離レンジに対応した武装がない。回避できても反撃する手段がなければどうにもならんだろう。《雪片弐型》でも衝撃波は無効化できん」

 

 かといって近接格闘戦に持ち込んでも、空中格闘戦は鈴に分がある。

 ならば、どうやって敵に倒すつもりなのか。

 そこでセシリアが待っていましたと言わんばかりに、声を張った。

 

「それなら問題ありませんわ。このわたくし、セシリア、オルコットが瞬時加速(イグニッションブースト)の習得をレクチャーしましたから」

「なるほどな。瞬時加速(イグニッションブースト)ならば、中距離からでもすぐ相手の懐に飛び込める」

 

 瞬時加速(イグニッションブースト)は、一時的に爆発的な速度を得るISの戦闘機動術だ。その特性によりISは中距離レンジでも格闘戦を展開できる。つまり瞬時加速(イグニッションブースト)を習得した操縦者にとって、中距離でさえ“得物の間合い”になるわけだ。

 そこに衝撃砲のスキを見切れる“目”があれば―― 竜殺しの芽もでてくる。

 

「これはおまえの作戦か?」

「ええ、そうですわ! 見ていてくださいな!」

 

 セシリアが胸を張ると、モニター内で焦れた鈴が最大出力の衝撃砲を発射する体勢に入った。

 空間圧兵器はその威力に比例してチャージのインターバルも長くなる。つまり現在<甲龍>に大きな隙が生じている。それを視ることのできる一夏は、それを見逃さなかった。

 刹那、爆発的な加速を得た<白式>が<甲龍>に肉薄する。瞬時加速(イグニッションブースト)を発動したのだ。

 ミドルレンジいれば<白式>からの反撃はない。そう踏んでいた鈴は、これに対応できなかった。

 <白式>が一気に接近し、シールド無効化攻撃を見舞う。――次の瞬間、

 

 唐突に管制室のモニターがダウンした。

 

「ちょっと、なんですの。いいところでしたのに!」

 

 いい場面で途切れた映像にセシリアが地団駄を踏む。それとシンクロして室内が大きく揺れた。『おいセシリア、加減をしろ……』と箒。『え、わたくしの所為!?』とセシリア。

 そんな二人の横で千冬は冷静に状況を確かめた。

 

「山田先生、状況を」

「えっと、急にシステムがダウンした模様です……。あ、再起動はいります」

 

 真耶がチェックを始めるやいなや、管制室のモニターが息を吹き返した。

 だが、一同は表情を強張らせる。モニターに禍々しい未確認のISが映し出されていたからだ。

 

 

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 それは俺が<甲龍>にシールド無効化攻撃を喰らわそうとした時だ。

 《雪片弐型》の切っ先がまさに<甲龍>を斬ろうとした瞬間、それは上空よりやってきた。

 

<――警報:上空より高エネルギー反応――>

(何だ……?)

 

 いや、考えている時間などない。俺の生存本能が『よけろ』と全力で警鐘を鳴らしていた。

 俺は攻撃を諦め、慣性制御装置(PIC)逆推進装置(スラスト・リバーサー)でその場から急いで後退する。

 刹那、正体不明の赤い閃光が、俺を掠め、アリーナに大きな窪みを穿った。

 

「何だ、今の光は……」

 

 頭上から放たれた一撃に俺は目を剥く。

 もしかして鈴の奥の手か? いや、違うな、鈴自身も驚愕している。

 

(なら、先の攻撃は一体……?)

 

 怪訝な顔つきで攻撃方向に目を遣ると、その先に人影らしきものが見えた。

 しかも、その人影は遥か上空――――アリーナの()()()()()()()()()()()()()()()

 もしかして、アイツがアリーナの遮断シールドを突き破って、俺たちに攻撃を?

 

「まさか敵襲……?」

 

 すると、黒い人影が自ら開けたシールドの穴からスゥーとアリーナの中央へ降りてきた。

 下りてきたISは腕部が異常に長く、丸太のような太さをもつ機体だ。操縦者は全身装甲(フルスキン)を装備していた。

 

<――IS情報:検索結果なし。ライブラリーと一致する機体はありません――>

<――IS詳細:コアナンバー不明、無所不明、味方識別信号(IFF)無し――>

<――警告:未確認機(アンノウン)と断定――>

 

 やっぱり所属不明のISか。でも、誰が何の目的でこんな事を……。

 そこで鈴から個人秘匿通信(プライベートチャネル)が飛んできた。

 

『一夏、試合は中止よ、今直ぐピットに戻って!』

 

 そりゃそうだよな、正体不明のISに襲撃されたんだ。試合どころではないだろう。

 鈴の切羽詰まった声のあと、今度はアリーナの管制室から通信が開かれた。

 

『織斑君、凰さん、無事ですか!?』

 

 俺と鈴は無事を伝えるように頷いた。

 

「はい、俺も鈴も無事です」

『よかったッ! では、今すぐアリーナから離脱してくださいッ! そこは危険ですッ! ただちに先生たちが迎撃に向かいますからッ』

 

 異常事態だからか。普段の先生からは想像もできないような声音だった。

 でも、俺は《雪片弐型》を見つめながら、あの夜のセシリアの言葉を思い出していた。

 

 ――持つ者は持たざる者を守る義務があるのです。

 

 彼女はそれが<高貴な者の義務(ノブレス・オブリージュ)>だと言った。

 力は略奪や搾取のためにあるのじゃない。その義務を果たすために与えられるんだと。

 俺は高貴な身分じゃない。でも、力を持っている。<白式>という力を。

 なら、いまの俺にはみんなを守る義務があるのではないか。――強く俺はそう思った。

 

「じゃあ、先生たちが来るまでの間、俺たちがアイツを食い止めます」

 

 例え倒すことは叶わなくても、時間を稼ぐぐらいならできるはずだ。それにあの傍若無人な振る舞い方。そこに政略や軍略の意図があるとは思えない。

 だとすれば狙いは一つ――――『破壊』だ。なら一瞬だって野放しにできない。

 

「いいな、鈴」

「そうね。あんな危険なヤツ放っておけないわ」

 

 俺と鈴は互いの顔を見合い、力強く頷く。それに悲鳴を上げたのは山田先生だ。

 

『ちょっと、織斑君、凰さん! いけません! もし生徒さんに何かあったら――』

 

 そこで未確認ISの野太いビームが、通信を遮るように割り入ってきた。

 それをなんとかしてかわす。どうやら、乗っている操縦者はあまり気が長い方じゃないらしい。

 

「一夏、あたしが衝撃砲で援護するから突っ込みなさい。武器それしかないんでしょ?」

「あぁ、その通りだ」

 

 隠す必要もないので肯定する。そして俺たちは二人並び、揃って獲物を値踏みした。

 火力は戦艦クラス。エネルギー残量は未知数。強敵に間違いはないだろう。

 俺と鈴は《雪片弐型》と《双天月牙》の鋒を合わせる。それは無言による俺と鈴の鬨の声。

 そして、俺たちは即席のコンビネーションで、飛び出した。

 

 

      ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

「織斑君、凰さん、聞こえますか? 応答してください! 織斑君! 凰さん!」

 

 副担任の山田真耶は、顔面蒼白で何度もコンソールに向かって呼びかけた。

 しかし、音信不通になったコンソール画面はうんともすんとも言わない。意図的に通信を切っているのか、それとも何者かの妨害か。どちらにしろ、真耶は青褪めるしかなかった。

 

「もう! これは模擬戦でも試合でもないんですよ!」

 

 そう、これは模擬戦でも試合ではない。死が伴う実戦なのだ。泣こうが、喚こうが、相手がその気なら命の保障など何処にもない。それに相手は『IS学園』というISの総本山に単機で乗り込んでくるような狂人だ。その事実が、いっそう真耶の不安に拍車をかけていた。

 

「まぁ、おちつけ」

 

 落ち着いた千冬の声音。

 平時と変わらぬ千冬を、真耶は思わず捲し立てた。

 

「な、なに呑気なことを。実の弟さんが危険に曝されているんですよ!」

「わかっている。だが、慌ててどうなる。まずは状況確認が先決だ」

 

 千冬はアリーナの制御コンソール画面を操作し、遮断シールドの状態を表示した。

 表示されたアリーナの現状況に、セシリアと真耶が度肝を抜かれる。

 

「アリーナの遮断シールドが<Level5>に設定? 」

「しかも、全ての扉がロックされているですって!」

 

 襲撃を受けているのだから、シールドの強度が最高レベルに設定される理由は解る。こうしておけば、アリーナからの攻撃が施設に及ぶことはない。逆も然りなのだが、それはいい。

 問題なのは、全ての通路がロックされている点だ。これでは生徒の避難も叶わない。

 聡明な彼女は、直ぐにこの事態の原因に気付いた。

 

「もしかして学園のシステムがサイバー攻撃を受けていますの!?」

「そういう事だ。どうやら学内施設の制御システムが何者かの手に堕ちたらしい。システムを奪還できない限り、私たちはアイツらを救出しに行く事も、援軍として加勢する事もできない」

 

 声を荒げるセシリアに、千冬が毅然とした態度で状況を説明する。

 だが、その指は苛立ちを表すように忙しなくパネルを叩いていた。

 とどのつまり自分たちは“鳥篭のカナリア”だった。外敵に襲われないが、空は羽ばたけない。

 

「このわたくしが、ただ待っている事しかできないなんて……」

 

 額を押さえながら、ヨロヨロとその場にへたり込む。

 武力、財力、知力。彼女はいくつもの“力”を手にしている。それでもなお、想い人ひとり助けられない事実、その残酷さに眩暈がした。

 

「そうでもないぞ」

 

 そんなセシリアに千冬が不敵な言葉に投げかける。セシリアは顔を上げた。

 

「ですが、遮断シールドを解除できないのでは、どうしようも」

「そうだな。システムは何者かの掌中にあり、シールドを解除できない。強行突破しようにも、この学園の火力では不可能だ。おそらく《雪片弐型》でもな。だが、遮断シールドを物理的に突破できないなら、そのエネルギー供給元を断てばいい」

 

 千冬の奇策にセシリアは意表をつかれた。そうだ。何も正々堂々と勝負してやる必要はない。

 向こうがダーティーに攻めてくるなら、こちらもダーティーなやり方に訴えるまでだ。

 

「ただし、動力部の隔壁はもしもに備えて強固に設計されている。突破には相当なパワーが必要だが、<ブルー・ティアーズ>の火力なら問題あるまい。――いけるな?」

「はい」

 

 セシリアは頷き、いそいで自機のステータスを呼び出した。

 エネルギー残量、武装、駆動部、推力装置、防御機構。自機に並みならぬ愛着を持つセシリアは日頃から専用機のメンテナンスを欠かしていない。出撃に一切の問題はなかった。

 

「あ、あの織斑先生、私にも何かできることはありませんか」

 

 いそいそと出撃準備を整えるセシリアを一瞥し、そう言ったのは箒だ。

 しかし、帰ってきたのは、現実的な言葉だった。

 

「おまえにしてもらえることは何もない。邪魔にならないよう座っていろ。ここは安全だ」

 

 返事は予想の範疇だった。自分のことは自分が一番理解している。自分には専用機もなければ、特別な技能もない。この状況においては剣道の段位も役に立たないだろう。それでも胸中の無力感を払拭したい一心で、箒は食い下がった。

 

「で、でも、なにか私にも――」

「いいからじっとしていろ。今は話し相手になってやれる暇がない」

 

 千冬の言葉どおり、管制室は彼女の指示を仰ぐ言葉でごった返した。

 

「織斑先生、一部だけですが、通信を確保できました。B経路の非常用通信です」

「よし。では、<国際IS委員会>の危機対処規定に則りコードレッドを発令。所属不明機を敵性勢力と断定し、我々はこれの殲滅にあたる」

「了解。コードレッド発令。コードレッド発令。教員の方は規定に則って行動してください」

「まず教師部隊に通達。教師部隊は<クラスA>装備でアリーナの各ピットで突入の準備。オルコットが供給ラインを破壊する。シールドが解除され次第突入だ。突入タイミングはこちらで指示する。それとマルガリータに“コードレッドだ。容赦するな”と伝えておいてくれ」

 

 「弟の舞台を汚した報いを受けさせろ」と付け加え、淀みなく指示を続ける。

 

「生徒会とその他の専用機持ちには、生徒たちの救助と避難誘導をさせろ。必要なら隔壁の破壊も許可する。人命を優先しろ。現場の指示は更識に一任する」

「織斑先生。こちらの準備も整いましたわ」

「よし。これが学内の動力配線図と教師部隊の暗号化通信プロトコルだ。頼んだぞ」

「お任せを」

 

 慌ただしく動く教師たちとセシリアから外れ、箒は言われた通り管制室の隅に身を置いた。

 ここで自分が何かを言ったところで、邪魔になるだけ。そう思ったゆえの行動だ。

 

(私はなんて無力なんだ)

 

 大事な想い人が戦地で窮地に陥っているというのに何もできない自分。

 部屋の隅でただ蹲るしかできない無力感に、箒はあふれる涙を堪えるしかできなかった。

 

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