IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第22話 本日は突風 時々雨なり

 ハワイ州ヒッカム米空軍基地。真珠湾の南東に位置するこの基地に、一機のISが降り立った。

 抑制された灰色(サブデュード)。右肩の武装支持架にアサルトカノン。両膝に50口径のアサルトカービン。その中でも目を引いたのは、操縦者のスーツに張られた弓矢を構えた女戦士のエンブレム。それは第6IS航空団特務小隊のエンブレムであった。

 

「おーい、帰ったぞー」

 

 トップガンの『DangerZone』をBGMに、帰宅した亭主のような口ぶりで帰還したのは、イーリス・コーリング曹長だ。ショートヘヤーに、マッシブな体躯。どこか野生味を感じさせる女性だ。

 彼女はIS――アメリカ製第二世代型IS<ヴァンガード>をハンガーに預け、やってきた整備兵に口頭で指示したあと、弾薬コンテナの上にドカッと座った。

 

「おつかれさま、イーリ」

 

 簡易な休憩を取る彼女の元に、同じくISスーツを纏った女性がやってくる。

 艶やかな金色の長髪。長身スレンダーな体つき。イーリスにはない、気品を感じさせる美女だ。

 彼女は労いと共に給水パックをイーリスへ差し出した。

 

「おう、ナタルか、サンキュー」

 

 イーリスは、ナタルと呼んだ女性から給水パックを受け取り、それを頭から被った。

 頭皮がきゅんと冷え、汗が引いていく。それがたまらなく気持ちよかった。

 

「で、どうだった、新型<ヴァンガード>の着心地は?」

 

 気持ちよさそうに前髪を拭ったイーリスに、ナタルが訊いた。

 <ヴァンガード>とは、現在世界シェア1位を誇っているアメリカの第二世代型ISだ。彼女はそのアドバンス機の評価試験を終え、帰還してきたところだった。

 

「初期型に比べれば、操作性は格段によくなった。反応も悪くない。いい仕上がりだ」

 

 この<ヴァンガード>は高い性能を有する反面、扱いが難しく、操縦者に相応の技術と知識を要求する。そこで改良されたのが、イーリスが試験評価していたA1型だった。

 

「で、そっちはどうなんだよ、例の第三世代型、<エンジェル計画>の」

「ああ、<銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)>のこと?」

「そう、それだ。仮想オペレーションで最高スコアを叩き出したんだろ?」

「うふふ、そうね。機密事項だから詳しく話せないけど、いいわよ、すごく♡」

 

 まるで恋人との甘い一時を語るように、ナタルは頬を赤めた。

 上官を虜にするそんなISに興味を引かれたのか、イーリスがさらに身を乗り出した。

 

「やっぱり例の新型スラスターか! 試験機の段階で化け物スペックだったもんな!」

「いえ、機体性能がどうとかではなく、あれに乗っていると、どこまでも飛んで行けるって気分になれるの。きっと相性が良いのね。今までいろいろなISに乗ってきたけど、<銀の福音>ほど一体感を感じられた機体は無いわ」

 

 長年ISに乗っていると、時より全能感にも似た一体感を感じる事がある。

 これを《第二形態移行(セカンドフォームシフト)》の予兆ではないかという技術者もいるが、真相は定かではない。ただ、この感覚を味わい続けた操縦者は口を揃えこういう。――『これだからIS乗りはやめられない』と。

 

「相性か。確かに相性は大事だな。ISも、男も」

 

 熱を帯びた言葉に共感できるものがあったのか、イーリスも頻りに頷いていた。

 

「しっかし、いいよな。アタシもはやく第三世代型に乗りてなぁー。早く<ファング・クエイク>ロールアウトしねえかなぁ」

 

 コンテナの上でバタバタと足をばたつかせるイーリスに、ナタルが言う。

 

「そういえば、遅れているそうね、<ファング・クエイク>の開発」

「そうなんだよ。きっと海軍の嫌がらせを受けてんだな。じゃなきゃ海兵隊だ」

 

 米軍の『陸軍』『海軍』『空軍』『海兵隊』は軒並み仲が悪い。特にIS登場以降、空軍が予算を独占するようになってからは余計だ。それはもう酒場(パブ)で鉢合せすれば、乱闘騒ぎになるほどである。

 イーリスが怒り余って拳を握ると、ブシュっと掌中にあった水のパックが破裂した。

 そんな時である。ひとりの下士官がこちらに駆け寄ってきた。

 

「ナターシャ・ファイルス少尉、ここにおられたのですか。貴女に客人ですって」

 

 若い下士官が連れてきたのは、セミロングのブルネットの髪をした女性だった。

 年は18ぐらいだろうか。顔立ちも綺麗だ。クラシカルなメイド服に身を包み、頭部をカチューシャで装飾していた。その服装から察するに、軍関係者や観光客の類ではなさそうだ。

 『なんだ。アキバからの使者か』と言うイーリスを無視し、ナターシャがメイドに尋ねた。

 

「どちらさまかしら」

 

 メイドは優雅な動作で恭しく(こうべ)を垂れた。

 

「わたくしはチェルシー・ブランケットと申します。オルコット家の使いで参りました」

 

 オルコット。ナターシャはその名に聞き覚えがあった。確かヨーロッパ方面にいくつもの企業を傘下に持つ英国の大資本家だったはず。そのオルコット家の使いが、こんな場所に何の用だろうか。

 

「名家のメイドが、私たち軍人に何のようかしら?」

「実は、ある少女について、お尋ねしたい事がありまして」

 

 そう言ってチェルシーは、鞄から一枚の写真を取り出す。

 写真には、IS学園の制服を着た紅髪碧眼の少女――アリス・リデルが写っていた。

 

 

       ♡          ♣          ♤        ♦

 

 

「一夏がオルコットさんや凰さんに勝てないのは、戦術が単調化しているからだよ」

 

 第二アリーナ。

 シャルルとの模擬戦を終えたあと、俺は彼からIS戦闘に関する指導を受けていた。

 その内容は、俺の戦術に関する認識の改めと、その対応策についてだ。

 

「模擬戦して判ったんだけど、一夏はすぐに瞬時加速を使いたがる傾向があるね。安易な突撃が多すぎるよ。もしかして“<白式>はエネルギー消費が大きい機体だから、早く決めなきゃ”っていう焦りとかある?」

「ああ、あるわ。後半になるほど不利になる機体だからな。勝ち急いでいるのかもしれん」

「たぶん、それが安易な突撃戦法につながっているんだと思う。今の一夏に必要なのは、余裕を持って試合を運ぶことかな。そして戦術をもっと複雑化することだと思う」

 

 確かにワンパターンな突撃戦法で生き残れるほど、ISバトルは甘くない。それは代表候補生たちと山田先生の模擬戦で証明されている。

 しかしながら、シャルルは本当に教え方がうまいな。的確に問題点を指摘してくれるし、その解決策も指導してくれるから、向上している実感がすごいのだ。アリスの再来と言ってもいいぐらいに。

 

(それに引き換え……)

 

 俺は解説の傍ら、チラリと前コーチたちを盗み見る。

 プレゼント作戦が功を奏したのか、箒と鈴は上機嫌な様子で、談笑していた。ただ、セシリアだけは<ブルー・ティアーズ>でアリスを追いかけ回していた。<白式>の集音機能で盗み聞くと『さぁ、わたくしと決闘(たたかい)なさい』とか、言っている。

 

(そういや、セシリアの奴、前にも増してアリスに突っかかっているんだよなぁ)

 

 箒の話だと、部屋にまで押しかけているらしい。

 まぁ、セシリア、アリスをストーカーするのはいいが、あまりイジメるなよ。イジメていいのは俺だけなんだからな。

 

「――って、一夏、ちゃんと僕の話、聞いている?」

 

 おっと、シャルル先生のお叱りを受けてしまった。

 俺は意識を、<赤騎士>の反撃を受けて追いかけ回されるセシリアからシャルルに移した。

 

「もちろん聞いているぞ。で、何の話だ?」

「もう……。あのね、一夏の<白式>って後付装備(イコライザ)がないんだよね?」

 

 後付装備(イコライザ)の話か。そう、シャルルの言うとおり、<白式>には後付装備(イコライザ)がない。

 というか、<白式>は装備を追加できない仕様になっている。

 

「そうなんだ。なんでも《雪片弐型》のモジュールに全部の拡張領域(バススロット)を使っているみたいでさ」

「《雪片弐型》のモジュール?」

「千冬姉が言うに、ISのエネルギーを『エネルギーを消滅させるエネルギー』に変換する装置らしい。それで、その変換したエネルギーを放出するデバイスが《雪片弐型》なんだ。んで、その出力を格段に上げるのが《零落白夜》らしい」

「そっか。武器を追加できないなら、操縦技術で対処するしかないね」

 

 シャルルはピアニストのような指を顎にあて、しばらく黙考した。

 

「じゃあ、まず対射撃戦の技術を身につけようか。これを習得できれば戦術の幅も広がるし」

「そうだな。で、何をすればいいんだ?」

「まず、実際に射撃を行って、その特性を肌で感じてみようか」

「“まず敵を知る”ってことだな。でも、<白式>には銃が一丁もないぞ?」

「なら、僕の装備を使うといいよ」

 

 そう言って、シャルルが専用機の武装リストを<白式>に転送してくる。

 転送されてきたリストには、20個近い武器の名称が書き連ねてあった。

 

「多いな!? これ全部、専用機の武器なのか!?」

 

 本来、ISに追加できる武装の数は3つか4つ。機種にも依るけど、大体それぐらい。

 シャルルの20個という数は並みならぬ多さだ。

 

「僕の専用機はカスタマイズしてあって、通常の<ラファール・リヴァイヴ>より積載量(ペイロード)が多く確保されているんだ」

 

 シャルルの専用機は<ラファール・リヴァイヴ・カスタムⅡ>といって、シャルル用にチューンナップした<ラファール・リヴァイヴ>の改良型だそうだ。外観はオリジナルよりシャープで、カラーリングもモスグリーンではなくネイビーオレンジだ。

 

「でも、この武器数を実現するために、基本装備(プリセット)電子兵装(アヴェオニクス)をいくつも犠牲にしちゃっているから、それ以外の強みはないんだけどね。――どう、決まった?」

「いや、わりー、まだだ」

 

 俺は渡された武器リストをスライドして、銃器選びに専念した。

 それにしても種類が多いから、選ぶのも一苦労だ。悩み抜いた結果、無難にアサルトライフルをチョイスした。それをシャルルから受け取り、TVで見た特殊部隊の見よう見まねで構えてみる。

 

「構えはこんな感じでいいか?」

「うん。でも、脇はもっとしめた方がいいよ」

 

 と、シャルルが正しい銃の構え方を教えるため、俺に肌を密着させる。

 それを見た周囲の女子から黄色い声が飛び交った。

 

「きゃー見て、二人が身体を密着させてる!」「織斑君は受け、それも総受け!」「デュノアくんの鬼畜責めとかっ! 私得ッ」「あれ、絶対入っているよねッ」

 

 入ってねーから、お前ら頬を赤めてないで、さっさと訓練に戻れ。

 それと、ペンを走らせている、そこの君。ネタ帳と書かれたそれをあとで燃やしておくように!

 

「ったく、これが数馬の言っていた腐女子ってやつか」

 

 俺は気を取り直してアサルトライフルを構えた。安全装置を解除し、初弾を装填する。シャルルの誘導に従いつつ、展開されたARターゲットに銃口を向け、いざ銃爪を絞ろうとした――そのときだ。

 

「うそっ、あれってドイツの第三世代型!?」

「え、本国でまだ試験段階で聞いていたけど!?」

 

 最初は、また例の井戸端会議だと、無視を決めようとした。

 だが、できなかった。

 驚く彼女たちの先に――ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒがいたからだ。

 その彼女が黒いISを展開し、こちらに鋭い視線を送ってきていた。そう、こちらに。

 

「おい」

 

 冷たい一言。たった一言で場が凍りつく。

 だが、怯んでもいられない。俺はアサルトライフルを下し、ラウラと相対した。

 

「なんだよ。いま訓練中なんだが?」

「お前も専用機持ちだそうだな? なら、話は早い。私と戦え」

 

 あいさつも無しに戦えときたか。一発殴られた後だから、いまさら驚きはしないが。

 だからといって、戦う気にはならない。俺はラウラの申し出を淡白に断った。

 

「悪いが、模擬戦の相手が欲しいなら他をあたってくれ」

「なんだ、私と戦うのが怖いのか、この腰抜け」

「そんな安い挑発には乗らねえよ」

「そうか。ならば、こう言ってやろう。『貴様の所為で、私の敬愛する教官は<モンド・グロッソ>で二連覇を成し遂げられなかった。その無念を教官に代わって晴らさせろ』とな」

「…………ッ」

 

 その言葉に、2年前の忌々しい記憶が脳裏に蘇る。

 忘れもしない。あれは千冬姉の二連覇がかった<モンド・グロッソ>決勝戦の日のことだ。

 その日、俺は姉の勇姿を観戦しようと会場に向かっていた。その途中、何者かに誘拐されたのだ。その俺を助けに来てくれたのが、決勝戦を放棄してやって来た千冬姉だった。

 俺は千冬姉によって無事救助されたが、千冬姉の方はそうもいかなかった。

 

 千冬姉の試合放棄という行為がファンや関係者の怒りを買ったのだ。

 

 その後、帰国した千冬姉に送られたのは『日本の恥』だの『よく日本に帰ってこられたな』とかいう、心無い誹謗中傷の嵐。メディアも、千冬姉の不戦敗を面白おかしく囃し立てた。

 ラウラは、敬愛する千冬姉をそんな目に遭わした俺が憎いのだろう。

 俺の中にあった疑問がひとつ氷解したが、それでも俺はラウラの要求を突き返した。

 

「悪いが、それでもおまえとは戦わない。おまえと戦っても千冬姉への償いにならないし、おまえが俺を倒したところで、千冬姉の無念が晴れる訳じゃないだろ?」

「ふん、詭弁だな。お前はそう言って、自らの罪から目を逸らそうとしているだけだ」

 

 俺の頭に血が滾った。

 俺が罪から目を背けようとているだと? 勝手な事いいやがって!

 

「知った口をきくな。てめぇは、俺がどれだけ償いの方法を探してきたか知ってんのか!」

「そういう言い訳がましい物言いが詭弁だと言っているのだ。――もう御託はいいだろう」

 

 まるで痺れを切らしたように、ラウラのISの装備――大型のレールがこちらを向いた。

 

「私と、この<シュヴァルツェア・レーゲン>が貴様を裁いてやる」

 

 言うが早く、砲身に凄まじい電光が迸り、極音速の砲弾が放たれた。

 俺は何もできず、咄嗟に目を逸らす。

 しかし、いくら待てども衝撃は訪れない。不審に思い、逸らした視線を戻すと、

 

「聞き捨てならないですね、今の言葉」

 

 アリスがビットのシールドでラウラの攻撃を防いでいた。

 

 

       ♡          ♣          ♤        ♦

 

 

「聞き捨てならないですね、いまの言葉」

 

 私は展開していた《シュナイダー》を<赤騎士>に戻し、一夏の前へ降り立った。

 

「一夏を裁く? バカを言う。全ての元凶は、一夏を誘拐し、千冬さんを陥れた誘拐犯です。あなたが本当に裁かなければならない相手は彼らのはずです。あなたがしようとしている事は、断罪でもなければ、制裁でもありません。――それでも一夏に罰を与えたいと言うなら、私を倒してからにしなさい」

「ふん、いいだろう。私の邪魔をするなら、まず貴様から排除してやる」

 

 ラウラの挑戦的な視線に、私は内心でほくそ笑んだ。――乗ってきた、と。

 実習での言動から、ラウラが再び一夏を攻撃してくる事態は予想できていた。

 そこで一夏をエサに“釣り”をさせてもらったのだが、こうもあっさり釣れるとは。これでうまくいけば、VTシステムの有無について何か情報が得られるかもしれない。もちろん、相手はドイツの代表候補生、リスクはある。でも、虎穴に入らずんば子虎は得ずってね。

 

「<レッドクイーン>、訓練用プログラムを全て凍結。モードミリタリー」

《Yes My Honey――訓練用プログラム凍結。制御リミッター解除。戦闘モード》

 

 戦闘準備を整えた私は、改めて<シュヴァルツェア・レーゲン>を観察した。

 <シュヴァルツェア・レーゲン>は、私から見て右側に備えられた大型カノンが印象的なISだった。それを支えるドラム缶状の非固定浮遊部位には6機のブレード。腕部にも何かの出力口が見える。

 あとは<シュヴァルツェア・レーゲン>の第三世代兵器だが、外観からでは確認できない。

 それを確かめるため、私は肩部の武装支持架(ハードポイント)から山田戦で損傷した《ヴォーパル》を外し、投擲した。

 

「無駄だ」

 

 ラウラは避ける素振りさえ見せず、ただ淡白な一言と共に右手をかざす。

 瞬間、まるで時間が凍結したかのように、投擲した《ヴォーパル》が急停止した。

 

「AIC。やはり、積んでいましたか」

 

 Active(アクティブ) Inertial(イナーシャル) Cancer(キャンセラー)。物体の慣性を相殺する、対外的慣性制御装置だ。

 それが<シュヴァルツェア・レーゲン>の第三世代兵器。

 あれの前では銃弾はもちろん、運動エネルギー兵器の類は全て無力化される。が、

 

「<レッドクイーン>、得物が食いつきましたよ」

《Yes My Honey――イグニッション!》

 

 <レッドクイーン>が叫んだ瞬間、AICの掌中にあった《ヴァーパル》が突如爆発した。

 《ヴォーパル》にあらかじめ高性能爆薬を仕込んでおいたのだ。

 

「小癪なマネをッ」

 

 ラウラは目じりを吊り上げ、爆風から逃れようとするが、――遅い。

 回避より早く、灼熱の炎が<シュヴァルツェア・レーゲン>を抱擁するように包み込んだ。

 

「予想通りです」

 

 AICは運動エネルギー兵器に対して反則的な能力を発揮する。だが、化学エネルギー兵器の類は防御できないようだ。要するに、銃弾では歯が立たないが、ロケット弾やミサイルならAICを看破できる。

 

「やってくれる……」

 

 爆風が霧散し、視界が晴れると、ラウラの<シュヴァルツェア・レーゲン>が姿を現した。

 装甲が黒いため判りづらいが、損傷具合は軽微だろう。それで十分だった。

 私は折った膝を勢いよく伸ばし跳躍。爆破の余波で生まれたスキを突いて、ラウラに迫撃をかけた。

 

「ふんっ!」

 

 振りかざした一撃を、ラウラは腕部に装備されたプラズマブレードで打ち払った。

 私は続けざまに斬撃を打ち込む。一呼吸に一回、一呼吸に二回、一呼吸に三回。さらに残滓を残す速力を剣に与え、狡猾なフェイントをいくつも織り交ぜる。

 だが、ラウラは的確にそれをいなす。

 私は舌を巻いた。ドイツの特殊部隊を率いるだけはある。動きの一つ一つが合理的で無駄がない。また、その動きに追従できる<シュヴァルツェア・レーゲン>の性能も侮れなかった。

 

「やりますね。正直、驚きました。見事なものです」

「おまえこそ。私と格闘戦(グランプリング)できる奴がココにいるとはな。貴様、私と同じ臭いがするぞ」

「かくいう私も戦場で育ちましたからね。ブラより銃の方が付き合いは長いです」

「道理でそこらの温室育ちとは違うわけだ。――だが、まだ甘い!」

 

 ラウラが放った上段の回し蹴りが、側頭部に迫る。それを屈んで躱すと、そのスキに距離を取ったラウラが、非固定浮遊部位からワイヤーブレードを射出した。それが、まるで地を這う蛇のように迫ってくる。

 数は4基。私は怯まず対応した。

 

「<レッドクイーン>、《シュナイダー》カウンターリリース!」

《Yes My Honey――Off with her head!!》

 

 <レッドクイーン>の射出したソードビットが、ワイヤーブレードを迎撃する。

 衝突。互いを切り裂き合い、撃墜し合った下僕たちの合戦は痛み分けとなったが――

 

《接近警報。ハニー、下方!》

「下方!?」

 

 私が意識を下方に向けた瞬間、地中から2基のワイヤーブレードが飛び出してきた。

 しまった。初撃の4本は陽動で、地中から飛び出してきた二本が本命か!

 

「足許がお留守だぞっ!」

 

 私の失態を嗤うように、ワイヤーブレードが<赤騎士>の両脚部を捕える。ラウラは嬉々としてワイヤーブレードを巻き取った。磁石のように引き合う私とラウラ。距離が縮まったところでラウラがAICを発動した。

 

「ようやく捕まえたぞッ。これは手間を掛けさせてくれた礼だ!」

 

 身動きが取れなくなった私に、ラウラが<シュヴァルツェア・レーゲン>の非固定浮遊部位に接続された大型の砲門(レール)を向けた。その二枚の板の間に、凄まじい電光が奔る。

 

(まずい、レールガン!?)

 

 レールガンは、電磁場を用いて極音速の砲弾を打ち出す兵器だ。弾丸速度は初速マッハ7。それをこの至近距離から喰らうのはまずい! だが、AICの檻にいては回避行動も……ッ。

 

(しかたない、単一仕様能力(ワンオフアビリティ)を――)

 

 私は惜しんでいた切り札の行使を決断した――その時だ。

 

 

清き熱情(クリアパッション)

 

 

 突如、起こった凄まじい爆発で、私たちはアリーナの壁に勢いよく叩きつけられた。

 衝撃で肺から空気が抜け、意識が遠のく。私は頭を振って何とか意識を繋ぎとめた。

 

「れ、<レッドクイーン>、今の爆発は一体……?」

《戦闘開始以前より湿度が高くなっている。何かしらの手段で空気中の水分子を超振動させ、生じた熱エネルギーで爆発を発生させたものと思われる》

「……まさか《清き熱情(クリアパッション)》!?」

 

 これを可能とするISには心当たりがあった

 あれは遡ること約4ヶ月前の事だ。

 その時、私はある作戦のためイランにいた。そこでロシアの代表『ソフィア・カトゥリスキー・アルジャンニコフ』が駆る第三世代型IS<モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)>というISと遭遇戦をしたのだが、この<モスクワの深い霧(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)>が先のような爆発現象を発生させることができた。

 

(もしや彼女がここに?)

 

 交戦した私は、彼女のISとその<コア>を再起不能にしている。

 その後、風の便りによれば、『ソフィア・アルジャンニコフ』はこの責任を取るため、代表候補生の座を辞任せざるを得なくなったらしい。そのため、私を酷く恨んでいるとか。

 

(まさか、私に復讐しに?)

 

 私は冷汗を浮かべ、ハイパーセンサーを広域索敵モードに切り替える。

 アクティブレーダーが新型の機影(IS)を捉えた。

 透き通った装甲と菱形状の立体クリスタル。手には円錐状の突撃槍と、いくつかの刃節から成る蛇腹剣。所々異なる点はあるが、そのISは<モスクワの深い霧>(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)に酷似していた。

 

「………………」

 

 私は息を呑む。だが、私の予想は良い意味で裏切られた。

 

「こんな風にアリーナを使われたんじゃ、お姉さん、黙っていられないなぁ」

 

 流暢な日本語だった。しかも、柔らかな口調。ソフィアとは似ても似つかない。

 でも、目の前にいるISは、間違いなく彼女の専用機<モスクワの深い霧>(グストーイ・トウマン・モスクヴェ)

 一体どういう事でしょう? 私は確かめるため、操縦者に尋ねた。

 

「あなたは?」

「あら、IS学園の生徒たる者が私を知らないなんてね。いいわ、教えてあげる」

 

 芝居がかった物腰と、一世代前のヒーロー番組のような台詞で、その生徒はこう告げた。

 

「私はIS学園生徒会のその長、人呼んで更識楯無よ!」

 

 名乗って取り出した扇子をバンッと広げる。そこには『見参』の文字。

 

「さて、これ以上続けるなら、お姉さんが相手をしてあげるわ。さあ、かかってらっしゃい!」

 

 扇子を閉じ、その先を私に突きつける。同時に彼女の周囲を漂うクリスタルから水が溢れ出し、ドレスのように彼女を覆った。その姿は水の妖精『ウンディーネ』のようだ。

 

「いえ、降参します」

 

 ばっちし臨戦態勢に入った生徒会長に向かって、私は無条件降伏した。

 相手は生徒会長だ。そんな人に喧嘩を売るほど、私はやんちゃじゃない。肩透かしを受けた生徒会長が、ガクっとなったとしても知った事ではなかった。

 ラウラも<生徒会>を敵に回すつもりはないらしく、舌打ちして臨戦状態を解除していた。

 

「邪魔が入ったな」

 

 興が逸れた。態度でそう告げ、ラウラは私に背を向けた。

 

「あら、ちゃんとこうなった経緯を説明してもらいたいのだけど?」

「話ならその女にでも訊け」

 

 事情の説明を私に丸投げして、ラウラがアリーナから去っていく。

 その時、ラウラと一夏の視線が交叉したように感じられたが、私はそれどころじゃなかった。

 

「じゃあ、そこのあなた、事情聴取として生徒会室までご同行願えるかしら」

 

 私は怪訝な顔をする。

 確かに訓練用リミッターを解除して戦闘したけど、連行されるほどの事じゃない。

 でも、今は逆らわないのが吉だろう。そう判断し、私は『わかりました』と素直に答えた。

 

 

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