IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第26話 代表候補生VS代表候補生

 放課後。トーナメントが近いこともあって、アリーナはたくさんの生徒で賑わっていた。

 そこで偶然にも鈴と鉢合わせしたセシリアが、驚いて目をぱちくりさせる。

 

「あら、鈴さん、今日は一夏さんのコーチをしなくてもよろしいので?」

「そういうあんたこそ、今日はアリスを付け回さなくていいわけ?」

 

 まるでストーカー呼ばわりである。セシリアは心外そうにしたが、周りを嗅ぎ回っていることは事実なので、咽喉から出そうになる反論を飲み下す。

 

「ゴホン、それはともかく、今回のトーナメントでは、専用機持ちや候補生も多く出場いたしますし。わたくしもアリスさんにかまけていないで、少しばかり特訓しようかと」

「確かに、今年の一年は専用機持ちや候補生が多いらしいしね。ウカウカしてられないわよね」

「ええ。きっちり功績を上げてこそのエリートですわ。それに――」

 

 戦績が振るわないセシリアにとっては、ここらで挽回したいところであった。

 今回の学年別トーナメント。是非とも優勝ないし良い成績を残したい。

 

(そうなると、鈴さんは大きな壁になりそうですわね)

 

 ちらりと鈴を横目で見ると、鈴と目が合った。

 どうやら、お互い同じ事を考えていたようだ。ならば、やることは一つ。

 

「鈴さん、わたくしと模擬戦いたしません?」「セシリア、ちょっとあたしと模擬戦しない?」

 

 意見が合致するやいなや、二人は弾けるように跳んだ。そして、専用機を展開し、互いの攻略法を見つけるべく意識を集中する。

 そのとき、二人の気勢をそぐように、予期せぬ事態が発生した。

 

<――警報:照準レーダー波を検知しました――>

 

 突如、出現した警告(アラート)メッセージは、別の方向からの『ロックオン』を知らせるものだった。

 

「くっ! 何ですの!?」「ちっ! 誰よっ!?」

 

 警戒を強める二人の許に飛来してきた物体は、杭に翼が生えた砲弾。装填筒付き翼安定徹甲弾(APFSDS)だった。

 第三者からの攻撃に驚きながらも、二人はすぐさま後方へ跳んでかわす。同時に予告も無しに攻撃してきた無礼者の正体が拡張現実(AR)で表示された。

 

<――IS情報:ドイツ第三世代型『シュヴァツェア・レーゲン』――>

 

『<シュヴァツェア・レーゲン>!?』

 

 <シュヴァツェア・レーゲン>。二人はこのISをよく知っている。その操縦者が誰なのかも。

 

「いきなり、挨拶ね、ラウラ・ボーデヴィッヒ。一体、どういうつもりよ」

「ええ。攻撃の意図を明らかにしてもらえます? まさか誤射なんておっしゃらないですわよね」

 

 ラウラは特殊部隊だ。よもやハイテク装備の扱いに長けた専門家が、素人のような暴発や誤射を起こすはずがない。つまり、先の攻撃は、故意に他ならないということだ。

 しかし、ラウラは肯定も否定もしなかった。ただ、態度でその目的を示した。

 

<――警報:シュヴァルツェア・レーゲンのジェネレーター出力の上昇を確認――>

 

 なおも上昇していく<シュヴァツェア・レーゲン>のパワー。備えられたレールガンにも紫電が奔る。それは紛れもない臨戦態勢への移行であり――彼女たちに対する明確な挑戦状であった。

 

「何? ()る気? あたしにボコられたいわけ?」

 

 鈴の憎まれ口に、無口を通してきたラウラが笑った。

 

「ボコる? はっ、無理だな。――見せてもらったぞ、貴様らの模擬戦。第二世代一機に二人掛かりであのザマとは、同じ候補生として片腹痛い」

「なんですって?」

「候補生などやめて、下らん種馬に尻でも振っていろと言っている」

 

 侮蔑と嘲笑の篭った冷笑。件の模擬戦だけなら、セシリアも鈴も笑って流せた。

 だが、想い人を、その胸の中に秘めた恋心を、ぞんざいに扱われては黙っていられなかった。

 それが起爆剤となり、冷静だった二人の感情が一気に爆発する。

 

「貴女、ちょっと下品でしてよ」

「あいつの事知らないくせに、軽々しくバカにしないでくれる!」

 

 両者の得物を握る手にも自然と力がこもる。

 ラウラはその二人を挑発するように、クイクイと人差し指を動かした。

 

「なら、私を屈服させてみろ。できたなら、撤回してやる」

「上等!」「望むところですわ!」

 

 三度(みたび)、セシリアと鈴の声が重なり合うと、二機のジェネレーターが唸りを上げた。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 代表候補生同士が激戦を繰り広げている頃。それを知る由もない一夏とシャルルは、和気藹々と会話を弾ませながら、アリーナへ続く通路を歩いていた。話題は今月おこなわれる<学年別ペアトーナメント>についてだ。

 

「一夏、今日も特訓するんだよね」

「ああ、トーナメントも近いしな。今日もコーチ、頼むぜ、シャルル」

「うん、任して」

 

 シャルルが鞄を掲げて応える。それに一夏は頼もしさを感じる。

 あの夜、シャルルが事情を打ち明けたことで、ふたりは以前より打ち解けた関係になっていた。男性の友人を作り損ねたことは残念だったが、こうして新しい友人ができたことは素直に喜ばしい。

 しかし、それを歪解や誤解する者がいることが悩みの種だった。たとえば、音もなく現れた篠ノ之箒もその一人だ。

 

「おまえたち、最近、いやに仲がいいな」

「うおっ!?」「えっ!?」

 

 前触れもなく現れた第三者に、一夏とシャルルは揃って飛び上がった。

 それに不満を漏らしたのは、現れた第三者――篠ノ乃箒だ。

 

「な、なんだ、その反応は。人を幽霊みたいに……」

「ああ、悪い悪い」

「ごめんね、突然のことで、びっくりしちゃって」

「いや、怒っているわけじゃなくてだな」

 

 平謝りする一夏と、ちゃんと謝るシャルルに、箒は毒気を抜かれる。

 それにいきなり話しかけた自分にも非はあるので、彼女は矛を収めた。そんな時である。

 

「ねえねえ、第2アリーナで代表候補生同士が模擬戦やってるって!」

「え、誰と誰?」

「わかんない。でも、両方とも専用機持ちらしいよ!」

 

 と、生徒たちが興奮した様子で、一夏たちの横を走りすぎていく。

 それを横目で見ていた箒が言った。

 

「代表候補生で専用機持ち?」

 

 この学園に専用機持ちの代表候補生は10人といない。

 とくれば、該当する人物は自然と限られてくる。

 

「セシリアと鈴が模擬戦をしているのか?」

 

 トーナメントが近いこともあり、二人が模擬戦をしている事は大いに考えられる。

 だが、一夏の直感――――いや、悪寒がそれを否定した。

 脳裏を過る、隻眼の少女。嫌な予感がした。途轍もなく嫌な予感が。

 

「俺たちも行ってみよう……」

 

 そういうが早く、一夏たちは走り出した。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

「ここが整備区画ですか」

 

 IS学園では、二年過程からISの開発と整備を専攻した学科がひとつ設けられる。私がやってきたのは、その学科生たちが実習を行う区画だ。この区画にはISの開発や整備に必要な機材や設備が用意されている。それを利用して連戦で消耗した<赤騎士>を整備しようと思って訪れた次第だ。

 

「さてと、12番ハンガーですね」

 

 自主学習に勤しむ整備科二年生を眺めながら、私は充てられた整備ハンガーに向う。

 その途中、颯爽と一人の二年生が現れた。

 

「リ~デルさん♪」

 

 陽気な声で現れたのは、二年のエースで新聞部部長、黛薫子(まゆずみかおるこ)先輩だ。

 実は、この一週間、ずっとパパラッチされているのだ。なんでも『新しい専用機持ち』である私をどうしても取材したいらしい。目立ちたくない私は頑固拒否しているのだけど。

 

「またあなたですか。取材は受けないって、何度も言っているでしょ?」

「そう言わないで。今月の一面は『突如現れたダークホース。その素顔』で行こうと思っているのよ。だから、お願い! このとーり!」

 

 両手を合わせ、拝み倒されても、私は断固拒否した。

 ええ、ダメですとも。一言も受け答えする気はありません。

 

「わかったわ。こうなったOKして貰えるまで徹底抗戦よ!」

 

 黛先輩は何処からかパイプ椅子を引っ張り出してきて、ハンガーの前にドンと腰掛けた。

 はぁー。この人、私がOKするまで、ココを動かないつもりですね……。

 

「勝手にしてください。<レッドクイーン>、<赤騎士>を待機モードAで展開」

《Yes my honey――待機モードAで展開》

 

 そう命令して、赤いナイフをハンガーに放り投げる。

 ハンガーに収まった<赤騎士>を見た黛先輩は、興奮気味にICレコーダーを取り出した。

 

「おお、これが噂に聞く<赤騎士>ね! ねえ、AIさん、あなたのご主人様ってどんな人?」

《ハニー? ハニーは勇敢さ可憐さを兼ね合わせた、まさに戦乙女のような――》

「こら、<レッドクイーン>! 余計なことしゃべってないで自己診断プログラムを起動しなさい。精度はレベル3。診断対象は全システム。診断結果は私の個人端末に出力する!」

 

 余計なことをしゃべられては敵わないので、乱暴にインタビューを遮る。

 隣で黛先輩が頬を膨らましていますけど、そんなの知りません。

 

《Yes My honey――自己診断プログラム<Lv3>、対象ALL プロセス開始 RUN》

 

 自己診断プログラムが走り出すと、システム画面でウサ耳を生やした女の子が『うんしょっ』と<Please Wait>のプラカードを掲げた。これは<赤騎士>のOS<ホワイトラビット>のステータスガジェットだ。

 それが私の端末に<赤騎士>の診断結果が出力する。

 

「なになに? 駆動系と動力系に<クラスB>の不具合か」

 

 深刻というレベルでもないけど、これは一度分解して、総点検した方がいいかもしれない。

 私は専用の器具で<赤騎士>のパーツを外しに取りかかった。

 

《ふふ♪》

「どうしました、<レッドクイーン>? ずいぶんと機嫌がいいですね」

《こうしてハニーの手で可愛がって(メンテナンスして)もらうのは久しぶりだから》

「そう言えばそうですね。一ヵ月ぶりぐらいですか?」

《正確には42日と16時間32分19秒ぶり。可能ならハニーの手で定期的に見てほしい》

「整備班のメカニックの方が腕は確かですよ?」

《でも、ハニーの手でメンテナンスしてもらえる方が――》

「してもらえる方が?」

《うれしい!》

「そう言ってもらえると専用機持ち冥利につきますね」

 

 さて、次は動力ユニットだ。

 私はジェネレーターの外殻を取り外し、動力炉(リアクター)の点検に取り掛かった。

 

《あはん。ハニー、そこは大事なところだから、やさしく♡》

「気色悪い声を出さないでください。さもないと外部電源のプラグを引っこ抜きますよ?」

《No No my honey――そんなことされたら、ハニーとおしゃべりできなくなる……》

 

 色っぽい声をだす<レッドクイーン>を窘め、動力内部をチェックする。動力ケーブルの消耗が進んでいたので、新しいケーブルに交換しておく。

 あとは動力炉――正確には反物質ペレットという部位――の消耗が増してきたので、交換しておきたいところだったが、あいにく<赤騎士>のリアクターはこの学園の訓練機と互換性がいない。つまり、<打鉄>や<ラファールリヴァイヴ>のリアクターは使えないのだ。

 武装も失いましたし、あとでパーツを送ってもらうよう伝達しておかないと。

 

「さて、点検の方は、大体こんなものでしょうか。――ん?」

 

 額に滲んだ汗を拭うと、整備科の生徒たちがザワついていることに気づいた。

 なにやら、巨大モニター前に大きな人集りが出来ているけど、どうしたのでしょうか。誰かがアリーナで模擬戦をしていて、それを観戦しているようですが。

 

(それにしては、やけに騒がしいですね)

 

 生徒の模擬戦なんて珍しくないから、そうそう騒がしくならないのだけど。

 どうにも嫌な予感がした私は『すいません』と人を掻き分け、中継されているモニターの前に向かった。

 

「やっぱり……」

 

 案の定、戦っていたのは、鈴とオルコットさんと―――ラウラだった。

 

「やってるのはイギリスと中国の代表候補生かな? 相手は最近転入してきたドイツの?」

 

 うしろからついてきた黛先輩に『ドイツの代表候補生ラウラ・ボーデヴィッヒです』と答えた。

 

「ほお、じゃあ、代表候補性同士の模擬戦か。そりゃ盛り上がるわけだ。――っていうか、あの三人、試合用プログラムを起動してなくない? 訓練用リミッターまで外してるし」

 

 試合用プログラムは試合判定を制御するプログラムだ。そして、訓練用リミッターはパーツの消耗を抑える制御プログラム。その二つを使用していないということは、彼女たちは、模擬戦でも、試合ではなく、制限なしの戦闘(・・)をしていることになる。

 

「これってやばくない? 止めた方がいいよね」

「ええ、このままじゃ鈴たちが危ないかもしれません」

 

 鈴たちの実力は、代表候補性として遜色ない。だが、ラウラの実力はその上にある。特殊部隊としての経験、遺伝子的素質、ナノマシンによる強化処置。さらに<シュヴァルツェア・レーゲン>は実戦に耐えうる完成度を持つ。二対一であっても、彼女の優位性は変わりない。

 試合形式で挑まなかったことを鑑みれば、ラウラは鈴たちを再起不能にするつもりだろう。

 

(今すぐ止めに行った方がいいですが――)

 

 分解され、どこかグロテスクな容貌を晒す<赤騎士>を見て、私は親指の爪を噛んだ。

 オーバーホール中にある<赤騎士>は、現在動かせる状態にない。今から組み立てたとしても20分は容易にかかるだろう。それまで鈴たちは持ち堪えられるだろうか。いや今の戦況を見る分には……。

 

(何か策はないでしょうか……)

 

 私は忙しなく辺りを見渡す。すると、あった。この状況を打開できる策が。

 

「黛さん、あなた、整備科二年のエースでしたよね。それを見込んでお願いがあります」

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 

 唐突に挑んできたラウラに、二人は苦戦を強いられていた。打つ手、打つ手がいなされるのだ。決定打どころか、装甲に傷を負わすことも敵わなければ、反撃の余地もない、その状況はまさに“手も脚も出ない”だった。

 

「アリスはこんな奴とひとりで……このっ!」

 

 鈴は苦し紛れに衝撃砲を放った。しかし、ラウラは予見していたかのように手を翳す。

 それだけ。たったそれだけのしぐさで、渾身の衝撃砲が霧散した。

 

「くっ、AIC……。こうも攻撃を無効化されたんじゃ……」

 

 《龍咆》は空間を圧縮し、衝撃波を打ち出す運動エネルギー兵器。運動エネルギーを奪うAICは、まさに《龍咆》の天敵といえた。かといって《双天牙月》で近接戦闘をしかけようにも、やはりAICがある手前、迂闊に近づけない。

 

「ふっ、その程度か、中国の代表候補生。どうやら機体も腕前も二流のようだな!」

 

 ラウラは一歩踏み出し、瞬時加速(イグニッションブースト)を発動した。間合いを詰めるやいなや、レールガンの砲身を鈴の腹部に叩き込む。そのまま砲身の先端で鈴を持ち上げ――発砲。

 

「――――――!?」

 

 ゼロの距離から極音速の徹甲弾を捻じ込まれ、鈴の眼球が焦点を失って暴れ回る。

 『鈴さんっ!』というセシリアの遼友を案じる声さえも、今の彼女には届かなかった。

 

「なんてまねをっ! ――おゆきなさい《ブルーティアーズ》」

 

 射出されたビットを警戒して、ラウラは機体を後退させた。それをビットが三次元機動で追撃する。執拗に、狡猾に、狩りでもするように。やがて訓練された猟犬のごときビットがラウラを追い詰めた。

 

(捉えた!)

 

 包囲を核心したセシリアが、ビット全機に発砲命令を下す。

 撃て、撃て、撃て、撃て。

 ………………しかし、ビットたちは命令を履行しなかった。

 

「なぜですの!?」

 

 セシリアの脳裏に真耶との一戦が過ぎる。まさか同じ失態を?

 セシリアは慌てて《ブルーティアーズ》のコンソールに視線を落としたが、

 

<――《ブルーティアーズⅠ》BT-energy[■■□□□] 【Offline】――>

<――《ブルーティアーズⅡ》BT-energy[■■■□□] 【Offline】――>

<――《ブルーティアーズⅢ》BT-energy[■■■□□] 【Offline】――>

<――《ブルーティアーズⅣ》BT-energy[■■■□□] 【Offline】――>

 

 エネルギーならまだ残っていた。では、なぜビットはその撃鉄を下ろさない?

 もしかして、技術的なトラブル?……技術的な、トラブル……そうか、そういう事か!

 

「ECM!!」

 

 ECM。Electronic Counter Measures。電子対抗手段のことだ。

 <シュヴァツェア・レーゲン>はこれを用いて<ブルーティアーズ>から《ブルーティアーズ》へ送信される攻撃命令を妨害していたのだ。初歩的な手だが、初歩的だからこそ見過ごしがちになる。

 ラウラは本機と子機の通信途絶しているうちに、ビットをワイヤーブレードで撃墜した。

 

「くっ、ビットがなくても……」

 

 ビットを撃墜された焦りから《スターライトMkⅢ》を連発するが、精密性を失った射撃はラウラに突き入る隙を与えるだけだった。

 セシリアの攻撃を掻い潜り、接近したラウラは、まずセシリアの得物(スターライトMkⅢ)を打ち払った。次いで無防備になった胸部へ肘打ち、裏拳、正拳突きと流れるような打撃技を打ち込む。相手がよろめいたスキに背後を取り、裏膝を蹴って跪かせ、頭部を地面に叩きつけた。

 この間2秒足らず。

 セシリアはショートブレード《インターセプター》を展開することさえできなかった。

 

「狙撃の腕は大したものだが、格闘技術はまるで素人だな。貴様程度の操縦者、私の部隊には五万といるぞ? むしろ下から数えた方が早いぐらいだ」

 

 這いつくばるセシリアを踏みつけ、ラウラがその背に向かってレールガンを発砲する。

 それにセシリアの体が不自然なほど跳ね上があがる。しかし、ラウラは攻撃の手を緩めず、なおもレールガンに次弾を装填した。再び発砲。

 

「ぐぅは――ッ!」

 

 勝敗は決した。にも関わらず、ラウラは戦闘を継続する。

 その死体に鞭打つ行為に、瀕死の鈴が力を振り絞って激昂した。

 

「あんたねっ! なんのつもりよ、こんなマネしてッ!」

 

 鈴は<甲龍>の非固定浮遊部位(スパイクアーマー)をスライドさせて、《龍咆》を構えた。

 その中央が黄金色に輝くも、ラウラは動じない。この攻撃パターンは既に読んでいた。

 

「見誤ったな。この状況でウェイトのある空間圧兵器を使うのは、失策だ」

 

 指摘通り、《龍咆》が衝撃砲を吐き出すより早く、ワイヤーブレードがその中心部を貫いた。

 内部機構を蹂躙された《龍咆》が、その威力を発揮することなく爆散する。

 さらにラウラはワイヤーブレードを翻して<甲龍>の四肢を拘束し、ワイヤーを介した電撃を加えた。

 

「――――――!!」

 

 もはや声にもならなかった。

 精神力を根こそぎ奪われた鈴が地に墜ちる。それをラウラは嘲笑った。

 

「ははは、もう終わりか、チャイニーズ」

「ふ、ふん。まだ、これから、よ」

 

 肩で息をしながら、なんとか鼻で笑う。

 しかし、彼女が限界なのは誰の目から見ても明らかだった。

 

「そうか。それなら手加減はしない」

 

 サディスティックな笑みを浮かべると、<シュヴァルツェア・レーゲン>のレールガンに紫電が走った。レールガンの威力は電力量に比例する。余剰電力が変質するほどなら、その威力は想像しがたいものになる。文字通り、加減なしだ。

 <甲龍>のエネルギー残量は僅か13。さしもの鈴も『ここまでか』とまぶたを閉じた。

 

 その時だ。

 

「ラウラ、何してやがるっ!!」

 

 アリーナに一夏の声が響いた。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 俺たちがアリーナに駆けつけると、目を覆いたくなるような光景が広がっていた。

 虫の息であるセシリアたちをこれでもかと嬲るラウラの所業に、血が滾り、理性が揺らぐ。

 ISも《機体警告維持域(レッドゾーン)》に達しており、ひっきりなしに戦闘停止を訴えていた。

 

「まずいんじゃないか? あのままじゃ機体だけじゃなくて、操縦者にも危害が及ぶぞ」

 

 箒が言った。現在セシリアたちのISは、辛うじて補助動力(APU)で維持されている状態だ。

 その補助エネルギーまで切れてしまったら、冗談でもなく二人の命にかかわる。

 堪らなくなった俺は叫んだ。

 

「ラウラ。てめぇーなんのつもりだ!!」

 

 俺の声に気づいたラウラがこちらに振り向く。そして待ち侘びたような笑みを浮かべた。

 

「見ての通りだ。釣りをしている。貴様を釣る為のな。こいつらはそのエサだ」

 

 そういって、ぐったりとする鈴を蹴り飛ばす。俺は不覚にも感心してしまった。

 コイツ、俺の事をよく知ってやがる。仲間を虐げられて、黙っていられるわけがない。

 俺は道徳的な判断よりも本能に近い反射で<白式>を展開した。

 

「シャルル、鈴とセシリアを頼むっ!」

「でも、一夏ひとりじゃボーデヴィッヒさんには!」

 

 わかっている。俺の実力じゃラウラに敵いっこない。

 だけど、俺が鈴たちを助けに行くのは悪手だ。ラウラの狙いは俺。その俺が救出に向かえば、その矛先が鈴たちに再び向きかねない。逆に俺が囮になれば、ラウラから鈴たちを引き離せるはずだ。

 

「いくぞ、<白式>っ!!」

 

 素早く《雪片弐型》を展開して、《零落白夜》でアリーナの遮断シールドを破壊する。出来た裂け目に向かって瞬時加速を発動し、俺はラウラに斬りかかった。それをラウラがプラズマ手刀で受け止める。

 スパークする二つの得物。それ越しに、俺は怒りをぶつけた。

 

「ラウラ、こんな事はやめろ! こんな事をしても、お前の求めているモノは手に入らない!」

「分かっている!」

 

 帰ってきた返答に俺は気勢を削がれる。

 なんだよコイツ、最初から分かっていてこんな事を?

 

「だったら、何でこんなことしてんだよっ!」

「それしか術を知らないからだ! 誰も私に人の愛し方を教えてくれなかった! 教わったのは、いかにして人を殺すかという術だけだ!」

 

 激情をぶちまけながら、ラウラがプラズマ手刀で《雪片弐型》を打ち払う。

 解除される鍔迫り合い。しかし、俺は次の一手を繰り出すことができなかった。

 

 ラウラが酷くしゃがれた顔をしていたから。

 

「教えてくれ、織斑一夏。どうすれば、あの人に愛してもらえる?……私はどうすればいい」

 

 ラウラはひどく困惑した様子だった。

 そんなラウラの姿に、俺は言葉を失う。

 どうすれば千冬姉に愛してもえらえる? わからない、そんなこと。当たり前のように愛されてきた俺は、愛される理由など考えたことすらない。そんな俺がラウラに愛を諭せるはずがなかった。

 

「――答えられないなら、私に指図をするなッ!」

 

 何も言わない俺に、ラウラが失望の色を強く滲ませる。同時にAICで俺の自由を奪った。

 そして、動けなくなった俺の額に、レールガンの砲口をポイントする。

 

「終わりだ、織斑一夏。貴様を斃し、この想いを成就させる」

 

 足掻きとして体を揺さぶってみたが、まるでびくともしなかった。

 くそ、やられる。

 そう覚悟を決めた次の瞬間、どこからともなく一発の砲弾が飛来した。それが<シュヴァツェア・レーゲン>のレールガンに命中して、照準をぶらす。おかげで徹甲弾が俺から外れた。

 

「シャルルか?」

 

 個人間秘匿通信(プライベートチャネル)で確認するが、シャルルは首を横に振って否定した。

 

『違うよ。彼女が来てくれたみたい』

 

 どこか意気揚々と語るシャルルの視線の先には、彼女が立っていた。

 そう、頼りになるアイツ――――――アリス・リデルだ。

 

「ちょっと、おいたが過ぎるんじゃありませんか?」

 

 120mm滑腔砲《バウンサー》を装備した<打鉄>に乗る(・・・・・・)アリスが、勇ましく言い放った。

 

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