IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第28話 BlueTears

 自室に戻ってきた俺はベッドに身を沈め、天井をぼんやりと見つめた。

 その白い天井に思い浮かべるのは、銀髪隻眼の少女――ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

 ラウラ・ボーデヴィッヒ。

 

 転入当初は毛嫌いしていたけど、千冬姉にその生い立ちや境遇を聞いたあの日から、俺の彼女に対する感情は一八○度変わっていた。いまや俺の思考の半分は、ラウラが占めていると言ってもいい。―――いや、だってさ、

 

 教えてくれ、織斑一夏。

 どうすればあの人に愛してもらえる? どうすれば、あの人に……

 

 あんなしゃがれた表情をされたんじゃ、放っておけるわけないだろう?

 それに、今日の出来事で確信した。アイツは今すごく寂しい場所にいるって。

 例えるなら、そう、誘拐事件で俺が監禁されていた場所だ。冷たくて、寂しくて、心が折れてしまいそうな場所で、ラウラは一人ずっと足掻き続けているんだ。俺の時のように、千冬姉は助けに来てくれないから。そんな彼女を、俺は――

 

「一夏、お茶、淹れたよ」

 

 そこでシャルルが湯飲みを持って、こちらにやってきた。

 

「お、サンキュー」

 

 俺は考えるのをやめ、差し出されたお茶を啜った。緑茶の芳しい香りが、心を落ち着かせてくれる。紅茶やコーヒーも好きだけど、やっぱり俺は日本茶派だな。しみじみそう思う。

 

「ねえ、一夏」

 

 うまいお茶に癒されていると、シャルルが言った。

 

「ん、なんだ?」

「あの、もしよかったら、ボーデヴィッヒさんとの間に何があったのか、聞いてもいいかな」

「あー、俺とラウラの事か……」

 

 俺は口籠った。一瞬『これは織斑家の問題だから』という迷いが脳裏を過ぎる。

 でも、シャルルは自分の出自や境遇を俺に明かしてくれた。なら、今度は自分が話す番だろう。

 そう思い、俺は頷いた。

 

「ああ、わかった。実はな―――」

 

 俺は湯飲みを置き、シャルルに向き直る。

 そして、自分の知っている全て――特殊な出世であるラウラには親がいない事。そんな自分の面倒を見てくれた千冬姉に好意がある事。その千冬姉の気を惹くために、あんな暴挙を仕出かした事――を包み隠さず語る。

 シャルルは一言も挟まず、最後まで黙って聞いてくれた。

 

「そっか……。ボーデヴィッヒさんにも、そんな過去があったんだね……」

 

 シャルルは手を胸の上に置き、すごく神妙な表情をした。

 シャルルとラウラ。お互い出世に違いはあるけど、“親の愛情”という点で通じるところがある。もしかしたら、自分の境遇とラウラの境遇を重ね合わしているのかもしれない。

 

「それで、これから一夏はどうするの?」

「それなんだが……」

 

 俺は胸の内を曝け出すように、正直な気持ちを打ち明けた。

 

「俺はラウラを救いたいんだと思う」

「救いたい……?」

 

 シャルルがすこし驚いた顔をした。

 

「ああ。ラウラと同じで俺にも両親がいない。だけど、寂しくはなかった。千冬姉がいてくれたからな。でも、ラウラは違う。アイツは誰にも愛してもらえず、ずっとひとりだった。アイツはそんなさびしい場所から抜け出そうと必死なんだ。あんな暴挙に打って出たのも、それだけ孤独が大きかったからなんだと思う」

 

 そんなラウラを、俺は救ってやりたい。あの時、千冬姉が俺を救い出してくれたように。

 とは言っても、具体的な策があるわけじゃないし、たとえ手段を見つけられたとしても、ラウラはそれを拒むだろう。アイツにとって、俺の優しさなんて疎ましいだけだから。

 それでもだ。それでも、俺はあんな寂しそうな顔をするラウラを放っておけなかった。

 少しでもいい、僅かでもいい。俺はアイツに今よりマシな場所を作ってやりたい。

 

「そっか、一夏らしいね。ねえ、一夏、よかったら、僕もその力にならせてくれないかな?」

 

 シャルルの申し出に、今度は俺が驚いた。

 

「……いいのか? 俺に関わったら、またとばっちりを受けちまうぞ?」

「かまわないよ。――僕ね、不徳の子だと知ったとき、両親の愛情を疑ったんだ。もしかしたら“私は望まれた子じゃないのかもしれない”って。そう思うと、怖かった。まるで自分の存在が否定されてしまうようで」

「シャルル……」

「たぶん、ボーデヴィッヒさんは、僕が感じた恐怖と同じ恐怖を感じている。僕は自分の殻に引きこもってしまったけど、ボーデヴィッヒさんはそれと戦うことを選んだ。強い子だよ。僕はそんなボーデヴィッヒさんの味方になってあげたい。アリスが僕の味方になってくれたみたいに」

 

 シャルルの言葉には、力強さがあった。共感があるからこそ、生まれる力強さだ

 おそらく、シャルルは俺よりラウラを理解している。そんな彼女が味方になってくれること。こんなに心強いことはない。俺は躊躇わず、手を差し出した。

 

「わかった。俺たちでラウラを孤独から救い出してやろう」

「うん」

 

 差し出した俺の手を、シャルルが強く握る。

 固く結ばれた手と手は、俺たちの結束の強さを表しているようだった。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 午後八時を回ったあたり。私は<ロッカー>ルームと呼ばれる場所にいた。

 <ロッカー>とは、専用機持ちに与えられる特別な保管スペースのことだ。主に専用機の予備パーツや専用パッケージを保管する際に用いられる。

 私も先日ようやくこの<ロッカー>を設けてもらったのだが、中身は空っぽ。ずっと専用機の存在を隠匿していたため、予備パーツの搬入が遅れているのだ。兵站の方に申請はしたが、トーナメントまでに間に合うか怪しいところだった。

 

「参りましたね……<赤騎士>の装備も失われたままですし」

 

 山田先生との模擬戦で《ヴォーパル》、ラウラとの戦闘で《シュナイダー》を4基。幸いにも、動力部に異常はなく、トーナメント出場に問題はないけど、こんな状態でVTシステムと戦えるのでしょうか……

 

「ヴァルキリー・トレース・システム、か」

 

 その言葉を囁くと、あの時の――酷く陰鬱な過去が蘇るようだった。

 

「エイミー……」

 

 あの時、VTシステムに呑み込まれていく親友を、私は助けることができなかった。

 その日から私の心には、悔恨という空虚な穴が空いている。教会で懺悔し、軍医のカウンセリングも受けたが、未だにそれを塞ぐ術を、私は見つけられていない。

 埋まらない心の穴。それを埋めたくて、埋められなくて葛藤する毎日。

 

 ――ねえ、エイミー、あなたなら、今の私にどんな言葉をかけてくれますか?

 

 無意味な問いなのは解かっている。けれど、そう問わずにはいられなかった。

 その時である。何処からともなく声が響いた。

 

「探しましたわよ、アリス・リデル」

 

 滲んでいた涙を拭い振り返ると、オルコットさんが立っていた。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 ここ数日、セシリアはあらゆる伝手を使ってアリス・リデルについて調査を行った。

 しかし、満足な成果は得られなかった。

 確かな情報といえば、嘗てアメリカ空軍に所属していたこと。その情報を元に、幼馴染であり専属メイドのチェルシー・ブランケットに渡米してもらったが、有益な情報は得られなかった。当時の上官ナターシャ・ファイルスに話を訊いてみても、除隊後の足取りは知らないらしいのだ。

 

「確かに実力はおありのようですけど」

 

 だが、それだけではアリス・リデルという少女を信用できなかった。

 無理もない。素性不明の人間を、どう信用しろというのか。しかし、一夏たちは違う。彼らはアリス・リデルという少女に強い信頼を寄せている。それがセシリアには信じられなかった。

 

――おかしいのは自分? それとも周り?

 

 まるで全てが狂っているような錯覚。まるで不思議の国に迷い込んだようだった。

 どれだけ調べ、嗅ぎまわっても、これ以上の進展は望めそうにない。

 ならば、残された手段は一つ、直接対話だ。

 そう判断したセシリアは、アリスの許に足を運んだ。彼女が何者なのか。その答えを知るために。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

「探しましたわよ、アリス・リデル」

 

 アリスを見つけ出したセシリアは深呼吸し、鋭い表情で話しかけた。

 だが、アリスが振り向いた直後、セシリアは思わず面を喰らってしまった。

 彼女の瞳に、涙の後を見つけたからだ。

 

(もしかして、泣いていましたの……?)

 

 アリスに警戒心を剥き出しにしていたセシリアは、出端を挫かれる形となった。狼狽えこそしなかったが、二言に詰まってしまう。そんなセシリアに代わって、アリスが涙を拭いながら言った。

 

「こんばんは、オルコットさん。どうしたましたか、こんな時間に」

 

 やや不意打ちを食らった気分だったが、セシリアは咳払いし、改めてアリスと対峙した。

 

「実は、貴女にお話がありまして。わたくしはあまりダラダラと喋るのが好きませんから、単刀直入に言わしていだたきますわ。――アリス・リデル。貴女は一体何者ですの?」

 

 碧眼に鋭い眼光を宿し、アリスを見据える。その表情にいつものエレガントさはない。まるで狩人のような鋭さだ。凡人なら思わず後退りしていただろう。

 だが、生憎アリスは凡人ではない。見かけは可憐でも、中身は戦士だ。この程度では動じない。

 

「何者、ですか……。その口調から察するに、いろいろと調べたようですね」

 

 まるで観念したような口調だった。

 彼女自身、自分に施された継ぎ接ぎだらけの欺瞞に限界を感じていたのだろう。

 遅かれ、早かれ、こうなる事を予期していたアリスは、取り繕うことなく続けた。

 

「わかりました。詳しいことはお話できませんが、可能な範囲でお話しましょう」

 

 その返答にやや不満を感じたが、セシリアは『では、聞きましょう』と目で促した。

 

「まず、VTシステムについてご存知ですか?」

「VTシステム!?」

 

 セシリアが呻く。

 学年首席で入学した彼女が、VTシステムを知らない訳がなかった。

 

「ご存知あるようですね。では、その事を前提で進めていきます。実は数ヶ月前、有力な筋から英国に『ドイツがVTシステムを搭載したISを開発している』という情報が齎されました」

「ドイツのISにVTシステム……!?」

 

 すぐさまセシリアの脳裏に、漆黒のIS<シュヴァルツェア・レーゲン>が浮かんだ。

 まさか同盟国であるドイツが<アラスカ条約>で禁止されたシステムを開発していたとは。

 その事実に苛立ちが募った。

 再び、あのシステムが開発されたということは、世界がエイミーの死から何も学んでいないということ。すなわち、彼女の死が無駄死に他ならなかったということだ。

 

「しかし、情報だけで確証がありませんでした。そこで英国政府は、それを確かめるべく調査員を派遣しました」

「その調査員が貴女?」

「はい。そうなります」

 

 合点がいった。なぜアリスはラウラに接近し、戦いを挑んだのか。

 全ては<シュヴァツェア・レーゲン>にシステムが搭載されているかを見定めるため。

 

「でも、なぜ貴女ですの?」

「私は以前、VTシステムの暴走を止めた事があります。おそらくその実績を買われたのでしょう」

 

 アリスの言葉を聞き、米国で起こった『VTシステム暴走事件』を思い出す。

 同時にドロドロとした黒い疑念が浮かび上がった。

 

「……貴女が米国のⅤTシステムを止めた張本人?」

「そうです」

「では、貴女がエイミーを?」

「はい、私がエイミーを殺しました」

 

 セシリアはハンマーで殴られたような衝撃を受けた。次いで腹の下がぐるぐる回るような感覚に襲われる。きっとこれが“腸が(ハラワタ)煮えくり返る”という感情なのだろうと、セシリアは思った。

 

「あなたが、エイミーを……ッ!」

 

 セシリアの感情を表すように、イヤーカラフが眩しく光る。

 瞬く間に物質化された《スターライトMkⅢ》を、セシリアはアリスの額にポイントした。

 

「エイミーは自分も両親を喪ったのに、いつもわたくしを気にかけ、勇気づけてくださいましたの。今のわたくしがあるのは、彼女のおかげ。そう言っても過言ではありませんわ。そんなわたくしの恩人を貴女が殺した!?」

「はい、殺しました。復讐しますか? 構いませんよ」

 

 目の前にいるのは親友の仇。そう思うと、セシリアは銃爪を引きたい衝動に駆られた。

 だが、アリスは怯えた様子も見せず、言い訳も、抵抗もしない。

 親友を殺した時から咎は受けるつもりだった。それが死であっても甘受する覚悟はできている。

 それに奪われた者には、奪った者に復讐する権利がある。よく『復讐は憎しみを生むだけだ』と云う者がいるが、そんなチープな理屈では誰も報われない。彼女はそのことを知っている。

 

 しかし、セシリアが引き金を引くことはなかった。

 

 なぜか。気づいたのだ。引き金を絞る指、そこに籠る感情の正体に。

 復讐は己のために行うものじゃない。逝ってしまった人間の無念を晴らすために行うものだ。だから、力を込める指先にエイミーの意思が介在していければならない。

 だというのに、自分の指先に、それが見当たらなかったのだ。

 セシリアは、どうやっても“アリスを討て”と願う親友の姿を、銃鉤に見いだせなかった。

 それにセシリアは悟ってしまう。

 引き金を絞る指先にある感情が、他ならぬ自分のものだということに。

 

(もしかしたら、わたくしは彼女に嫉妬していたのかもしれませんわね)

 

 だから、アリスを貶める口実が欲しかった。想い人が慕う、この少女を貶められる口実が。

 そうすることで、裡から湧き上がる感情を払拭したかったのだ。

 ただそれだけのこと。元から疑念などなかった。自分はルサンチマンになっていただけ。

 

(わたくしったら、結局、自分のことばかり……。)

 

 けれど、アリスは自らの死を以って、エイミーの無念を晴らそうとした。

 自分の命で、あなたやエイミーが報われるのであれば、と。

 それは“彼女の死”や“残された者の想い”と、真摯に向き合っていたからこそできた尊い行為だ。

 それを知った瞬間、セシリアはアリスが何者なのか、もうどうでもよくなった。

 彼女は友人を想い、慈しめる人間。それ以上でもそれ以下でもない。

 それだけの事で、人は人を信頼する事ができる。

 

「もう、いいのですわ」

 

 セシリアは武装解除して、アリスにそっと歩み寄る。そして、その(かいな)で彼女を抱きしめた。

 かつて、親友がそうしてくれたように。強く、優しく。アリスは目を見開いた。

 

「いいのですか?」

「いいも、わるいもありませんわ。あなたには許から裁かれる罪などなかったのです。あなたはやるべきことをやった。だから、もう自分を責めるのは、おやめなさい」

 

 そう言って強く抱きしめる。

 その温もりに、心の隙間が埋まっていく実感を得たアリスは、セシリアに身を預けた。

 セシリアはそれを支えた。彼女が自責の念で押しつぶされないように、と。

 

「ありがとうございます」

「いいえ、礼を云うのは、わたくしの方です。貴女のおかげで、わたくしは一つ成長できました」

 

 そう微笑んだあと、セシリアはボロボロな<赤騎士>に視線を移した。

 欠けた武装。くたびれた装甲。連戦で疲弊したアリスの愛機に、セシリアは苦笑いした。

 

「それにしても、あのラウラさんを相手取ろうというのに、この状態はどうなの?」

「実は予備のパーツがなくて……。これが現状で出来る精一杯なのです」

「なら、わたくしの<ブルー・ティアーズ>のパーツをお使いなさい。互換性はあるのでしょ?」

 

 アリスがきょとんとする。思ってもみない申し出だった。

 

「いいのですか?」

「ええ。困っている人を助けるのは当然の事。高貴な者の義務(ノブリス・オブリージュ)でしてよ。それと、わたくしのことは、セシリアでかまいませんわ。むしろ、そう呼んで頂けませんこと?」

「はい、では、親愛を込めてセシリアと呼ばせていただきます」

「ふふ。では、アリス、さっそく整備区画に参りましょう」

 

 二人は<ロッカー>を後にし、誰も居ない夜の整備区画に向かった。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 整備区画に移った私たちは、さっそく<赤騎士>の修理を始めた。

 まず<ブルー・ティアーズ>からレーザービットを取り外し、<赤騎士>に装備する。

 元々<赤騎士>のソードビットは、イギリスの技術を流用した装備であるため、無改造で換装できる。不具合も特に発生しなかった。

 ビットの換装が終わると、失われた《ヴォーパル》の代用品として《スターライトMkⅢ》を肩部の武装支持架に装着する。あとは<ブルー・ティアーズ>から武器情報を読み取り、火器管制システム(FCS)にインポートすれば、移植作業は終了だ。

 

「では、インポートの間に、BTレーザーについての解説を行いましょう」

「あ、はい、よろしくお願いします」

 

 <赤騎士>に追加された新装備――《ブルーティアーズ》と《スターライトMkⅢ》には、今までにない特殊な技術が用いられている。それらを扱うにあたって、原理や特性を知っておく必要がある。

 ――というわけで、私はセシリア先生の講義に耳を傾けた。

 

「まず、アリスはレーザーの原理をご存知で?」

「ええ。大まかには。レーザーは、Light Amplification by Stimulated Emission of Radiation(輻射の誘導放出による光増幅)の略称で、誘導放出を起こす物質【レーザー媒質】にエネルギーを注ぐことで発生するレーザー光を集束し、照射する指向性エネルギー兵器ですよね」

「正解ですわ。それで一概にレーザーと言っても、たくさんの種類がありますの。例えば、ルビーを用いた固体レーザーや、砒化ガリウムを用いた半導体レーザーなどですわね」

「では、BTレーザーは何を【レーザー媒体】にしているのですか?」

「BTレーザーは、名の通りBlueTearsとよばれる物質を【レーザー媒質】にしていますの」

 

 セシリアは投影型モニターをオープンし、武装のコンソールを操作した。

 表示されたのは、青い綺麗なクリスタルだ。

 まるで滴った雫がそのまま固形化したようなこの物質がBTレーザーの【レーザー媒質】か。

 

「でも、この物質――Blue Tearsは自然界の物質ではありませんの」

「つまり人工物だと?」

「ええ。製造技術は国家機密でわたくしも詳しく知りませんが、これにISのエネルギーを注ぐことで強力なレーザー光を生み出すことができますの。さらにBlue Tearsを媒体に生成されたレーザー光は、非常に集束率に優れていますのよ。そのため、従来のレーザービームよりも高熱で威力が高いのですわ」

「なるほど、レーザーが青いのはそのためなのですね」

 

 青色のレーザーは波長の関係で、赤いレーザーより集束率が高い。

 ブルーレイディスクが同じ面積でDVDより多くの情報を記憶できるのは、そのためだ。

 

「それだけじゃありませんわよ。精神感応制御(サイコシンパシー)――ビット制御に使用されている技術ですわね――を用いることで、照射したレーザーを偏向させることも可能ですの。これを偏光制御射撃(フレキシブル)と呼びますわ」

偏光制御射撃(フレキシブル)ですか」

 

 もしこれで複雑な弾道制御が可能になれば、従来では考えられなかった射撃戦闘ができる。

 まさにBTレーザー兵器は、現代兵器の常識を覆すような兵器といえますね。

 

「さらにこのBTレーザーは、その高い収束性を活かすことで推力装置としても利用できますの」

「レーザー推進というヤツですか?」

 

 これは私も聞いたことある。確かレーザービームを自らに投射し、その反作用で進む未来の航行法だ。将来的にはロケットエンジンに変わる推力装置として期待されている。

 

「現在、それを最大限に活用した強襲用パッケージ<ストライクガンナー>が、本国で開発中ですわ。早ければ、来月辺りにはロールアウトする予定です」

「なるほど、特性と原理は大体理解しました。では、そのフレキシブルを私に伝授してください」

「うっ、えっと、それは……ですね……」

 

 私の要望にセシリアは視線を泳がせ始める。一体どうしたのでしょうか?

 

「――あ、もしかして?」

「ち、違いますわ。わたくしはBT適正値Aでしてよ? でも、ちょっと苦手でして……」

「どれくらい苦手なのですか?」

「一回……」

「一回?」

「も、成功した試しがありませんの……くすん」

 

 とうとう追い詰められたセシリアが、膝を抱えていじけてしまった。

 おまけに、どうせわたくしは稼働率15%の女ですわ……などと云っている。

 

「それでもよろしいのでしたら、わたくしが知る限りのノウハウを伝授いたしましょう……」

「はい、ぜひに」

 

 気が滅入った感じのセシリアは、覚束無い様子で私に偏光制御射撃の講義を始めた。

 講義中、セシリアは何度もいじけたが、私は励ましながらそのノウハウを吸収していった。

 

「さて、夜も更けてきましたし、今日はこの辺りで終わりにいたしましょうか」

 

 講義が終わると、すっかり夜が更けていた。そろそろ整備区画も戸締りされる頃だ。

 セシリアは<ブルー・ティアーズ>を待機形態であるイヤーカラフに変えて言った。

 

「アリス、わたくしはラウラ・ボーデヴィッヒさんに敗れました。悔しいですが、今のわたくしではドイツの陰謀を打ち砕くことも、エイミーの想いに報いることもできません。だから、アリス、貴女にわたくしの想いを託しますわ。よろしくて?」

「はい、この紋章に誓って、必ず完遂してみせます」

 

 私は<赤騎士>にペイントされたイギリスの国章の前で頷く。

 イギリス国章に刻まれているユニコーンはスコットランドを表し、ライオンはイングランドを表す。スコットランド生まれのセシリアと、イングランドの血を引く私が、その前で手を繋ぐのは、どこか感慨深かいものがあった。

 

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