IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第2話 ひとりぼっちの英雄

 高校入学初日。人によっては記念すべき日だ。夢と希望を抱いて、門をくぐる者も多いだろう。

 だが、俺――織斑一夏はそんな記念すべき時を、嘆きで迎えようとしていた。

 というのも、四方八方どころか三六〇度、見渡す限り、俺をジロジロ見る女ばかりだからだ。

 

(ねえ、ねえ、あの男子がISを動かしたっていう?)(そうそう。ちょっと声かけてみようかな、けっこうイケメンだし)(容姿に騙されちゃダメよ。男はみんな野蛮で品性下劣なんだから)(ほんと、男と同じ教室なんて最悪よね)(でも、やさしそうだよ、彼)(テレビで「男がやさしいのは下心を隠すため」って言ってたよ)(その通りです。男性はカッコばかりですよ。信用してはいけません)

 

 そんな会話と共に、周囲から蔑みの視線が寄せられる。

 こんな(・・・)時代だから、女性ばかりのIS学園も男性に冷たい場所だろうと思っていたが、

 

(これは想像以上にきついな……)

 

 そもそも、なぜこんな境遇に陥っているかというと、俺が女性しか動かせないISという機械を動かしてしまったからだ。そのあと、俺は保護の名の許、このIS学園という女の園に入学せざるを得なくなった。

 

(くそ、はやくホームルーム始まらねえかな……)

 

 そうすれば、俺に集中する視線もすこしは和らぐだろう。

 すると、俺の些細な祈りが通じたのか、教室の自動ドアが開いた。

 

(お、ようやくかHRか。――できれば、担任ぐらい男性がいいよな)

 

 というささやかな願いは、即座に打ち砕かれた。

 教室に入ってきたのは、ショートカットの小柄な女性だ。顔も童顔で、掛けている眼鏡も服のサイズも合っていない。胸の大きさこそ一人前だが、どうにも頼りない雰囲気の女性だ。

 軽く絶望する俺の予想を裏切ることなく、その童顔先生はわたわたと教壇に上った。

 

「ええ、えっと、みなさん、初めまして。ほ、本日はお日柄もよく、晴れ晴れとした晴天で」

 

 わけの分からないあいさつを始める童顔先生に、クラスから大量の『?』マークが浮かぶ。

 先生はその反応にテンパって、

 

「そ、そうです! み、みなさんご入学おめでとうございます!」

 

 と、頭を下げた。――――眼前の教員机に向かって。勢いよく。

 ゴン! と教室に響く頭突きの音が、クラスをまた微妙な空気にする。

 

「う、うぅッ……」チラッ

 

 いや、そんな助けてほしそうな貌をされても……。助けてほしいのはこっちなんですから。

 

「えっと、先生? とりあえず、先生の自己紹介をしてもらえると助かります」

 

 どこか気まずい雰囲気が漂う中、そう発言したのは、左後ろの女子生徒だ。

 燃えるような赤い髪を持つその少女は、童顔な先生よりもしっかりした口調でそう言った。

 

「そ、そうですね。私ったらもう……。すみません。えっと、改めまして。この度、一年一組の副担任を務めさせて頂きます、山田真耶です。新米で至らないところも多いですが、みなさん、よろしくお願いしますね」

 

 今度は机に頭をぶつけない程度に腰を折る。

 ん、彼女は担任じゃないのか?――そんな疑問を余所に山田先生がHRを進めていく。

 

「では、次はみなさんに自己紹介してもらいましょうか。順番はそうですね。右端の人から順にお願いします。ではまず篠ノ之箒さんから」

 

 山田先生の預かりで、綺麗な黒髪をポニーテイルにした女の子が立ち上がる。

 篠ノ之箒。奇遇にも俺と同じクラスになった幼馴染だ。その幼馴染は俺をチラっと盗み見てから自己紹介した。

 

「篠ノ之箒だ。不束者だが、よろしくたのむ」

「はい、よろしくおねがいますね。では、次の人、どうぞ――――」

 

 というわけで、クラスの自己紹介タイムが始まり、右端から順にクラスメイトが名前、出身、目標などを語っていく。生徒の中には『わたくしは、いずれ国家代表となり、ブリュンヒルデになる女ですわ』と創大な目標を語り、注目を集める者もいた。

 それにしてもIS学園は国際的な学校なので、外国の生徒も多い。その所為か、覚えづらい名前も多く、結局半分ぐらい終えたところで覚えられたのは、幼馴染の篠ノ之箒と、山田先生にアドバイスした赤髪の女の子アリス・リデルという子だけだった。

 

(俺、うまくやっていけるんだろうか……)

 

 ろくに名前も覚えられなかった自分に不安を感じていると、再び教室の扉が開いた。

 入ってきたのは、黒いスーツを着込んだ黒髪の女性だ。すらっと引き締まった姿態。きりっとした凛々しい面持ち。スーツを見事に着こなすその人物に、クラスが急に活気立った。

 

「きゃーッ! 千冬さまだわッ!」

「え、あの<ブリュンヒルデ>がクラス担任!? 北九州から来た甲斐があったわッ」

「近い、近いわッ! 私は千冬さまに会うために、カナダから来たんだからッ!」

「うそッ! あたしたち千冬さまに躾けてもらえるのッ!?」

 

 思わぬ人物の登場なのか、一同は驚きを隠せない様子だ。だけど、クラスの中で一番驚いているのは俺だと思う。なんたって目の前に現れた女性は、俺の姉だったのだから。

 

「ち、千冬姉、なんでここに!?」

 

 職業不明だった姉の出現に驚きを隠せないでいたら、千冬姉がスタスタとやってきて、持っていた出席簿を俺の頭上に落した。バシッと小粋のいい音が鳴って、俺は頭を押さえる。

 

「いきなり何すんだよ、千冬姉……」

「ここでは織斑先生と呼べ」

「え、でも……」

 

 いきなり姉を先生呼ばわりすることに抵抗を感じていたら、また叩かれた。

 

「いいからそう呼べ。事情はあとで説明してやる。それと不用な発言は避けろ」

 

 千冬姉改め――織斑先生の忠告の意図は直ぐに理解できた。

 

「ええ、織斑くんって千冬さまの弟!?」「同じ苗字だから、まさかとは思っていたけど!」「もしかして織斑くんがISに乗れるのと何か関係がッ!?」

 

 再び視線の集中砲火を浴びて、ざわっと全身の毛が逆立つ。

 なるほど、確かに身バレは良くなかったかもしれん。もう遅いけど。

 

「おい、騒ぐな」

 

 ヒートアップする教室に、千冬姉が黙れと手を翳す。

 それだけの仕草でクラスのガヤガヤがピタっと止んだ。うわ、俺の姉、すげぇー……。

 

「まったく、毎年、千冬さま、千冬さまと鬱陶しい。私を呼ぶなら織斑先生だ。それと慕うのはいいが、崇めるのはやめろ。というか禁止だ。やったら一日廊下に立たせるからな。いいな」

 

 千冬姉の一喝に教室が瞬く間に静まり返る。

 千冬姉が「まったく……」と十代女子の姦しさに辟易していると、山田先生がそこに駆け寄った。

 

「織斑先生、職員会議は終わられたんですか?」

「ああ。肝心な時にいなくてすまなかったな」

「いえいえ」

 

 そう言って、突き出した両手を左右に振る山田先生の頬は何だか赤い。

 おや、背後に百合の花が見えるのは俺だけか?

 

「では、私が代わろう」

 

 やれやれといった具合で千冬姉、改め1組担任の織斑先生が教壇に上がる。

 及び腰にならず歩くその堂々たる態度ときたら、山田先生と雲泥の差だ。

 

「さて。私がこのクラスの担任を受け持つことになった織斑千冬だ。諸君、まず入学おめでとう。キミたちは過酷な試験を突破してきた有能な生徒だ。私も君たちをそう認識している。それは誇れることだ。胸を張っていい。――だが、慢心はするな。怠慢は才能を潰す。非凡でいたければ、精進を怠るな。怠惰は敵だと思え」

 

 千冬姉の訓示に、教室の雰囲気が急激に引き締まる。

 

「よろしい。我々教師陣も、キミらのためなら苦労を惜しまない。できないならできるまで面倒を見てやる。おまえたちは恐れず、前に進め。いいな」

『はい!』

 

 彼女たちの強い返事は、千冬姉の言葉に感化されたものだと直ぐわかった。

 こういう風に言葉で人を動かせる人種を、カリスマっていうんだろうな。

 

「では、山田先生」

「は、はい」

 

 千冬姉の言葉に感動気味だった山田先生が慌てて教壇に戻る。それから千冬姉の登場で中断していた自己紹介を再開する。

 こうして俺の長い一日は始まったのだった。さて、どんな受難が俺を待ち受けているのやら。

 

 

       ♡          ♣          ♤        ♦

 

 

 受難は思いの外、早くやってきやがった。

 それは俺が一時限目の授業に備え、教科書を整理していた時のことだ。

 

「ちょっとよろしくて?」

 

 そう言って現れたのは、クリーム色の金髪をした碧眼の女子生徒だ。

 どこか気が強そうで、ウェーブのロングへアと横髪のロールは、まるで貴族のお嬢さまである。白く肌理の細かい肌から見るに、おそらくヨーロッパの人だろうか。

 

「えっと、君は――」

 

 俺は先の自己紹介を思い出した。

 確か『ブリュンヒルデになる女』って宣言していた女の子だよな。名前は――

 

「えっと、セ、セ……セシウムさん?」

「セシリアです、セシリア・オルコット! 自己紹介、聞いていませんでしたの!?」

 

 いうなり、俺の机にドンと両手をつく。

 ああ、セシリア・オルコットさんだったか。俺は素直に謝った。

 

「悪い。名前を憶えるの苦手で……」

「ああ、まったくなんて方ですの……。女王陛下より一角獣の紋章を賜ったオルコット家の跡継ぎにして、イギリスの代表候補生であるわたくしを存じないなんて。男という生き物は、これほどまでに無知なものなのかしら」

 

 オルコットは憤慨しながら、まるでミュージカルのような挙動で頭を振う。

 これが様になっていて、俺は怒られているのに感心してしまった。

 

「へえ、オルコットさんはイギリスの国家代表候補生なんだ。スゲーな」

 

 国家代表候補生。ISの世界大会<モンドグロッソ>の出場資格を持つ操縦者を国家代表と呼ぶのだが、彼女はその候補生だという。

 なぜこんなに詳しいのかは、俺の姉が日本の国家代表だったからだ。今は現役を退いているが、一度は世界を制したこともある。クラスメイトが黄色い声を出した理由もそこにあるのだろう。今の時代、強い女性は同じ女性の憧れだから。

 

「ええ、わたくしは凄いんですのよ。そんなわたくしに話しかけられたこと、男性なら光栄に思うべきですわ。なんなら、記念日にしてもかまわなくてよ?」

「お、おう……(なんだか、ものすごく上から目線の娘だな)」

 

 そんな彼女に、俺は「あのクラスメイトたちと同じか」と思う。

 つまりは、女を尊い、男を蔑む人間。――女尊男卑主義者(ミサンドリ)

 ISが女性にしか使えないと判明すると、それを契機に女性たちの機運が高まった。やがて、社会が女性賛美を謳い、政府が優遇政策を実施するやいなや、選民意識に毒された巷の女性たちは、自らの尊さに酔い、男性を同位同列と見做さないようになっていった。

 もちろん、すべての女性がそうなったわけじゃないが、会話を聞く分に、彼女はそうらしい。

 正直、こういう手合いとは関わりたくない。さっさと引き取ってもらおうと、俺は言った。

 

「で、俺に何の用だ? 何か用があるから、俺のところに来たんだろ?」

「ええ、世界で初の男性IS操縦者、それがどんな男性かと思いまして」

 

 いうなり、オルコットは心底がっかりしたというような貌をした。

 

「まー、期待はずれもいいところでしたわ。知性も野心も感じられない。それどころか女性に囲まれてオロオロするばかり。情けない事、この上ありませんわね」

 

 酷い言い草だが、俺は苦笑した。

 

「俺なんかに何かを期待されても困るんだが?」

 

 俺は千冬姉のように偉大な経歴があるわけじゃない。力だって、知識だって、人並みだ。

 そこらの高校生と変わりない俺に期待や希望を持たれてもな……。

 そんな俺が自らを卑下するように笑うと、オルコットは嘆くように眉間へ細い指をあてた。

 

「本当に残念な男……。男ってどうしてそうなのかしら」

 

 俺に憐れむような視線をよこしたあと、オルコットは『もういいですわ』と踵を返す。

 一体なんだったんだ。と思っていたら教室の自動ドアが開いた。入ってきたのは千冬姉だ。

 

 「諸君、席につけ。これから一時限の授業を始めるぞ」

 

 千冬姉は教壇に上り、俺たちに着席を促す。

 それから持ってきた資料と教材を教員机の端にやり、何かを思い出したように言った。

 

「うむ、そういえば、まだクラス代表を決めていなかったか」

「クラス代表ってなんです?」

「そのままの意味だ。主な仕事は、学園行事でのまとめ役、学級総会の出席、クラス対抗戦の出場。そんなところだ。誰か率先してやりたいというものはいるか? 他薦自薦は問わないぞ」

 

 千冬姉の言葉――特に他薦という言葉が俺に嫌な汗をかかせる。

 他薦を問わないということは、無理やり相手に押し付けられるということだ。

 

「はい! 私は織斑君を推薦します!」

「わたしも織斑君を推薦します」「折角の男の子なんだし推してかないとね」「倍プッシュ」

 

 うわ、やばいな。これは押しつけられるパターンだ。

 これが俺を認めての推薦なら考えなくもないけど、彼女たちが珍しさと場の流れで推薦しているのは明白だった。最悪、“面倒事なことは男に押しつけよう”という魂胆の子もいるだろう。

 このままだと、本当に押し付けれる。そう思って立ち上がろうとしたときだった――。

 

「貴女たち、正気でして?」

 

 そう言って立ち上がったのはオルコットだった。

 オルコットはまるで犯人を追いつめた探偵のように、その細い指を俺に突き付けた。

 

「クラス代表とはクラスの顔。こんな弱腰の男に務まると思いで? 代表なら相応の統制力と実力を持った人物がなるべきですわ。珍しいというだけで代表を選ばれてはたまりませんことよ」

 

 そう強く、俺のクラス代表を反対するオルコット。

 それに我が意を得たのは、いままで俺を嫌悪の目で見ていた女子だ。

 

「そうよ、そうよ、男が女の上に立つなんておかしいよね」「男は女の下で働くべきだわ」「男は女の言う事を黙って聞いてればいいのです」「男は女の奴隷みたいなもんなんだからさ」「そうだ、そうだ、男は肉体労働でもやってろ」

 

 水を得た魚のごとく威張る彼女たちに、俺は顔が熱くなるのを感じた。

 ISが登場して以来、ISに乗れない男性の社会階層(ヒエラルキー)は、ISに乗れる女性より下になった。だから、社会下位者がその上位者に楯突くなってんだろう。別に推薦してくれた娘たちを擁護するつもりじゃないが、さすがにここまで見下されて黙っていられるほど、俺は腐っちゃいない。

 しかし、俺が反論するよりも早く、静かな、でもはっきりとした声が割り込んできた。

 

「だったら、自推すればいいでしょ」

 

 発したのは、赤い髪の生徒――アリス・リデルだった。

 

 

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「だったら、自推すればいいでしょ」

 

 最初は黙認するつもりだった。こう言ってはなんだけど、決めるのは高がクラスの代表。誰がやってもさして変わらないのだから、好きに決めればいい。そう思って見守っていたけれど、聞くに堪えない言動の数々に、私は思わず口を挟んでしまった。

 

「織斑くんをクラス代表にしたくないなら、自分が立候補して蹴落とせばいいんですよ。なのに、誰も立候補しない。みんなして「あーだ、こーだ」と口先ばかり。“自分たちは男性より優秀だ”というなら、行動で示すしてはどうです」

 

 女性の素晴らしさ語るけど、行動に表れない。女尊男卑の女性にみられる傾向のひとつだ。

 現代社会の女性は公共福祉、社会制度、法律、金融の場で、さまざまな権利が保障・優遇され、存在しているだけで褒め称えられる。そんな“女性万歳”の社会じゃ、自己啓発も起こらない。

 過度な賛美や加護は人を腐らせるのだ。水を上げすぎた花が腐ってしまうように。

 

「リデル、その辺にしておけ」

「すみません。出過ぎた真似をしました」

 

 諌められ口を噤む。だが、織斑先生は『いや、いい』と軽く手を翳した。

 

「リデルのいう通りだな。将来的に国家代表や候補生を目指すなら“クラス代表ぐらいやってやろう”という意気込みがなければ、務まらんぞ。――自発的な行動を心がけろ。何のための“自推”だと思っている」

「そうですよ。先生たちもお手伝いしますから、がんばりましょう。何事も挑戦ですよ」

 

 千冬さんと山田先生が言いたいことをきっちりまとめてくれる。教室はすこし大人しくなった。

 とはいえ、改心したという様子ではない。ひとまず鉾を収めたという具合だろう。

 

「では、話を進める。織斑以外に立候補者はいるか?」

 

 織斑先生がさらなる選出者を集うと、オルコットさんが名乗りを上げた。

 

「織斑先生、わたくしが立候補いたします。なにせ、わたくしはイギリスの代表候補生ですもの。わたくしほどクラス代表に適した人間はおりませんわ」

 

 掲げた手を胸にあて、オルコットさんは堂々とそう言い切った。

 私も彼女にはそれだけの能力が備わっていると思う。代表候補生の選出には技術だけじゃない、国家の威信を背負えるだけの人間的素質が必要だから。責任感のない人間じゃとても代表候補生は務まらない。

 だからなのでしょう。その後も立候補者が集われたけど、名乗り出る者はいなかった。

 

「出そろったようだな。では、織斑とオルコットの二人で投票か多数決を――」

「まってくださいませ、織斑先生」

 

 そう言ってのは、またもやオルコットさんだった。

 

「織斑先生、来月にはクラス対抗試合がありますわよね。それに勝てばクラスの株もあがるというもの。優遇もされると伺っています。クラス全体の利益を考えれば、代表は相応なISの実力を持った人間が選出されるべきです。そこで提案したいと思います」

「ほお、なんだ?」

「ここはISの最高学府、IS学園。ならば、ISの勝負でクラス代表を決めてはどうでしょうか」

 

 オルコットさんの提案に教室がガヤガヤと沸く。私も悪くない提案だと思った。

 投票や多数決を行っても、クラスの半分は男卑主義者で、もう半分は織斑くんを推す人たちだから、票が割れるのは必須。それならIS学園らしくISの一騎打ちでクラス代表を決めるのもアリだろう。

 織斑先生は織斑くんに視線をやった。

 

「どうする、織斑」

「別に逃げてもよろしいのですわよ?」

 

 『あなたは男なのだから』という口調が追い風となって『やめた方がいいよ』『男が女に勝てるわけないんだし』『むしろ、負けて立場を改めてもらったら?』『女の方が偉いんだから男は弁えなよ』とクラスの所々から嘲笑が起こる。

 その逆風が織斑くんを駆りたてたのか、

 

「受けて立ちます」

 

 彼は闘志をむき出しにして、勢いよく立ち上がった。

 

「威勢はよろしいですわね。そういった点では、あの人よりマシかもしれませんわ」

「は? なんだよ」

「いえ、こちらのことです。では、わたくしは貴方に決闘を申込みますわ」

「おう、いいぜ。かかってこいよ」

 

 そんな彼を勇ましいと思う反面、無謀だとも思った。なにせ、相手はイギリスの代表候補生。実力は折り紙つきだ。男性とはいえ、IS操縦者としては素人然の彼に勝算があるとは思えない。

 だが、瞳の奥は強く燃えていた。この逆行に立ち向かってやろうという意思の炎だ。

 

「それでは勝負は1週間後。第1アリーナで行う。ルールは公式戦の総合部門に則る事とする。織斑とオルコットはそれぞれ用意をしておくように」

 

 一週間後というのは、ISの稼働時間が少ない織斑くんに対する配慮なのだろう。流石に今日の放課後では、織斑くんが不利過ぎる。まあ一週間の猶予があっても厳しいけど、一週間あればいくつか手は打てるし、基礎ぐらいなら覚えられる。

 

「以上だ」

 

 織斑先生がそう締めくくり、クラスメイトたちも授業の準備に勤しむ。

 私も参考書、ルーズリーフ、ウサギのカンペンをカバンから取り出す。決闘がある手前、織斑くんも気合いを入れて教科書を開いていた。

 

「では、授業を始める」

 

 それから織斑先生による『IS基礎』の授業がはじまったのだが、開始10分ほどで、織斑くんは真っ青になっていた。どうやら織斑先生の説明が理解に及んでいない様子だ。

 

(織斑くん、大丈夫でしょうか)

 

 忙しなく、参考書と黒板を見比べる織斑くんを心配そうに見守る。

 その直後だ。横見していた私の額にチョークが飛んできたのは。

 

「よそ見をするな」

「いたッ」

 

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