IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina 作:ネコッテ
「おお、なつかしいな」
篠ノ之神社の鳥居を潜った俺は、懐かしさに感動の言葉を漏らしてしまった。
箒が引っ越し、道場が閉められてからは一度も来ていないので、6年ぶりぐらいか。
「そういえば、いま道場はどうなっているんだ?」
「それだがな、定年退職した警官の人が、厚意で道場を開いてくれているんだ。道場の手入れまでしてくれているようで、道場も防具も昔のままだぞ」
「そっか。そりゃよかった」
俺は篠ノ之道場でいろんな事を学ばせてもらった。その道場が廃れるのは、元門下生としてやっぱり悲しい。無くならなくて本当によかったと思う。
「道場だけじゃなく、母屋もあの頃と何も変わっていないぞ。家は人が住まないとだめになるというだろう? そこで雪子おばさんが住み込みで管理していてくれたんだ」
「そっか。なら早く、もう一度、おばさんたちと一緒に暮らせるようになるといいな」
「私もそう思う。父さんと、母さんと、――あ、あと姉さんも」
姉さんも。
たぶん、一家離散の原因を作った束さんの全ては許していないだろう。けど、憎んでもいない。今の言葉はきっと“姉とやり直したい”という気持ちの現れだと思う。ずっと二人の仲を気にしていた俺としては嬉しい心の変化だった。
でも、その心境の変化はどうしてなのだろう。専用機を貰った時でさえ、ツンケンしていたのに。
「実は先日、母さんたちに会ってきたんだ。そこで姉さんの話をいろいろ聞いてな」
それで箒の気持ちに変化が生まれたのか。
一体どんな話をしたのだろう。気にはなったけど、聞くのは無粋なのでやめておこう。
「でも、よくおじさんたちの居場所がわかったな」
両親の居場所は政府の保護プログラムによって機密扱いされている。娘の箒でさえ、知らされておらず、面会すら難しいと聞いていたけど。
「先月の誕生日にアリスがくれたプレゼント、あっただろ?」
「ああ」
先月の7月7日。アリスは箒の誕生日にメモリースティックを贈っている。
「その中に両親の住所があったんだ。しかも面会の許可書まで」
あれは心底驚いたという顔をする箒だったが、俺はそれほど驚かなかった。ただ「ちょっと粋な計らいをするなぁ」なんて思う。メモリースティック自体は誕生日プレゼントじゃなく、その中に記憶されていた“両親の住所”が誕生日プレゼントだったわけだ。
「しかし、アリスはどこで両親の住所を手に入れたんだ?」
「アレじゃないか? ハッキングとか」
実際は組織の力を借りたのだろうけど、適当なことを言ってごまかす。
組織の事やアリスの素性は公にしないで欲しいと言われているのだ。
「う~ん、はっきんぐ、か。私はその辺りに詳しくないから、よく解らんが」
なおも腑に落ちない様子だったので、俺は早々にこの話題を切り上げる事にした。
「それより縁日を楽しもうぜ」
「ああ、そうだな」
俺たちが参道を奥に進むと、いろんな露店が並んでいた。たこ焼き、焼きそば、綿あめ、リンゴ飴といった伝統的な店から、ケバフやクレープなど今時の店まで。それを囲む客で、境内はすごく賑わいを見せていた。
「まるでカーニバルだな」
「でも、見てラウラ、仮面が売ってあるよ。マスカレイドじゃないかな?」
辺りを見回すラウラとシャルロットは、縁日に興味津々という様子で言った。
「二人は日本の縁日とか初めてか?」
「うん。日本のお祭りはね。――ねえ、一夏、あのふわふわしたお菓子は?」
「あれはわたあめだ。ザラメって砂糖を溶かして綿状にしたお菓子。ジャパニーズ・ボンボンだよ」
ちなみにボンボンとはフランスの砂糖菓子のことだ。
「おお、ジャパニーズボンボン! そうなんだ! ねえ、買ってきていい?」
「おう」
頷くと、シャルロットは一目散に綿菓子を買いに走っていった。その姿を見たラウラが「ふっ、こどもだな」と苦笑する。家に来たときのおまえもあんな感じだったけどな。
「しかし、このお祭りは何を祝う祭りなのだ?」
ラウラの質問に箒が答える。
「現世へ帰ってきた霊魂を持て成すために興された祭りだそうだ」
でも、神道の行事というよりは郷土の行事に近い。だから知名度は高くなかったのだが、この神社が束さんの実家って判明してからは、すごい勢いで参拝者が増えていったらしい。なんでも、IS操縦者として大成したい人が願掛けにきているそうだ。
「なるほど。帰ってきた死者の霊魂を持て成す祭りか。そういえば、冥界から死者が帰ってくる黄泉がえりという話を聞いたことがある。――では、あいつもこの現世に帰ってきているのだろうか」
ラウラは神妙な顔で境内に視線を馳せた。まるで誰かの影を探すように。
俺と箒は顔を見合わせた。――アイツとは誰だろう。ラウラも親しい人間を亡くしているのだろうか。
♡ ♣ ♤ ♦
「ライラ、ボーデヴィッヒ……」
私はラウラと瓜二つの少女を前にして、呻くように呟いた。
ボーデヴィッヒ。では、彼女もラウラと同じドイツの研究所で生まれた
「ライラといいましたね。私と一緒に来ませんか?」
以前、ラウラはアミューズメントパークで手に入れた人形にライラと名付けた。これは偶然じゃない。ならば、彼女との戦闘は避けたかった――――が、現実はそれを許してくれなかった。
「断る。それではおまえと殺し合えないではないか」
「なんですって?」
「私は戦うために生み出された存在だ。戦う事が私のすべてであり、喜びなのだ」
歪んだ表情から、攻撃的な気配が放たれる。どうやら彼女はいわゆる戦闘狂らしい。
戦闘を手段じゃなく、目的とする人間。ある意味でラウラとは正反対な人間だ。確かにラウラは攻撃的だったけれど、その全ては“目的”を達するための“手段”であって、彼女が戦闘を楽しんだことは一度もない。
「スコールと戦えるからと参加したが、まさかおまえと戦えるとはな。僥倖とはこのことか。スコールなど、もうどうでもいい。さあ、世界を敵に回して戦ったおまえの力、私に見せてくれ!」
ライラが黄金の瞳に狂喜を宿すと共に、<シュヴァルツェア・レーゲン>のジェネレーター出力が呼応するように跳ね上がった。完全な戦闘モードに移行したライラに、私は渋面を作る。
(戦うしかありませんか……)
私は堂々と正面から振りかざされた腕部装甲のプラズマ手刀を《ヴォーパル》で受け止めた。
互いの斬撃がぶつかり、ふたつの力が均衡する。私とライラが一進一退でいると、通信パネルにCALLの文字が表示された。
《ハニー、<ウォルラス>から個人秘匿通信。通信コーディックはララ・ボーデヴィッヒ》
「繋ぎなさい」
鍔迫り合いを解除して、スラストリバーサーで後方へ距離を取りつつ、通信を許諾する。
そして、通信モニター移ったラウラと同じ銀髪の女性に怒鳴った。
「なんです、こんなときに!」
『アリス! もしかしてライラと戦っているの!?』
「そのまさかですが、なんです!」
『信じられない! 彼女が生きていたなんて……』
モニター越しの声には、戸惑いと喜びが入り混じっていた。
「どういうことです?」
『彼女は優秀だった。でも凶暴性の発露につき、手に負えなくなって破棄されたの』
破棄。私は嫌な言葉だと思った。彼女は生きとして生きる人間だ。それを産業廃棄物みたいに。
だが、同時に納得もしてしまう。彼女のような戦闘狂は誰の手にも余るだろう。
《ハニー、敵機照準!》
意識をライラに戻す。ライラはレールカノンを構えていた。
発砲。放たれた極音速の翼付き徹甲弾をギリギリで躱しながら、私はララに言い返す。
「でも、彼女は生きています!」
『ええ、彼女は生きていた! だから、お願い、ライラを傷つけないで欲しいの!』
彼女の生存を確認できた喜びゆえか、ララは感極まった様子だった。
まったく勝手なことをいってくれる。
でも、彼女を傷つけたくない気持ちは私も同じだ。彼女がラウラにとって特別な存在であることは間違いないから。だが、簡単にできれば、こんな苦労はしていない。
《接近警報!》
<レッドクイーン>がアラートを発する。同時にライラが一気に肉薄してきた。
横なぎの一閃。私はしゃがんでかわし、再び後方へ飛ぶ。逃げてばかりの私に、ライラは苛立った様子をみせた。
「貴様はさっきから、何をしゃべっているのだ?」
「あなたのママとね。ママにあなたを叱ってもらおうと思いまして」
それにライラが笑った。
「ははは、面白いことをいう。私に母などいないぞ? 戦争が、私を生み、育てた」
「ですって」
ライラの言葉を聞いていたであろうモニター内のララに、視線を向ける。
ララは寂しそうな顔をしつつも、首を左右に振った。
『いいの。私には母と呼ばれる資格なんてないもの。――でも、親心だけは持たせてほしいの。今更なのはわかっているわ。それでも、地獄に落ちるそのときまで、私はあの子たちの幸せを祈りたい』
「祈るだけですか」
『いいえ。彼女たちのためなら、何だってするわ。許されるなら、今すぐ駆けつけてもいい』
その言葉に彼女の贖罪の気持ちと、愛情を垣間見る。
彼女には残りの生涯とその命を賭す覚悟があるのだろう。しかし、私は辛辣に現実を突きつけた。
「こられても、足手でまといになるだけです」
ここは戦場だ。科学者のフィールドじゃない。
来られたところで、彼女にできる事など何もないし、戦ってほしいとも思わない。
『そうよね、わかっている。私はあなたのように強くないもの。だから、ここ残るわ』
それでいい。彼女の本分は科学だ。科学者には科学者のフィールドがある。そのフィールドで戦えばいい。適材適所、戦闘は私のような兵隊に任せればいいのだ。
「私があなたに代わってライラをそちらに連れて行きます」
『!?』
彼女の言葉に心を打たれたわけじゃない。ライラを連れていくことが、ラウラの為になると思ったからだ。
ララは両手で口を覆っていた。白い頬には涙が伝っている。
『ありがとう、ありがとう、アリス』
「礼はいいです。その代わり、誓ってください。もうラウラたちを悲しませないと」
『もちろんよ』
ララが強く頷いたことを確認して、迫ってくるワイヤーブレードに意識を集中する。三次元的な機動を以て迫ってくるそれを、私は《ヴォーパル》で打ち払いながら一端、距離を置いた。
(さて、どうやりましょうか)
敵は戦闘のために作られた遺伝子強化素体。それに戦闘狂ときた。説得の類は通じそうにない。《
「お待たせしました。はじめましょうか! IS同士による、とんでもない戦争ってやつを」
「ようやくか! 待ちわびたぞ!」
ライラもブレードを振りかぶった。二つの得物がぶつかりあって、火花が散る。さらに得物を翻す。斬って、突いて、払って、躱して、攻撃の応酬を繰り返す。そのたび、戦意の感じられなかった私に興ざめしていた顔がみるみる嬉々とした。
「ハハハ、世界と
舌舐めずりして、ライラは私に手を翳した。AICの発動動作だ。私はとっさにサークルロンドで<シュヴァルツェア・レーゲン>の背後へ回り込み、斬り掛かった。――が、その鉾先が寸前のところで止まる。AICだ。気づくと、ライラが脇の下からこちらに掌底を向けていた。
「見誤ったな。私は<遺伝子強化素体>の完成系だ。完全なる<越界の瞳>の適正者である私に死角からの攻撃はきかん。出来損ないの妹とは訳が違う」
「ラウラが出来損ないですって?」
私は鼻で笑った
「それこそ見誤っています。今のラウラはあなたより強い」
ラウラはすでに<遺伝子強化素体>という呪縛から自らを解き放った。今の彼女は自分というものを確立させている。戦う事でしか自分の存在価値を見いだせないライラとは違う。それに――
「この戦いは私の勝ちです!――――オータムッ!」
私の合図と共に、海面が飛沫と共に盛り上がる。
その中から現れたのは蜘蛛を模したISをまとったオータムだ。
「あたしに命令すんじゃねぇ、よッ!」
海中で息を潜めていたオータムは、掌底から特殊ネットを放ち、<シュヴァルツェア・レーゲン>の挙動を封じた。さらに八本の装甲脚をクローモードに切り替え、ライラを拘束しにかかる。
AICの発動に意識を集中させていたライラは、これに対応できなかった。
「く、離せっ!」
締め付けてくる装甲脚から逃れようと身を振るわせるライラだったが、脱出は敵わなかった。
第二世代型とはいえ、<アラクネ>はISの鹵獲を目的に開発された機体。拘束力だけなら、第三世代型にも優る。一度捕縛されてしまえば、ISでも蜘蛛の巣に囚われた蝶に等しい。
「貴様、この女に味方する気か?」
「は? スコールに頼まれてやってるだけだ。じゃなきゃ誰がこんなクソ女に協力するか」
さっきから人を「クソ」呼ばわりなのは頂けないが、彼女が手を貸してくれたのは、それが理由だ。そのスコールに「オータムを貸せ」と言って、<アラクネ>の遠隔操作を可能したのは私だけど。
ライラは<アラクネ>からの脱出を諦め、私を睨みつけた。
「貴様、私を捕虜にする気か。なら、やめておけ、私は壊れた人間だ。捕虜の価値などない」
「ホントに壊れている人間は、「自分は壊れている」なんて言わない。おかしいと思えているうちは正常な範囲です。それに、たとえ壊れていても、あなたを必要としている人がいるんです」
「そんな人間などいるものか。私のような人間など……」
そう吐き捨てたライラがわずかに葛藤を見せた、そのときだった。
《ハニー、接近警報。新たにこちらへ接近する機体あり――》
<レッドクイーン>が警報を鳴らした直後、<アラクネ>の装甲脚が何かの攻撃によって爆ぜた。それによって<アラクネ>の装甲脚が損失し、同時にライラの拘束も解けてしまう。まずい、ライラに逃げられる!
「オータムッ! 追ってッ!」
「だから、あたしに命令すんじゃねぇー!」
オータムが臆さずラウラを追うけれど、再び起こった衝撃がそれを妨害した。
「くっ、どこからだ!?」
《ハニー、ハイパーセンサーでも敵の攻撃を観測できない》
辛うじて<アラクネ>のダメージから攻撃された方角は予測できた。だが、攻撃手段が特定できない。仮に超高速の銃弾を使った遠距離狙撃だったとしても、ここまで攻撃が観測できないことはない。これではまるで見えない何かで――
(見えない、何か? もしかして、衝撃砲……?)
衝撃砲が打ち出す砲弾は不可視だ。肉眼はおろか、センサーの目も掻い潜る。
攻撃方法が特定できなかったのも、そのためだとすれば、こちらに接近しているISは――
(中国の第三世代型!)
私の予測通り、闇夜の中から三機目となる<甲龍>が現れた。
今度は真っ赤な<甲龍>だ。燃えるような翼をかたどったそれは朱雀を思わせた。操縦者はメガネをかけた女性だ。愛想に欠けた厳しい瞳と、どこか神経質に見える面持ちは、パーティ会場であった春狼の同伴者を私に思い出させた。
「
「事情が変わりました。撤退です。戦闘を停止して、所定のポイントまで下がりなさい」
「なぜだ。まだ得物を仕留めていない」
「ともかく、撤収です。抵抗したら力づくですよ」
楊麗々と呼ばれた女性がライラを視線で牽制する。その眼光には有無を言わせない鋭さがあった。
ライラは怯まなかったけれど、了承はした。
「さすがに三対一は分が悪いか。それにアイツとは一対一でやりたいところだしな。――というわけだ。悪いがお前との殺し合いはまた今度だ」
私は《ヴォーパル》を構え、向こうの都合を一蹴した。
「悪いですけど、延期する気はありません。ここで決着を付けさせてもらいます」
「それは許可できません」
楊麗々という女がメガネの位置を直し、衝撃砲をこちらに向ける。
刹那、カッと眩い光が視界を覆った。しまった、閃光弾か!
「<レッドクイーン>、二人は!」
《100、200、300、ハニー、ライラが逃げる!》
わかっているが、不意の目晦ましに視界を確保できず、行動を起こせない。いや、起こせたとしても、追撃は許されなかった。私の任務はスコールたちを回収ポイントまで運ぶこと。追撃はそれを放棄することになる。私は苦虫を噛み潰したような表情で二機のISを見送るしかなかった。
「すみません、ライラを逃がしました」
私は通信でララにそう言った。
『いいの。ライラの生存を確認できた。今はそれだけで十分よ。ありがとう』
そう言ってもらえたものの、私の気分はどうにも晴れない。次があるか判らない以上、ここでライラを捕まえ、ラウラに吉報を持ち帰りたかったのだ。だが、今はいつまでもごねていられる状況でもなかった。
「で、どうすんだ」
そう言ったオータムの瞳は好戦的だった。場合にはおまえを倒して逃亡する、そんな気配をありありと感じさせる瞳だ。もし彼女たちが逃亡を図るなら、私はそれを全力で阻止しなければならない。
そんな一蝕即発の空気を裂くように通信コールが鳴った。スコールからだ。
『アリス、そちらの状況は』
「シュヴァルツェア・レーゲンは撤退していきました」
『そう。こちらも同じよ。じゃあ、合流しましょうか』
「するんですか?」
逃亡の絶好のチャンスだというのに?
『ええ、するわよ?』
私は拍子抜けした。このまま戦闘に発展するかと思っていたのに。
結局、私たちは何事もなく合流することができた。だが、彼女の行動に対する疑問は強くなる一方で、ライラを逃がした苛立ちもあり、私はすこぶる気持ち悪い気分になっていた。
♡ ♣ ♤ ♦
合流後、空戦ユニット輸送ヘリの内部。私は不機嫌な表情で、窓から見える地中海の町並みを眺めていた。ノスタルジックな美しいその夜景も、ライラを取り逃がしたせいで、私に感動をもたらさない。スコールが無抵抗だった疑問もある。
私は見飽きた夜景から視線を外し、オータムに膝枕をするスコールに意識をやった。
「スコール、あなたはライラの存在を知っていたんですか?」
正体を知っていたからこそ、彼女は私に「会え」と促したに違いない。
スコールは膝元で甘えるオータムから視線を上げ、
「ええ、ライラは元々<ワルキューレ・ウェポン>のCEOであるアルフレッド・バーンシュタインという男の私兵だった。彼がどこから拾ってきてかは不明だったけれど、VTシステムの一件で糾弾され、失脚させられると、彼女を含めたアルフレッドの技術や資金は再分配されたわ」
スコールはその打ち分けをこう語った。アルツェバルスキー派はナノマシン技術。ロキはVTシステムデータ。ローズマリーとスコールは<ワルキューレ・ウェポン社>の株を25%ずつ。春狼は<シュヴァルツェア・レーゲン>、ライラはアリーシャが引き取った、と。
「それにしても、<ワルキューレ・ウェポン>といえば、<シュヴァツルェア・レーゲン>を開発したISメーカーですよね。そのCEOも<亡国機業>の幹部だったのですか?」
「あなたも薄々気づいていると思うけど、<亡国機業>の幹部会はIS企業の重鎮によって構成されているわ。<ブルー・ティアーズ>を開発した<ナイトソード・ブラックスミス>、<モスクワの深い霧>を開発した<ヴェーラ・アスカロノフ>。これら企業も<亡国機業>の傘下、いえ<亡国機業>そのものといえるわね」
アリーシャや春狼の名が出たときから、うすうす感づいてはいたが、それでも思わず言葉を失う。彼女の言葉が正しければ、各国で行われているISの開発競争は、裏で帳尻合わせされたデキレースではないか。
「そうよ。ISの開発を背後からコントロールし、世界のパワーバランスを図る。それが組織の目的。現に<亡国機業>にはそれを可能とするだけの資金力があったわ」
「その資金を独占しようとした結果が、この派閥抗争だと?」
「てめぇはそんなことも知らず、あたしらを狙ってきたのかよ。――いてっ」
その通りだったが、私はむかついたので、オータムの頭をはたいた。
その箇所を撫でながらスコールが続ける。
「で、その中でアレクサンドロス・アルツェバルスキーという男が幅を利かせていてね」
「ロシア強硬派の総統。ロシアの復権を掲げ、核軍拡を推し進めているあの?」
かつて、核軍縮を推し進めるファイルス政権下にいた私だ。アメリカの仮想的であるロシアの内情は何度も聞かされた。<デウス・エクス・マキナ>に入ってからは、彼が推し進める核軍拡を阻止している。イランでの作戦がそうだ。
「うわさでは自分の軍隊を持ち、核兵器さえ保有しているといわれているわ。強大な軍事力を背景にもつゆえ、亡国機業の幹部はおろか、ロシア政府でさえ、彼に手が出せないでいる」
「そんな人物に命を狙われている?」
「ええ、私たちのリーダーが彼と対立関係にあるの。IS学園を襲撃した私たちを、大佐は粛清したがっているわ。アーリィはともかく、春狼はその為に送り込まれた手下みたいなものよ」
「もしや、その粛清から逃れるためにこちらへ?」
他の幹部からの暗殺を恐れ、<デウス・エクス・マキナ>に亡命を図った。もしそうなら彼女が無抵抗なこともうなずける。しかしスコールは「いいえ」と答えた。
「むしろ逆よん。私たちは
「では、なぜ私に従うのです。逃げるチャンスはいくらでもあったのに」
この女の真意がつかめず、苛立つ。
「その方が楽しいから」なんて理由だったら、ぶん殴ってやるところだが、
「私があなたに付き従った理由はひとつ。――ルイス・キャロルに会うためよ」
彼女の行動の全てが腑に落ちた。同時にララが提言したウィルス兵器の話が脳裏に蘇る。
やはり、彼女の目的は
「私たちのリーダーが彼女との会談を望んでいるの。私はその使者に選ばれた」