IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第73話 Dear daughter From dat

 IS学園整備科、実習区画のハンガーに機能停止した<赤騎士>は格納されていた。その背部にあるコア格納部分は、外殻が外されて無数のケーブルが接続されている。そのケーブルの端末は、<打鉄弐式>のコンピューターに繋がれており、簪の手で再起動の試みが行われていた。

 

「どうだ、簪。再起動できそうか?」

 

 黙々とキーボードを叩く簪の後ろで、箒が言った。

 彼女がここにいる理由は、篠ノ之束の妹だからだ。停止したコアの再起動には、設計者である篠ノ之束の知識が必要になるかもしれない。そう踏み、簪が箒をつれてきたのだ。

 

「……難しい、かも」

 

 『赤騎士を再起動させてくれ』と依頼された簪はかぶりを振った。先ほどから<レッドクイーン>と協力しながらいろいろ試行錯誤したものの、その試みはことごとく失敗に終わりつつある。簪でさえほとんどお手上げ状態で、匙を投げたい気分だった。

 

「……内部の<コア・マトリックス>が完全に停止しているみたいだから」

「コア・マトリックス……?」

「……《形態移行》や《単一仕様能力》みたいなIS固有の能力を司っている論理プロセッサ。……ISの大体部の制御システムも、このプロセッサーで処理されている。……これが完全に沈黙している状態。……これが動かないと、ISも動かない」

「では、それを動かしたらいいのではないか」

 

 安直な案に簪は苦笑した。

 それは判っているのだ。それがどうすれば動くのか、わからないのだ。

 

「……そうなんだけど、この<コア・マトリックス>は処理手順(アルゴリズム)がまったく解明されていない。……わかっているのは、非ノイマン型で、人間の脳神経回路に酷似した構造を持っているってことだけ」

「人間と同じ脳神経回路……。それが停止しているのか?」

「……うん、わかりやすいたとえだと、中央処理装置が無くなったパソコン。……ううん、レッドクイーンっていう延命措置で生かされている脳死体、そう言った方が適切かも」

「つまり、魂が抜け落ちている、そんなところか」

「……魂の定義が不明確だから、的確な表現とはいえないけど、大体そんな感じ」

 

 だとしたら、アリスの要望は『脳死の患者を目覚めさせろ』と言っているようなものだ。神ならぬ簪には無理な話だったし、それなら恐山のイタコに頼んだ方がまだ建設的にさえ思える。

 

《ISは形而上の物質で動いていない。必ずロジックルな原因と結果がある。私が内部走査した結果、<コア・マトリックス>自体は損傷していない。再起動の見込みはある》

「……わたしもそう思う。でも、問題は方法。……わたしにできることは、ひたすらコマンドを打ち込むことだけ。……何度もコマンドを打ち込んで、その信号でコアを覚醒させるしかない」

 

 植物状態の患者にマッサージを続けていると、その刺激で意識が回復するケースがある。

 簪が実行しようとしていることは、それのIS番だった。

 

「どれくらいかかりそうだ?」

「わからない。……もしかしたら数年かかるかも……」

「なっ!」

 

 箒は絶句した。

 

「そんなに時間はかけていられないぞ、簪! アリスはいま戦っているんだ」

「……わかってるッ」

 

 そう、分かっている。しかし、実質問題としてそれしか策がないのだ。にっちもさっちもいかないことを知り、なおかつ時間がないことも承知している簪だから、箒の安易な催促が腹立たしかった。

 

「……そういうなら、箒も何か方法を考えてよ……」

「そ、そういわれてもな……。姉さんとはつながらないし」

 

 かれこれ30回近く呼び出しているのに、まったく繋がる気配がなかった。世界のいたるところで電波が飛び交うこのご時世に電話一本も繋がらないとは。海の底にでもいるというのか。

 

「……そうじゃない。お姉さんばかり頼らないで、箒も何か考えてって意味」

 

 姉に支えられてまくっている自分のことは棚の上、それも一番上に置いた。

 

「ふ、ふむ」

 

 確かに、日頃からぞんざいに扱って、いざという時だけ頼るのは虫が良すぎる。

 箒は自分の身勝手さを恥じながら、う~んと両腕を組んだ。

 

「叩いたり、振ってみたりするのはどうだ?」

「……発想がアリスと一緒」

「なに、アリスと一緒だと……。そうか、そうか。お師匠様と一緒とは光栄だな」

 

 けして褒めたわけじゃないのに、箒はうれしそうに「うんうん」と頷いた。客観的にはけなされていても、箒にとっては褒め言葉に聞こえたらしい。

 簪は内心で「バカってうつるんだ」と失礼なことを考えながら、再びディスプレイに意識をやる。

 

(何にしても、早く<赤騎士>を復活させないと……)

 

 簪は考えるよりも行動で、作業に取り掛かった。コアに信号(シグナル)を送信し、<レッドクイーン>が観測して逐次報告する。コマンド入力。エラー。コマンド再入力、エラー。コマンド再々入力、エラー、エラー。

 どんな命令を送信しても、返ってくる応答は無反応というエラー。だが、反応がないことは、想定内だ。こればかりは根気よく続けるしかない。募る苛立ちをこらえて入力。やっぱりエラー。

 負けず、再入力。エラー。エラー。エラー。徐々に簪に苛立ちが募る。時間ばかり過ぎていく現状が、それに拍車をかける。お願いだから目覚めて。そんな想いを込めてコマンド入力。

 

 エラー。

 

 温和な簪も、さすがに苛立ちが頂点に達した。アリスの信頼に応えられない苛立ち、時間だけが過ぎていく焦り、いろいろな感情が積もりに積もって、ついに噴火した。

 

「もおッ! ご主人様がピンチなんだよ! いつまでそうしているの!」

 

 簪は投影型ARキーボードをたたみ、赤騎士の許に歩み寄る。そして、ソケットに収まったコアを説教するようにべしべしと叩いた。自分でも驚くほど能動的な行動に簪が「……あっ」ともらす。そのときだった。

 

 まるで息を吹き返したように、コアが淡い光を放ったのだ。

 

「え?」

 

 簪が目を丸くしてきょとんとする。

 これは起動した? いやまさか、昭和のテレビじゃあるまいし。オーパーツ級の精密機械が叩いて直るなんて。そんな信じられない気分で簪がレッドクイーンを見る。

 

《コアの稼働を確認。稼働率上昇中。15,30,45……》

 

 コアは昭和のテレビだった……。

 

「これは、お師匠様が、正しかったということか!?」

 

 嬉々とする箒に、簪は自分の積み上げてきた物が崩れる音を聞いた気がした。

 叩いてなおりゃ、技術者はいらない。

 

「……箒、このことはアリスに黙っておいて」

「む? どうしてだ?」

 

「ほら、みたことか!」と増長するアリスを安易に想像できたから、簪はそう言ったのだった。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 デュノア社、屋上。そこから飛び出した私はパラシュートを開き、巧みにブレークコードを引いて風に乗った。6階からの50mとない低高度スカイダイビング。地面はみるみる近づいてくる。それに対して落下速度の減速がなかなか追いつかない。一人用のパラシュートに二人もぶら下がっていることが原因だった。

 

「シャルロット、私に掴まってッ」

 

 パラシュートと繋がっていないシャルロットが必死にしがみつく。そのシャルロットを抱きかかえ、私は受け身でなんとか着地の衝撃を殺した。それでも勢い余って5メートルほどアスファルトの上を転がる。

 

「大丈夫ですか」

 

 ようやく止まったところで、体を起こし、シャルロットに手を差し出した。

 

「……うん、なんとか」

 

 手を取ったシャルロットに外傷らしい外傷はなかった。ただし、表情は呆れ顔だ。

 

「アリスって、ほんと無茶するよね」

 

 本来一人用のパラシュートに二人乗りなんて、無茶の何者でもない。かすり傷程度ですんだのは、ほとんど奇跡だった。いまの降下を空挺隊員が見たなら、きっと正気の沙汰じゃないというだろう。

 

「無茶する以外に方法がなかったので。それより追手が来る前に行きましょう」

 

 身に着けていたパラシュートを素早く脱ぎ捨てる。

 ここはまだデュノア社の敷地内だ。夫人の執念なら、必ず追手があるはず。

 

「社外の空き地に、会長がヘリを待機させてくれています」

 

 そう言って、シャルロットを先導するようにM4を構えた――その時だ。

 腹に響く重低音が一帯に木霊した。牛のうなり声のような声。その正体――月光がバッタのような跳躍を繰り返しながら、こちらに迫ってくる。私は「まずい」と毒づいた。こちらに月光と戦えるだけの戦力はない。それも二機なんて、とてもじゃないが相手なんかしていられない。

 

「走れ、シャロット。とにかく走るんです」

 

 私は叫びながらM4の40ミリグレネード弾を放った。

 爆発。敵がわずかに怯んだその隙に、二人で駆け出す。しかし、もう一機の月光が跳躍して私たちの行く手を阻んだ。その月光が腹部からワイヤーロープを繰り出し、先端のアームをチロチロと動かしてデュノアさんを狙う。

 

「寄るんじゃありませんよっ」

 

 M4の5.56㎜ライフル弾でワイヤーロープを払い除ける。だが、私が眼前の月光に気を取られているうちに、もう一機の月光が触手ロープをデュノアさんに伸ばしていた。その触手ロープがデュノアさんの腕に絡まりつく。

 

「く、放しなさい」

 

 触手ロープでデュノアさんを連れ去ろうとする月光に銃口を向けるも、やはりもう一機の月光から伸びたワイヤーロープがそれを阻止してくる。

 武器を奪われまいと抵抗する私と、連れて行かれまいと抵抗するシャルロット。

 だが所詮は人と機械の綱引き。非力な人間が敵うわけもなく、シャルロットをどんどん引き離されてしまう。

 このままでは、シャルロットが連れさらわれる。――そう危惧した瞬間、私たちの頭上から二つの何かが降り注いだ。それがワイヤーロープを切断し、月光から私たちを解放してくれる。レイピアのように鋭い刃先と護拳がついたそれは――ISのアサルトブレードだった。

 

「なんですっ!?」

 

 私はとっさに空を仰いだ。その先から巨大な得物を持ったISが舞い降りてくる。手には、身の丈以上ある機械仕掛けのハルバート。操縦者は、栗色の髪を後頭部でアップにした女性だ。

 

「ノエルさんっ!?」

 

 突如して現れたフランス代表は、自由落下の加速をハルバートに乗せて、月光の頭部ユニットを叩き割った。次いでハルバートを横に薙ぎ、月光の胴と足を綺麗に切断する。

 

「二人とも、下がっていろ」

 

 そう言って、フランスの国家代表は、もう一機の月光の頭上に音もなく飛び移ると、逆手に持ち替えたハルバートの先端――パイルバンカーを突きつけた。EMLによって打ち出された超合金製のパイルが、月光の複合装甲を容易く突き破ぶり、頭部ユニットを破壊せしめる。

 ノエルさんは崩れ落ちる月光から飛びのき、私たちの前に着地した。

 

「無事かい?」

「はい、おかげで助かりました。でも、どうしてここに」

 

 今回の一件は、一部の人間しかしらないことなのに。

 

「ああ、ロゼンダさんが暴走していることを彼から聞いてね」

 

 ノエルさんが後方に視線をやる。その先から一人の男性が歩いてきた。ブロンドで40代半ばの男性だ。その男性を目にしてシャルロットが瞠目する。私も思わず絶句した。

 

「君がアリス・リデルだね。――(・・)を助けてくれて礼をいうよ」

 

 そう、彼こそがデュノア社の最高責任者であり、シャルロットの父親だった。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 私はアルベール・デュノアだ、と彼は言った。

 この人物がデュノア社の社長にして、シャルロットの父親。そして彼女に男装を命じ、一夏のデータを盗んで来いと命令した張本人。その人物がいま私たちの前にいる。その事実にシャルロットは当惑に当惑を重ねた表情を見せていた。

 

「ど、どうして……」

 

 無理もないことだ。さんざん冷たかった人物が助けにきても、戸惑と懐疑しかない。

 また、そんな娘に父親もどんな言葉をかけていいか迷っている様子だった。

 それあって自ずとあたりに気まずい沈黙が広がる。その沈黙を先に破ったのはアルベールさんだった。

 

「すまないな、シャルロット。おまえには嫌な思いや、辛い思いをさせてきた」

 

 自分に冷たくしてきた父親からの、いきなりの謝罪。これをどう受けとめていいのか分からず、シャルロットは言葉に詰まる。そして、迷いに迷って、彼女は抱えていた不満をぶつけた。

 

「あやまるぐらいなら、最初からあんなことさせないでよ」

「そうだな。そのとおりだ。すまなかった」

 

 シャルロットの反撃に、アルベールさんが悲痛な面持ちを作る。本当は自らの行いに心を痛めていたのだろうか。<パッケージ>や物資の件はその罪滅ぼしだったのかもしれない。それを悟ったシャルロットから強張っていた表情、そして戸惑いが消えた。

 

「でも、仕方ないことだったんでしょ」

「ああ、会社を立て直す苦肉の策だった。私の会社は、何千人規模の社員を抱える大企業だ。経営者として、彼らを路頭に迷わせるわけにはいかない。なんとしてでも経営を立て直したかった。だが、どんな理由があれ、自分の子を会社の道具にすることは許されない。今は自分の行いをとても後悔しているよ」

 

 アルベールさんはシャルロットに近づくと、その首にネックレスをかけた。

 

「これは私からの罪滅ぼしだ。おまえのために作らせた」

「僕のために? そんな資金なんて?」

「融資が見つかったのだ。だから、これからはもう会社に囚われることはなく、自由に生きろ。私はおまえを応援する。それが私におまえにできる、父親として唯一の許されることだ。――アリスくん」

「はい」

「娘を頼む。私はこれから妻の暴走を止めにいく。彼女がこんな暴挙にでたのも、すべて私の不徳によるものだ。私はその責任を取りにいかねばならない。ノエルくん、いましばらく力をかしてくれるかい?」

「はい、社長。実家のブドウ園を救っていただいたのは、あなたですから。その恩をお返します」

 

 私はシャルロットの言葉を思い出した。フランス代表の実家はブドウ園を営んでおり、ここ数年は不作続きだったと。そのとき、デュノア社から援助を受けていたのだろう。

 

「フォンテーヌのワインは、コゼットが好きだったからね。――では、行こうか」

 

 二人は私たちに背を向け、ビルの方角へ歩んでいく。

 その途中、アルベールさんが思い出したように振り返った。

 

「シャルロット。コゼットと私の関係は、確かに第三者からすれば不倫だ。しかし、私たちは心から愛し合っていた。おまえは行きずりで生まれた子でもなければ、不義の子でもない。望まれた子だ。15年もないがしろにした後ろめたさから、何を言えばいいかわらなかったが、私はおまえを愛している」

 

 別れ際の告白に、シャルロットは苦笑した。

 たった数文字の言葉。それを紡ぐのにこんな月日がかかるなんて、どれだけ不器用な人なんだろう。――こぼした苦笑には、そんな意味が含まれていたように見えた。もっと早くにその言葉を聞けていたなら、これほどコンプレックスに悩まされることもなかっただろうに。

 同時に燃え爛れるような羞恥心にも駆られていた。会社の道具、飼われた鳥、自分に対する父親の冷たい態度。全て、被害妄想だったのだ。けれど、父親の言葉が「妄想」の世界に浸っていた彼女を現実という「いまここ」へ連れ戻す。

 やがて、遠ざかっていく父の背中を眺めているうちに、シャルロットの表情が変化した。

 そう、決意に満ちた表情に。

 

「ねえ、アリス」

「なんです?」

「ごめんね」

「いいえ」

 

 たったそれだけのやり取りだったが、私はシャルロットの想いを理解していた。

 シャルロットは私に「ありがとう」と言って、遠ざかる二人を強い語調で呼び止めた。

 

「ねえ、待って! 僕もいくよ!」

 

 そう言ったシャルロットに、アルベールさんは「その必要はない」と首を横に振った。

 

「これは私とコゼットが犯した罪の償いだ。おまえが背負う罪は何もない。このまま帰りなさい」

「確かにそうだよ、僕に償うべき罪はない。けど、僕には返すべき恩がある」

「コゼットかい?」

「うん。お母さんは僕を大事に育ててくれた。そのお母さんが犯してしまった罪を、僕はロゼンダさんに許してもらいたい。そして、僕の存在を認めてもらいたいんだ」

 

 そのとき、何の心残りもなく、母は本当の眠りにつけるはずだから、と。

 それが、自分ができる亡き母への恩返し。

 愛してくれた母のために、シャルロットは最も苦手とする人と対決することを決意した。

 

「それにお父さん(・・・・)のような不器用な人、放っておけないからね」

 

 それは、娘から父への、和解の言葉だった。

 アルベールさんは目頭を押さえ、あふれくる激情を食い止めていた。

 

「あなたの娘様は、ご立派に成長なされました」

 

 ノエルさんがアルベールさんを見て言った。

 

「ああ、コゼットは本当によい母親だったんだな。私も彼女を見習わなければな」

「なら、まず過去の清算から始めましょう」

 

 私はM4のグレネードランチャーから空の薬莢を取り出して、新たな榴弾を装填する。

 

「しかし、夫人の許に辿り着くには、まずアレをどうにかしないといけません」

「PMCなら私がなんとかしよう。私が彼らを雇ったクライアントだからね。私が盾になれば攻撃してくることはないだろう」

「いえ、アレとはコアを無力化するISです。確か<ヴェルフェゴール>と言いましたか。デュノア社の社長なら何か対抗手段を知りませんか?」

「ISのコアを無力化するIS? わが社にそんなISがあるなんて、聞いたことがないが」

 

 デュノア社の最高責任者ですら知り及ばないIS……。

 では、やはりあのIS<ヴェルフェゴール>はデュノア社の新型じゃない。

 

「もしかしたら、彼女が所属する組織のものかもしれない。詳しいことは私も知らないが、妻の家柄はとても古くてね、世界的に顔が利く有力組織の一員だと聞いたことがある。おかげで、デュノア社がフランスの大手企業になれたといっても過言ではない」

 

 世界的に顔が利く有力組織。私はピンときた。もしそれが<彼女たち>だとすれば、これは好機かもしれない。組織の情報を得るためにも、是が非でも身柄を押さえたいところだが。

 

「ISのコアを無力化できるなら、私でも手も足もでないぞ。どうする」

 

 随一の実力を持つフランス国家代表と組んでも、あのISを倒すことは無理だろう。

 けれど、夫人と対決するなら、<ヴェルフェゴール>との対決は避けては通れない。じゃあ、どうするのか。

 

「簡単です。コアを停止させられる前に、決着をつけるんです」

 

 先の交戦経験からこのISと相対すると、およそ60秒弱でISが停止することがわかっている。つまり、60秒間は戦えるということだ。それまでに敵を再起不能にすればいい。

 

「できるのか、たった60秒で」

 

 現在、最速撃破記録は織斑千冬の48秒だ。ただし、これは《シールド無効化》ありきの話。こちらには《シールド無効化攻撃》もない。けれど、私はこの絶対的な不利をはねつけるような笑みを浮かべていた。

 

「私に作戦があります」

 

 そう言ったとき、私の背後に一機のISが降り立った。

 赤い装甲と身の丈ほどある大剣。復活した相棒を背に、私は続けた。

 

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