IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina   作:ネコッテ

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第79話 高機動プラックティス

 IS学園の中央フロートに健在する近未来的なタワー、通称<ユグドラシルタワー>には、高速レース用のアリーナが併設されている。そのピットに私たち1組を始めとした全クラス総勢15組は隊列をなしていた。

 

「……ょし、全員そろったな。……これから<キャノンボール・ファスト>の選抜を行う。……まずは特別講師を紹介する。ジェニファーだ……」

 

 総勢四○○近い生徒のまえで、千冬さんが覇気のない声音で言う。

 顔色も悪く、こけた頬から察するに二日酔いらしい。昨日の打ち上げでビールジョッキを10杯も空にしていましたからね……。

 特別講師として招かれたジェニファー・J・フォックスは、大事な選抜が行われる前日というのに飲みに飲んだ友人を露骨に非難した。

 

「ちょっとー、千冬、事前に連絡しておいたのに、二日酔いってどういうこと……」

「仕方ないだろ、焼き肉だぞ。飲むだろ、ふつー。というか、怒鳴らないでくれ。頭に響く」

 

 うーと唸りながら頭を押さえる千冬さん。

 そんな姉に一夏は「身内がすみません」と頭を下げていた。

 

「まったくもぉー。弟くんに免じて許してあげるから、あなたは休んでなさい」

「そうさせてもらう……」

 

 「うぅー」と情けない声を出して千冬さんは下がっていった。そして、ピットの自販機でスポーツ飲料を買い、備え付けのベンチで横になる。その様子をやれやれと見てから、ジェニファーは大きな胸をたゆんとゆらして私たちへ向き直った。

 

「じゃあ、気を取り直して。みんな、おはよー。今日、私がここに招かれたのは二日酔い先生の代わりじゃないわ。すでに報せがあったと思うけれど、今回の<キャノンボール・ファスト>では度重なる学園行事の中止を考慮して、あなたたちにも出場してもらうことにしたの」

 

 度重なる学内行事の中止で、今年度の学生は企業へのアピール機会がずいぶんと減った。とりわけ卒業が近い3年生にとっては深刻な問題で、その解決策として<キャノンボール・ファスト>参加が企画されたらしい。

 

「けれど、ISの台数とプログラムの関係上、すべての生徒を出場させることはできない。そこでまず各クラスでレースを行ってもらい、その各一位のみに出場資格を与えることにしたわ」

 

 IS学園のクラスは全部で15クラス。そのうち整備科が2クラス。つまり出場枠は13。これに「すくな~い」「いっそ、全員出場させてくれればいいのに」「自分だって棚ボタでブリュンヒルデになったくせに」と不満の声がある。

 

「そう声を荒立てるな。確かに出場は狭き門だが、機会は平等に与えられているぞ。競争率の高さを嘆くより、その中でどう生き残るか。それを考えた方が建設的だし、今後のためになるぞ」

 

 ジェニファーが苦笑していると、ラウラが静かに言った。

 さすが特殊部隊を預かる隊長。サバイバルの基本がしっかりできている。

 

「さすが、千冬の教え子ね。うん、そういうこと。それじゃさっそくと――いいたいところだけど、いきなりレースしろっていうのも酷だから、あなたたちには7日間、高速機動のプラクティスを受けてもらうわ。じゃあ、まずは千冬のやり方を見習って、専用機持ちに実演してもらおうかしら」

 

 ジェニファーは「そうね」と千冬さんから預かった出席簿に視線を通す。

 

「うん、ここは1学期に《第二形態移行》を果たした弟くんにお願いしようかしら」

「え? 俺ですか?」

 

 こういった役目はいつも代表候補生が務めてきた。今回もてっきりセシリアあたりが披露するものだと思っていたらしい。

 

「俺の操縦なんかじゃ、みんなの手本にならないと思いますけど」

「弟くんの場合、謙遜じゃなくて本気でそう思っているようだけど、あなたはもうとっくに専用機持ちにふさわしい実力を持っているわ。<ブリュンヒルデ>(わたし)が言うんだから間違いない」

 

 私もそう思う。クラス代表戦、クラス対抗戦、ゴーレム襲撃、学年別ペアトーナメント、VTシステムの暴走、そして特務任務。数多くの格上相手に勝利を収めてきた彼の実力はもう専用機持ちとして遜色ない。

 

「正直、そろそろ代表候補生の声が掛かっていい頃合いだけど、それは置いておくとして。むずかしいことさせないから、やってみなさい」

「あ、はい」

 

 一夏は緊張した面持ちでまえにでて、新しくなった<白式>を展開した。

 よりも翼らしくなったウィングスラスターと、右手に備わった多機能武装腕《雪羅》。さらに以前にはなかった電子兵装も加わり、《第二形態》の<白式>は過酷な作戦にも耐えうる兵器としての赴きが強くなっている。

 

「ふ~ん、これが<雪羅>ねぇ。カッコいいじゃない。千冬の現役時代を思い出すわ」

 

 ジェニファーが感慨深げに<白式>を観察する。

 初めて見た生徒からも「おお」と歓声が上がった。

 

「この半年で《第二形態移行》ってすごいよね」「やっぱり男性だから?」「場数を熟してきたからじゃない?」「織斑くん、夏休みもずっと特訓してたよ」

「それにしても多機能武装腕といい、誰かさんの第二形態と似ているわね」

 

 と、ジェニファーの視線が私に向く。

 確かに白式と赤騎士の《第二形態》には通ずる点が多いけど。

 

《当然です! だ~りんは――》

「だぁー、うるさいぞ、<ホワイトクイーン>!」

 

 一夏は慌てて外部スピーカーをOFFにした。

 はて、<ホワイトクイーン>は何を言おうとしたのでしょう。

 

「ジェニファーさん、はやく始めましょう。俺は何をしたらいいんです!?」

「そうね。模擬レースをしてもらおうかしら。でも、一人のレースだとつまらないわよね~」

 

 ん、なんです、私をニヤニヤ見て。

 

「じゃあ、アリス・リデル。あなたが彼の相手を務めてあげて」

 

 それは一向に構わないけど、ジェニファーのニヤニヤが気になりますね。

 私は腑に落ちないものを感じながら<赤騎士>を展開し、<白式>の隣にならんだ。

 

「そういやアリスと模擬戦するの、初めてだよな。頼んでも、おまえ断るし」

「むふー、あなたの実力で私に挑むなんて、まだ早いのですよー」

「ぐう、言ってくれるぜ。いっとくが、夏休みも訓練していたんだからな。“必殺技”だって編み出したんだ。この機会に俺の実力を認めさせてやる」

「“必殺技”ですか。いいでしょう、どれだけ成長したか見せてもらいます」

 

 「よし! 見てろよ」っと意気込む一夏と共に、私はスタートラインに立った。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

 第七アリーナのスタートラインに立った俺たちは、バイザーに備わったカメラをオンにした。それによって俺たちが見ている映像が、他の生徒たちがいるモニターに映し出される。

 

「準備OKね。――じゃあ、マヤ。レース用のガイドビーコンを出してちょうだい」

 

 ISのような高速機がレースを行うには、通常のアリーナじゃ狭すぎる。そこで海上にレーザーフォログラムとオーグメントリアリティを用いた仮想コースを展開し、そこでレースを行う。

 

『よし、準備できたわ。じゃあ、弟くんはコースを軽く一周してきてもらおうかしら」

「わかりました」

『勝った方には、おねえさんがハグしてあげるからがんばってね~』

 

 と、柔らかそうな巨乳を揺らして言う。

 目測でも90センチは余裕であろうその巨乳に、男ながら生唾を飲んでしまうと、何がおもしろくないのかアリスがジト目で見てきた。

 

「な、なんだよ。その顔」

「いいえ、なにも。ところで、一夏、高機動演習の経験は?」

「大丈夫だ。《第二形態移行》した<白式>の推力データを取るときに、月子とやった」

 

 「だから、手加減不要だ」と俺が頷くとARのカウントダウンが始まった。

 5、4、3、2、1。――ゼロと同時にスラスターを点火してスタートダッシュを切る。

 初めに抜き出たのは俺だった。その数メートルうしろにアリスがつく。初速では《第二形態移行》した<白式>に部があるようだ。それで得たリードを活かし、俺はスラスターにブーストをかけ、さらにアリスを引き離す。

 

『序盤から飛ばしますね。そんなにジェニファーの巨乳が……?』

『ち、ちげーよ。だから、そのジト目はなんだよ』

『気持ちはわかりますが、飛ばしすぎは禁物ですよ。今回は一周ですが、本番の<キャノンボール・ファスト>は一○○周の耐久レースです。序盤からエネルギーを使い過ぎると後半まで持ちませんよ。途中でエネルギーが切れたらリタイアです』

『そうなのか。燃費の悪い<白式>には酷なルールだな……。いや、待てよ、それって燃費の悪い<白式>じゃなくても厳しくないか』

 

 <キャノンボール・ファスト>では妨害行為も許されている。推力だけじゃなく攻撃や防御にもエネルギーを使っていたら、<白式>じゃなくても完走が難しそうだけど。

 

『大丈夫ですよ。ピットインできますから。そこで修理や補給を受けられます』

『なるほど。F1みたいだな』

『ただし、ピットインする前に撃墜されたらリタイアです。その辺は戦略ですね――』

 

 修理や補給には時間がかかる。かといって、修理を怠ればリタイアの可能性が高まる。

 どのタイミングでピットインするか。

 何気に戦略性の高いレースだな、と考えていると、コースが海上に飛び出した。広がる海原にはいくつかのブイが浮かんでいて、それがガイドビーコンを発している。

 

『ガイドに触れたてもダメージはありませんが、ペナルティーがあるので触れないように』

『お、おう』

 

 コースアウトしても事故にはならないが、レースは不利になるってことか。

 俺は蛇行する仮想コースのガイドビーコンに触れないように集中する。と

 

「うおっ」

 

 急に前方にARのパネルが出現した。その中央に-1の文字。

 これあたっちゃまずいヤツだと悟り、咄嗟にバレルロールで回避する。

 

『わ~お。やるじゃな~い。いじわるのつもりだったのに』

 

 咄嗟の緊急回避に感心したのはジェニファーさんだった。

 どうやら、今のARパネルは彼女の仕業らしい。

 

『じゃあ、こういうのはどうかしら。それ、それ、そぉ~れぇ~』

『うわ、急にたくさん出さないでくださいよ!』

 

 視界を埋め尽くさんばかりのARパネルにあたるまいと、俺は<白式>に急制動を掛けた。

 くそ、これじゃパネルが邪魔すぎて前に進めないじゃないか。

 

「――だってんなら、荷電粒子砲の最大出力で前方のパネルを一気にぶち抜いてやる」

《Yes my darling――粒子加速器、電圧上昇。粒子チェンバー電荷開始。電磁場誤差修正》

 

 俺は《雪羅》の掌底に備わった荷電粒子砲をチャージし、前方のARタグに向ける。

 その右側をアリスがさっそうと抜いていった。

 

『さて、レースの説明も終えたので、本気を出します』

 

 そう言い残し、アリスはアポジモーターの鋭角な高運動制御とPICを用いた幾何学的な機動で大量のARパネルをするりするりと抜けていく。多少の接触こそあるがそのどれもがマイナス1と加点数がすくないパネルばかりだ。

 

『あら、綺麗なライン取りするじゃない、あの娘』

 

 俺もそう思った。やっぱ、あいつの操縦技術は俺らの中でも頭一つ抜き出てんだよな。って、感心している場合じゃない。はやくアリスを追わねえと。

 俺は荷電粒子砲を前方にぶっ放した。せっかくチャージしたのだ、使わない手はない。

 最大出力の荷電粒子砲でARオブジェクトを一掃し、俺は全速力でそこを駆け抜けた。

 

「<ホワイトクイーン>、結構差が開いたけど、これ、まだ追いつけるか?」

《Yes My daring――第二形態移行した<白式>なら、お姉さま相手でも芽はあります》

「よし、<ホワイトクイーン>、エネルギーをスラスターに回せ。フルスピードだ!」

《Yes my daring――<白式>最大速力! パワーアップした私たちの力、見せてやるです》

 

 武器関係の出力を全てスラスターにそそぎ、出せる最高速力でアリスに追いすがる。

 勝ってアリスに俺を認めさせる。その気迫を燃料に替え、俺はさらに速度を上げた

 加速。さらに加速。空気の壁を突き破り、俺は1メートル、また1メートルとアリスに肉薄し、ついには<赤騎士>の尻を拝める距離まで詰めよった。

 

《これはいいアングルですよ。写真とりますか?》

 

 確かに<赤騎士>のリアスカートから覗くヒップはかなり誘われるものがある。

 だが、いまはそんなものに惑わされている場合じゃない。

 

「撮るな! それよりスタビライザーの制御に集中しろ」

 

 この速度じゃ、ちょっとバランスを崩しただけで姿勢制御を失って減速しちまう。そもそも人型は空を飛ぶのに適していない。空気抵抗をモロに受ける人型を推進器で無理やり飛行させているのだから、わずかな衝撃で失速どころか墜落してしまう。

 それにレースも折り返しに差し掛かり、コースも残すところわずかだ。ヘマをすればもう挽回できない。

 だが、逆を言えば、へまさえしなければ勝てる状況でもあった。なんたって、残すコースは障害物のない直線のみ。《第二形態》に至ったことで、通常推力は1.3倍、瞬時加速は2倍、そのチャージ時間は三分の一になった<白式>は推進スペックだけなら<赤騎士>を凌駕している。純粋なスピードが勝敗を分ける直線なら、推力でまさる<白式>が断然有利だ!

 

「いける、これ勝てるぞ」

《だ~りん、行け、行け、GO、GO!》

「よっしゃー、いくぜぇ!」

 

 ゴールまで残り500メートル。

 俺は高ぶる気持ちと共に、最後まで取っておいた瞬時加速を使った

 

 ――その時だった。

 

「一夏、<白式>の性能に頼りすぎです。もっと知恵を使って工夫しなさい」

 

 そう言って前方のアリスが<赤騎士>の武装支持架(ハードポイント)から《ヴォーパル》をパージした。

 それがぐるんぐるんと回転しながら、俺たちに迫ってくる。

 

「い゛ッ!?」

《ふぁッ!》

 

 高速道路での落下物が危険であるのと同じく、高速レースでもこうした落下物は非常に危険だ。相対的な速度があるから、小さい部品一つでも大きな被害がでる。音速で《ヴォーパル》とぶつかった俺は、姿勢制御を失い、失速どころか錐揉みしながら、どんがらがっしゃ~んとコースに転がった。

 そのすきに、アリスがゴールラインを切る。

 

「ありかよ、こんなの……」

 

 と嘆くも、ありなのだ。だって<キャノンボール・ファスト>は妨害が許されているのだから。

 くそぉ~、まさかこんな初歩的な妨害にやられるなんて……。

 

『まあ、弟くんはよくやったわ。十分な手本になったわよ、ほら』

「織斑君のライン取りすごかったね」「リデルさんに追いつくなんて、織斑くんやる~」「あのコースよく、スピード落とさず曲がれたわよね」「へえ、ああやるんだ、私もみならわないと」

 

 クラスメイトから称賛の声を浴びるも、どうにも気持ちは晴れなかった。

 いま、俺が認められたいのは彼女たちじゃない。アリスなのだ。そのアリスに勝てれば、すこしは見直してもらえるじゃないか。そう意気込んでいたからこそ、あとちょっとのところで負けた悔しさが半端なかった。

 

「でも、すげー悔しいです」

 

 ずっと目標にしていた存在に追いつけた。

 そういう高揚感から一転、この敗北である。落差が大きいだけに悔しさも二倍だ。

 

『よしよし、本当に悔しかったのね。じゃあ、おねえさんが慰めてあげましょうか?――って、あれ、千冬こっちに来てたの? え? 違うわよ、なにもやましい気持ちなんて、いや~ん、やめてよ、おっぱいもげるっ』

 

 それっきり音声は途切れ、画面がオフラインに変わった。

 それからしばらくして千冬姉の顔が映った。その後ろでは自分の胸をフーフーするジェニファーさん。涙目だが一体何をされたんだ。もげるって叫んでいたけど。

 

『よし、模擬戦は終了だ。ふたりともピットに戻ってこい』

「……はい」

 

 俺はまだ抜けきれぬ敗北感を抱え、みんながいる第七アリーナのピットに戻った。

 

 

     ♡          ♣          ♤         ♦

 

 

「ちくしょう……。もうすこしで勝てたのになぁ」

 

 ジェニファーさんによる高速実習が終わった放課後。俺は整備科で今日の反省をしていた。なんで、整備科かというと、模擬戦のとき《ヴォーパル》にざっくりやられたからだ。その傷を<ホワイトクイーン>が4本の作業アームを操ってせっせと直している。

 その前でアリスが腕を組みながら得意げに言った。

 

「私のうしろについたことが間違いでしたね。さては私のヒップに惑わされましたか、ふふん♪」

「確かにアリスは魅力的なヒップをしているからな」

 

 アリスはアスリート体系だが、丸くて柔らかそうなお尻をしている。

 別にアリスの尻に見とれて反応が遅れたわけじゃないけど、自慢するだけのモノは持っている。

 

「あ、あの、真顔で返されると、それはそれで照れるんですけど……」

 

 自分の尻を手のひらで隠して、頬を桜色にするアリス。

 それを見て「俺は何を言っているんだ」と急に恥ずかしくなった。

 

「た、ったく、照れるぐらいなら話題にするなよ」

「す、すいません……」

 

 お互いの言動が恥ずかしくなって、顔をそむける。なんとなく気まずい空気だ。

 つーか、男女でこういう話はするもんじゃないな。変に意識してしまう。話を変えよう。

 

「しっかし、《第二形態移行》してもアリスに勝てないなんて泣けるよなぁ」

「そんなに落ち込まなくても。私はあなたを一端のIS操縦者だと認めていますよ」

「いや、そうじゃなくてだな」

 

 俺は黙り込んだ。

 俺が認めてほしいのは、IS操縦者としてじゃなく、――たぶん、男としてなんだ。

 いつだってアリスは俺の力になってくれた。でも、アリスは俺を頼ったことがない。俺に頼られるだけの力がないことは承知しているけど、それでもやっぱり一人の男として頼られたいんだよ。

 

 ――だって、俺はアリスのことが。

 

「どうしました、急に黙り込んで」

 

 顔を上げると、アリスが俺の顔をジーと見ていた。深く、深く、遠くまで見通すような聡い瞳で。それに心を見透かされた気になった俺は、話をはぐらかした。

 

「でも、このままだと、一年一組の出場枠はアリスかラウラで決まりだな」

 

 一組で最強はアリスかラウラだ。この二人が相手では、俺の出場は難しいかもしれない。

 

「あ、実はそのことなんですが――」

 

 と、アリスが何か言いかけたところで、彼女のケータイが鳴った。

 

「はい、私ですが。どうしました、ラウラ?――――あ、はい、わかりました。すぐ行きます」

 

 そう言って通話ボタンをオフにする。内容はラウラからの呼び出しらしい。

 アリスは下唇に人差し指を当て、しばらく思案してから、俺に言った。

 

「ねえ、一夏。今週の休日、あいています?」

「ん? あいてるけど」

「じゃあ、ちょっと私と出かけません?」

 

 急に。急にだ。急にアリスが、俺に顔を寄せてそう言ってきた。

 ずずっとアリスの綺麗な顔が迫ってきて、俺はまたもやたじろぐ。

 

「あ、ああ、かまわないが?」

「じゃあ、待ち合わせ時間と場所は追って連絡します。私はラウラの所に行ってきますので」

 

 そう言って、去っていくアリス。

 彼女の姿見えなくなってから、俺はようやく思った。――俺、もしかしてデートに誘われたのか?

 

 

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