IS<インフィニット・ストラトス>―Deus Ex Machina 作:ネコッテ
放課後の生徒会室。生徒会長・更識楯無は肩を大きく回して、執務机に書類の束を投げた。
一学期の個人別トーナメントの代理案とか。防諜関連の報告書とか。学園の生徒会長と、日本の防諜を担う二つの立場から、目を通さなければならない資料や報告書の数は膨大だ。楯無も人間である。かれこれ3時間も睨みつづければ肩の一つも凝る。
「やれやれ」
楯無は通していた資料を机に投げ、お茶を啜った。茶はすっかり冷めていたけど、入れて直してくれる幼馴染はいまここにはいない。来週ここで<例の会談>があるため、警備システムをテストしてもらっていた。仕方ないので、楯無は席を立ち、自分で淹れ直しに行く。
その片手間、つけていたテレビに視線をやる。
テレビではNHKの国会中継が放送されていた。
画面の向こう側では、野党が現政権の防衛政策について、なにやら質問を投げかけている。『今後の日米関係はどうあるべきだとお考えか』とか『<白騎士事件>に際する新型TMDシステムの導入は、専守防衛に反するのではないのか』とか。
日本は憲法で戦争を放棄し、専守防衛を国防の旨としているが、それは日米安保が十全に機能している前提が必要である。だが、<白騎士事件>で2000基以上の大量破壊兵器が使用された時、アメリカは守ってくれなかった。日米関係が揺らいだいま、日本は大きな岐路に立たされたと言っていい。
それに際し、現政権は日米安保に見切りをつける方針を切り出した。自力防衛に舵を切り始めたのである(楯無が国家代表の身分でロシアに潜入していることも、その一環)。しかし、その防衛費の増加に喘いでいるのが現状だった。
「防衛費の増加にヒィヒィいうなら、無駄に増えるづける女性向け社会福祉の予算を減らせばって思うけどねぇ。ま、そうすれば、女性支持率はだだ下がり。次の選挙で勝てなくなるでしょうけど。――おっとっと」
国会中継に気を取られ、あわや湯をこぼすところだった。
楯無は並々注いだ湯飲みを手にそーと席に戻る。そして応接用のソファにすわる着物の女性に視線をやった。くるっと内側を向いた髪と、はんなりとして雰囲気。――彼女の母、更識櫛菜であった。
その彼女は国会中継そっちのけで「そや」「そこや」「がんばるんよッ」と何やら画面に向かって応援していた。
「おかあさん、さっきから何を見てるの?」
「ん? 簪ちゃんの模擬戦よ」
楯無は会長椅子を倒す勢いで立ち上がった。こぼれた茶が書類を滲ませるが、気にしなかった。
「き、聞いていないわよッ!?」
「あらまぁ、そうなん? おかあさんは弐式の完成が近いゆーてから、来たんよ。そしたら、いま、えげれすの代表候補生と模擬戦してるーゆわれたさかい、ここで待ってようと思てなぁ」
「イギリスの代表候補生……。またあの子なの」
楯無の脳裏におーほっほと高笑いするセシリアが浮かぶ。
「またなんか?」
「一学期も一夏君に模擬戦をふっかけてたのよ。自分より弱い子ばかり狙って。弱いもんいじめがすきなのかしら」
「ふふ、刀菜ちゃんと一緒やね」
「そんなことないわよっ」
「そやったかなぁ。ようしとったで? アリの行列に石を置いたり、猫をひたすら追いかけたり」
「そういえば、そんなこともあったような……って、今はそれどころじゃないのよ。というか、なんで本音ちゃん一言いってくれないのよ! ともかく、今からでも――」
きっとまた裏で手を引く気なのだろう。
飛び出そうとする娘を、母は「あきません」と首根っこを掴んで止めさせた。おそらく、櫛菜がアリーナに向かわず、生徒会室にやってきたのは、このためだったのだろう。
「ちょっとおかあさん、離して。簪ちゃんが負けちゃったらどうするのよ。私がどれだけ苦労して自信をつけさそうとしてきたか、知ってるでしょ。負けたらまた落ち込んじゃうじゃない!」
「ええから、ココいとき。ほら」
むうーと不満な顔をする娘を押さえつけるように椅子に座らせる。
楯無はしぶしぶソファーに腰を下ろした。
「お母さん、私には厳しいわよね……簪ちゃんには甘いのに」
「そんなことあれへんよ。もしそうやったとしても、刀菜ちゃんは楯無やろ? 家長が母親に甘やかされとったら誰もついてこうへんのちゃう?」
「う、そりゃ、そうだけど……」
「もう、そうぶーたれへんの。ほら、一緒にみましょうな」
娘の隣に座り、持っていたモニタを二人で覗き込む。試合は中盤に差し掛かるところで、簪は《山嵐》を展開していた。一見、攻勢に転じたようにみえたが、セシリアの回避機動と高い狙撃力のまえに、ミサイルは次々と撃ち落とされていく。櫛菜は「いけ、いけ」と高揚した様子で娘を応援するが、姉の楯無は気が気ではなかった。
「ぐ、やっぱりセシリアちゃんやるわね」
高飛車なセシリアだが、操縦の腕前はピカイチだ。
姉の手回しで代表候補生になった簪とは、やはり技量に開きがある。
「ほんまやね。このえげれすの娘さん。うまいこと撃ち落としやはるね。けど大丈夫よ。簪ちゃん、<マルチロックオン・システム>の仕上がり、ええ感じって言うてたから、ほら」
と、ケータイを取出し、そのやり取りは見せた。
櫛菜<打鉄二式の開発どうや?
いい感じだよ。(*•̀ᴗ•́*)و>簪
櫛菜<ほうか、ほうか。そりゃよかったわぁ~
うん、ロリーナさんのおかげ>簪
仲睦まじい親子のやり取りに、楯無はどこか疎外感を感じた。こちらは、ここ数か月、まともに連絡を取り合っていない。送っても既読さえつかないありさまである。
「簪ちゃん、お母さんとは仲いいわよね」
「そりゃ親子やもん」
「私、お姉ちゃんなんだけど。簪ちゃんはなんで私を避けるのかしら」
やっぱり劣等感なのかしら。
そうつぶやく娘に、櫛菜は苦笑いを見せ、突然なつかしむような口調で語り出した。
「――刀菜ちゃん、母屋の裏に柿木、あるの知ってる?」
「ん? 確か私が生まれた年に植えたとかなんとかっていう?」
「そう、そう。んで、7歳のころかなぁ、その木のてっぺんに柿がなって、刀菜ちゃん、それを取ろうと木に登ったやろ?」
10年近く前の記憶だったが、そんなことをしたような気もする。記憶が正しければ、そこへ先代(父親)が通りかかり、「危ないから」と代わりに柿を取ってくれたはず。
「そうそう。でね、そのとき刀菜ちゃんは柿どうした?」
「そりゃ食べたんじゃない?」
よく覚えていないが、柿を食べたくて登ったのだから、きっと食べたに違いない。
しかし、櫛菜は意味ありげな含み笑いを見せるだけだった。本当にそやったかいなぁ~?と。
そもそも、なぜ母はいきなりそんな話をしたのか。
その意図を測りあぐねいていると、映像の中でセシリアが40基目となるミサイルを撃ち落としていた。簪の切り札が潰えようとしている。こうしてはいられない。
「お母さん、やっぱりわたし行ってくるっ」
制止を振り切り、楯無は生徒会室を飛び出していく。
櫛菜はやれやれと首を振った。
――刀菜、手を貸すのはええけど、それは簪ちゃんを信じてないってことでもあるんやで。
その楯無が、簪の勝利を知ったのは、彼女が丁度アリーナに到着したしたときだった。
♡ ♣ ♤ ♦
これは初勝利を飾った晩のことである。簪は幼馴染の本音に呼び出され、学園の食堂に来ていた。今度はなんだと身構えながら食堂のドアを潜ると、まず大きな横断幕が目に映った。
<かんちゃん、打鉄弐式完成おめでとうパーティー。ぷれぜんつ ばい のほほん>
そう書かれた横断幕を目にして簪はメガネをはずし、目をこする。
まるで聞いていない話だった。
「……え、なに、これ」
簪が食堂を見回すと、横断幕の下には、アリスとロリーナ、そして月子がいる。
他には4組のクラスメイトがちらほら。
「なにって~、かんちゃんの専用機完成を祝うパーティーだよ~!」
主催者が長い袖を振り回しながら言う。簪はこれっぽっちも表情を変えなかった。
「……そんなことしなくてもいいのに……」
「ええ!? せっかく準備したのに~……!」
いまいち喜ばない簪に本音がまた長い袖を振り回す。
人見知りの簪にすれば、人が集まる出来事は、たとえばパーティーであっても遠慮したいところだった。ましてや交流の薄いクラスメイトに祝われても……という具合である。どうせやるなら、身内でこじんまりとやりたいのが彼女の本音だった。
「なんで4組のみんなまで呼んだの。……わたしはあの人の手回しで代表候補生になったんだよ……。……そんなわたしをクラスのみんなは好意的に思っていない……」
「だからだよ。だから、みんなに知って貰いたいんだよ~。かんちゃんがホントはすごい子だって。家柄なんかのおかげじゃないんだって」
満面の笑みで彼女はそう言った。彼女はウソをつかない。なぜなら彼女は本音だから。
彼女は心から“簪はすごい”と思っていて、みんなにもそれを知ってもらいたかったのだろう。きっと先の模擬戦での一件もその想いが強かったからこその行動だったに違いない。
「ほら、かんちゃん、こっちこっち」
本音が強引に手を引き、簪を会場につれていく。
本音は昔からそうだった。昔から子供の輪に入りたくても入れなかった簪を、その輪に誘ったのは本音だった。簪はそのことを思い出した。彼女がいてくれなければ、いまごろ自分は完全に自閉していたと思う。
そんな幼馴染の感謝すると共に、簪はすこし勇気を振りしぼることにした。
「はぁ~い。主役の登場で~す」
簪がステージに上ると、何十人もの視線が自分に向いた。勝手に非難の眼差しだと思い込み萎縮する簪へ、最初に声をかけた人物は日本の代表、月子だった。
「簪ちゃ~んッ」
どっと押しかけてきた月子を、簪は華奢な体で頼りなく支えた。
「……月子、そんなに勢いよく飛び掛かられたら複雑骨折する」
「……ようがんばった。打鉄弐式、完成おめでとう!」
どこか涙声でそういった日本の代表に、簪は笑みを浮かべた。
「……ありがと、月子。あと、心配、かけた」
「ううん、心配なんてしてへんよ。簪ちゃんはできる子やって知ってるもん。せやなかったら、オーダーメイドで《夢現》作ったり、<キャノンボール・ファスト>の整備メンバに選んだりせえへんやんか」
「……そっか。ほら、泣かないで。国家代表でしょ」
涙ぐむ月子の髪をぽんぽんと叩く。傍目には、どちらが代表か分からなかった。そんな様子にまわりからも暖かい笑いが漏れる。気づけば、四組のクラスメイトに囲まれていた。
「にしても更識さんすごいよね。自分で専用機を作っちゃうなんて」
「だよなぁ、あたしてっきり、家の力で好き勝手やってんのかと思ってたわ」
「でも相応の実力があったんだよね。今回の模擬選でそれがよ~くわかった」
「うん、納得、納得」
向けられた称賛の数々に、簪は気おくれした。
贔屓だの、不公平だの、言われて鬱屈していた簪にその言葉は暖か過ぎた。なにより誰も「さすが会長の妹だな」と言わなかったこと。更識楯無の妹としてではなく、更識簪として認められたことが嬉しかった。
「それにイギリスの代表候補生にも勝っちゃうんだもん」
「……そ、そんな、大したこと、ないよ」
「ほぉ、わたくしに勝ったことが“大したことない”というのかしら」
背中から鈴とした、でもどこか冷たい声が聞こえ、簪は振り返った。
今回、簪が模擬戦で負かした<妖精女王>ことセシリア・オルコットだった。
「このセシリア・オルコットも安く見られたものですわ」
セシリアは「自分に勝ったのだからもっと大きい顔をしろ」と言いたげだった。簪の謙虚な振る舞いで、弱く思われることが嫌らしい。ぐっと顔を近づけてきたセシリアに、簪は光速でロリーナの後ろに隠れた。人間、苦手意識というものは簡単に克服できないらしい。
「……あ、いや、それは、謙虚というか、言葉のあやというか」
「けんきょ? けんきょとはなんですの?」
おおよそ唯我独尊を貫くセシリアにとって縁のない言葉だから知らないのも無理ない。
「まあ、いいですわ。約束のこれを持ってまいりましたわ」
セシリアが取り出しのものは、冠を被った女性の横顔と、赤、青、緑、茶の妖精が描かれたステッカー。
「約束通り、あなたに<妖精女王>を名乗る権利を差し上げますわ。――ただし、今だけですわ。必ず取り戻しますから、覚悟なさってくださいな」
(……覚悟しろといわれても、別に返せといわれたら返すけど……)
それだとセシリアが納得しないだろうが。
とりあえず、デザインは悪くないのでもらっておくことにする。簪が「……うん」と消極的に受け取ると、事情を知らないクラスメイトから「おおッ!」と歓声が漏れた。きっとクラスメイトたちは、簪がなんかすごそうな称号を得たと思っているのだろう。
「さて、みなさん、主役がきたところで、パーティーを始めましょうか」
そして、アリスの言葉で<打鉄弐型>完成パーティーは始まった。
♡ ♣ ♤ ♦
用意していた日本の国家代表とイギリス代表候補生の対談、簪とロリーナのプチIS開発講座はなかなかの反響で終わり、後半となったパーティー会場はまだまだ盛り上がりを見せていた。
私はそのようすをすこし離れた場所から見守っていた。
主役の簪といえば、クラスメイトに囲まれ、質問責めに遭っていた。けれど、怯むことなく意欲的に答えている。専用機を完成させられたこと。それが通じたこと。そして、クラスメイトと仲良くなれたこと。それらが自信と自己肯定に繋がったのだろう。いまの簪は出会ってから今までの中で一番いきいきしているように見えた。これならもう大丈夫だろう。そう思った私は、最後のイベントの準備に取り掛かることにした。
「ちょっと、簪こっちにきてください」
「……ん?」とやってきた簪の肩を抱き、私は声を張り上げる。
「パーティーをお楽しみ中のみなさん。そろそろパーティーのメインプログラムに移りたいと思います」
私の一声でパーティー会場の視線がこちらに向く。当然、何も聞かされていない簪の視線も。
それを確認して、このパーティーの本当の目的を明かす。
「今回のパーティー、実は単なる打鉄弐式の完成を祝うパーティーじゃありません」
「え、なに、どういうこと」そんな風に色めき立つ会場を、私は手で制し、
「まずそれを明かす前に――出てきてはどうです」
私がパーティーの一角に視線を放つと、バシャッと何もない空間から水しぶきがあがり、“招かれざる客”が姿を現した。――――簪の姉、更識楯無だ。
「さすがアリスちゃん、私の隠遁を見破るなんて」
「あなたのことです、ここに紛れ込んでいることは分かっていました。おかげで、わざわざ呼ぶ手間が省けました」
「まさか、このパーティーは生徒会長を呼び寄せるための!?」なんて4組の誰かが言う。
私は頷き続けた。
「これからのメインイベントに会長の存在は必要不可欠なので」
「あら、どういうこと」
「どういうことも、こういうことです。――のほほんさん、幕の偽装を解いてください」
「おーけー、ぎっちょん」
のほほんさんが大弾幕に張り付けられていたテープを一気にはがす。
現れた題名を見て、一同はこう叫んだ。
『 更識楯無 VS 更識簪 ~宣 戦 布 告 記 者 会 見 ~!?』
くっきりと描かれた文字を読んで一同がどよめく。
私は会場を手で宥め、指先を会長に突き付けた。
「いまここで、簪が宣戦布告します。――更識楯無、あなたをぶちのめすってねっ!」
「……ぴゃッ」
おかしな声を上げたのは会長じゃなく簪だった。
まぁ、簪にとっては完全な“寝耳に水”だし、しかたない。けれど、言えば絶対に反対したに違いないから。ほら、簪ってば、私を横断幕の裏に連れ込んできた。
「……アリス、そんな話、聞いていない……」
「言ってませんからね。大丈夫ですよ、今のあなたならきっと勝てます」
「……無責任なこといわないで。無理だから、お姉ちゃん、学園最強だし、ロシアの国家代表だし、わたしなんかが敵いっこない。いまからでも遅くないから取り消して。お願い、お願いだから!!」
泣きべそをかきながら、必死に懇願してくる簪に、私はやれやれと苦笑いを浮かべる。
ここまで言われたらしかたない。私は、優しい笑顔で頷き、会場に戻って、
「簪も『かかってこいよ。けちょんけちょんにしてやる』ですって!!」
げしげし ← “話が違う”と簪がアリスの足を踏みつける音。
「……アリス、なんでそんなこというの。……やったって実力の差を思い知らされるだけ。……わたしがあの人より劣るって、みんなの前でさらし者にしたいの!?」
自分が負けるビジョンしか想像できないから、そんな風に言うのだろう。
だが、才能の違いをさらしたいなんて、これっぽっちも思っちゃいない。
私は子芝居をやめ、会長に決闘をふっかけた理由を明らかにした。
「あなたが何のためにここまで頑張ってきたか、それを会長に知らしめるためです。あなたが会長に気持ちをぶつけなければ、あなたも、会長も、何もかわらない。ずっとこのままです。それじゃいままで頑張ってきた意味がないでしょ。勝ち負けなんてどうでもいい。自分の気持ちをぶつけないさい、簪」
簪は瞳の奥を大きく開いた。それから決意を表すように強く頷き、姉を見る。
そして、言い放つ。ずっと雲の上の存在で、届かない存在と思っていた姉に向かって。
「……お、お姉ちゃん!! しょ、勝負、だから!」
気弱だと思っていた妹からの、思いもよらぬ宣戦布告に、会長は驚きを露わにした。
「ど、どうしたの、簪ちゃん。いきなりそんな決闘だなんて。――もしアリスちゃんにそそのかされて、無理強いされているなら、お姉ちゃんが代わりに断って――」
「……違う。……これはわたしの意思。……わたしの意思であなたに決闘を申し込むの。……アリスは関係ない。……アリスはわたしに勇気をくれた大事なともだち。……悪いようにいわないでッ」
「そ、そうだったわね。ご、ごめんなさい。それは謝るわ」
「……いい。それより受けるの、受けないの。どっち?」
面と向かって突き付けられた強気な言葉に、会長はやはり驚くも、それが妹の意思ならばとおずおずと頷いた
「わ、わかった、受けて立つわ」
「……わざと負けたら一生口きかないから」
「え? ええ、もちろん全力で受けて立つわ。そのかわり、こちらからもひとつ提案いいかしら。どうせなら、専用機持ち、全員参加にしない? 6月の学年別ペアトーナメントの代理案を考えてくれって、せっつかれていてね。セシリアちゃんもリベンジしたいでしょ」
「ええ、機会がいただけるなら、ぜひ参加したいですわ」
「どうかしら、アリスちゃん」
私はすこし思案した。
正直、外野との試合数が増えるのは、まどろっこしく感じるが、ペアというシステムはいいかもしれない。私がサポートに回れることは大きい。
「わかりました。その提案、飲みましょう」
「告知は<生徒会>でしておくわ。日程は……ちょっと調整に時間を頂戴。今月はココで特別なことが行われることになっていてね。それが終わってからでいいかしら」
特別なこと。<デウス・エクス・マキナ>と<亡国機業>の会談のことだ。以前より水面下で進んでいた会談が、このIS学園で行われることは、当然わたしの耳にも及んでいる。
そして、ここの自警団たる<生徒会>がその警備にあたることも。
まずそれを無事に終わらせることが第一で、専用機ペアトーナメントの日程について詰める作業はそのあとにしてほしいということだろう。
当日は私も警備に当たるので、彼女の要望を「わかりました」と飲んだ。
「うん。じゃあ、そういうことで。それじゃみんなパーティーを再開しましょうか」
そう言ってシレっと簪のパーティーに参加する会長。そして、何食わぬ顔で下級生の生徒と談笑を始める。どんな輪にも瞬時に溶け込める社交性はさすがとしかいいようがない、と私はわりとどうでもいいことを考えた。