「そろそろ、のようだな……」
とってもかっこよくて、人を愛する父ちゃん。
「そう、泣くな……」
父ちゃんだって、泣いている。
そもそも、いつ消えたっておかしくなかった。
「己の信念、そのために力を使うんだぞ。」
いつも語ってくれた兄のように、だよな。
―――未来を語れ、それが生きる力だ。
****
この世界には魔法がある。
そして、それは『イメージ』によって成り立つとされる。
しかし、自由自在に魔法を扱える人は少ないらしい。
本来無意識に使っている自分の魔力を感じて、そして制御して魔法へと変換しなければならない。また、『イメージ』の段階において、疑いを持ってしまうのだ。今まで培ってきた経験だとか固定観念だとか、『常識』によって魔力をセーブしてしまう。
生物が魔力制御を誤り暴走させた末に至る存在がいる。
魔物または魔人と呼ばれ、魔物ハンターという職業もあるほどだ。
そして、ここは鬱蒼とした森。
アールスハイド王国の辺境だ。
大きく、息を吸い込み。
体内の魔力を籠めて魔法を放つ。
「火竜の、咆哮!」
吐息は、ドラゴンのブレスと化す。
広範囲に広がる魔法の炎は、紅く光った目を持つ狼たちをぶっとばす。魔力を纏った獣の身体は焼き焦げることはないが、魔力の衝撃によって木々にぶつかっていく。次第に元の姿に戻っていった獣たちは、急いで逃げていく。
魔物たちを狩ることもできるが、元の動物に戻せるのならそうした方がいい。
「よしっ!」
これで、依頼完了ということ。
つまり、ここからはまた全力疾走だ。
「いそげいそげー!」
出迎えてくれた村の人たちには、手を振っておく。
あの日から、俺は便利屋を始めた。
村の人たちへの恩返しでもあるし、兄がそういうことをしていたということも影響している。旅をしながら依頼をこなして報酬をもらい、この村へ定期的に戻る。
そういう生活を続けていたら、もう15歳なのだから学校に行けとメッシーナ伯爵に言われた。辺境とはいえ、この村も領地らしいので彼はよく視察に来る。領内からはとにかく慕われている、ダンディーなおっちゃんだ。
「翼!」
炎を背中に固定、イメージは翼。
加えて、手から出す炎で加速する。
空から、一直線に王都に向かうことにした。今から試験なのだが、筆記試験中に魔力は回復するだろう。
広大な平野から、高く離れて飛ぶ。魔法のある世界なのだしまるで鳥のように飛ぶ人も多いはずなのだが、あまり見かけない。
「よっと」
王都でも珍しい、まさに学校という建物の前で降りる。
同世代の子どもですでに溢れかえっていた。
赤色の髪の勝ち気な女子と、水色の髪のおっとり系女子のもとへ向かう。
「イッキ、やっと来たのね。」
「うん。間に合ってよかったよね。」
「わるいわるい、村まで戻っててさ。」
「なんで今日が試験なのによ……」
あきれた……とマリアが呟く。
シシリーは苦笑い、こういう展開はよくあることだ。
「それで、喧嘩か?」
紫色の髪の男子が、金色の髪の男子に絡まれている。
まあ、介入する必要はなかった。気にせずあしらっていたし、他の男子が場の喧騒を終息したようだし、事態が悪化するってマリアに止められたし。
「アウグスト殿下のおかげみたいだね。」
「……あー、そうだな。殿下だよな。」
「あんた、試験大丈夫なの?」
「ああ! マリアの父ちゃんに、勉強は教えてもらってるしな。」
「まっ、ちゃんと合格してよね。」
「マリアもな。」
「当然。目指すは主席よ。」
自信満々な彼女には、がんばってほしい。
微笑んでいるシシリーを見て、マリアはニヤリとする。
「シンも、合格するといいわね。」
「えっ、うん。そ、そうだよね!」
頬が染まっているけれど、試験前なのに大丈夫なのだろうか。
****
試験は、筆記試験と実業試験に分かれる。
伯爵による勉強に耐えてきた俺は十分に太刀打ちできたし、実技も的を壊せばいいだけだった。魔法にも様々な種類があるのだから、攻撃魔法だけを見る実技試験には首を傾げた。まあ、国の戦力としての魔導士を育てる目的があるし、戦える魔導士こそが至高という固定観念があるのかもしれない。
青いブレザーに袖を通し、赤いネクタイを結ぶ。
これを着られるということは、俺は合格したということだ。
「行くわよ。」
「おう!」
メイドや執事さんたちに見事なお見送りをされるのは、いまだに慣れない。
王都の中心から学院へ。
途中で、シシリーと合流して学校への期待を話しつつ歩く。
入試首席を逃してしまったけど入学して挽回する!ってマリアは意気込んでいたり、ちゃんとクラスに馴染めるかな……とシシリーは心配していたり、ご飯が美味しい食堂はあるのかなーと俺はうきうきしていたり。
集合場所にはすでに多くの新入生が集まっている。
入試成績によるクラス別のようだ。
マリアがコソコソとシシリーに伝え、背中をドンッと叩いた。どうやらシシリーには好きな人ができたらしい。彼を前にして恥ずかしがったシシリーのために、マリアは一肌脱いでいるわけだ。
「あ、あの、シン君! お、お久しぶりです!」
「あっ、うん、そうだね。」
「やあ。君たちは、シシリーとマリアだよね。」
シシリーの好きな彼と、殿下がちゃんと反応してくれる。
「申し遅れました、アウグスト殿下。クロード子爵家が三女シシリーでございます。」
「私は、メッシーナ伯爵家が二女マリアでございます。」
2人とも、スカートの裾を掴んで優雅に挨拶する。
「……ふむ。君が、ね。」
「俺がどうした?」
直接殿下に会ったことはないし、首を傾げるしかない。
「いや、話に聞いていた通り、だと思ったんだ。」
「おっ、便利屋の知名度がそんなに広まっているのか!」
「シンと同じく、君もおもしろいな。俺のことはオーグでいい。よろしく。」
「おう! 俺はイッキだ、よろしくな。オーグ、それにシン。」
王族なのにフレンドリーなオーグと、握手を交わす。
「これからは学友なのだから、2人もイッキのように接してくれていい。」
「「は、はい……」」
マリアもシシリーも、まだまだ慣れそうにないようだ。
「えっと、ここに並んでるって事は……」
「そ。私達もSクラスなのよ、首席さん?」
「はい、一緒のクラスですね!」
Sクラスということもあって、俺たちを見る人は多い。しかし、期待や嫉妬の目には動じないメンバーが揃っているし、魔法の実力はまだまだ伸びていくだろう。
学院長や来賓による形式的な挨拶が続いていく。マリアの父ちゃんはずっと見ていたし、やっぱりマリアのことが大好きなんだなーと思った。
『それでは続きまして、新入生代表挨拶です。今年度入学試験首席合格者、シン=ウォルフォード君』
「はい!」
会場がどよめく。
オーグが首席ではないことに、動揺しているようだ。
「え……?」
「ウォルフォードってまさか。」
「そうだ。シン=ウォルフォード。例の英雄の孫だよ」
「へぇー、すげぇ爺ちゃんを持っているんだな。」
その言葉で、壇上へ向かうシンの歩調が整った。
『御紹介に預かりました、新入生代表シン=ウォルフォードです。今日この良き日に……』
そんな形式的な挨拶は最初だけ。
世間知らずなこと、仲間外れにしないでほしいこと。
自分のことを交えてユーモアに話していく。
ウォルフォードという名があっても、生まれや育ちは貴族のそれではない。この国にはあまり差別意識を持つ人が少ないといえど、貴族が多い中でそんなことを言えるとはなかなか骨のあるやつらしい。
マリアはやれやれ顔だし、シシリーはあたふた。
オーグはシンの度胸を見て、嬉しそうに笑っている。
「これから、楽しくなりそうだな。」
何はともあれ、俺たちの学園生活はここから始まるのだ。