眼帯野郎の居場所は帝都。
戦力は人工魔人や魔物。
もちろん魔物を操っているのではなく、各国に向かわせて暴れさせようとしているだけだ。だから、帝都周辺国による連合軍は防衛に人数が割かれている。そして、超級の魔物に個人で対応できるのは世界でもそう多くはない。アルティメットマジシャンズは、各国に派遣されている。
戦場と指定した場所には魔人が集まっているらしくて、シンやシシリー、賢者爺ちゃんや導師の婆ちゃんが向かった。騎士、魔法使い、羊飼いや漁師といった各国の精鋭もいる本隊だ。
荒廃した帝都の城壁の上。
俺は、翼を広げて急降下する。
「見つけたァ!!」
「今は賢者の孫と話している最中なのですが、ね!!」
火竜の鉄拳は、障壁を砕く。
相変わらずの防御性能だが、俺だって強くなっている。
「火竜の、咆哮!!」
「なんて威力だ!!」
「ペネトレイト・ソニック!!」
「グハッ……」
炎のブレスは避けられたが、風の刃による追撃によって眼帯野郎の身体は切り裂かれた。だがしかし、純粋な魔人ということもあって高速で修復されている。もちろん魔力を消費しているのだから、無敵なわけではない。
「ふっ、あの少女がずいぶんと成長したものですね。」
「スパルタってやつよ。元先生。」
「まさか戦争が始まった瞬間に、戦乙女がここまで乗り込んでくるとは思いませんでした。いえ、火竜は予想していたのですが。」
「わかっているから、付いてきたのよ。」
「俺、そんなにわかりやすかったか?」
シュトローム様!と叫びながら、こちらへ向かってくる。荒廃した王都の静寂の中で、騒ぎを聞きつけるのは容易いことだ。だがしかし、眼帯野郎と女性1人しかもう帝都にはいないらしい。
「戦乙女、それに火竜!?」
「ミリア。実験の途中でしょう?」
「シュトローム様のことが、心配で……」
金髪の女性は魔人化している。
そしてお腹が少し膨れている、妊婦。
「実験って、何のことかしら。」
「魔人が子を成せるのかどうか、ですかね。」
「「は?」」
「実験は順調のようですよ。」
「ま、待ってよ! 実験のために、妊娠させたって言うの!?」
「……私から望んだこと。あなたには関係ありません。」
「志願してくれたこと、とても感謝していますよ、ミリア。」
「……はい」
「もし魔人が世界を征服したとしても寿命の問題があります。後継ぎなくしては一代で魔人による世界は終わりを告げてしまう。だから、初の臨床試験なのですよ。魔人に子どもは産まれるのかどうか。」
「あんた、最低の男よ。」
風が、荒れ狂う。
風でできた壁は、眼帯野郎とミリアを分け隔てた。
「お前は、赦さねぇ!!」
「さあ、始めましょうか!」
闇を纏った拳とぶつけ合えば、城壁は崩れる。
浮遊魔法や飛翔魔法によって、街に降りた。
「ダーク・スネイク!!」
「火竜の翼撃!!」
蛇行する闇の魔法、炎の翼の薙ぎ払いは互いに霧散する。
「楽しい!そう思いませんか!?」
「ムカついてるだけだ!」
「ハハッ、それはそれは。ありがたい!」
戦場は、帝都一帯。
ゴーストタウンと化した土地を破壊しながら戦う。多種多様な魔法を使いこなす眼帯野郎に対して、俺は滅竜魔法でのごり押し。再生能力は魔人の特性だが、俺の頑丈さは世界一なのだ。
「あなたの魔法は感情的になるほど、強さを増す!!」
「それがどうした!?」
「私とは似て非なるものだと思いまして、ね!」
互いに、距離を取った。
手で土埃を払っている仕草は、優雅さがある。
「私にも、愛する者がいましてね。」
「だからって、ミリアを愛さねぇのか?」
「いえいえ。もう愛することなんてしませんから。」
***
「シュトローム様にはたった1人の愛する妻がいました。貴族として領民に慕われ、仕事熱心で、しかし彼女のためにも時間を使うことを惜しみませんでした。」
「その人は、もう……」
「ええ。この帝国の悪徳貴族によって嵌められて。彼女のお腹の中にいた子どもにシュトローム様は会うことができなかったのです。その話を聞いた私は、どのような形であれど幸せになってほしくなったんです。」
「彼のこと、愛しているのね。」
「もちろんです。」
「そう。それなら、やることがあるでしょう?」
「で、ですが、もう完全な魔人と化したシュトローム様は、愉悦に浸ることや復讐のことしか、興味がありません。私のことなんて……」
***
過去を語った眼帯野郎は、嗤う。
「まあ、それすらもきっかけにすぎませんがね。」
「あ?」
「今となってはどうでもいいんですよ。魔人化のおかげで帝国への復讐も果たしました。今の私に残ったのは愉悦することだけ、世界征服もその愉悦感に浸るための手段に過ぎないのです。」
「お前の愉悦のために、みんなが犠牲になるのか。」
「古き人間には興味はありません。あなたも選ばれた人間です。その生い立ちから、力は人間をはるかに超えている存在です。古き人間である賢者やその孫を殺し、共に選ばれし人間として世界を統べるのはどうでしょうか?」
「嫌だ。そもそも、父ちゃんは人を愛していたぞ。俺は竜でも人間でもどっちでもいい。1つだけ言えることは、父ちゃんの息子の俺が人間を愛していないわけないだろうが。」
「そうですか。ならば戦乙女を殺し、さらに愉悦するしかありませんね。」
「どこまで……俺を本気にさせたいんだ?」
眼帯野郎は眼帯を外して、紅き目が輝く。
ポケットから取り出した魔石に、噛りつく。
「竜を相手にしていると、思えよ。」
―――ドラゴンフォース
滅竜魔法の最終形態。その発動だけで大量の魔力を消費するため、魔石によって魔力を補う必要があった。身体のあちこちが竜の鱗へと置き換わり、さらに竜に近づき竜に匹敵する力を得る。
「君と比べれば、私が魔人化させた竜なんて雑魚のようですね。」
「俺の父ちゃんは、炎竜王だぞ。」
爆炎が、周囲一帯を包む。コントロールできないほどの魔力が体内で荒れ狂い外にまで漏れ出しているのだ。もちろん長時間持続することはできないし、眼帯野郎も魔力が無限というわけではない。
だから、本気の短期決戦。
「滅竜奥義! 紅蓮爆炎刃!!」
「ダークネス!」
爆炎の剣が、渦巻く闇の障壁に阻まれた。
魔法もろとも燃やそうと、さらに火力を上げる。
「グッ……アベンジャー・ロック!」
「なにっ!?」
地面生えた螺旋回転の岩に突きあげられた。
鈍痛に顔を顰めてしまうが、急いで態勢を立て直さなければならない。浮遊魔法を使って空中にいる俺に眼帯野郎が追いついてきたのだ。ドラゴンフォースを使っていて魔力をコントロールしづらい今では、飛翔魔法は使えない。
「炎は効きませんからね。デルタレーザー!!」
「水も効かねぇよ! 火竜の咆哮!!」
「かかりましたね。ポイズン・ウィンド。」
一直線に向かってくる水を、全て蒸発させた。だがしかし視界が悪くなり、眼帯野郎を見失ってしまう。滅竜魔導士の長所である五感の良さを、的確に使えなくしてきている。
「ダークボール。はっ!!」
「グァ……」
周囲から囲むように飛んでくる弾丸、あくまでそれは牽制にすぎなかった。
「これで終わらせる!!」
―――あなた、幸せに生きて
「アルフォード様!!」
「……ホーリー・エンド!!」
強力で巨大な魔力球が、俺に打ち出される。
放った後の眼帯野郎は肩で息をしていて、ほとんどの魔力を使い果たした必殺技。魔人の魔力は0になったとき死ぬとされる。つまり覚悟を籠めた技であって、だがしかし生きることは諦めていない。
対する俺は、1番の大技を出すには魔力が足りない。
「だから、明日の分も捻りだす!」
全魔力解放、炎を纏う。
「不知火型!」
地面を蹴って、勢いよくジャンプ。
魔力球を突き破り、眼帯野郎の身体に突き刺さる。
「紅蓮鳳凰劍!!」
「グガッ!!!」
禍々しい魔力を全部、焼き尽くす。
「やっぱり、あんた人間じゃねぇか。」
地面に落ちたオリベイラは、涙を流していた。
「アルフォード様、死なないで!」
眼帯野郎もミリアも、すでに魔人化が解けていた。
ミリアは必死に治癒魔法をかけ続ける。
「はぁはぁ……」
「ずいぶんと2人とも無茶したみたいね。」
ドラゴンフォースの反動。
ふらっとした俺をマリアが支えてくれた。
「……私は生きている、のですね。」
「アルフォード様……よかった……」
「喜んでくれるのですね……。ですが、私は大罪人。数え切れない人を直接的にも間接的にも手にかけてきた。そしてここは妻との思い出と出会った場所です。火竜よ、どうか私にここでとどめをさしてください。」
「でしたら、私も!」
「いいえ。君には子どもがいるんですよ。」
「で、でも……」
「腹減ったから、帰る。」
「あきれた……。まあ、いつも通りのイッキよね。」
『ゲート』をマリアが使い、俺たちは海沿いの町へ。
俺がよく帰っていた村の前だ。
「な、なぜ……?」
「生まれた子どもに父ちゃんがいないと。寂しいだろ。」
「……そうですね。」
「元気になったら、カートに謝りに来いよな。」
「……ええ。それで償えるかわかりませんが、ね。」
「またね、ミリア。いっぱい叱ってあげるのよ。」
「本当に、ありがとうございました!」
「眼帯野郎は死んだし、依頼完了だな!」
「ふふっ、そうね。」
***
不思議な気持ちだ。
オリベイラはミリアに支えられながら、そう思った。
「あの時の声は、確かにアリア……」
彼らが導いてくれた村からは、子どもたちの元気いい声が聞こえる。
「受け入れてくれるのでしょうか、こんな私を。」
せめて、ミリアと子どもだけでも。
魔人化が解けてから、失ったはずの未来を願っている。
「オリベイラ様。どこまでもご一緒します。」
「……まったく。父親とは責任重大な立場なようですね。」
アリア、生きる力をありがとう。
そして、
「イッキ=メッシーナ、また会いましょう。」
***
「お、おくれる~!」
母親と同じように、赤色の髪をサイドポニーにまとめた少女が屋敷の中を慌てて走る。王都の中で一番難関とされる学院の制服を身に纏っている少女は15歳で成人もしているのだが、まだまだ子どもっぽい。
「お母様、お待たせ!」
「ご飯食べたから、寝ちゃったんでしょ?」
「なんでわかるの!?」
「あなたはお父様に似ているからね。」
「そっか!」
母親にそう言われて、嬉しそうに微笑んだ。
そして、妖精のような羽を広げて宙に浮かぶ。
「いってきまーす!」
「鳥に当たらないよう、気をつけなさいよ。」
「だいじょーぶ!」
火竜の孫は、『アールスハイド高等魔法学院』へ飛翔する。
「スピード上げれば、お父様に追いつけるかも!」