火竜の息子   作:ヒラメもち

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第3話 次世代の英雄

学院に入学してから数日、ようやく学院生活に慣れてきた。

 

シシリーやマリア、シンと一緒に登校して、午前中は基本的に座学。そして、食堂で腹を満たした後は実技訓練。Sクラスということもあって基礎的な魔法は十分使えるから、各々の長所を伸ばすことを目的とした授業だ。

 

 

だから、俺とユリウスは筋トレの割合が多い。

まだ基礎訓練なのだが、いずれは模擬戦もあるかもしれない。Sクラスの仲間たちとは戦ってみたい。たぶんそれぞれの持ち味を、ちゃんと持っていると思う。

 

 

「イッキやユリウスって、本当によく食べるんですね……」

 

「そうか?」

「そうでござろうか。」

 

今日も、Sクラス11人で1つのテーブルを囲んでいる。

しかも専用の個室なのだから、至れり尽くせりだ。

 

 

この食堂では、欲しいだけ料理を提供してくれる。

貴族向けの料理もあるし、がっつりとした料理もあるのだ。俺やユリウスは身体が資本なので、肉を中心として大量に食べさせてもらっている。もちろん、これだけの食材を用意してくれた人や作ってくれた人へ、感謝を忘れないし将来は国のために尽くすつもりだ。

 

 

「そういや、最近魔物が増えたって本当なのか?」

 

「……あまり広めてくれるなよ。」

 

「おう。」

 

マリアの父ちゃんからそういう話を聞いて、俺は休日によく村に戻っている。その原因についてはまだ調査中らしいが、魔物ハンターや騎士団は警戒態勢をとっている。

 

「いつか、魔物とも戦う時が来るのよね。」

 

「うん。しっかり訓練しておかなきゃね。」

 

「でもちゃんと対処すれば、大丈夫だと思うけど。」

 

「魔力が暴走しているようなものだし、動きは単調になりやすいしな。」

 

「……まさか、すでに魔物を狩ったことがあるのか?」

 

「あるよ。10歳の時。」

 

「俺もそれくらいだな。父ちゃんがやってみろって。」

 

「「「「10歳!?」」」」

 

「前から思っていたけれど、イッキの父親は一体何者なのよ……」

 

「どんな魔物だったの?」

 

「3メートルくらいの熊だったなぁ」

 

「「「熊!?」」」

 

魔物となった熊なのだから、かなり強力な個体だっただろう。ていうか、メートルってなんだ?

 

 

「デカくて腕が邪魔だったから両腕切り落として、それから首チョンパしたら倒せた。」

 

「くま……、クマさんかぁ……」

 

「し、シシリー。私も一緒にがんばるからね!」

 

マリアにシシリーは揺すられる。

シンの隣に立とうとがんばっていて、その目標に達するまでまだまだ程遠いこと知ったので少し放心状態になっていたようだ。

 

 

「どこまで規格外なんだろうな……」

 

「さすが、賢者の孫か……」

 

模擬戦が、本当に楽しみになってくる。

燃えてきたぞ。

 

「さて、そろそろ時間だな。」

 

「もうこんな時間か。」

 

 

午後からは実技訓練ではなく、研究会の説明会。放課後に学院で活動する学生団体みたいなものなのだが、シンに学ぼう研究会を俺たちは発足させようとしている。

 

 

 

「この臭い……」

「これは……」

 

教室に向かう途中で、立ち止まって辺りを見回す。

シンも、感知魔法に何かしら引っかかったらしい。

 

 

カートが訓練場の遠くからこちらを見ている。

親に謹慎させられているはずの彼が、ニヤリと嗤った。

 

 

「シシリー! 魔力を纏え!」

 

飛んでくる火球へ咄嗟に行動できたのは、俺とシン。

シンの声で、シシリーは制服の守護を発動させた。

 

 

「あぶない!」

「間に合わない!」

 

みんなより前に出た俺に、マリアやシンが呼びかけてくれる。

 

 

そして、俺は

「不味い」

 

火球を、食べた。

粘ついているし、苦い。

 

「「「えっ……?」」」

 

シンによってシシリーたちには障壁魔法が展開されている。見事な展開速度であって、さっきの火球は防げただろう。そして、シンも含めてみんなが、俺の『非常識』を呆然と見ていた。

 

 

「オーグ。」

「あっ、ああ。そうだな、これは殺人未遂だ。」

 

殺傷性のある攻撃魔法を、俺たちに放ったのだ。特にオーグが巻き添えになりそうだったのが、大罪として問われる要因になるだろう。

 

ユリウスとトールが、カートを捕らえようとする。

 

「待つんだ。様子がおかしい!」

 

「貴様ら、キサマラァ!?」

 

「くそっ……カート!戻れなくなるぞ!」

 

俺の声はカートに届かない。

 

狂う。

魔力が溢れ出し、全く制御できていない。

 

 

「あれは、まさか...」

 

魔人の目が、紅く輝いた。

禍々しい魔力を纏っていて、全ての魔力が無くなるまで暴走し続けるだろう。理性はもちろんないし、行き着く先に待っているのは『死』だ。

 

 

「みんな逃げろ!」

 

シンの声で、我に返った学生は散り散りに逃げていく。

しかし、Sクラスのみんなは残っている。

 

 

プライドとか、他の学生を守るためだとか。

もしかしたら、自分達でもやれるかもって。

 

「こんな、膨大な魔力はじめて...」

 

「倒せるの、マーリン様だけなんじゃ...」

 

カートの発している禍々しい魔力に対して、無意識に後ずさりしてしまっている。支え合っているシシリーもマリアも、立っているのがやっとだろう。

 

 

「オーグ、みんなを連れて逃げてくれ。」

 

「……シン、イッキ。私たちは邪魔か?」

 

「……ああ。」

「今は、俺たちに任せろ。」

 

オーグは唇を噛みしめて、告げる。

自分の弱さをちゃんと認められることは、つよさだ。

 

 

「皆の者、これは命令だ。ここは2人に任せる。」

 

「そ、そんな!シン君たちだけ残していくなんて!?」

 

「シシリー。どうかわかってほしい。」

 

「で、でも……」

 

「……イッキ、できるの?」

 

「俺にやれること、やるつもりだ。」

 

「うん、わかったわ。」

 

苦しんでいるカートを、このままにしてはおけない。魔力の暴走はいつか身を滅ぼす。今ならまだ間に合うかもしれない。

 

頷いたマリアはシシリーの両肩に手を置いて、伝える。

 

「シシリー。2人を信じましょう。今は、それが私たちにできることよ。」

 

「マリアも本当は………ううん。わかった!」

 

 

彼女たちは、背を向けた。

さて、先生たちを待ってもいいが、時間は一刻を争う。魔人は国を滅ぼすほどの力を持つとされるのだから、先生たちでも敵うかどうかわからない。

 

 

拳と手のひらをぶつければ、炎が舞う。

 

「よしっ、やるぞ!」

「ああ!」

 

 

腰を落として、勢いよくカートが走ってくる。

理性をほとんど失っているのだろう、獣のような動きだ。

 

怒りだとか悔しさだとか、そういうものを籠めた拳を受け止める。かなりの威力だ。もし踏ん張っていなければ、校舎まで飛ばされて俺は背中を打ちつけていただろう。

 

 

完全に敵とみなした、シンは剣を振るうも避けられる。

 

 

俺たちを軽く蹴り飛ばして、カートは後退した。

 

「容赦ねぇな。」

 

「ここで仕留めないと。」

 

「他に方法があるかもだろ!」

 

「だけど!」

 

確かに賢者や導師にしか倒せないような強さとされているけど、それでも学友なのだ。殺すことは選びたくはない。

 

 

言い争う俺たち、その隙を付いてくる。

 

「ウオオー!!」

 

炎の魔法に、俺は包まれた。

マリアたちの悲鳴が聞こえたが、問題はない。

 

 

「いい炎だ!」

 

炎を食べることは、滅竜魔道士にとって力となる。

 

 

もし、その悔しさをちゃんとバネにできていたのなら。道を間違えず、ちゃんと前に進めていたのなら。シンや俺をライバルとして、努力しようと思えていたのなら。

 

「ウオ、ォォ...」

 

身体の異常が、見え始めた。

筋肉は盛り上がり、血管が浮き出て、呼吸は荒い。

 

 

間に合ってくれ。

 

 

拳に、炎を纏わせる。

「これで、目を覚ませ!」

―――火竜の、鉄拳

 

 

 

地面に叩きつけられたカートは、次第に魔力が霧散していく。苦しみから解放され、穏やかな表情を見せた。

 

 

たぶんもう大丈夫だけど、魔人化が身体にどれほどの悪影響を及ぼすかわからない。持ち前の魔力といえど暴走状態にさせて際限なく『強化』させるのだから、俺の奥の手にも匹敵する負担だろう。滅竜魔法のような身体変化に慣れていない状況で、コントロールできるはずがない。

 

 

「くそっ!」

 

悪意の目、屋上にいたあいつだけは絶対ぶん殴る。

まだ戦いは終わってないし、始まったばかりなのだろう。すでに息絶えているのに蠢く魔物たちに、俺やシンは立ち向かった。

 

 

 

 

 

****

 

次世代の英雄たちの誕生。

第二の魔人が現れたことと同時に、国を駆け巡った。

 

再度魔人化する恐れがあるとして、カートは拘束されたままだ。いまだ目覚めないので、長期治療ということになっている。カートの両親は毎日お見舞いに行っているらしい。

 

カートは、ちゃんと愛されている。

 

 

 

「イッキの育て親が、ドラゴンってどういうことよ……」

 

「言わなかったか?」

 

「言わなかったわよ。それに、ドラゴンを倒す魔法をドラゴンから教えてもらってどうするのよ。」

 

「それは...、考えたことがなかったな。」

 

あきれた……と嬉しそうに微笑むマリアと街を歩くという、日常は続いている。

 

 

「でも、イッキの強さも頷けるわ。」

 

「いや、俺もまだまだだ。」

 

「あんた、まだ強くなるの?」

 

「会ったことないけど、兄ちゃんがいるんだよ。」

 

「どんな人なの?」

 

「破天荒で、信念があって、仲間想い。兄ちゃんはとにかく、つよい!」

 

「そうなんだ」

 

隣にいる俺の顔をちょっと下から覗きこんで、ニコッとしたマリアはまた前を向く。兄ちゃんの『Fairy tale』は、父ちゃんによく聞かせてもらっていた。

 

 

 

俺たちの学院生活は、変わらず続いている。

 

「2人とも、おまたせー!」

 

英雄と呼ばれても、ピンとこないし。

俺は、自分の信じた道を進むだけだ。

 

 

 

 

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