火竜の息子   作:狩る雄

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第4話 みんなで前に進む

『究極魔法研究会』、それが俺たちの所属する研究会だ。賢者の孫であるシンが代表を務めることもあってこの研究会に入りたい人は非常に多かったが、収納魔法が使えるかどうか、そして面接が入部条件となった。今のところSクラス以外では、Aクラスの男女1名ずつだけが入部した。

 

 

放課後に研究室に基本的に集まるが、オーグは仕事で頻繁には来れないようだ。初日は顔合わせと、これからの方針決定。まあ、シンを主導とした魔法研究をすることにしただけなので、具体的には決まってはいない。

 

 

「マーク君とは、幼馴染なんだー?」

 

「ねぇねぇ、もしかして、もしかしてする!?」

 

「い、いえ。お互いの両親が仲が良いだけですよ。」

 

「うっそだー、オリビエちゃんと仲が良いもん。」

 

帰り道でもシンたちは剣について楽しそうに話をしているが、女子はガールズトークというやつだ。俺はガールズトークをぼーっと聞いている状態だ。魔法と体術で戦ってきたので、シンたちのように剣の話には熱中できない。

 

 

今はシシリーとシンが出会った時について、キャーキャー言っている。

 

ていうか、マリアも暴漢に襲われたんだな。

その暴漢を無性にぶっとばしたい。

 

 

「ずっと聞いてみたかったんだけど。マリアって、いつもイッキといるよね?」

 

「そうねぇ。」

 

「学院に入る前。私とマリア、イッキ君でよく遊びに行っていたよね。」

 

「私より先にお父様と知り合ったみたいなの。そして、今は居候よ。」

 

「ああ。マリアの父ちゃんが、学院に近い方がいいだろうってな。」

 

「そうそう、イッキってうちの領地から通うつもりだったのよ?」

 

「えっ、それって海沿いの町じゃあ……」

 

「と、遠いのでは?」

 

新鮮な魚、久しぶりに食べたいよな。

焼き魚がやっぱりいいよな。

 

 

 

「俺たちは、工房に行くけどどうするっす?」

 

「私たちは、オリビアさんとお茶会がしたいわ。」

 

「そうですね、もっといろんな話を聞いてみたいので。」

 

「お、お手柔らかに……」

 

「わかった。後で合流しよう。イッキ、よろしく。」

 

「おう、任せろ!」

 

オリビアの実家である『石窯亭』でまた美味い物を食べさせてもらえるのだから、他の男子メンバーの分も美味しく食べてあげよう。合格祝いとして、マリアの父ちゃんに俺たちは連れていってもらったのだ。

 

 

 

「なんだ……?」

 

二手に分かれようとしたところで、俺やシンは一早く騒音や悲鳴に気づいた。建物の壁が瓦礫となって俺たちを襲うが、シンが咄嗟に使った障壁魔法でみんなは無事なようだ。

 

 

「一体、なにが起こっているんだ……?」

 

「両目に眼帯……、オリバー=シュトローム!?」

 

「魔人騒動の真犯人ということは、本当でござるか!?」

 

 

それを聞いて、俺は勢いよく地を蹴った。

倒れ伏した人たちの中で、たった1人が瓦礫の上に立っている。

 

 

 

炎を纏わせた拳を、眼帯野郎の頬を目掛けて放った。

 

「おらぁ!」

 

「……まさか、ギリギリとは。」

 

障壁魔法。

ヒビが入ったとはいえ、威力は相殺された。

 

「お前が、カートを!」

 

魔人化の人体実験。

その首謀者だと、眼帯野郎の笑みが俺を確信させる。

 

「やっぱりかぁ!!」

 

「なっ……!?」

 

炎はさらに燃え上がり、障壁魔法を焼く。

咄嗟にその場を離れた眼帯野郎を、シンが剣で攻撃するが障壁によって防がれた。

 

 

「火竜の、咆哮!!」

 

「くっ……まるで獣ですね。」

 

俺のブレスを障壁魔法では防げないと判断したのか、空中へ眼帯野郎は避ける。

 

 

「エーラ!」

 

「浮遊魔法!? いや、飛翔魔法か!!」

 

炎の翼で飛んで、宙に浮いた眼帯野郎を追いかけるが、ローブを風に翻しながら、ジグザグに動かれて攪乱される。俺の飛翔魔法は一直線により速く飛ぶことを目的とした魔法であって、細かいコントロールは得意ではない。

 

「みんな、援護するわよ!」

 

無詠唱魔法の、火球が空に向かって放たれる。

マリアが火の魔法だけ使うように、指揮してくれたようだ。

 

「マリア、ナイス!」

 

火球を掴んで食べていけば、力が湧いてくる。

 

 

炎を纏った拳による、ラッシュ。

靴を魔道具に履き替えたらしいシンも飛んで、剣を振るった。

 

 

 

「貴様ら、調子になるな!」

 

眼帯を外せば、紅い目が輝いた。

禍々しい魔力によって放たれた衝撃を、俺たちはもろに受ける。

 

 

「やってくれましたねえ。」

 

「完全に理性を保ったままの魔人、か。」

 

「おい、眼帯野郎! お前も魔人だったのか!?」

 

「いやはや、まさか正体を見せてしまうとは……」

 

 

左手と右手の炎を合わせれば、巨大な火球となる。

「火竜の、煌炎!!」

 

 

しかし魔力を解放したことによって、障壁魔法によって防がれてしまう。

 

シンの熱線も、障壁魔法を壊すことで精一杯のようだ。

こうなると、奥の手を使うしかないのだが、あまり街中では使いたくはない。

 

 

「カートはなんで魔人にしたんだ! カートは、もう大丈夫なんだろうな!?」

 

「魔人化した人間は、戻せるのか?」

 

「さあー? 魔人化の研究はしていましたが、人間に戻すことまでは研究していませんでしたから。」

 

「てめぇ!」

 

「……まあ、カート君は人間に戻っているようですがね。こちらが聞きたいくらいですよ。」

 

「対策を練りたいからだろう?」

 

「そうなりますね。」

 

残りはカートの気力と回復次第だろう。

 

一進一退の攻防は続く。

人数差もあるけれど、俺たちが押しているのは確かだ。

 

 

「私の目的が済んだら、君たちは殺すことにしましょう。」

 

「待て!」

 

「もちろん、君たちの大切な人たちもね。」

 

「逃げるな! 火竜槍!!」

 

シンの弾丸の炎、俺のスピード重視の炎の槍が当たると同時に、辺り一帯が煙に包まれる。どうやら自分の周囲を対象とした爆発の魔法を放ったようだ。火傷が治るような再生能力を持っているのだから、わざと自爆したのだろう。

 

「眼帯野郎。絶対ぶん殴って、カートにちゃんと謝らせてやるからな。」

 

煙が晴れる頃には、眼帯野郎の姿はすでにない。

焼けこげる臭いが立ちこめていて、そう簡単には見つからないだろう。

 

 

「だ、大丈夫!?」

 

「ああ。ちょっと、魔力を使いすぎただけだ。」

 

地面に降り立って少しふらっとしたところを、マリアが支えてくれた。

 

 

 

 

****

 

 

叙勲式も、半強制的に出ることになったとはいえ、俺やシンが英雄として発表されただけだ。帝国の不穏な動き、魔物の大量発生、魔人化、そして眼帯野郎。数々の事件がここ数日で起こっているのだから、俺たちはさらに力をつけなければならない。

 

 

だから自然と、研究会の活動はシンが実践的な魔法を教えることになった。攻撃魔法、防御魔法、治癒魔法、そして付与魔法やゲートといった補助魔法。極めたい方向はバラバラだけど、みんなが強くなろうと一丸となっていた。

 

 

シンの言う通り、魔力制御が俺たちの粋に届いていないのだから、そこから矯正していくしかないだろう。無詠唱魔法を使えるといっても、魔法によって引き起こされる事象ばかり気にしている。

 

 

炎そのものを起こそう、とかな。

例えば『火竜の咆哮』を放つのなら、ブレスを放つ竜の躍動感溢れる姿をイメージすれば、一番強力なものになるだろう。父ちゃんの姿を思い浮かべれば凄まじい威力になるとはいえ、まだまだ半分も威力は出ていない。

 

 

「きゃあーー!」

 

「おっ、上手く避けたな。次は障壁魔法で防いでみろよー!」

 

戦い方を教えて、なんて言われたら本気で手伝うしかない。

15年かけてもまだまだ父ちゃんの足元に及ばないので、俺も教える立場にはないはずだが、マリアの決意にはちゃんと応える。

 

「むりむりむり! だって、さっきのいつもより強かったでしょ!」

 

「ああ。父ちゃんを思い浮かべた。」

 

「それなら、非常識な威力にもなるわよ……」

 

 

ドラゴンは、空想上の生き物として考えられている。

俺も、父ちゃんしかドラゴンに会ったことはない。

 

自分自身が魔法を受けながら魔法を感じるのが手っ取り早いのでは、と俺は考えた。父ちゃんの練習方法がそうだったし。

 

「次よ。ぅ……」

 

「さすがに、無茶しすぎたな。」

 

前提として、時間がない。

魔力制御やイメージは戦いながら、ちゃんと魔法に影響させる必要がある。だから、実戦経験も同時に身に着けなければならない。しかしいまだ、マリアとの模擬戦は魔法の撃ち合いには至っていない。

 

 

「……ちょっと、休憩するか。」

 

「う、うん……」

 

へたり込むマリアは『防汚』が付与された制服は汚れていないが、手や頬には土がついている。本気で取り組んでいる証拠だ。誰かに戦うことを強いられたわけでもない。マリアやシシリーは、俺やシンと肩を並べたいという信念から、がんばれるのだろう。

 

 

「どうすればいいのよ。時間もないし、このままじゃ……」

 

「もっと自分を信じろよ。」

 

「そう言われても……。イッキも、自分の訓練をしたいはずなのに。」

 

「……俺は、マリアがすごいと思う。」

 

「え?」

 

「ちゃんと前を向いていてがんばってる。だから、俺は手伝っているんだ。」

 

「う、うん、ありがとう…」

 

「その意気だ。」

 

「……プレゼント。」

 

「どうした?」

 

「シシリーがね、シンから指輪を貰ったらしいの。だから、私がちゃんと強くなれたら、何かプレゼントが欲しいなって、ね……」

 

乱れた髪を整えながら、伝えてくれる。

俺からのプレゼントを目指してがんばれるのなら、俺も何がいいかをがんばって考える。

 

 

「おう、いいぞ!」

 

 

今まで、貰ってきてばかりだったし。

 

 

「……よしっ!2人で一緒にシンたちに勝つわよ!」

 

「ああ! 燃えてきたー!」

 

 

 

 

 


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