火竜の息子   作:ヒラメもち

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第5話 憧れ

うちの王国と、隣の帝国との戦争となった。8万の軍勢が寡兵され、直ちに国境へと出発する。戦力は互角のように見えて、帝国側には眼帯野郎がいるかもしれない。今のところ魔人に対応できるのは、賢者の爺ちゃんと導師の婆ちゃん、そして俺やシン。しかし、俺以外は政治利用してほしくないと公言しているので、実質国の最終防衛ラインとして扱われる。

 

だから、すぐに俺が戦地に赴くことになってもおかしくはなかった。覚悟はすでにできていたし、奥の手を使えば勝算もある。

 

 

しかし、たった数日で帝国の敗北に終わった。

魔人たちによって。

 

 

「早速だが、王国から通達があった。」

 

『学生は有事に備えるべし』。

その通達に、憤りを抑えるので精一杯だ。

 

 

「過去の戦争でも、ここまでの事態には至らなかったんだが、な……」

 

つまり、普通の学生であるマリアたちも徴兵される可能性が非常に高いということだ。

 

原因は眼帯野郎の策略だった。王国軍と帝国軍が争っている間に、眼帯野郎や魔物が帝都を襲撃、1日にして滅ぼし、今は根城にしているらしい。隣国が非常に不安定な状態なのだから、学生も戦地に行くことを強いられるようになるだろう。

 

まだ魔物とも戦ったことのないマリアたちが、だ。

 

 

「具体的な方針としては、訓練の時間が増えるということ。それも実戦形式だ。だが、このSクラスでは研究会の時間を増やしていいことになっている。」

 

「それって……?」

 

「……シンやイッキといった『エース』から魔法を学んだ、少数精鋭の『ストライカー』を育ててほしいらしい。まあ、『騎士養成士官学院』との合同訓練についてはぜひ参加してほしい。騎士との連携を取るという、いい経験になるだろう。」

 

返事はない。

現実に直面して、俺やシン以外は思い詰めている。

 

 

殺し合いのための、訓練なのだから。

 

 

「だけどよ、先生。やっぱり、戦うためなんだろ?」

 

「そうだな。タイミングが悪かった、なんて言うべきではないが、そう思ってしまう。……できる限り、防衛任務。それが無理でも後方支援として出してもらえるように進言する。」

 

だから、赦してほしい。

その疲れたような表情からも、マリアたちを戦場に出さないよう何度も何度も掛けあったことが察せられた。

 

「私は……怖いです。」

 

まず、シシリーが口を開いた。

 

「そう、だよな…‥。」

 

「だから、精一杯がんばりたいと思います。ちゃんと学んで、ちゃんと訓練して、少しでも多くの人を守りたいです!」

 

「クロ―ド……」

 

「そうね。迷ってばかりなんて私には合わないわ。じっとできない誰かさんは、最前線まで行っちゃうだろうし。」

 

「メッシーナ……」

 

「俺もできる限りのことは教えますし、戦場に出ようと思います。ここで出会った皆は掛け替えの無い友達だと思ってるから。国のために戦うみんなを守れるくらいはできると思います。」

 

俺も。私も。

みんなが、それぞれの決意を述べていく。

 

フッと笑みを零して、先生はちゃんと俺たちを見た。

 

「よしっ! 研究会の活動、俺も協力しよう!」

 

 

 

残された時間、少しでもつよく。

Sクラスのメンバー全員の決意は、一緒だった。

 

 

 

 

****

 

 

一丸となって学ぶ、どうやら騎士学院の生徒とは上手くいかないらしい。

 

 

騎士学院1年次Sクラスとの合同訓練は、開始直後から問題が生じた。騎士と魔法使いの協力は、やはりそう簡単にはいかないことらしい。俺やユリウス以外はずいぶんと細身なので、努力をしていないように思えてしまうのだろう。魔法使いは魔法、騎士は剣、それぞれ別の分野を極めていてそれぞれにプライドを持っている。

 

 

「気にならないの? あんなにバカにされたのよ。」

 

「別に。」

 

「もうっ!」

 

国からも認められている魔法使いである俺たちは、難癖をつけられたのだ。剣士より魔法使いの方がさらに国の戦力として目立つことになったのだから、彼ら彼女らの気持ちは理解できる。

 

 

「シンも俺も、やれることをやっただけだしな。」

 

マリアやシシリーが不機嫌だ。騎士たちも俺たちに手を貸す気はないだろう。学院のそれぞれのトップ5での連携訓練なのだが、すでに上手くいっていない。

 

 

「悪いけど、あいつらとは協力できそうにないわ。」

 

「まあ、無理に合わせようとしても、逆効果だろうな。」

 

「そう、よね……」

 

同意してくれるとは思っていなかったらしい。

 

「まっ、イッキたちの力を目の前で見せつけてあげればいいわよね。」

 

シンや俺は、今まで1人で戦ってきた。眼帯野郎と戦う時も、魔法と体術・剣術を複合して戦った。だから、マリアやオーグたちにとっての目標は俺たちであって、1人で戦えるようになるということだ。少しでも英雄に近づき、英雄になろうと考えている。

 

その考えは、俺たちの隣で戦うという目標とは矛盾しているだろうに。

 

 

「おっ、出番みたいだぞ。」

 

担当教官が、そう告げる。

 

 

深い森の奥に入っていくほど、魔物の臭いがする。

シンも索敵魔法で気づいたようだが、騎士学院生徒が自分達で討伐してみたいと言ったのだ。だから、戦闘態勢には入らない。初の実戦となるオーグ、マリア、シシリーは、俺たちとの距離を少しずつ狭めている。

 

 

紅い目の猪による、咆哮。

人の背丈を超える大きさで、禍々しい魔力を纏っている。

 

「美味そうだな。」

「……ああ。」

 

「し、シン君……?」

「よ、余裕なのね……」

「実戦経験が段違いだな。」

 

丸々太っている肉はさぞ脂身たっぷりだろう。惜しいことに、魔物化したことで隆起した筋肉のおかげで、肉質が非常に硬くなってしまっている。焼くことはまずないとして、何時間も煮たところで柔らかくはならないだろう。

 

「いくぞ! 俺達の実力を見せつけるんだ!」

『おお!!』

 

突進してくる猪に対して、騎士学院学生は剣を鞘から抜いて立ち向かっていく。

 

「うわぁ!?」

「キャッ!?」

 

剣の腹でその突進を抑えようとしたようだが、足腰の踏ん張りが足りない。彼ら彼女らは吹き飛ばされて木々に背中をぶつけていく。重い鎧を着ているとはいえ直進してくる敵の突進なのだから、避けることが最善手だろう。

 

「こっちにくるわ!」

 

「シン、俺がやる。」

 

魔力による身体強化を極めれば、片手で止められる。

 

 

「なん、だと……」

 

「これが、次世代の英雄、なのか……」

 

俺が猪の動きを止め、シンは首を斬り落とす。

血が噴き出したことによって、俺が返り血を浴びることになった。

 

 

マリアたちの顔は青ざめていく。

生き物を殺す覚悟が、まだまだ足りない証拠だ。

 

 

「燃やすか」

 

茂みの中から襲ってきた狼を鷲掴み。

そして、浴びた血も猪の死骸も纏めて、炎に包む。

 

すでに魔物化して命が尽きかけていたのだ。

 

 

生き物の焼ける臭いが、広がる。

口を手で抑えて、マリアたちは次々としゃがみこんでいった。

 

「……最初はこうなるよな。」

「ええ。」

 

同伴してくれた、騎士と魔導士が言う。

 

戦場に出るということは、『死』に慣れること。

それを、知ってほしかったのだろう。

 

 

「……あ、あの、回復魔法をかけます、ね。」

 

「シ、シシリー……?」

 

シシリーが一番に立ち上がり、騎士学院生徒を回復させていく。

 

 

「た、たすかる……」

 

「まさに聖女様だ……」

 

シンの眉が、ピクっとした。

 

「ありがとう。そして、すまなかった。」

「騎士が強いかどうか、それは関係ないのだな。」

「ああ。聖女様のような後方支援職を守り通すこと。」

「今は、聖女様。あなたを必ずやお守りしましょう!」

 

「私も、君を守らせてもらおう。」

 

「えっ、あの……」

 

騎士学院の女子が、シシリーの手に口づけをする。

どうやら自分達が、進むべき道を見つけたようだ。

 

 

「あきれた……。あいつらも似たようなものなのね。」

 

「親近感わいたみたいだな?」

 

「まあね。前衛でがんばってくれるって言うなら、悪い気はしないわ。」

 

マリアも、騎士と連携することに躊躇しなくなるだろう。得意なことが違うだけで、同年代だしな。

 

 

「……ちょっと、魔物を狩ってくる。ジーク兄ちゃん、みんなを頼んだよ。」

 

「お、おう……?」

 

シンが魔物の群れに向かっていったようだ。

すごい剣幕で。

 

 

 

俺たちは、先に野営に戻ることにした。シシリーと、彼ら彼女らの距離を、オーグが離れさせている。

 

「あっちゃー、ここら一帯の魔物が全滅しちゃうかも。」

 

「ああ。シンならできそうだよな。」

 

俺も久しぶりに暴れたい。

 

「そうじゃなくてね、やつあたりなのよ。」

 

「確かに、イライラしてたな。なんでだ?」

 

「じゃあ、さ……たとえば、私が騎士の口づけを貰ったら、どう?」

 

「どうって……、挨拶みたいなものだろ?」

 

「まあ、イッキにこういうことを聞いてみたのが、まちがいだったわね……」

 

「じゃあ、やってみたらわかるか。」

 

「え?」

 

見よう見まねで、膝を突いて、マリアの指に唇を触れさせる。柔らかく、よく手入れされた、細くて綺麗な指だなって思ったくらい。しかし、力をちょっと入れすぎると傷つけてしまうだろう。

 

「ぁぅ………ばか」

 

「ばか!?」

 

「ふふっ、先に行くわね。」

 

「結局、どういうことなんだよ!?」

 

「教えてあげなーい!」

 

綺麗な赤い髪が、揺れる。

 

女子の野営へシシリーと一緒に走っていくマリアを、俺は呆然と見ていた。

 

 

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