「ぅぷっ」
眼帯野郎の率いる魔人達は、帝国領の町や村を次々と襲っている。そして、戦力はどんどん増加し続けていると報告があったらしい。マリアたちが魔人と戦えるようになるために、長期休暇を利用した合宿を行うことになった。
シシリーの父ちゃんの領地まで、2日かかる。
馬車で。
馬車酔いしている。
「馬車にいつも乗りたがらないのは、こういうことだったのね……」
「もうムリ、俺だけ先に行かせてくれぇ~」
シシリーは必死に回復魔法をかけ続けてくれていた。
おいおい……と、シンやオーグも同情してくれる。
「イッキ君の、意外な弱点だね。」
「まさかシンの付与魔法でも手に負えないとは。」
「俺だって、なんでもできるわけじゃないんだけど。」
「「「……え?」」」
「最近、俺の扱いひどくない!?」
「そ、そんなことないよ。」
「少しくらい自重をしてほしいがな。」
「ほら、膝貸してあげるわよ。」
「ぉぅ……」
「かわいい……飼いたい……」
柔らかい枕で、頭をなでなでしてくれる。
「マリア!?」
「シン、羨ましそうだな?」
「な、なんのことかな。」
「あ、あの……」
「ちょっと待って。」
シンが索敵魔法を広げた。
「魔物が、こっちに来ている。」
「そうか。一度、馬車を止めてもらおう。」
「ぅぅ……止まったか~?」
「ええ。水飲む?」
マリアから水の入った革袋を手渡してくれた。
馬車の外からは、くじ引きの当たり外れで一喜一憂している声が聞こえる。
風の魔法が何度か発動しただけなようなので、それほど脅威ではなかったらしい。シンに匹敵しそうな威力が1人分あったのだが、誰の魔法だろうか。
「ただいま。」
「魔物がかわいそうなレベルだったぞ。」
「うっ、そう言われると……」
「やつあたり、したのね……」
残酷にもたった数分。
シンたちが乗り込んだ馬車は、再び出発する。
「ま、まってくれ~!」
「えっ、止まりますか?」
「いえ、そのままでお願いします。」
「ぅ」
「ふふっ」
マリアが、とても機嫌がいいようだった。
****
「着いたーー!!」
独特の臭いが立ちこめている街だ。
噂に聞く、温泉があちこちにあるからだろう。
賑やかな街で、多くの人が観光に訪れるらしい。
「イッキ君、元気になってよかったね。」
「そうね。でも、帰りが楽しみだわ。」
「確かに。おもしろいものが見れたな。」
「帰りは、飛んで帰るからな。」
「みんなで無事に帰るまでが合宿よ。」
日は暮れていて、明日に備えて休むことに。
シシリーの実家である館に、俺たちは合宿所として使わせてもらうことになっている。
「広いな!?」
「ほう、なかなかだ。」
温泉地で有名な場所の領主であるシシリーの父ちゃんの邸宅だからこそ、浴場がかなり広い。男女別々の浴場が1つずつ、そしてこの広さだ。次期国王であるオーグも認める、見事な設計の浴場らしい。マークに至っては、本当にこんな場所を使っていいのかとキョロキョロしている。
「生き返るのう……」
「だね。爺ちゃん。」
賢者の爺ちゃんは、長旅での疲れが特に溜まっていたらしい。
俺たちも湯船に浸かって、身体を思いっきり伸ばす。
この臭いのおかげだろうか、普通の湯船よりも身体に良さそうな気がする。
「シンに付き合ってくれてありがとうのう。」
「「「え?」」」
「マーリン殿……?」
「この子は、ずっと山奥で暮らしておったからのう、同い年の友人が一人もおらなんだ。」
賢者の爺ちゃんや導師の婆ちゃん、他にはオーグの父ちゃんやその護衛の人くらいとしか関わることがなかったらしい。15歳で成人して初めて、社会に出たことになるのだ。俺たちがシンにとって、学友になってくれたことが嬉しいのだろう。
「だから、ありがとう。」
「……俺も、対等に接することができる、従兄弟を得られて嬉しく思っていますよ。トールやユリウスとも、新しい関係を進めるようになりました。」
「オーグ様……」
「そうでござったな。」
あくまで、王族と、その護衛。
親から強制されて始まった関係だったけど、今は違う。
「この縁、大切にしたいと思っています。」
「もちろん。マークもトニーもだよな!」
「そうっす!」
「だね。」
「ほっほ、そうか。」
「でも、みんな。……俺はみんなを面倒事に巻き込んだんだよ?」
「いいえ。オーグと切磋琢磨できる機会、それをくれたことには本当に感謝しています。」
「拙者も、まだまだ上を目指すでござる。」
「俺も、もっとすごい武器を作ろうと思えたっす!」
「ていうか、気にしてたんだな。」
俺たち『エース』から学んだ、『ストライカー』。
一線を画する戦力として扱われることは、みんなの将来を変えてしまったことになる。
「こういうことだ、シン。シシリーたちも同じ思いだろう。」
「……そっか。」
「そうさ。君のおかげで、もっとモテモテになれそうだ。」
「トニーの願望は、ブレないな。」
浴場で、笑い合う声が響く。
温泉の心地よさで、いつもより会話が進んでいく。
「そういや、シンはシシリーと上手くやってんのか?」
「「「えっ!?」」」
「まさか……、嘘でござろう……?」
「なんだ、他の皆は知らなかったのか?」
出会った頃からシシリーとシンが、お互いに緊張して話せなくなる時があるのだ。
「いや、まさかイッキ君からこういう話を始めるとは……」
「予想外、ですね。」
「で、どうなんだ?」
「いや、まあ。ぼちぼちかなー?」
まだ、ギクシャクするときがあるってことか。
2人とももっと仲良くしたいはずなのに、恥ずかしがるからな。
「そうそう。騎士のくちづけ、っていうやつをしたら、女子は喜ぶらしいぞ。」
「確かにそうなんだが。」
「もしかして、やったのかい?」
「ああ。一度は試したぞ。」
オーグやトニーが正しいことだって言ってくれたし、また訓練をがんばったマリアにやってやろう。
「まさか、イッキの方が進んでいるとは。」
「マリアの苦労が報われるな。」
「あいつ、苦労してたのか?」
「……なるほど。まだまだ苦労しそうだ。」
やっぱり、いつものイッキだ。
そんな目で俺を見てくるけれど、イメチェンしたつもりはない。
「シシリーとシンさんは、かなり奥手ですよね。」
「奥手で悪かったね。」
「俺も、イッキさんのような勇気があれば……」
「マーク。イッキを目標にしたら駄目でござるよ。」
「なんでだ、ユリウス!?」
「そうだったな。マークもオリビアも、奥手だったな。」
「なんでバラすんすか!?」
「オリビア本人以外は気づいているぞ?」
「鈍感3人組は、すでにハートキャッチしているみたいだね。」
「「ほ、ほんと……?」」
「俺って、鈍感なのか?」
「ともかく。フリーなのは、リンとユーリ、あとアリスか。」
「ユーリはたぶん年上好き。リンは研究者気質。アリスはまだまだ憧れしか抱いていないよね。」
「トニー、よく見ているでござるな。」
「僕もユリウスも婚約者がいますし、本格的に全員彼女持ちになりそうですね。トニーは別として。」
「僕はまだまだ遊びたいのさ。」
「ほっほ。若いことはいいのう。」
「マーリン様は、メリダ様とはどうなので?」
「わ、儂の話はいいじゃろう!?」
これはガールズトークってやつなのだろう。
みんなの反応が、よく似ている。
****
転移魔法でシンの練習場へ行き、各自訓練。
時には、座学で魔法を学ぶ。
オーグの婚約者や、妹が訪れたこともあった。
そして、温泉で身体を癒し、夜はしっかり休む。
俺たちの訓練は何日も続いていた。賢者の爺ちゃんや導師の婆ちゃんも手伝ってくれている。俺自身、魔力制御がさらに上達したし、もっと強力な魔法を放てるようになるだろう。そして風魔法の応用による浮遊魔法を開発したシンは、みんなにそれを教えた。
基礎を固めつつ、応用も。
個人レッスンや模擬戦が行われていて、2チームに分かれた戦いだってしている。魔物討伐による実戦訓練も開始している。みんなが協力すれば、災害級という最高位の魔物にだって勝てた。
「火竜の、咆哮!」
「これなら!!」
風で、炎の軌道を逸らされる。
スカートからズボンへと履き替え、マリアは風魔法を主体とした空中戦を得意とするようになった。ちゃんと自分に合った戦い方を模索して、どんどん強くなっている。
「ペネトレイト・ソニック!!」
機動性の高い動きで、俺のラッシュもなんとか避けることができていた。もし危なくなったら、『ゲート』で一気に後退し、遠距離から強力な風の刃を放ってくる。
右手を薙ぎ払って発生させた、爆炎で刃を打ち消す。
「はぁはぁ……」
ゆっくりと地面に降りて、マリアはへたり込んだ。
「風の魔法、ずいぶん上達したな。」
「おかげ様でね。パンチで吹っ飛ばされるわ、爆圧に吹っ飛ばされるわ。イメージに役立つような風を、無理やり感じさせられたからよ。」
「そっか!」
「いや、感謝はしているんだけどね……」
今日の訓練はそろそろ終わりにするか。
もう少しで、ご飯の時間だし。
「シシリーたち、まだ根掘り葉掘り聞かれているのかしらねー」
「ようやく自分の気持ちに素直になったって感じだよな。」
「気持ち、ねぇ」
シシリーとシンがいつの間にか抜け出していて。
2人で星空を見ながら、好きだということを伝え合った。それをこっそり俺たちが見ていた。
そうしたら、2人は婚約者となっていた。
「婚約者って、あれだろ? マリアの父ちゃんと母ちゃんのような関係。夫婦になる、その約束みたいなもの。」
「そうね。一緒に暮らして、支え合って、生きていく。1番大切な関係のことね。」
「なるほどなぁ」
「そうなのよ。女の子の憧れね。」
たしか、
自分でパートナーを見つけるっていうのが家訓らしいよな。
「じゃあ、俺一緒に1番の夫婦を目指すか!」
マリアが固まる。
「どうした?」
「ここここ告白!? うそでしょ!イッキから!?」
「そんなに驚くことなのか?」
「だってあんた、恋愛ごとにすっごい疎いじゃない!」
「マリアの父ちゃんの言うアプローチ、いろいろ試してたんだけどな。」
「お父様!? てか、両片想いだったんだ……」
シンが言っていた、お姫様抱っこというやつだ。
別にマリアは姫じゃないけど。
「ちょ、ちょっと! みんなに、見られる……」
「でもよ。がんばったし疲れただろ?」
「うん。………大好きよ、イッキ。愛してるわ。」
「おう。俺もマリアが1番好きだぞ!」
今は、真昼間。
マリアは、ヘトヘトだし。
「まったく、ロマンチックの欠片もないわよね。」
「昨日のシンとシシリーみたいなことをやった方が良かったのか?」
「いいえ。こういうのが、私たちらしいわ。」
「そっか。でも、もっとシンたちには負けられなくなったな。」
「ふふっ、そうね」
「燃えてきたー!」
「うん、燃えてきた……」
泣きながら、微笑む。
マリアの笑顔を見られるのが、ずっと好きなんだ。
「想い、ちゃんと伝わっていたんだなぁ」
「ご、ごめんな?」
「ううん。安心しただけよ。」
「それは、どういうことだ?」
「……どんどん強くなって、次世代の英雄と呼ばれるようになって。もう私なんかが釣り合わないようになって。ずっとずっと遠い存在になってしまうのかも、ってね。」
「マリアのこと、俺は……」
「いいの。追いつくから。前に進んでいけるあなただからこそ、心配なの。」
「そっか。」
「絶対に生きてよね。まだまだもっと一緒にいたいから。」
「ああ、炎に誓う」
戦いの日は、近い