火竜の息子   作:ヒラメもち

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第9話 家族

 

クルト王国の一帯は小麦畑が多く、全世界において小麦の最高レベルのシェアを持っている。そんな平和で豊かな国に、魔人が現れたが、一部の小麦畑が被害を受けただけで済んだ。そう、魔王が率いるアルティメットマジシャンズのおかげだ。

 

「シン、ずいぶん暴れたみたいだな!」

 

「イッキにだけは、言われなくなかったな!」

 

「なんていうか、どんまい!」

 

俺の滅竜魔法は大火事になる恐れがあるからって、城壁の上にメイやマリーと一緒にいた。羊の魔物と戦った時も小麦畑で魔人と戦った時も、俺はお留守番だった。

 

「シ、シン君。だれだってミスすることはありますから。」

 

「自重しなかっただけ。」

 

「爆発魔法を使っちゃったんすよね。」

 

シンが意気消沈し、シシリーが慌てふためく。

 

「まあ、クルト国王も犠牲者が出なかったことを一番喜んでいたぞ。」

 

「しかしそのうち、街がふっとびそうでござるな。」

 

「魔王の名は、世界に広まるでしょうね。」

 

「やめてくれぇ~」

 

魔法使いの王、いい称号だと思う。

全世界の魔法使いの王、つまり世界最強。

 

「ていうか、火竜が世界最強だー!」

 

「はいはい。せかいさいきょーよね。」

 

「マリアだって、こう言ってる!」

 

「あー、うん、そうよー。だから、暴れに行かないでね。」

 

「ああ。世界最強はむやみやたらに力をふるわないからな!」

 

「魔王の称号、あげようか?」

 

「いらない。魔法使いの王じゃなくてドラゴンだし。」

 

 

温かい目で、みんなが俺を見てくれる。

これからの活躍を、応援してくれているのだろう。

 

 

「今となっては、私たちも非常識扱いなのよね。」

 

「2人ほど非常識になったわけではないですけどね。」

 

「まさか、俺があの魔人に勝てるとは思わなかったすよ!」

 

「……しかし違和感がないか?」

 

「それはまあ、下手すると魔物より強くないわよねぇ?」

 

「あくまで、人工魔人なんだろう。」

 

「ああ。あいつらは信念がまるで足りない。カートと戦った時ほど、滾らない。」

 

「なんで、そういうところは鋭いのよ……」

 

「シュトロームの魔力、今回も感じませんでした。」

 

「索敵が最も得意なシシリーが言うのなら、今回もはぐれ魔人か。」

 

「あー、………眼帯野郎のことか。」

 

「何はともあれ、帝国に攻めるのは休暇が明けてからになるだろうな。」

 

「それなら、みんなで遊びに行きましょう!」

 

「……1日くらい、魔人たちのことを忘れて遊ぼうか。」

 

「オーグ君、さっすがー!」

 

「拙者の実家など、どうでござろう。魔人騒ぎの影響で、キャンセルが多いでござるよ。今だけは、貸切もできるでござる。」

 

「そうねぇ。貴族御用達のリゾート地、行ってみたいわぁ。」

 

「女の子にちやほやされるのも悪くないけど、たまには静かな場所もいいよね。」

 

「あたし、海がいいー!」

 

「山には何年も住んでいたらからな。」

 

「それを言うなら、私たちは海だけど。まあ、久しぶりにビーチに行ってみたいから、いいわよ。シシリー、みんなで水着を選んでおきましょう。」

 

「うん。……楽しみに、しててね?」

 

水着はこの世界にもあるんだな……とボソッとシンが呟いたのが、俺には聞こえた。

 

 

 

****

 

 

「ぅぷ」

 

アルティメットマジシャンズメンバー全員の家族も一緒に行くことになった。晴天で気温も高すぎず、綺麗な砂浜は広大で、海も穏やかで澄んでいる。マリアの父ちゃんの領地だと、こういう浅瀬はほとんどない。

 

水着にはビキニとかパレオとか種類があるのだとか、女子の胸の大きさがどうこうとか、ビーチバレーだとか、男子の筋肉がすごいとか、そんなことをみんなは楽しんでいるけれど、そんなことはどうでもいい。

 

「シンに、俺はやられたんだ……」

 

白い素肌と緑色の布が、視界に入った。

ずいぶんと細くて、ちゃんと肉を食べているのだろうか。

 

「意気揚々と、シンから貸してもらったボート片手に海に行っただけでしょ。」

 

「ぅん……」

 

「馬車でも船でもないのに、酔うのね。」

 

浮き輪や小型ボート、海で浮く素材を使った物は泳ぐ時の補助になるらしい。リンやメイは浮き輪を使ってプカプカと浮かんでいるし、シンとシシリーはボートで一緒に遠くで釣りをしている。

 

「こういうときのイッキって、ほんっとうにかわいいのよねー?」

 

「あらあら、海で泳がないのですの?」

 

マリアと同じ赤色の髪の女性が、日傘を差して歩いてくる。

 

「お母様。」

 

「ぉぅ……」

 

「まあっ、大変。イッキ君は何かあったの?」

 

「酔ったのよ。」

 

「あらあら、大変ね。」

 

視界が真っ暗になって、むにむに柔らかいものに顔が挟まれる。

 

「ちょ、ちょっと!!」

 

「マリアには、後でやってあげるからね。」

 

「そ、そういうのは、ここじゃダメでしょ。」

 

「成人する前、よくしてあげたわねぇ。」

 

「はわわ……、ねぇ、聞かれてないわよね! みんな、こっち見てないわよね!?」

 

「そろそろ、マリアに返してあげなさい。」

「あなた!」

 

「ぅへっ」

「きゃっ」

 

浮遊感の後、また柔らかいものに包まれる。

 

「ナイス、シュート」

「相変わらず心地いい声ですわね、あなた」

「君は、永遠のアイドルだよ。」

「アイドル……?」

「最高の、褒め言葉さ。」

「まあっ!」

 

「お、お父様も来たのですね。」

 

「ああ。泳いできた。」

 

「意外と身近に、非常識がいたんだった……」

 

漁が何たるかをよく語る、ダンディーなおっちゃんだ。衰えることのない引き締まった身体で銛を振るい、海の中の魔物とよく戦っている。泳ぎながら研ぎ澄まされた水魔法は、シンにも匹敵するかもしれない。

 

「イッキ、それでは船に乗れないようだね。」

 

「お父様も船に乗らないでしょ!?」

 

「基本的に、急いでいる時が多いからね。それにしても、マリアもずいぶんと成長したようだな。イッキに太刀打ちできる女性はそう多くはない。」

 

「そ、そうかしら……」

 

「まさかイッキを射止めるとはな。」

 

「そっちか!? いや、嬉しいことなんだけど!」

 

「ギャルゲで言うところの鈍感主人公かと思いきや、恋愛感情が乏しい野性的なヒーロー。女性主人公による攻略は前途多難だったはずだ。クリアおめでとう、マリア。だがしかし、ここからが本番だぞ。」

 

「なんかすげーな!」

「まあっ、マリアはすごいのね!」

 

「褒められている気がしないわよ……。相変わらず、お父様はたまに不思議なことを言いますよね。」

 

「そうよ、結婚式のことを考えなくちゃ!」

 

「はい。場所は、故郷の教会。お父様とお母様が永遠の愛を誓い合った教会がいいと考えております。魔人の件が終わったらすぐにでも。シシリーたちには先を越させません。」

 

いつ、決めたのだろう。

 

「ふっ、そうか。領地のことは私や漁師に任せておけばいいし、魔人のことは思いっきりやってきなさい。」

 

「……私の故郷、魔人が来ても大丈夫そうなのよね。」

 

海を嘗めていては命を落としかねない。荒波の中を泳ぐことができ、そして魔物化した海の生物と戦うためにも、漁師は屈強でなければならない。体術の訓練として、よく彼らに俺も混じっていた。

 

「では、私たちはコテージに戻ろうか。」

 

「私。かわいい孫が欲しいわ。」

 

「それはまだ先!」

 

「あらあら。」

 

ごゆっくり~と手を振っている母ちゃんに歩幅を合わせてゆっくりと歩いていくおっさんは、やっぱりダンディーなおっさんだと思う。出会った頃からずっと変わらず、温かい家族なのだ。

 

 

「マリアの母ちゃんって孫が欲しいのか?」

 

「いや、まあ、そうなんだけどね。」

 

「家族が増えるって、いいことだと思うからな。」

 

「もうっ……ほんとにこっちが気にしてばかりなのね。」

 

 

今回海に訪れているのは、学院生徒とその家族。

ここに、父ちゃんはいない。

 

 

「うじうじしてたら。ぶん殴られるからな!」

 

「そっか!」

 

だから今日も、未来を目指す。

 

 

 

***

 

高温高圧、それが魔石ができる条件。

 

そのことにシンが気づいた。魔石は魔力を溜め込む性質があって、常時発動の魔道具の材料として使われているが、貴重な物のためほとんど流通しなかった。俺も奥の手を使うためにいくつか持っているが、その数には限りがある。しかし高温高圧及び障壁魔法による環境の確保さえできれば、魔法で作れることをシンから教えられた。オーグたちの判断で公表されていない上に、超高難度の魔法を重複させる必要があるから、まだ魔石の数は一気に増加していることはない。

 

さすが導師の孫であって、魔道具の王というところだろう。病気耐性や避妊、毒耐性の効果のある魔道具を作って渡された。そして、遠く離れてても話せる魔道具を作った。他にも乗り物を作ろうとしているって聞いたはずなのだが、説明から想像しただけで酔ったので途中から話を聞いていない。

 

シシリーやマリア、オリビアが顔真っ赤なのは、一体何があったのだろうか。まあ、そんな疑問はまた無理やり乗せられた馬車のせいで、たちまち消えてしまった。2日間もかかった旅路は、思い出しただけでも酔いそうだ。

 

アールスハイド王国と、エルス自由商業連合国やイース神聖国との三国会談が行われるためだ。簡単に言えば、1つの王国で眼帯野郎をどうにかすると、後でしこりを残すからだ。まあ、オーグと、ユリウスやトールがいれば交渉ごとで負けるはずはない。たった2日間で対魔人領連合を形成した。

 

 

「まさか、シシリーにもオリビアにも先を越されるなんて」

 

「誤解だからね!」

「そ、そう! 昨日はぐっすりだったよ!」

 

「ほんとにー?」

 

それにしても、イース神聖国の大司教による刺客をぶっ飛ばしたのは、馬車酔いによるストレスのいい発散になった。昨晩は、聖女であるシシリーは攫われそうになったのだ。シシリーの緊張の糸が途切れた後は、シンに抱きついてそのまま寝てしまったはずだ。

 

深夜にやることなんて、寝るか夜食かだろうけど。

 

「シシリーも、シンのおかげで持ち直したみたいね。」

 

「うん。」

 

「よしっ、大司教のやつをぶん殴るのはシンに譲る!」

 

「いやもう、本国に連れて行かれたよ。極刑になるって。」

 

「なん……だと……」

 

「わ、私はもう大丈夫だからね!」

 

「それならいいや。」

 

「いいんだな……」

 

父ちゃんとは別れて、それからたくさんの人と出会って、今は多くの仲間に恵まれている。シシリーもマリアもとにかくつよくなったけれど、今となっては彼女たちなしの生活なんて俺たちは考えられない。

 

「シシリー、やっぱり戦うのか?」

 

「うん。まだちょっと怖いんだけど、シン君がいない時間の方が怖いかなって。シン君は1人で何でもできるけど、何があるかわからないから。みんなのことを守ってくれるシン君を一番守りたいの。」

 

「そうか。」

 

「でも、私たちがまさか最高戦力になるとはねぇ」

 

「シン君のおかげだよね。」

 

 

 

俺たちは、手を重ねた。

 

「私たちの魔法が誰かのためになるのなら。」

「うん。少しでも多くの人を救いたいよね。」

 

「絶対に魔人たちの好き勝手にさせない。」

「ああ。ぶん殴って、眼帯野郎は絶対カートに謝らせる!」

 

世界の命運を分ける戦争が、始まる。

 

 

 

 

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