――照和十四年、四月一日海軍省――
「(私は確かにあの時、ブーゲンビル島上空で死んだ筈だった。しかし私が目覚めれば三十八年も前の日本海海戦の装甲巡洋艦日進の艦内だった)」
海軍次官の高野五十六中将はそう思っていた。
「(私は後世世界に転生したのだ。だがこの後世世界も破滅の世界を歩もうとしている。運命の開戦日まであまり時間がない……急がねばッ!! 日本を戦火から救うためには……)」
高野五十六はそう誓っていた。
「(……だが、この後世世界の日本は少し前世とは違う……)」
高野はそう言って聯合艦隊の編成表の頁を捲った。
「(戦艦は金剛型、扶桑型、伊勢型、長門型とあるが扶桑型はワシントン軍縮の時に空母へ改装されて三十ノットの高速空母に生まれ変わっている。しかも赤城と天城、加賀も空母になっている)」
大型の正規空母は五隻と前世より異なっていたのだ。更に空母龍驤は史実のように転覆する可能性は無くなっており、飛行甲板前縁は艦首まで延びていた。また、同型として二番艦神驤も存在していた。
「(それに重巡も名前は同じだが、調べてみると生産性、生存性、防御に適した艦艇になっている。これは明らかにおかしい。長門型も主砲が四六サンチ砲に搭載出来るよう設計され、実際に搭載されている。駆逐艦も睦月型は前世と同じ性能だが、吹雪型からの駆逐艦は陽炎型か夕雲型の性能をしている)」
高野はそこまで考えた時、ある事を悟った。
「(我々が作った紺碧会の他にも誰か転生者はいるのだ。それも権力がある者だ)」
紺碧会はその人物を紺碧会に招き入れようとしていたが、当の人物が誰かは分からないのだ。
「(今日は研究会だ。何かしらの報告があるかもしれんな)」
高野はそう思い、門に待機している車に向かうのであった。
高野は暴漢に襲われた傷を癒して再び海軍省にいた。
「おぉ高野次官。先日は大変だったそうだな、指も二本を失ったのだろう?」
「これは宮様」
高野に声をかけてきたのは軍令部総長の伏見宮博恭王だった。
「暫くは不便かもしれんが頑張ってくれ」
「はは」
「そうだ、また将棋でもやろうか」
「それはそれは」
高野は宮様と他愛な話をして分かれた。
「(宮様……か……)」
高野は先日に行われた紺碧会での事を思い出していた。料亭に集まった転生者で結成された紺碧会の人員は一同に高野にこう言った。
『宮様は転生者ではないのでしょうか?』
それは高野にとっても有りうる話だった。艦艇の事もそうであり、権力がある者だとすれば人物は限られてくる。しかも宮様は未だに独身であった。(前世では既に結婚をしている)
「(……果たして宮様が転生者なのだろうか……)」
高野はそう思いながらも宮様と将棋を打っている時、口に出そうとしたが出さなかった。
転生者の事は超重要機密でありおいそれとは出せなかったのだ。
そして時は過ぎ、高野は陸軍の大高中将と接触をして陸軍とクーデターを起こす事を決意した。
照和十六年十月十八日、南条英機内閣が成立し、その月の二十六日に高杉航空機動艦隊は択捉島単冠湾を密かに出撃をした。
そして十二月一日、高野はいまだ軍令部総長の宮様から開戦決定の奉勅を渡された。
「(やはり歴史は繰り返している……だが今夜から歴史は変わるッ!!)」
同日午後十一時、大高中将率いる二万五千の陸軍清風会部隊は帝都を襲った。それに呼応するかのように高野が指揮する陸戦隊は海軍省と軍令部を襲撃してこれを占拠した。
直ちに首都圏に対して戒厳令が敷かれ、市内要所には陸軍の九七式中戦車が防衛した。
そして大高新政権が樹立し、軍令部総長には高野五十六が就任する事になった。
「……宮様、申し訳ありませんが……」
「ま、構わんよ高野長官……いや高野総長だったね」
宮様はにこやかにそう言って総長の椅子を高野に渡した。
「それで私は予備役かね?」
「は、申し訳ありませんが……」
「いや構わないよ。読書をする時間が増えるしやりたい事もあるからね」
宮様はそう言って部屋を出ようと扉を開けた。
「それじゃあ後は頼んだよ……山本五十六」
「ッ!?」
宮様はそう言って扉を閉めた。
「……ふぅ、高野達が動き出したか」
宮様は質素な自宅に戻ってそう呟いた。部屋の周りには多数の本が置かれていた。
「宮様に転生してから何十年……漸く落ち着いて暮らせるな」
宮様に転生したのは現代の大学生の男だった。男は宮様に転生してからは日本のためにと働いた。
「長門型に四六サンチ砲を搭載させたし俺の仕事は終わりだ。さぁて明日から歴史本を一から見直すとするかな」
宮様はそう言ってコーヒーを入れて歴史本を読み始めるのであった。
しかし、それを高野達は許さなかった。高野達は宮様の自宅を訪れて復帰願いをしたのだ。
「私の役目は終わったのだよ。後は君達に任せるよ」
「ですが、我々には宮様の力が必要であります」
「過大評価だよ高野総長。君達は上手く日本の政治を行っている。それは既に証明されているよ」
「ですが宮様……」
「くどいよ高野総長。私の役目はもう終わったのだよ」
なおも食い下がろうとした高野に宮様はそう諭した。高野は宮様の復帰を一旦諦める事にしてアメリカとの戦争に集中するのであった。
「全く……俺がいなくても日本は大丈夫だよ高野総長」
宮様はそう言って再び歴史本に視線を向けた。これ以後、宮様が表に出る事は無かったのである。
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