「ポーツマスで講和したか……」
俺は部下からの報告にそう呟いた。
「ですが宮様。これで我が日本は列強の仲間入りを果たしたわけです」
「……そうだな」
時は明冶三八年、日露戦争は日本海軍がバルチック艦隊を日本海海戦で撃ち破った事により史実通りに日本が勝利した。
「(歴史は史実通りに進んでいる……何としても史実のような日本の敗北は阻止しないとな)」
俺はそう思う。さて、そろそろお気付きかもしれないが明冶という年号……俺が知っている年号は明治なんだ。
この明冶という年号が使われているのは一つの作品しかない。
『紺碧の艦隊』は明冶という年号を使用している。つまり、この世界は『紺碧の艦隊』が始まる世界なんだ。
それと俺は転生者……というか憑依だな。俺は交通事故で気付いたらこの世界にいた。しかも憑依していたのは宮様のあだ名がある伏見宮博恭王なんだよなこれが。
憑依した年は1895年、明冶二八年だ。史実なら明治三十年に徳川経子と成婚するが明冶三十年にそのような話は無かった。
それは兎も角、日本はロシアに勝利したのは間違いない。そして俺は宮様として史実同様の経歴を担った。
「欧州で戦争か……」
1914年、オーストリアのサラエボ事件を契機にヨーロッパで第一次世界大戦が勃発した。
日本は連合国側の一員として参戦して山東省の青島を攻略、更にドイツが植民地支配していた南洋諸島を攻略した。
「我が日本陸海軍も欧州に派遣部隊を送るべきだ!!」
俺はそう唱え、海軍は史実より早めの1916年に巡洋艦明石、出雲、八雲、駆逐艦十六隻が第二特務艦隊としてマルタに派遣された。そして俺は第二特務艦隊司令長官となって客船や輸送船の護衛を積極的に勤めた。その間に駆逐艦榊が史実通りに大破してしまったが無事に解隊するまで司令長官をしていた。
なお、イギリス国王ジョージ五世から勲章を受けた。
その後、世界大戦は史実通りの被害となり1918年に終結した。
その後も俺は宮様として史実通りの昇進を重ねていた。ちなみに趣味は俺自身が歴史好きとあり家には大量の歴史本があった。
そして1922年、ワシントン海軍軍縮条約が締結された。日本は八八艦隊(戦艦八隻、巡洋戦艦八隻)を構想していたが軍縮会議で御破算となった。
「既存の戦艦を全て強化すべきだ!!」
俺は加藤友三郎にそう語り、東郷平八郎や加藤寛治等に根回しをして旧式の香取型や薩摩型、筑波型、鞍馬型といった旧式戦艦を新たに創設した海上護衛隊に編入させた。
海上護衛隊は史実の海上護衛隊を模範としている。海上護衛隊には江風型、峯風型といった旧式駆逐艦も配備されており後に神風型や睦月型駆逐艦も配備された。
そして戦艦の強化とし艦本に長門型の四六サンチ砲の搭載や戦艦の高速化を計画させた。
「今度はロンドン軍縮会議か……」
1930年、ロンドンで補助艦保有量の制限を目的とした国際会議が開かれた。
この会議で日本は史実通りの保有量にする事となり後に浜口内閣は条約を批准した。
この批准でマスコミや野党が浜口内閣への批判を開始し、海軍内部でも「統帥権干犯問題」が上がったが俺はそれを火消しした。
「与野党の政争のために陛下の統帥権を持ち出すな!!」
日本の皇族でもある俺のこの発言で与野党はそれ以後統帥権干犯問題を提起しなくなった。
火消しはしたと思ったがそれでも後に浜口首相は狙撃されてしまった。
「首相を暗殺してどうする……」
報告を聞いた俺は溜め息を吐いた。そして1932年二月、俺は軍令部総長に就任した。前年の末に陸軍参謀総長に閑院宮載仁親王が就任していたからそのバランスを取るためだったが俺にとっては好都合だ。
「大量生産がしやすく防御、修理がしやすい艦艇を建造するのだ」
艦政本部に俺はそう具申しておいた。これにより最上型の設計は若干変更されて最上の竣工は史実より遅れた。これにより第四艦隊事件に最上が遭遇する事は無かった。
「扶桑型の空母改装を計画せよ」
「ふ、扶桑型を空母に改装するのですか?」
俺の言葉に軍令部次長の加藤隆義は驚いた表情をしていたが俺はそれを無視した。
「構わん。正直に言えば扶桑型は防御に難がある。欠陥に近い戦艦だ、それなら発展性がある空母に改装して扶桑と山城に活躍の場を与えるのが儂の指命だ」
「……判りました。直ぐに艦本に指示を出します」
加藤も頷いて扶桑型は空母に改装される事になった。
「それと長門型も大改装をして四八サンチか四六サンチを搭載出来るようにしよう」
「長門型もですか!?」
長門型の改装に大艦巨砲主義者は狂喜乱舞をしていた。その一方で航空主義者達は長門型の改装に疑問視していたが扶桑型が空母に改装されるので表立って口を開く者はいなかった。
一方で頭を抱えていたのは艦本の人間である。
「四六サンチに改装しろとか……靴を履き替えるんじゃないぞ」
艦本の人間はそう呟いた。ワシントン軍縮会議の時に計画していた事だが本当に実行するとは思わなかったらしい。
それは兎も角、長門型の改装は急ピッチで行われた。その間にも電探の開発をしたり史実の開戦に備えた。
「何? 高野中将が暴漢に襲われただと?」
「はい、左手の指二本を失ったようです」
照和十四年の四月の事だった。
「そうか……」
数日後、犯人と警官が逮捕され背後に陸軍の中堅将校グループがいたことが判明した。これにより陸軍の発言力は低下した。
そして一ヶ月後、高野中将が出仕した。
「やぁ高野中将。先日は大変だったらしいね」
「これは宮様」
「気を付けてくれ。また君と碁を打ちたいからね」
「ありがとうございます宮様」
高野中将とはよく碁を打っていたが連戦連敗だったりする。
……やはり高野中将は山本五十六だな。アニメと同じ顔だしな。それに紺碧の艦隊通りなら俺は恐らく……いや今はそれを考えないようにしよう。
時は過ぎ照和十六年、十月十八南条英機内閣が成立し、その月の二十六日に高杉航空機動艦隊は択捉島単冠湾を密かに出撃をした。
そして十二月一日、高野はいまだ軍令部総長の俺から開戦決定の奉勅を渡された。
「(やはり歴史は繰り返している……だが今夜から歴史は変わるッ!!)」
同日午後十一時、大高中将率いる二万五千の陸軍清風会部隊は帝都を襲った。それに呼応するかのように高野が指揮する陸戦隊は海軍省と軍令部を襲撃した。
「み、宮様!! 武装した陸戦隊がなだれ込んできました!!」
……遂に来たか。
「隊長を連れて来い」
程なく陸戦隊隊長が総長室に入ってきた。
「総長、既に包囲をしています。無駄な事はしない事です」
「……主犯は高野長官と大高中将かね?」
「……私はあまり知りません」
「……そうか。では大人しくしておこう」
俺はにこやかにそう言った。そして陸戦隊は海軍省と軍令部を占拠した。
直ちに首都圏に対して戒厳令が敷かれ、市内要所には陸軍の九七式中戦車などが防衛した。
そして時を置かずとして大高新政権が樹立し、軍令部総長には高野五十六が就任する事になった。
「……宮様、申し訳ありませんが……」
「ま、構わんよ高野長官……いや高野総長だったね」
俺はにこやかにそう言って総長の椅子を高野に渡した。
「それで私は予備役かね?」
「は、申し訳ありませんが……」
「いや構わないよ。読書をする時間が増えるしやりたい事もあるからね」
俺はそう言って部屋を出ようと扉を開けた。
「それじゃあ後は頼んだよ……山本五十六」
「ッ!?」
驚いた表情をしている高野総長に俺はそう言って扉を閉めた。
「……ふぅ、高野達が動き出したか」
俺は本だらけの自宅に戻ってそう呟いた。部屋の周りには多数の本が置かれている。
「宮様に転生してから何十年……漸く落ち着いて暮らせるな」
俺はお茶を飲みながらそう呟いた。
「長門型に四六サンチ砲を搭載させたし俺の仕事は終わりだ。さぁて明日から歴史本を一から見直すとするかな」
俺はそう言って歴史本を読み始めるのであった。しかし、それを高野達は許さなかった。高野達は俺の自宅を訪れて復帰願いをしたのだ。
「私の役目は終わったのだよ高野総長。後は君達に任せるよ」
「ですが、我々には宮様の力が必要であります」
「過大評価だよ高野総長。君達は上手く日本の政治を行っている。それは既に証明されているよ」
「ですが宮様……」
「くどいよ高野総長。私の役目はもう終わったのだよ」
なおも食い下がろうとした高野に俺はそう諭した。てか予備役じゃないと遺跡を見に行ったり出来ないしな。高野は諦めていない表情をしながら帰っていった。
「全く……俺がいなくても日本は大丈夫だよ高野総長」
俺はそう言って再び歴史本に視線を向けた。
「さて、どの遺跡を観に行こうかな……」
これ以後、俺が海軍の中に戻る事は無かったのである。
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