失意の底で見つけたパライソ。
その輝きに魅入る。
そんなお話。
燃えるような夕焼け
草木を揺らす風の音
一面の
そこに佇む女性
幾度もその理想を目指したが
その光景を超える一枚を描くことはできなかった。
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私の人生は挫折ばかりの人生でした。
私は1853年オランダ北部のズンデル村に牧師の子として生を受けました。しかし、寄宿学校を中退後、画商や教師など職を転々とするなかで、社会下層の人々を救おうと親がしていた牧師の道を目指しましたが私の生来の気質と合わずに結局挫折しました。
失意の中、27歳になった時に故郷の風景や貧しい農民の生活を描くことで絵画を取り扱う富裕層に社会下層の農民や町人を救済させようと試みました。
その為に、画商をしている弟テオを頼り芸術の都パリへと向かいます。
パリにいた時はパリで一世を風靡していた印象派の画家たちや、ジャポンの浮世絵に多大な影響を受け意欲的にそれらを私の作風に取り入れ様々な作品の制作に邁進します。しかしここでも生来の気性が災いし、周囲との確執を生み心身を病んでしまい、アルコールに依存して暴れ、弟のテオに半ば追い出されるような形で療養のため南仏アルルへ移住することを決意しました。
アルルは美しかった。目眩を感じるほどに。
一面のオリーブ畑にブドウ畑、ラベンダー畑にアイリスの花といったのどかな風景が広がる美しいアルピーユ山脈。水が美しいエメラルドと豊かな青の広がりを生み出していました。ここ南フランスは私にとって本当に天国のような場所でした。パリに居た時にジャポンの浮世絵で見たような世界そのものだったのです。
私はこの美しさをパリで知り合った画家仲間たちに共有しようと勇み手紙をしたため、芸術家のコロニーを作ることを夢見ました。
しかし、このコロニー「黄色い家」へ実際に来てくれたのはポールだけだった。そのポールとも事あるごとに衝突を起こしてしまい、思わず喧嘩別れをするかのように絵具を一式持って家を飛び出て、陽の照らされる街中をその喧騒から流れるようにして様々な自然が彩る畑の中を夢遊病者のようにさ迷う。
ブドウ畑では熟れ始めた収穫時期が早いものを農夫たちがいそいそと腰に下げている籠に納めて行くのが見える。土や草木のありのままの匂いが香ばしく私の五感を刺激する。何か絵の題材になるようなものはないかなとブドウ畑を臨みながらあぜ道を当てもなく歩き続ける。
家を飛び出してすぐに戻るのはバツが悪い。またポールに嫌味を言われるのも嫌なのでお互いの苛立ちが落ち着くまで、日暮れごろに帰ろうと思っていると、視界は急に薄暗く色を無くしていき、はたと気づいた時には滝にでも打たれたか、氷嚢でも打ち破ったかと思われるような狂的な夕立に遭った。
この時期の天候は変わりやすいもので、教師をしていた時期も子供達を急いで校舎に入れたものだなと物思いにふけりながらあぜ道を外れ、画材が濡れないようにブドウの木の下で雨宿りをする。
幸いにして、この雨は通り雨のようですぐに止み、あぜ道に大きな水溜りを残して、不吉な色をした薄暗い雨雲は町の方へ行ってしまった。遠くでその音がしている。ポールも今頃苦労をしているだろう。彼が雨雲に気づき洗濯物をしまいこんでいることを祈るのみだ。
遠くに見える雨雲を尻目に、その過ぎ去った跡ではまだ明るい夕日に大きな七色のアーチが優しく輝いていた。
そういえば、小さな頃母が「虹の下には信じられないお宝が眠っているのよ。」と冗談交じりに教えてくれた。この歳になってそんなことはあり得ないと知りつつもその優しいウソを信じてみようと不思議に思いながらも足取りは軽く、春に浮かれる蝶のように虹へと惹かれていった。
まず、目に付いたのは一面を照らす黄金の輝きだった。
その美しさは瞼を閉じても感じる存在感を私の網膜へと焼き付けて止みませんでした。
惚ける様にその光景を眺めていたら、いつのまにか視界には身なりのしゃんとした二人の侍従を連れた、一際見た目麗しい令嬢がその黄金の輝き、向日葵畑にある一輪を愛でていました。
夕立の後の燃える様な夕焼け。
女性の姿を際立たせる向日葵。
この光景を祝福するかの様な草木の声。
嫋やかに向日葵に差し出される女性の掌。
その全てが私の視覚を、聴覚を、意識を、離してくれませんでした。
思わず、画材を引っさげて3人組へと声をかけました。
「…あのっ!!!」
上ずった声帯が裏返ったような自分でも不審に思う声が向日葵畑に虚しく響き、二人の侍従が私からご令嬢を守るかの様に私の方に進もうとしてきましたが、ご令嬢がその動きを手で制して私へと視線を向けなおしました。
近くで見るご令嬢の容貌はこの向日葵にも似た雰囲気を持ち、植物の様に色鮮やかな緑のくせ毛を、切れ長の大きな紅い瞳が変わらずに私を見竦めていました。
上気した私の気持ちは逸るばかりで、なんの挨拶も無しに不躾に、己が欲望を言葉にぶちまけていました。
「貴方の絵を描かせて貰ってもよろしいでしょうか?」
段々と尻すぼみに勢いを無くしていく私の声をご令嬢は面白く思ったのか、眉尻を少し下げてクスリと笑いその表情のままゆっくりと冗談交じりに返答してくれました。
「あら?ちゃんと綺麗に描かなきゃ首を刎ねるわよ?」
挑発をする様な言葉とその笑みに一瞬だけ見惚れてしまいましたが、日は少しずつ傾きこの景色を変えていくものですから返事もしたか分からぬほどに足早に画材を広げ、私はもういなくなったかのように意識を外してゆっくりと花を愛でている彼女の姿と後ろに控える侍従、一面に広がる向日葵畑と辺りを照らす夕焼けをスケッチしていきます。
幸か不幸か、私は筆が早い方で、日が陰り始めた頃には大体のモチーフのスケッチが終わり、残りは油絵具を使い色をつけていくのみとなった。そこで私は筆を一旦置き、ご令嬢と侍従へと声をかけます。
「ありがとうございました。私も満足のいく絵が描けそうです。辺りを見れば、もう日が沈みます。夜道は危ないのでもうお帰りになって下さい。」
そう私が心配の声をかけると、少しご令嬢は考え込む様子を見せて指をパチリと鳴らして私に視線を向けます。
「今、全部描いて頂戴。暗いと言うのならばアルラウネが照らすわ。」
そう言うのと同時に侍従の一人、女性の方がランプを取り出したのか辺りが一気に炎に包まれたかの様に薄い白桃の様な色で照らされたのです。そして、ご令嬢は顎で私に続きを描く様に促します。
私の腕は神が宿ったかの様に意識が追いついていかぬままに描いたスケッチに命を吹き込むかの様に色を、焼け付く様な夕焼け色を、鮮やかな向日葵の色を、そして、その中に一際輝く女性の姿を絵具を厚く塗り重ねて生み出していくのです。
全ての工程が終わり、冷静になって周囲を見回すと夜の帳はすっかり下りており、特有の蒼く冷えた甘い空気が照らされた私たちの周りを包み込んでいました。
しかし、初めて見た時から変わらずに向日葵を愛でているご令嬢と二人の侍従は私の視界にいました。そして、私が顔を上げたのに気づいたのかご令嬢が歩み寄って、私の背後に回り、品定めするかの様に私の描いたものを見ます。ご令嬢が背後に回った時、まるでナイフを背中に突き立てられたかの様な妙な圧迫感がありましたが、その時の私はすっかりご令嬢の次の一言だけが気になっていて気が気でありませんでした。
暫しの静寂の後、私の肩にゆっくりとした重みが伝わりました。視界の隅では絹の様に滑らかな白い指が私の肩へと置かれていることが見えます。
「いいじゃない。この絵頂いていくわ。」
次に気がついた時には、ちょうど雨宿りをしていたブドウ畑の木の下で横になっていました。画材はしっかりと持っており、どこにも荒らされた形跡もありません。
あの情景、出来事は私の夢だったのでしょうか。
それを確かめるすべはありません。
しかし、
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南向き傾斜のすり鉢状の草原。
そこにある一面の向日葵畑。
小高い丘の上にコテージの様な小さな家がポツリと建っている。
家の中では、小さな茶会が開かれている様だ。
机の上には様々な洋菓子。
香りの高い紅茶。
それらを嗜む女性の視線の先。
そこには壁に掛けられた夕焼けに染まる向日葵畑に佇む自身と侍従の姿が描かれた絵画が飾ってあった。
「ふふふ。家の中にも向日葵が咲いているのは気持ちいいわね。」
最後まで読んでいただきありがとうございます。
ひまわりと言えば『彼』。
『彼』は活動時期と作品数から1日1枚以上のペースで作品を書き続けたという話もあるそうです。
時系列は19世紀。
モチーフは向日葵。
季節を関係なく咲く向日葵畑。
今後も拙作をよろしくお願いします。
最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m
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