『風見幽香』な私。   作:毎日健康黒酢生活

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禁忌の知識は謬りを生み。

愚者は世界を知り、向き合う。

そんなお話。


誤解、曲解、理解。

時は明治。

 

日いずる国、日本が文明開化を成し長い近代化の道程へと進み始めた時代。上流階級の華族や一部士族がハイカラを好み始め、古い日本家屋と西洋の新しい風を受け入れた物珍しい建物が入り乱れ、運河に沿って、石造りの倉庫群や歴史的建造物などが点在し夕暮れ時にはガス燈の火が灯りはじめて、空にあわく夕陽が残っている光景は、なんともいえない趣があり、ロマンチックな雰囲気をかもしだしている。

 

いそいそと入り乱れる町人たちの動きのように時代は急変を迎え、先の内乱の傷痕を埋めるかのように地図は入れ替わっていく。

その激動の休止期間かのようにここ1、2年は先までの混乱が嘘のように平穏が街並みを包み込んでいる。

 

そんな折、一般人にはあずかり知らぬ、紅世に関わる者たちにも新たな風が流れようとしていた。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

「……おかしいわね。」

 

芝生に咲く花々のお世話をしながらこの不測の事態にどうしたものかと思わず声がもれてしまう。

私が移住を決めた花に囲まれた小高い丘の上にポツリと建っているコテージの様な小さな家の周りでは芝生の花壇で尾籠なほど生の色の赤い花、黄の花、紺の花、赭の花が花弁を犬の口のように開いて、戯れ、噛み合っている。

私のつぶやきに一緒にお花の世話をしていたアルラウネが疑問を投げかける。

 

「如何に?」

 

彼女はいつも独特な短い文言を疑問形で語りかけてくる。時々、会話が通じていないのか分からなくなる時があるが、彼女は意外と空気を読むことが上手なのでマイボディが不機嫌にならないよう気を使って言い直してくれる。

 

それはともかく、私が感じているこの疑問は私の知識によるものなのでうまく伝えられない。

 

博麗大結界の成立は明治の中ほどとされていたことを記憶していた。しかし、極東こと日本に移住してきて早二百年、いくら探してもその結界の発生を感じられず、結界の綻びや入口といったものが日本で見つけられないのである。信州を中心に結界の予兆を掴みに行ったり、日本各地の怪談で知られる名所を巡って所謂「東方project」の原作キャラたちに接触しようとしても誰にも遭遇したことが無かったのである。

幻想郷へ行き、蛇さんの封印を解くよう名だたる妖怪たちに助力を得ようとしていた私の完璧な計画が見事に出ばなでくじかれてしまっている。

 

そんな私の懸念をよそにアルラウネはまだ私を窺っているのでぼやーっと概要だけ伝えることにした。

 

「いやね。なにか予感を感じて極東まで移住したはいいものの何の便りもないからどうしたものかと思っててね。」

 

「焦燥ですか?」

 

「そんなものじゃないわ。蛇さんの封印を解くための手がかりは気長に探しているもの。何かが起こるはずだったんだけどねぇ。」

 

「諦観?」

 

「それに近いわね。当てが外れてザンネンってとこかしら。」

 

そんな雑談をアルラウネとしていると

 

 

 

突如、()()()()()()

 

 

 

『―――   ―――』

 

 

 

この現象に3度目のデジャヴを感じて思わず身構えるも、先のように急に意識が途絶えることは無く、代わりに脳内に直接響くような回避のできない声が聞こえる。

 

嘯飛吟声(しょうひぎんせい)

 

それは、声の気配。

唆し誑かす言葉だけで物事の本質さえ変えうるため多くの徒に忌み嫌われる紅世の導きの神『(かく)嘨吟(しょうぎん)』シャヘルの神威召喚が世界の何処かで行われていた。

その権能は新たなるものを見つけたときに、それを全ての徒に(強制的に)知らせるものである。祭礼の蛇、曰く「珍しがり」だそうだ。

例にもれず、『風見幽香』にもその女性のような柔らかで厳かな声が響き渡る。

その声は波紋のようにゆっくりと世界へと伝播する。

 

『―――新たな術が成就した―――』

 

『―――それ、偉大なりし―――』

 

『―――世を変えうる 新たなる理―――』

 

『―――導きの神『(かく)嘨吟(しょうぎん)』の名において之を伝える―――』

 

『―――成したるは 螺旋(らせん)風琴(ふうきん)―――』

 

『―――持ちうるその叡智により―――』

 

『―――因果を世界の流れから切り離し―――』

 

『―――因果を繋げ その術により補綴(ほてい)する―――』

 

『―――その名を『封絶』―――』

 

『―――()てよ―――』

 

『―――新たな術を ()てよ―――』

 

世界中の紅世の徒、並びにフレイムヘイズへと向けられた新たな神託を自ら思いのままに言うだけ言って、導きの神はその言葉の波が水面のように落ち着くと同時に世界から姿を消した。

 

 

 

しばしの傍観を経てアルラウネが幽香へと尋ねる。

 

「予感はこれで?」

 

「いや、違うかも知れないし、そうかも知れないわ。」

 

そう、あの声の内容は簡単にまとめると新しい術が生まれたからみんな使ってねという物であった。これが博麗大結界の先触れなのかどうなのかは分からない。この術を使って八雲紫が博麗大結界を生み出すのかもしれないし、はたまた彼女独自の術で成し遂げるのかも私には分からないのだ。

 

うん、一人で考えても分からないから情報通そうな()()を頼ろう。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

アルラウネとウルリクムミを伴って彼女から貰った鉄の輪っかを腕力に任せて握りつぶすとドーム状の空間に出た。粗く削られた岩塊に擂鉢状の階段があり、中心には大竈があってそこには目的の人物と庭園仲間がいた。

 

「おや?お早い再会で。ご用件は此度の神託の事ですか?」

 

「話が早いわね。」

 

大竈の方へと歩みを進めてその淵に座り、聞きの態勢に入る。アルラウネとウルリクムミは動かず立ったままで聞くようだ。

そして、ベルペオルさんは指をパチンと鳴らして世界を金色のドームで囲まれたものに変化させた。

 

「体験しながら説明させていただきましょう。」

 

「先の導きの神の神託で述べられた『封絶』という物は簡単な自在法です。」

 

「存在の力を注いでドーム状に壁を張って因果を外部と断絶し、壁の内部は外部の人間の意識からも「なかったこと」になり、内部を観察したり進入したりすることはおろか、思い出したり、存在に気付くことさえもできなくなるのです。」

 

「さらに、内部で破壊や変化が生じた場合は、外部の因果と繋げるようにして封絶の影響下にあった物体を生物も含めて修復することができます。」

 

「修復されたある程度の存在の力を持った生物はやがて存在の力が消えると共にこの世から消失します。」

 

「例えば、封絶を張った状態でこの床を破壊します。そして、封絶を解くと同時にほんの少しの存在の力を与えると何事もなかったかのように修復されるのです。」

 

そう言いながら、ベルペオルさんは鎖を床に打ち付けて破壊すると共に『封絶』を解く。すると、金色のドームが無くなったと同時に、破壊されたはずの床が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

その様子に思わず呆けて言葉がこぼれてしまう。

 

「あら、魔法みたいね。」

 

私の言葉がツボに入ったらしくベルぺオルさんがくっくっくと小さく笑う。

 

「これはこれは御身でも、異なことを仰るのですね。魔法などこの世にはありません。これは自在法ですよ。」

 

「……アナタ達が使う「存在の力」は妖力、魔力、神力……巫力などと呼ばれるものではないの?」

 

私の知識、「東方project」では妖怪が扱う力を妖力、魔法使いが使う力を魔力、神や神仏が使う力を神力、神力を卸す巫女の力を巫力と言っていたはずだ。私はこの摩訶不思議な力たちを広義で妖たちが「存在の力」と呼んでいるのだと思っていた。

少し考えて、ベルペオルさんは口元に手を当てながら言葉を絞り出す。

 

「ふむ、それらは人間から見た我ら、紅世の徒やフレイムヘイズの扱う力の総称ですね。」

 

雲行きが怪しい。

私はもしかしたら思い違いをしていたのかもしれない。

この世界には()()()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()

おもわず、頭に手を当ててベルペオルさんに再度確認を取るように聞く。

 

「……なら、この世界にいる妖は紅世の徒で、魔法使いや退魔師、巫女はフレイムヘイズだと言うの?」

 

「えぇ。そのはずですが……、例外的にミステスという宝具を宿した人間もいますが大概はその二種に分けられると思われます。」

 

勝手も分からない白痴の老人でも見たかのように狼狽を見せる私の姿を不審な目で見つつもベルペオルさんは私の確認をなぞる。その当たり前かのような言葉に私はこの世界が「東方project」とは関係のない世界であることを確信してしまった。

私の狼狽ぶりにアルラウネとウルリクムミ、フェコルーまでもが私を心配そうに見てくる。

 

しかし、私の心はそれどころではない。

 

ここが「東方project」でなければ

 

幻想郷が無ければ

 

私が蛇さんを助ける手立てが無くなってしまった。

 

自責と羞恥から頭に血が上っていくのが分かる。

これ以上この姿を見られたくはないと考えて思わず鸚緑の極光を天井に向かって放ち、眩く輝く夜天に飛び込んで庭園の花畑を目指す。

 

周囲のことなんて気にしてられるか!

 

こちとら、うん千年もの間、勝手に勘違いしてたんだからな!

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

風見幽香が飛び去っていった未だ石つぶてが崩れ落ちてくる天井を4人は見上げたまま、誰ともなく笑い出した。ひとしきり笑ったところでベルペオルが堪らず話題を切り出す。

 

「どうやら、かの『神殺し』にも思い違いはあるようだ。」

 

言い切った途端にまた笑いがこみ上げてきたのか声高に「はぁーはっは」と声を荒げる。その様子にフェコルーがすぐさまフォローを入れる。

 

「とはいえ、まるでサンタがいないことを知った子供のような様子でしたからね。私には少し気の毒に見えました。」

 

「なぁ、巌凱(がんがい)架綻(かたん)(ひら)?アンタたちはこんな愉快な姿をいつも見てるのかい?」

 

興味本位に普段の風見幽香の生活を問うベルペオルにウルリクムミは周囲に響く声色で断言する。

 

『我々もおぉぉぉー!

 あのようなお姿を見るのははじめてだあぁぁぁー!』

 

「箝口令を?」

 

「そうさね。あの様子では下手に揶揄すると討滅されかねん。私も大命成就前に果てたくはないからな。この4人だけの秘密といこうじゃないか?」

 

 

 

 

 

この後、しばらくは風見幽香はベルペオルのことを眼帯、フェコルーを加齢臭、ウルリクムミを山彦、アルラウネを七分咲きと呼んでまともに会話をしようとしなかったとか。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

時系列は明治。
大きな勘違いは恥を呼び。
暴君は拗ねました。

次話で原作へ突入します。
拙作は原作「灼眼のシャナ」の巻数にあやかり22話にて完結させていただきます。
どうかそれまでお付き合いいただけると嬉しいです。

今後も拙作をよろしくお願いします。

最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m

  • 英雄と敵の二重生活
  • 『風見幽香』な私。
  • 『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
  • 個性:斬島
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