『風見幽香』な私。   作:毎日健康黒酢生活

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失った愛を取り戻す者。

思い出の地で何に想いを馳せるか。

そんなお話。




彩飄と

天穹(てんきゅう)(まる)さを実感出来るほど遠く広がる青空の下、波を(ひだ)ほどに立てる静かな湖を挟んで、彼方に雲影を落とす低い山々、此方に白い岩肌を方々のぞかせた緑の丘が、在る。

柔らかな野風が周囲を包み、水と土と草の香りが、体中を満たしていくようだった。

そよぐ野風に乗って踊るのは草の端か辺り一面に咲き誇るチューリップの花弁か。

 

不思議なことに、空は白が欠片もない青一色だというのに、そよぐ野風に乗って一粒の水の雫が伝い落ちて緩やかな緑の斜面にゆっくりと染み込んでいく。

伝い落ちた先を見てみると、黄緑色の長髪と瞳をし、所々に布を巻いた、ツナギのような服を着ている華奢な美女が一人で緑の斜面に背を預けてポツリと座り込んでいた。

 

彼女は絶望のどん底にいた。

忌まわしき敵の姦計により、最愛の人と離れ離れになり、唯一の手がかりも無作為転移の時間を稼ぐために自らが敵と共に転移してしまったために行方知れずのままだ。

今、この瞬間も自在法『風の転輪』にて世界中を捜索しているが、それでも逸る気持ちや離れ離れになる悲しさは最愛の人以外何者にも拭うことができない。

 

周囲の美しい景色も、『彼』と訪れたあの瞬間には遠く及ばない。

『彼』と初めて飛んでやってきた場所。なのに、どうしてこんなにも色褪せて見えてしまうのだろう。

次の瞬間にでも、この滲む視界を『彼』が拭ってくれる気さえしてしまう。

 

しかし、現実には自分一人で嘆き悲しむばかりである。

 

「あら?こんなにもいい景色なのに水を差さないでもらえるかしら?」

 

無愛想というか、言葉が足りない泣いている人物にかけるにふさわしくない言葉が聞こえる。

自在法『風の転輪』によって周囲の空間を完全に把握していた彩飄(さいひょう)フィレスは全くあり得ない、まるで今この瞬間に現れた『彼女』の姿を見てさらに驚きを重ねるばかりだった。

 

『彼女』は自身の髪の色と似た緑色のくせ毛に、切れ長の赤い瞳、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカート。

紅世に関わる者ならば知らぬ者がいないほどの超危険人物。

『血染花』風見幽香がゆったりと植物のように佇んでいた。

 

「……血染花。どうやって私の警戒を抜けた?」

 

「風に乗ってかしら?ほら、私って花が咲いているところを渡り歩いているから。」

 

冗談めかして笑うその姿にフィレスはわずかな苛立ちを感じて語気が強くなる。

 

「最強の紅世の王が何か用かしら?『殺し屋』の次は『無くし屋』に会うとはツイてないわね。」

 

その諦観の言葉とは裏腹に逃走用の自在法『ミストラル』の発動の準備をする。膨大な風が自身を包むように吹き荒れるが、それを一蹴、『風見幽香』はその日傘をただ純粋に腕力のみを以って振りぬいただけで、フィレスの存在の力が交じった風をかき消してしまったのだ。あまりのでたらめさに思わず悪態がもれる。

 

「…――ッ!?ッざっけんな!!!私はヨーハンに会うまでは!!!」

 

『風見幽香』は暴力的なまでのその脚力で地面を蹴り、一瞬姿が消えたかと思うと、次の瞬間にはズイっと顔と顔が触れ合うほどまでにフィレスに接近する。

そして、腕をゆっくりと顔の高さまで上げる。フィレスはその動作に死の予兆を感じ、思わず胴体を守る。

 

しかし、その手は嫋やかにフィレスの目尻から目がしらをゆっくりとなぞった。予想外の行動にフィレスが茫然としていると逆の瞳にも同じような動作で()()()()()()()

 

「そう、アナタはそれで泣いていたのね。」

 

まるでそこにフィレスの意識など関係ないと言わんばかりに『風見幽香』はただポツリポツリと言葉を続ける。

 

「チューリップが私を呼んだの。」

 

「『私たちはこんなにも楽しいのに一人だけ泣いている奴がいるんだ』ってね。」

 

「めんどくさいから適当に虐めて終わりにしようと思ってたけど、『彼女たち』がアナタに伝えたいんだって。」

 

そう言って、『風見幽香』は地面に降り立ち、暴風に耐えたチューリップ達から、赤色のソレと紫色のソレを一本ずつ手折りフィレスへと受け渡す。

 

「そういえば昔、()()()()()()()()()()()()使()()()がいたわ。」

 

「彼はダメだったみたいだけど、()()()()はどうかしらね?」

 

その言葉の意味をかみ砕くためにしばし茫然としていると、『風見幽香』は言いたいことだけ言って花に紛れて消えてしまった。

フィレスは彼女が言った『青い天使』のことを思い出す。フィレスも古くからの紅世の王である。史上最大の蛮行と言われる今なお語り継がれる中世の強大な王のことは知っている。

彼の王は莫大な存在の力を使い『両界の嗣子』を生み出そうとして、フレイムヘイズに討滅された哀れな王である。

 

 

 

その愚王と自分たちの共通点は………

 

 

 

緑の丘には先程と同じように女性が1人佇むばかりだが、顔色は打って変わって晴れ晴れとしたものに変わっており、その両手にはそれぞれ赤と紫のチューリップが添えられていた。

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

物語も折り返しを迎えました。
原作突入するといいましたが、主人公陣営と接触するとは言っていない()。

それぞれのチューリップの花言葉は?
『彼女』は花を渡り歩きます。


今後も拙作をよろしくお願いします。

最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m

  • 英雄と敵の二重生活
  • 『風見幽香』な私。
  • 『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
  • 個性:斬島
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