『風見幽香』な私。   作:毎日健康黒酢生活

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侍女の説法。

物語の主役は敵を見据える。

そんなお話。
 
 


治外法権の極東

秋になると空気が澄み渡り、夜天には星が幾つも流れて行く。

 

夜の12時も近い坂井家を、いつのもの様に封絶が覆う。

桜色の炎をときに過らせる陽炎の中心で三人の人物が輪になっていた。

様子を見てみると、侍女の格好をした女性がまだ幼さの残る少年少女二人に対して講義を行っているようだった。

 

「坂井悠二、『炎髪灼眼の討ち手』。アナタたちはこの町が『闘争の渦』である可能性、並びに『零時迷子』を狙う()()()()()()()について再確認するべきであります。」

 

「危険周知。」

 

「『闘争の渦』?」

 

少年、坂井悠二が繰り返すように新たな単語にレスポンスを返す。

それを補足するように、『炎髪灼眼の討ち手』シャナが『闘争の渦』について説明する。

 

「御崎市ではフレイムヘイズと紅世の徒の衝突が短期間のうちに連続して起きている。かつての『大戦』でも似たようなことが起きてたってヴィルヘルミナが言ってた。」

 

「正解であります。御崎市は過去の『大戦』の前兆を見ているかのようであります。」

 

「異常頻度。」

 

そう言って、ヴィルヘルミナはかつて多々あった悲劇を思い眉を下げる。皆が不幸にならないようそれぞれが足掻くほどに運命の糸は複雑に絡み合い、その苦労を全く斟酌せずに嘲笑うかのような結果に終わったかつての『大戦』がまさに御崎市でも繰り返されようかとしていた。数を勘定するかのように白いリボンで作った人形を並べていく。

 

フレイムズヘイズ殺しにして、近代でも五指に入る強大な紅世の王『狩人(かりうど)』フリアグネ。

 

紅世の真正の神と契約したフレイムヘイズ『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』シャナ。

 

トーチ喰らいにして、最高峰の自在師『屍拾(しかばねひろ)い』ラミー。

 

フレイムヘイズきっての殺し屋『弔詞(ちょうし)()()』マージョリー・ドー。

 

己が享楽に狂った『愛染兄妹(あいぜんきょうだい)』ソラト、ティリエル。

 

兄妹に雇われ現れた『千変(せんぺん)』シュドナイ。

 

最古のフレイムヘイズの1人にして壊し屋で調律師な『儀装(ぎそう)()()』カムシン。

 

極めつけの変人、教授こと、『耽々求極(たんたんきゅうきゅう)』ダンタリオン。

 

そして、自身『万条(ばんじょう)仕手(して)』ヴィルヘルミナ・カルメル。

 

計10体の人形と()()()()()()()5()()場に出した。

この半年は劇的に過ぎていたが改めて列挙するとそうそうたる顔ぶれである。誰もが世に知られる強者、札付き、厄介者、兎も角滅茶苦茶な面子ばかりがずらずらと並び、最早ただの偶然で済ませることはできないことが明白である。

 

そして、今現在御崎市に残っていない者たちフリアグネ、ラミー、ソラト、ティリエル、シュドナイ、カムシン、ダンタリオンを指先で一つ一つ倒していく。

 

「半年にこれだけのフレイムヘイズと徒が極限られた地域で騒動を起こすのはあり得ないのであります。騒動の中心にはいつも『零時迷子』つまり坂井悠二というミステスが関わっているのであります。そして、この御崎市には現状3人ものフレイムヘイズがオマエの護衛にいるのであります。そして、昨晩の『()』の件もあります。」

 

「要警護者。」

 

黒塗りの人形のうちの1つがだんだんと坂井悠二の人形へと姿を変えていく。

そして、おずおずと自らも認めたくない事実を発する。

 

「理屈ではない流れ、波乱の因果が荒れ、激突に収束する恐るべき『時』の勢いがこの御崎市を中心に起こっているのであります。」

 

「可能性大。」

 

ティアマトーの冷静な言の葉の端にもありえない偶然の数々が避けられない激突を引き寄せる、そんな悪寒の色が見え隠れしていた。

そして、警戒を促すヴィルヘルミナにシャナが残りの黒塗りになった4体の人形を指さし、疑問を口にしていく。

 

「うん。ヴィルヘルミナが言いたいことも分かった。悠二や御崎市が中心になって更なる混乱、紅世の徒がやってくる危険性があるんだね。それで、残っている4体の人形はどういう意味なの?」

 

「あくまで、可能性の話でありますが、『零時迷子』、並びにこの()()という特異な地点で警戒しなければならない者たちであります。」

 

「警戒対象。」

 

黒塗りの人形の一つが黄緑色の長髪と瞳をし、所々に布を巻いた、ツナギのような服を着ている華奢な女性へと変わる。

報告書で確認した、今なお『零時迷子』を求めて世界中を自在法で探し回っている旧友、風が立ち巻くように現れるかもしれない彼女。

愛するヨーハンを求めて、何も知らぬまま、この『闘争の渦』に引き込まれるかもしれない彼女。

2年にもならない旅の同行者を警戒対象として告げる。

 

「『彩飄(さいひょう)』フィレス。約束の二人(エンゲージ・リンク)の片割れ。つまり、オマエの持っている宝具『零時迷子』の前任者のパートナーであった紅世の王であります。彼女は自在師で無いにもかかわらず、多数の自在法を操りかつては他の徒同様、存在の力を喰らいながらこの世で放埒を尽くしていた者であります。外界宿(アウトロー)からの報告で彼女の自在法『風の転輪』によるものと思われる探査が世界中で確認されているのであります。」

 

「目標捜索中。」

 

「つまり、また僕の『零時迷子』を求めてフリアグネのような強力な敵が現れるってことですね。」

 

「うん。それは私も危惧していた。失った形見を求めて約束の二人(エンゲージ・リンク)が悠二を襲いに来るかも知れないことも。でも、残りの3体の人形は何なの?ヴィルヘルミナ。」

 

迫り来る可能性が高い脅威を確認した後、シャナが残りの3つの人形について尋ねる。

シャナの疑問と共に人形が姿を変えていく。

1つは黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートの女性に。

1つは鉄でできた扉のような頭部のない人型に。

1つは可憐な花の真ん中に女性の顔がはめ込まれたものに。

それぞれが変形していく。そして、その1つに覚えがあったのかシャナはわずかに眉間にしわを寄せ女性の姿を模った人形を睨む。

一層、張り詰めた空気を感じた坂井悠二がありのままの疑問を投げかける。

 

「この3体の人形は?」

 

「これはとある強大な紅世の王の3人組であります。ここ、極東が紅世の徒とフレイムヘイズにとってある種の治外法権になっているのはこの一派が極東を縄張りにしているからであります。」

 

「例外的措置。」

 

「悠二。私もヴィルヘルミナから教えてもらってたから『狩人(かりうど)』フリアグネがこの極東で自由に出来ていたことがずっと疑問だったの。ここ、極東は()()()()()()()。」

 

「えっ?『彼女』?」

 

そう言って坂井悠二は3つの人形で唯一人型を取っている女性を指さす。

それに対してティアマトーが短く返答をする。

 

「肯定。」

 

「であります。名を『血染花』風見幽香、曰く『原初の紅世の王(オリジン)』。その二つ名は数多くあり、『四季のフラワーマスター』、『神殺し』など多くの名が冠されており、古くからの紅世の王には当たり前の知識でありますが、彼女が願いさえしなければ紅世の徒はこちらの世界に渡り来ることは無かったとされているのであります。それでいて、現在まで討滅されることなく生存が確認されている最も古い紅世の王と言われております。」

 

「つまり、私たちフレイムヘイズの不倶戴天の仇ってこと。」

 

「えぇ?そんなに昔から暴れまわっているなら普通ならもう討滅されているはずじゃ?」

 

シャナやヴィルヘルミナに言われたことをそのままに受け止めて当たり前の疑問を口にする坂井悠二に対して、長く口を噤んでいたアラストールがようやく重い口を開いた。

 

『坂井悠二。お前はフリアグネの宝具に撃たれて我が顕現した時のことを憶えているか?』

 

「うん。熱くて、大きい、全てを包んで燃やしてしまう恐ろしさがあった。『火除けの結界』アズュールが無かったら僕なんて容易くこの世から消されてしまってたんだろうと思った。」

 

『ふむ、だが()()()()()()()()()()()()()。宝具で無理やりに顕現した我ではなく、正しく祝詞と供物をもってして顕現したお前が感じた脅威の数倍の我に対等に渡り合い、討ち滅ぼして見せたのだ。』

 

「えっ!?あの状態のアラストールに!?」

 

「…であります。さらに古来から数々の腕に憶えのある徒、フレイムヘイズから命を狙われ、そのことごとくを討ち果たしてきたのであります。」

 

「天下無双。」

 

「だから、そんな奴が拠点を置いている極東にはどんなフレイムヘイズも紅世の王も近寄らないって訳。分かった?」

 

「いや!でも、紅世の王なんでしょ?この国に住む僕たちはそいつらが食うための生贄だって言うのかよ!」

 

短期間で数々の放埓の限りを尽くしてきた紅世の王を目の当たりにしてきた坂井悠二が義憤から吠えるが、シャナがそれに対して冷静に答える。

 

「大丈夫。『血染花』の一派は食わず嫌いで有名なの。強大な力を持ちながら人を食べないから私たちフレイムヘイズも特例中の特例としてこの極東の支配権を許しているの。」

 

「付添人は判明しているだけでも2名『巌凱(がんがい)』ウルリクムミに『架綻(かたん)(ひら)』アルラウネ。どちらもかつての『大戦』を生き延びた将帥クラスの猛者であります。『血染花』には劣りますがいずれもフリアグネクラス以上であることは確実であります。」

 

「油断大敵。」

 

『だが、鸚緑色の炎を見たら是が非でも逃げろ。あやつは現世の者たちの手には余る。』

 

アラストールの断言にこの場にいる皆が一様に固まる。

そして、さらに重要なことをヴィルヘルミナがまとめる。

 

「更に、この御崎市に訪れた紅世の徒には『風見幽香』にも関わる共通項を持った者が2人ばかり交じっているのであります。」

 

「依然、仮説段階。」

 

そう言って『千変(せんぺん)』シュドナイ、『探耽求究(たんたんきゅうきゅう)』ダンタリオンの人形を風見幽香一派の3体に寄り添うように作り直す。

 

 

 

 

「坂井悠二。アナタの持つ宝具『零時迷子』はこの世にある最大級の紅世の徒の組織『仮装舞踏会(バルマスケ)』に狙われている可能性があるのであります。」

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

時系列は御崎高校清秋祭前。
フレイムヘイズ視点の極東情勢。
ヴィルヘルミナは優秀、ハッキリわかんだね。

最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m

  • 英雄と敵の二重生活
  • 『風見幽香』な私。
  • 『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
  • 個性:斬島

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