『風見幽香』な私。   作:毎日健康黒酢生活

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旧友との再会。

『私』のすべきことは決まった。

少しだけ待ってて『■■■■』。

そんなお話。
 



容れ物と中身。

世の空に人知れず浮かぶ『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の本拠地、移動要塞『星黎殿』がとある地に数日停泊していた。泡状の隠匿の宝具『秘匿の聖室』によって内部に在る物、内部の人物の気配が隠匿されているとはいえ、これは世界中を飛び回り成員や徒を運んでいる『星黎殿』では常ならばあり得ない長さであった。

 

その『星黎殿』は常の回遊コースを離れ極東の島国に在った。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

極東の何処(いずこ)か。

 

南向き傾斜のすり鉢状の草原。

 

夏には満開の向日葵が咲き誇るそこ。

 

小高い丘の上にコテージの様な小さな家がポツリと建っている。

 

その家に訪れる影が1つ。

 

ドアを軽くノックするその人物は普段の様子からは考えられないほどに緊張しているのが見えた。

 

しかしながら、同時に誕生日にヒミツのプレゼントを用意して驚かせる子供のような気持ちが見て取れる。

 

ドアの奥からはこちらに向かってくる足音が聞こえる。

 

後、数瞬したら……。

 

待ち人はかつての様に笑いかけてくれるのか。

 

それ以前に、以前と全く違う容れ物の姿に気が付いてくれるのか。

 

かの神は初めての期待と不安に戸惑いを見せながらもその足は真っすぐドアへと向く。

 

カチャリ。

 

ドアノブの金属音が静かに響く。

 

ドアの先には()()があの時から変わらずに在った。

 

切れ長の赤い瞳に変わらない美しい笑みで。

 

 

 

「あら、蛇さんじゃない?」

 

 

 

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移動要塞『星黎殿』の城塞部にある一室。大竈型宝具『ゲーヒンノム』の淵に腰かけるようにしている『参謀』ベルペオル、その周囲を囲む壁に背持たれるようにしている『将軍』シュドナイ。他にも数種の異形の徒たちの姿が見えるが気にもせず作戦経過の報告と()()について語る。

 

「上海外界宿総本部は殲滅完了だ。これで当面の間フレイムヘイズ達のアジア方面での軍隊規模での作戦行動は無いとみていいだろう。」

 

「そうさね。しかし、盟主が謁見の式典の後に迎えに行く『炎髪灼眼(えんぱつしゃくがん)()()』やその周囲の『万条(ばんじょう)仕手(して)』、『弔詞(ちょうし)()()』には依然警戒が必要だろうさ。」

 

「戦果を挙げてきた俺のお出迎えはババアだけか。ヘカテーは?」

 

「おあいにく、『星辰楼』さ。教授と共に神体の座標の最終調整だとさ。」

 

「で?当の盟主様は何処にお出かけで?」

 

現世に意思総体のみで帰還した後もしきりに何かを考えこんでいた様子の見えた自らの盟主の姿が『星黎殿』に見えないことを不思議に思い尋ねるが返答は予想通りの簡単な物だった。

 

 

 

「なぁに、やっと顔を見せにお出かけになったところだよ。」

 

 

 

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静かな室内にコトコトと湯が沸き始めた音だけが響く。

無言で小さな一人前ずつのティーポットが二つ、少し大きめのポットに熱いお湯を入れて、砂糖の入ったガラス瓶、二人前のティーカップとスプーンを少し大きめなお盆にのせて、館の主『風見幽香』が台所から出てくる。

少し様子を窺うような少年のことも気にせずテーブルに手慣れた様子でティータイムの準備を進める。

ひとしきり準備が終わったようで、静かに少年の対面の椅子へと腰掛ける。

 

お互いがお互いの瞳を見つめ合う悠久にも似た一瞬の時をティーポットから香り始めた匂いが現実へと戻す。

 

少年が急いで陶器でできたポットからティーカップへと紅茶を注ごうとするとこれまで最初の邂逅から一言も無かった2人の間に言葉が生まれる。

 

「待ちなさい。後、1分てとこかしら。時間が来たらティースプーンでポットの中をひと混ぜしてからゆっくりと注いで頂戴。あぁ、砂糖は必要かしら?」

 

「あぁ!すいません。砂糖は大丈夫です。」

 

咄嗟の即答は()()()()()

()()()()()()()()()()()()()の声は未だに出てこない。

しかし、『風見幽香』は表情を変えずに少年にも旧知の友人にも変わらない態度で接する。

 

「そう。……ねぇ、蛇さん。面白いおめかしね。もしかして、()()()()()()()()()()?」

 

「ブフッ!!!」

 

揶揄い交じりの挑発的な態度に、ある種の扇情的な表情に、不意を突かれた恋愛偏差値の低い少年が戸惑い驚き声が漏れる。

その様子を幽香はニヤニヤと意地が悪い笑みを浮かべながら反応を楽しんでいた。

 

「冗談よ。…()()()()()。」

 

『あぁ、()()()()()。風見幽香よ。』

 

今度こそ、自身の言葉で。

『祭礼の蛇』本人の言葉で挨拶を交わす。

あの時と変わらぬ調子で、まるで昨日会った友人に再会したように軽い調子で話が進んでいく。

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。今の時期は()()にしか咲いてないわよ。」

 

幽香が指差した先には厚塗りの油絵の具で一面の黄金(こがね)色のなかに幽香の姿と二人ほどの侍従と思われる男女の姿が描いてあった。

その特徴的な画風に少年が美術の授業で見たことがあった同じ花が題材の絵画群を思い出して声を漏らす。

 

「えっ!?これゴッ…。」

 

『良き絵だ。絵師の魂が見て取れる。()()()。』

 

かつて、様々な国の王や徒たちから供物として豪奢な貢物達を見てきた『蛇』の心からの賛嘆の声がポツリと零れる。

その様子に満足したのか、幽香はティーカップに目をやり視線と言葉で飲むように促す。

 

「時間になったわ。最後の一滴まで入れるのよ。」

 

『ふむ、坂井悠二よ。しばし、体を借りるぞ。』

 

「うん、わかったよ。」

 

ティーカップに紅茶を注ぎながら、幼さの残った少年の顔つきが一瞬にして険しい老成したものに変わる。

そして、少年の眉尻が下がり、表情が緩やかなものへと変わってく。

 

『挨拶が遅れてすまない。』

 

「いいわ。私の方も東奔西走してみたけどアテが外れてたところよ。自力で帰って来れたみたいで良かったわ。」

 

『はっはっは!幽香が我を探してくれていたのか!容姿は幾千年の年を経ようとも変わりが見えなかったが、その内面は随分と変わりが見えたようで愉快だ!』

 

「私にも色々とあったのよ。『弱さ』を知ったことで弱くなったけど、代わりに『最強』になれた。あなたが寝ている間に『裁きたがり』を()()()()()()()。」

 

ふふふっと、心底愉快そうに妖しく幽香は笑う。

つられて『蛇』も豪快に笑いだす。

 

『そうかそうか。我が朋友は何と剛毅なことよ!』

 

「それで?蛇さん()面白い状況みたいじゃない。どうしたのよ、その容れ物は?」

 

『ふむ、それについてだが少し説明が長くなる。『星黎殿』で説明をしたい。どうか我に付き従ってくれぬか?』

 

そう言い、『蛇』は真摯な表情で幽香に向かって手を伸ばす。

しかし、その手には怪訝な視線が突き刺さるのみで、『蛇』がダメ押しの一言を紡ぐ。

 

 

 

『我は汝らを友人だと思ってる。』

 

 

『どうか、我を信じてくれ。』

 

 

 

その言葉に呆れ交じりのため息が1つ零れ落ちる。

そして、ポツリポツリと言葉が文になっていく。

 

「はぁー。……アナタ()()()()()。付き従いはしないわ。()()()が勝手にアナタに着いて行くだけ。……今度はコンテニューできないわよ?」

 

 

 

差し出された掌を『風見幽香』はゆっくりと取った。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

移動要塞『星黎殿』の城塞部。

普段は閉ざされている大扉を3つほど抜けた先に広がる空間。両脇に二列ずつの太い円柱を並べる、五廊式の大伽藍。

石造りの天井が見える壮麗な石造りのトンネルにも見える。

 

見上げれば天井にはフレスコ画で宗教的な絵画ではない。ただ一つ大きく、そして小さく無数に、添えるように花弁が一つ。

中央を大きく貫きのたうつ黒い蛇と、それを背に広がり奔る紅世の徒、寄り添う向日葵の花。

ただ、蛇を中心にどこまでも広がり満ちていく『仮装舞踏会(バル・マスケ)』の在り方だった。

 

その下にはフラスコ画を理解しているものも、理解しておらぬ者も一様に熱気を帯び、中央に敷かれる絨毯から数歩引いた位置で詰めかけ犇めき合っている。

姑息なフレイムヘイズ達の姦計により、長きにわたり、空座だった彼らの盟主が遂に帰還を果たした。

 

その謁見の儀と、大命の令達が行われていた。

 

事前に少々の()()もあったが、全てが順調に進み、ベルペオルから布達された大命の全貌に、この場にいる徒の多くがその胸中に極限の驚嘆と感動を宿した。

 

その興奮も冷めやらぬままに、大命の布達を終えたベルペオルが次の言葉を発する。

 

「最後に、盟主の朋友であられる『血染花』風見幽香殿からのお言葉で今回の儀を終えさせていただく。それでは風見殿。」

 

ベルペオルの言葉にまるで当然かの様に壇上に立ちその姿を衆目に晒す。『黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカート』。紅世の徒の間でも神話の様に語り継がれる容姿通りの、真性の『最強』がそこには在った。

 

「……大変重大なお知らせがあるわ。」

 

ゴクリと誰からともなく緊張の空気が伝わる。

()()『最強』が一体何を思い何を語るのか、一語一句逃さぬよう大命の宣布と同じような緊張感が張り詰める。

短く間をおいて、その口が動き出す。

 

 

 

 

 

「なんと、ゆうかりんランドのパンジーの花が咲きましたぁー♪」

 

 

 

 

『いやっほーーーーーーーぅ!!!!!』

『イヤッッッッフゥーーーーーーーーーェイ!!!!!!』

『キャッホォーーイ!さすがだぜ!』

『よっしゃきたぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!』

『ひゃっほほおおおおおおおーーーーいいいっ!!!』

 

 

 

 

 

再び、興奮の渦が『仮装舞踏会(バル・マスケ)』を包み込んだ。

 

 

 

 

 

 




最後まで読んでいただきありがとうございます。

ゆうかりんランドで良いことがあった場合は、「いやっほーーーーーーーぅ!!!!!」と喜ぶのがバル・マスケの義務である。

突然のシリアスブレイクすまん。

時系列は1月。
遂に原作入り。
長らくお待たせしました。

今後も拙作をよろしくお願いします。

最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m

  • 英雄と敵の二重生活
  • 『風見幽香』な私。
  • 『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
  • 個性:斬島

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