『私』は自分の内に『彼女』の存在を感じた。
そんなお話。
『両界の狭間』
“紅世”とこの世の二つの世界の外、二つの世界の境界に位置する概念部。 ここでは二つの世界どちらとも異なる法則によって成り立ち、ある意味、これも一つの異世界と言える。
この世界では時代の関係なく現世の建物を見ることができて、上下左右の感覚でさえも正しいものであるかさえ分からない。
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金髪金眼の幼さが見える少女が2人鏡合わせに手を繋ぐようにして私の進路を塞いでくる。天使のような少女とエプロンの前掛けが前方で2枚重なる特徴的な青いメイド服の少女の2人組。
おもむろに天使のような少女がクスクスと笑いながらまるで旧知の友人と偶然にも邂逅したかのように気さくに喋りかけてくる。
「ほら、やっぱり
「うぐ〜、
私を蚊帳の外に2人の話は盛り上がりを見せる。しかし、私は彼女たちを知らない。紅世の世界でも、ましてや「東方project」の世界のキャラクターとしても全然心当たりがない。しかし、マイボディが攻撃を受けたにも関わらず
「あら、違う誰かと見間違えてるのではなくて?私は
私が名乗った瞬間、極く微妙な、神経的な不調和が、だんだん形づくる様に、笑顔だった少女たちの表情が一転して無機質で大層つまらないモノを見るかの様に変わる。
「ねぇ、夢月。私たちの予感はどっちも正解で、どっちもハズレだったみたいね。」
「うん。幽香ったら変わっちゃったみたい。
そのバカにする様な一言にマイボディが勝手に動き出して鸚緑の極光を2人に対してぶっぱする。ここまで耐えてきたマイボディもついに堪忍袋の緒が切れた様だ。日傘をくいくいと上下に揺らしながらいまだに煙が立ち込める2人がいた後に向かって挑発の言葉がスラスラと出てくる。
「ごちゃごちゃうるさいわね。
一閃、煙の奥が青く光ったと思ったら辺り一面に青い小さな弾幕が卍の模様を描く様に逃げ道を塞ぐ様に広がり、私に向かって扇型の黄色いレーザーの様な存在の力の塊が放たれる。その全てを日傘を開いてその陰に隠れる様にして耐える。
さっきと逆転するかの様な立ち位置になって2人はふわふわと宙に浮かんでぐるぐる回っており、その様子は2人で鏡合わせのダンスを踊ってるかの様だった。
そして、どちらともなく一語一句同じ言葉を私に侮蔑を込めて言う。
「「私たちは2人で1人前。おまえは1人で1.5人前ね。」」
「「遊んであげるわニセ幽香。」」
青いメイド服の少女が青小弾に青大弾を挟むような高速の弾幕がランダムに全方位に向かって放ったかと思うとその直後、扇型レーザー時に撃ってきた針状弾と青小弾を交差するようにぐるぐる回してくる。
天使のような少女も私がよく使う極光を放ちながら、格子状に固定された弾幕を一帯に立体的に直方体になるように広げ、上下左右の動きを制限しつつ、その陰から私を追尾してくる小さな弾幕を放ってくる。
一見すると、ただ飲み込まれるしかない弾幕に見えるが、彼女たちが『お遊び』と言っていた通りに必ず抜ける隙間はある。
最初はなくとも、弾の動きに合わせてわずかにだが隙間が出来る。
その間をすり抜ける。
抜けた瞬間に、背後でその隙間が再び閉じる。
もし、一瞬でも判断が遅れていたら、見出した活路は眼前で再び閉ざされることだろう。
この弾幕は文字通り『お遊び』ではあるが相手に弾を当てれば勝ちという「弾幕ごっこ」などではない。制限時間も無ければ、弾の威力も並の紅世の王であれば討滅されてしまう威力で放たれている。
避けている実感でわかる。
この弾幕はどんな敵でさえも傷つけることのできなかったマイボディを傷つけることが可能だ。そう冷静に分析すると今まで感じたこともなかった言いようもない死の恐怖に思考が霞んでいく。周囲は膨大な量の光弾がうねるように飛び回り、まるで閉鎖空間に閉じ込められているような錯覚さえ抱かせる。
――こんなところで『私』は!
動きを止めずに、内心で独り言ちた。
苛烈な弾幕群の中で、余分な思考は挟めない。
『私』は私の目的の為に。
『■■■■』の為に。
この強敵との戦いから生き残る道だけを考えて宙を舞う。
飲み込まれそうなほどの弾幕の雨。
濃密な死の気配に包まれようとも独り飛ぶことに、恐れはない。
――『私』は…………。
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弾幕がはたと止み、幽香は息も絶え絶えに少女たちを見る。
その先には、光の壁があった。
弾幕という名の光の雨が、この無限に広がりを見せる『両界の狭間』の何処にいても視界に入るような、未だかつてない規模と物量の白色と青色の弾幕が津波のように幽香に押し寄せる。
今度は避ける隙間が微塵も見つからない、ただ呑み込まれるしかない、絶望ともいえる壁が幽香を押し潰すために迫り来る。
壁のように見える弾幕もその中では白色と青色の弾幕がお互いににぶつかり合うことなく交差し、弾幕群を遮る地面を、構造物を磨り潰している。
幽香は日傘の先から射出される鸚緑の極光を以て対抗してみせたが、均衡は一瞬しか持たなかった。鸚緑の極光は表面の弾幕を削りきるだけで後続の弾幕が極光を削りながら、ゆっくりと確実に幽香との距離を縮める。
やがて、弾幕群は
どのような敵も、神でさえ討滅して見せた必殺の技が単純な物量差に負けてかき消されてしまった。
幽香は一瞬の逡巡を見せた後に、日傘を振り抜き、胴体に直撃するような弾幕をその柄で叩き壊していく。
しかし、打ち洩らした弾幕が幽香の身体の末端を少しずつ掠り、着実に幽香の身を削る。
『グレイズ』
東方projectの世界ではギリギリで弾を避けるというテクニックだが、天使のような見た目の悪魔2人組、幻月と夢月の力で射出される弾幕は
無限にも思えた両者の距離は幽香の身体を削りながら着実に縮まっていく。
両者の距離が10m程に縮まったのを見て、幻月と夢月は口笛を鳴らし囃し立てながら弾幕の射出を止める。
弾幕が晴れた先には、未だかつて『風見幽香』が見せたことが無いほどに無様な様相をさらしていた。その身は弾幕が掠った部分がごっそりと削られて、持っていた日傘は弾幕を叩き壊していたからか小間がボロボロに穴が開き、軸が折れ曲がり最早傘の体を成すのが難しく見える。息も荒く、肩は激しく上下に運動し、いつもは笑みを携えるその顔には余裕が欠片もなく、カミソリのような鋭利な視線を2人に投げつける。
天使のような見た目の悪魔2人組はパチパチと小気味良く拍手を幽香に送る。
「すごいね!贋作なのにこんなに遊べるなんて!」
「うん。でもね、夢月、私ちょっと飽きてきちゃったなー。」
「もう!幻月ったら飽き性なんだから!お片づけはちゃんとしましょう。」
「はーい!もうこんなおもちゃはいーらない!」
遊びは終わりだとでも言うのか、彼女たちは鏡合わせに幽香へと手を開き、掌から膨大な力の塊を幽香に向けて弾きだす。
白色と青色が混ざり合った極光が幽香に向けて放たれ、周囲には逃げ場を塞ぐように狂気を纏った弾幕が扇状に弾きだされる。
満身創痍な幽香は為す術も無く、その極光と弾幕の津波に呑み込まれてしまった。
『あぁ、懐かしい顔がいるじゃない。』
弾幕が晴れた先、土煙に覆われたそこには傷1つ付いていない、人一人分ほどの大きさの
それを不思議そうに眺める2人組へと脈打つ血流のように、死ネ、死ネ、死ネ、死ネ、と意識の残響がこだまする濃密な殺気が鸚緑色の蕾から向けられる。
天使のような見た目の悪魔2人組はその爆発的に増した殺気に
思わず、興奮気味に天使のような少女が青いメイド服の少女の肩を揺さぶる。
「夢月!今度こそ
「そうだね~、本当にお寝坊さんなんだから。」
呆れがちな青いメイド服の少女の言葉に反応するように鸚緑色の蕾が花開く。
太陽のように鮮やかな黄色の花弁と夕日色に染まった筒状花の向日葵が咲いていた。
筒状花の中心には夕日色の中、黄緑色がかったウェーブのかかった髪の毛、白のブラウス、襟元には黄色いリボン、赤いチェックの上着とスカートの
対比するように日傘はボロボロのままだったが、風見幽香はそれを愛おしそうに、慰めるかのようにゆっくりと撫でる。
『久しぶりね。幻月、夢月。』
「やっほー!」
「久しぶり、
挨拶もほどほどに、風見幽香は日傘に『存在の力』
『この子はね。外の世界では宝具って呼ばれてる物よ。名前は『世界で唯一枯れない花』。私が力を与え続ける限り壊れることの無い可愛い子。』
『私の物を―――』
『よくも虐めてくれたわね。』
重厚な氷のような殺気が走る。
しかし、天使のような見た目の悪魔2人組はそれに陽だまりのような居心地の良さを感じて更に機嫌を良くする。
「お寝坊さんな、幽香が悪いんだよ?」
「そうよ。
逆に、悪びれる様子もなく風見幽香を糾弾してみせる。
「むしろ、
「そうよ。なんであんな半人前に自由にさせてるの?」
お互いに指を顎先に当てて疑問を口にする。
その疑問に風見幽香は上下左右に見える大地が震動するほどの感情の昂りを隠さずに苛立たし気に、今は存在の力の激減により眠ってしまっている人物に同情を込めながら、ポツリポツリと漏らす。
『そんなに寄ってたかって虐めないであげてよ。アイツだってそれなりに悩んで『私』のフリをしているのだから。』
『それにね。アイツもようやく信頼のおける仲間が出来て、自分の秘密を打ち明けて、無い頭で相談して、全てが報われるお涙頂戴の感動ストーリーの途中なんだから、ぽっと出のアンタ達みたいなバグキャラが台無しにするなんて面白くないわ。』
すっかり綺麗になった日傘を2人に掲げて吐き捨てるように宣言する。
『アンタ達は2人で1人前かも知れないけど、こっちは
瞬間、日傘の先に鸚緑色の存在の力が
『目障りよ。私の目の前から消えなさい。』
魔砲「マスタースパーク」
鸚緑の極光が弾け日傘の先端から先、上も下も、左右でさえも切り取られたかのように、周囲の時空を歪めながら無限にも近い『両界の狭間』を鸚緑色が染め上げる。
天使のような見た目の悪魔2人組もその波に呑まれるようにして姿が見えなくなる。
『『クスクスクス』』
しかし、嗤い声は鳴りやまない。それどころか次第にその音は反響して勢いを増していく。
『『
風見幽香が存在の力を込めるのを止め、鸚緑の極光が晴れた先には……。
先程までいた、2人組もまるで夢幻のように消え失せ、周囲の大地も断面をハッキリとしながら無辺の領域へと姿を変えていた。
2人組の悪魔は去った。呪詛のような言葉を残して。
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そして暫くすると、風見幽香のはるか後方より、強大な黒い蛇身が辿ってきた『
その背面にて、フレイムヘイズ達と徒の争いは勢いを増していたが風見幽香の下方を勢いよく『神門』に向けて蛇身は進む。やがて、風見幽香は背面の後方にて色付く影たちに守勢を強いられているベルペオルの一団を見つけそこに降り立つ。
「おや?風見殿のお客はどうされましたか?」
「帰ったわ。それより、ベルぺオル。」
短いが有無を言わせない強い言葉と気勢に、最近の『風見幽香』とは違う、出会ったばかりの殺気しかない『風見幽香』の姿を幻視する。そして、その言葉と共に色付く影たち『太古のフレイムヘイズ』を日傘で一閃し、薙ぎ払い、追撃の弾幕で討滅させてから、ベルペオルに向けて手を伸ばせば届きそうなほど近くまで歩み寄りフッと笑いかける。
「私はしばらく寝るわ。
そう言って、風見幽香はベルペオルの身体に倒れこむようにして意識を手放した。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
物語の核心部。
『私』の意識が覚醒した1話のあの瞬間は宝具『世界で唯一枯れない花』の形成された瞬間でした。
これが作者が「灼眼のシャナ」の世界観で人間と紅世の徒が共に望むときに生まれる「宝具」という設定を転生・憑依と絡めて描きたかったのが拙作です。
作中、違和感のある描写や入れ替わりなどはこれが理由でした。
マイボディとのシンクロ率と作中で表記していたアレは『私』と風見幽香の信頼度の証です。
また、アラストール戦で日傘にひびが入ってたのは風見幽香が『私』に存在の力を渡す余裕すらない程に戦いに力を注いでいたからです。
作中でこの二重性に気が付いていたのは『祭礼の蛇』と近くにいた……たちのみです。
完結まで片手の指で足りるほどの話数になってまいりましたが、ご感想や評価などいただけると作者のモチベーションにも繋がります。
今後も拙作をよろしくお願いします。
最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m
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個性:斬島