『風見幽香』な私。   作:毎日健康黒酢生活

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届かなくてもいい。

あなたを愛してる。

そんなお話。




庭師の如雨露

彼女を見た瞬間まるで華のような女性だと思いました。

 

今思えばあれが私の初恋にして終身の愛でした。

 

彼女に初めて会ったのは私が庭師として領主様の下で働き始めて数年が経ち師の許しも得て、初めて一人の庭師としての仕事を任された時のことです。

その仕事というのが荒唐無稽で領主様曰く「イングランド1の庭園を造れ」とのことでした。

領主様のお庭には既に一年中、その時々の一番美しい花や世界中の国々から持って来た花が咲いていました。

とりわけ領主様のお気に入りの花は、薔薇の花です。

ですから薔薇の花ならば、リンゴのにおいのする緑色の野薔薇から、イングランドの一番美しい薔薇の花まで、ありとあらゆる種類の薔薇の花を持っていました。

それらの薔薇はお城の壁をはいあがり、柱や窓わくにからみつき、廊下から天井伝いに広間という広間の中までのびて行きました。

最初はその大雑把な無理難題に頭を抱えていましたが、ある日の朝、その女性に会って全ては変わりました。

 

朝日が昇り始めもろもろの陰は深い瑠璃色にもろもろの明るみはうっとりした琥珀色の二つに分断された光景の中に私が師から初めて世話を任されていた薔薇の花を愛でるようにして彼女は立っていた。

 

―――美しい。

 

この世の全ての讃嘆(さんたん)の言葉をもってしても語れない。

いや、そのような言葉が無粋になるほど、ただただ美しい。

呆然と立ち尽くす私に緑色のくせ毛に金色の瞳をした彼女が私に気が付き声をかける。

 

「この薔薇はお前が世話をしているの?」

 

「えぇ。はい!そうでございます。」

 

一瞬呆けてしまったが、すぐに返事を返す。

身なりや態度からして身分が上のご令嬢であろう。

 

「そう。…彼女喜んでるわ。」

 

「そう仰っていただけると嬉しいです。」

 

「ふーん。()()来年来るわ。」

 

そう言って立ち去る彼女の後姿を見送る。

この出会いから私の人生は大きく色づき始める。

難航していた領主様の仕事も再び彼女から称賛の言葉を貰うために熟考に熟考を重ね、『巨大な薔薇園の迷宮』を作るというものになった。

 

 

その植生を始めて1年が経とうとしたある日の朝。

再び彼女が朝日と共に私の薔薇を愛でてくれていた。

 

「ちゃんと世話は続けているみたいね。」

 

「はい。この1年この日を待ちわびていました。」

 

すると彼女は私の方に近寄り私の手を取った。

薔薇の棘によって出来た傷やあかぎれとヒビと霜やけで海老の甲羅のような痛ましい私の手を彼女の透き通るようなしなやかな掌がなぞる。

 

「綺麗な手ね。」

 

「いえ、傷だらけで武骨なだけです。」

 

「私の称賛は素直に受け取りなさい。」

 

彼女から有無を言わせぬ殺気ともいえるような濃密な負の視線を受けたじろく。

 

「それと庭園に植え始めた子供たち。水を与え過ぎよ。優しくするだけが親の仕事ではないでしょ?」

 

そう言い彼女は1年前と同じように去っていこうとする。

その後ろ姿に物寂しさを感じ背中に語り掛ける。

 

()()!…来てくれますか?」

 

彼女は立ち止まり、少し考えるようにして一言だけ返してくれた。

 

「そうね。()()()()()()()()()()()()()()。」

 

そう言い残し彼女は去っていく。

 

 

 

 

こうして年に一度の逢瀬を重ねること数年。

私の胸にともる恋情の炎はひた隠し、年に一度のその瞬間を待ちわびる。

言葉にした瞬間あの花の妖精のような彼女は霞のように消え去ってしまうのではないかと思ったから言葉には出さずそのひと時を楽しむ。

 

 

 

 

そして遂に『巨大な薔薇園の迷宮』が完成し、満開に咲き誇り領主様が褒美の宴を開いてくれた翌朝のこと。

その朝は何故だか彼女が来る予感がしていた。

朝日が昇り始めもろもろの陰は深い瑠璃色にもろもろの明るみはうっとりした琥珀色の二つに分断された光景の中初めて会った瞬間を繰り返すかのように。

未だ枯れないが老成してきたその薔薇の花を愛でるようにして彼女はいた。

 

「彼女は本当にいい表情をするわね。」

 

「ありがとうございます。()()()()()あの薔薇園はご覧になりましたか?」

 

「えぇ。あの子たちの表情を見ればよく手入れがされているのが分かるわ。」

 

「えぇ!そうでしょう!」

 

彼女からの称賛の声に胸を躍らせ答える。

 

「あの薔薇園は様々な種類の薔薇を植え付けて一年中花咲く迷宮なのです!それから―――」

 

私の熱心な説明を遮る様にして、彼女の冷たい眼光が刺さる。

その表情はあまりの愚者を見て落胆をしているかのようだった。

そして私に背を向け立ち去りながら言葉を残す。

 

「はぁー。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「待ってください!!!」

 

彼女は立ち止まることもなく、こちらを一瞥もせずに立ち去ってゆく。

 

 

 


 

 

 

そこからの人生はまるで抜け殻のようだった。

どれほど立派な庭園を作り上げ領主様に称賛されようとも、数々の弟子ができ敬慕されても、伽藍洞(がらんどう)になってしまったこの心には響くことがない。

私はあの瞬間どう受け答えすればよかったのだろう?

彼女は何を求めていたのだろう?

何故訪れなくなってしまったのだろう?

『愛』とは何なのだ?

それだけを考え続け薔薇の世話をする日々。

やがて齢が60を超え枯れ木のようになり黒く濁った瞳は瑪瑙のように確固として腐ったまま固定されたかのようだ。

あの瞬間から私の人生は腐り果ててしまった。

消えてなくなってしまいたいのに、彼女のことを想い迫り来る死期を感じながら無感動で平坦な終わりを迎えようとしていた。

 

いつもと同じように()()()()()()()()()()人生の大半を共に過ごした薔薇の世話をしに朝日を浴び外へと向かう。

如雨露を片手に扉を出て、あと数メートルもしたら薔薇にたどり着く。

そんな時に胸に今まで感じたことのない激しい痛みを感じる。

その痛みに耐えきれず膝をつき地面に這いつくばる。

痛みの果てに人生の様々な記憶が思い起こされる。

しかし、その中でも最も輝いていたのは時間にすれば1時間にもならない彼女との逢瀬だ。

思い起こされる彼女の容貌。

言祝がれたその言葉。

 

 

「彼女喜んでるわ。」

 

()()()()()()()()()()()()()()。」

 

「彼女は本当にいい表情をするわね。」

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。」

 

 

あぁ、彼女はいつも()()を見に来ていたのか。

私なんて眼中にもなかった。

ただのついでに話しかけていたに過ぎなかった。

全身が火に焼かれたように痛いが、如雨露を持ち直して()()へと向かう。

 

この50年程()()()()()()()()()()()()()()()()()へと向かう。

 

季節外れの元気がない彼女に向かって、這いつくばりながら如雨露で水をやり語り掛ける。

 

「…ごめんな。俺は彼女が好きなんだ。」

 

瞬間、()()の蕾が膨らみ花が咲いた。

 

『………』

 

()()の声にならない声が聞こえた気がする。

私はだんだんと重くなっていく瞼を必死にこらえて()()の咲いてる姿を見る。

その姿に万感の想いを込めて言葉にする。

 

 

 

「…あぁ、泣き顔も綺麗じゃないか。」

 

 

 

暗くなっていく視界の中最後の一瞬だけ花の妖精のような彼女が見えた気がした。

 

 

 

△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△

 

 

 

一面の向日葵畑。

 

 

そこには向日葵を愛でる女性がいた。

 

 

向日葵と踊る様に、歌うように薔薇の模様が施された金色の如雨露を片手に向日葵の世話をする。

 

 

「ふふふ、水の枯れることのない如雨露って便利だわー。」

 

 

1人の男と人間に恋をしてしまった薔薇の愛の形(宝具)を手にして。

 

 




最後で読んでいただきありがとうございます。

薔薇の寿命は20年程と言われているそうです。
お城のモチーフはリーズ城。
時系列は大体中世盛期頃かな。
如雨露にもモチーフがございますので分かった方は感想などで言っていただけると嬉しいです。

ゆうかりんという存在が『最強の自在法』に対するアンチテーゼだけど、そのストーリーもあるので追々詰めていこうと思います。

今後も拙作をよろしくお願いします。

最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m

  • 英雄と敵の二重生活
  • 『風見幽香』な私。
  • 『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
  • 個性:斬島
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