眠り姫は己が喪失に気づき。
群衆は神話に酔う。
そんなお話。
深夜、月夜に照らされる花々を眺める。
私は咲き誇る花々の脇を流れる小川の石に腰かけている。
「ふふふっ。」
薄暗く姿が反射しない川の水面に自分の姿が映るのを想像して笑いがこぼれる。
月下美人とは正しくマイボディのことを言うのだろう。
最近はマイボディとのシンクロ率も上がってきて、第三者が居なければ花に話しかけるのは口調自体はマイボディ語訳があるが、大体、私の意思に近い言葉になってきている。
数千年に及ぶマイボディとの親交を実感していると。
突如、
その瞬間、マイボディは表情を大きく歪め、蛇さんの部下が置いていった鎖の断片を握りつぶした。
同時にこの身体が光に包まれ、
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△
―――ッ!
目が覚めたら立派なお部屋に寝ている件について。
うむ。理解が追い付かない。周囲を確認すると天蓋付きの大きくやわらかなベッドに寝かされていた。
トントンと扉が叩かれる。
「いいわよ。(どうぞー。)」
すると、白い覆面と装束に身を包む女性が入ってきた。
「失礼します。『
……ん?
「待ちなさい。もう一度『私』の名前を言いなさい。(えっ!? もう一回呼んでもらっていいですか?)」
「はい。『
「……いいわ。行きなさい。(……大丈夫です。もう行っていいですよ。)」
礼をして、白い覆面と装束の女性は立ち去る。
おかしい。
おかしすぎる。
何千年も連れ添った仲だ。
マイボディの心の琴線ぐらい分かる。
彼女は『
マイボディは何より『
許しているのは、蛇さん、その部下ぐらいだ。
あんな知らない女性に言われたらいつもなら勝手に体が動くはずなのに
おかしい。
試しに両手を顔に持ってきて頬っぺたを引っ張ってみる。
僅かな痛みと共に頬が延びる。
……えっ?
ありえない。
いつもなら第三者が居なくても
そして、握る力が私のイメージより強かった。
なんなら、さっきのやり取りもおかしかった。
マイボディは
人の神経を逆撫でする行動が好きで、弱い者いじめも大好きだ。
いつもだったら皮肉の一言はあっただろう。
しかし、先ほどのやり取り心なしか口調が
…
…
なんぞこれは?
これは歴史的な和解をいつの間にかしていたのか?
幾千年の時を経て遂に、遂に私に心を開いてくれたのか?
信じていいんだよね?
これで実は嘘でしたー!っていうマイボディの新しい虐めとかじゃないよね?
ベッドから立ち上がり、鏡台の前に立ち様々な表情をしてみる。
一人百面相をしていたら、トントンと扉が叩かれる。
その音に反応し、マイボディの表情は元に戻ってしまう。
とりあえず、
「いいわよ。(どうぞー。)」
白い覆面と装束に身を包む女性が扉を開け横に控える。
入ってきたのは三人。蛇さんの部下たちだ。
黒い鎧を着た男性。
白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女。
灰色のドレスを着た額の瞳が特徴的な三眼の女性。
代表するようにしてドレスの女性が話しかけてくる。
「失礼します。此度の神話の再現、いや、新たな神話の誕生お見事でした。」
ん?何のことだ?
…
まさか、マイボディ!
私が意識ないのに勝手に何かやらかしたのか!?
とりあえず、蛇さんの部下呼びじゃ可愛そうなのでお名前を聞いて状況を説明してもらいましょう。
「アンタ、名前は?」
「…はっ!『逆理の裁者』ベルペオルです。」
「そう、ベルペオル。状況は?」
「御身が『天壌の劫火』を退けた後、その勝利の気勢のまま討滅の道具達に一当てして『とむらいの鐘』の残党を保護しました。しかし、名のあるものは最後の『九垓天秤』『
『天壌の劫火』って魔界?で向日葵畑を燃やしたから何十年も戦ったあの炎の魔神さんじゃないですか!
こっち来てたの?
っていうか、マイボディは私の意識がない内に暴れまわっていたのか!
相手の方はどうなったんでしょうか?
「…『天壌の劫火』は?」
「御身の鸚緑に染め上げられ、恐らくは紅世に戻ったと思われます。」
「そう。」
あっ!マイボディが勝手に表情を動かして嗤った。
何なんだろうこの感じ。
「此度の祝宴を開こうと思ってるのですが如何ですか?」
…よし!
試してみよう。
私はこう言おうと思い喋る。
(私の為にお祝いですか!ありがとうございます!)
↓
「雑魚共が私を褒め称える様はいいけれど、それで自分が強くなった気にでもなったのかしら。気分が悪いわね。潰そうかしら?」
いつもなら、このように変換され口に出てくるのだ。
よしっ!
意を決して試してみる。
「あら。それはいいけれど、招く相手は選びなさいよ。」
おおぉぉぉー!
マイボディが!
私が意識を失ってる間に改心したのか?
あっ、あの魔神『天罰神』とか言ってたし説教されてマイボディは大人しくなったのか?
いや、その程度であの
謎が謎を呼び私が考えている間に話は進んだようで、蛇さんの部下3人の他には6人来ることになったようだ。
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会場は部屋の外の庭で行われた。
庭と言っても大きく、山一個分くらいはある広さだ。
そこには様々な料理が並べられ、華美ではないが豪華な食事と高価そうなお酒が並べられていた。
そして、一番の上座。
所謂お誕生日席へとベルペオルさんに連れられた。
「ここにどうぞお座りください。他の者たちは祝杯をあげた後あいさつに回らせます。」
「分かったわ。くれぐれも分かってるわよね。」
マイルドになったとはいえマイボディは不機嫌なことされると勝手に動き出すからね。と念押ししとく。
「はっ!」
そして、私の右側の列の席に座り、盃を掲げ音頭を取る。
「此度の戦。誠にご苦労だった。
とむらいの鐘は残念だったが、新しく加入した面々も今日は気を遣わずに祝おうではないか!
今宵、この場にいることこそが後の世に語られる誉れだ。
『血染花』に!」
『『『乾杯!』』』
こうして宴は始められた。
まずはベルペオルさんが白い巫女装束のようなものを着た青髪の少女と冴えない中年とハットとマントが浮かんだ不思議な生き物を連れてきた。
「此度の風見殿の活躍の―――。」
ベルペオルさんがお祝いの言葉を言ってくれてるが長くなりそうなので遮ってご紹介だけにしてもらおう。
「聞き飽きたわ。紹介だけして頂戴。」
あっ!ほら!
口調はきついがだいぶマイルドになった。
マイボディの一言一言に、幾千年の時をかけて進歩したことを実感し感動していると紹介が始まる。
「では、『
「蛇さんの部下以外興味ないわね。次。(青色の髪の子は蛇さんの部下ですよね。他の方も覚えました!)」
次は黒い鎧を着た男性が同じく黒色の服を着た男性と、燕尾服を身に纏った壮年の紳士の男性陣がきた。
黒い鎧を着た男性が代表して挨拶するようだ。
「
「
「はっ、憶えていただいていたとは思いませんでした。」
「えぇ、だって
「いえ、この身は盟主と我が巫女を守るためにあります。ご容赦を。」
「冗談よ。祝いの席でそんなことはしないわ。(嘘です嘘です!)」
そんなマイボディの冗談?で一瞬焦ったが鸚緑の極光ぶっぱも無く無事にあいさつを終えて席へと戻ってきました。
さぁ、残るは二人。
しかし、その二人に私とマイボディは激しく反応しているのだ。
ずっと気にしないようにしていたが、まるで小さな山のように大きな頭部のない胴体部分に白い染料で描かれた双頭の鳥鉄が描かれた巨人の姿とそれに寄り添う、花弁の真ん中に女性の顔がある妖花の番になった。
そう、この子お花なんだ。
ヤバい。
欲しい。
これが私とマイボディの総意見だった。
頭部のない鉄の巨人が代表して挨拶する。
『『血染花』殿おおぉぉー!
此度の武功、誠にお見事であるううぅぅ。
討滅された我が主『棺の織手』の仇討ちぃぃー!
感謝するううぅぅ。
我は『
こ奴は副官のおおぉぉー!
『
この宴にお招きいただくのはああぁぁー!
終生の名誉であるぅぅー。』
ウルリクムミがとてつもない大声で紹介する。
正直、うるさ過ぎるがマイボディは違うことに気を取られているので上空に飛ぶ。
そして、鉄の巨人に寄り添うように、その胸元にいるアルラウネに向き直り、その花弁を優しくなでる。
「私を如何様に?」
「別に。私は花が好きなのよ。
ベルペオル!」
マイボディと私の意識がシンクロしベルペオルさんに我儘を言う。
「はっ!何なりと。」
「この二人貰ってくわ。」
「ご随意に。」
そうして、2人の部下をGETし宴はお開きになった。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
多くのご反響いただき作者は驚愕しております。
メインは『英雄と敵の二重生活』のスタンスで執筆をしておりますので、この作品を通じて作者のことが気になった方は見ていただけると嬉しいです。
そちらは多くの秘密、伏線を抱えながら物語が進んでいくので読み進めていくうちに話がドンドン加速していく様は少しばかりの自信があります。
本日同時更新なので是非。
前話の言葉の意味、空中で何が行われたか速攻で回収していくスタイル。
しばらくはマイルドゆうかりんとその部下や、お花にまつわるエピソード(4.6.7話の様な)の予定。
時系列は前話の翌日。
喪ったものに気づき。
個で完結していた『私』は他者を
今後も拙作をよろしくお願いします。
最近ふとした時に、4作品もマルチ投稿していてどの作品から作者を知っていただけたのか気になってしまったのでアンケートいたします。ご回答いただけると読者層の把握、作者のモチベーションになる、他の読者様はどれをご覧になってるのかなど分かるので是非、お試しください。m(__)m
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英雄と敵の二重生活
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『風見幽香』な私。
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『AFO』はアホ、ハッキリわかんだね
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個性:斬島