芝浦「悪いな。近くに俺がいるぜ」   作:砂袋move

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後編

鏡の世界、ミラーワールド。

そこで行われるライダー達の血みどろな殺し合い。

最後に生き残った者のみが与えられる現実世界へ戻る権利を掛けてライダーバトルが勃発していた。

その狙いは、首謀者である女性・サラが現実世界で暴れるアナザー龍騎を止める為に引き起こしたものである。

しかし、ライダー達はそんな事知る由も無い。

己の為に、本能のままに生き延びようと彼らは足掻き続ける。

その戦いの行く末とは…。

 

ー生き残るのは、たったひとり。

 

 

6日目…残り40時間

人っ子一人いない都会の街並み。

反転したその場所を疾走する車が一台。

城戸真司。秋山蓮。手塚海之。芝浦淳。木村。石田。

共にライダーバトルを止め、ミラーワールドを抜け出す方法を見つける為に協力する六人はひたすら車を走らせていた。

「にしても戦い止めて此処から抜け出すって具体的に何すれば良いんだ?」

助手席に座っている真司がふと疑問を口にした。戦いを止める事に関して最も積極的であり、あまり人を疑わない彼は、本来なら敵同士であるはずのライダー達の前で変わらずいつもの調子で話すのだった。

「今更か。そんな事で立ち止まってどうする、もうタイムリミットまで1日も無いんだぞ」

それに答えたのは只今車を運転している木村だった。用心深く現実主義な彼は真司の話の内容に冷静に突っ込む。

実際に与えられた期限まで残り1日を切っていた。リアリストの彼でなくても、その問題を気にするのはライダーであれば当然であった。

進行方向を見ながら会話を続ける二人の間に割って入る者がいた。

「あの女を見つけ出すんだ。真実を聞き出して、戦いを止める方法を見つけ出す」

芝浦が会話を遮って答えた。

真司達と違い、芝浦は初めからこのメンバーに入っていた訳ではない。目的は同じであれど、彼は一切干渉せず他の仲間達と共にこの戦いを止めるべく活動していた。しかし、戦いが激化していくと同時に大切な仲間を失い自身も危機に陥った時に手塚や真司達に助けられ、このチームに加入する事を決めたのだった。

しかし、自分のせいで仲間が命を落としたと責任を感じる芝浦は、他の者達と違いライダーバトルを破綻させる事に人一倍強い執念を燃やしている。

「あいつらの命を無駄にしない…」

そんな彼を見て、このメンバーのリーダー格である手塚は、先程車で出発する前にしていた蓮との会話を思い出した。

・・・

「どういう事だ秋山。芝浦に気を付けろって…」

蓮の言葉に動揺する手塚は思わずその発言を返した。

彼らはこの長い戦いの中でかつての記憶を取り戻していた。当然真司や浅倉の事も覚えている彼らは、協力してこの争いを終わらせる為にライダーを集め動いていた。

しかし、前回芝浦を助け出し、仲間に入れる事を決めた際、蓮は一度難色を示した。

「芝浦淳…過去であいつは俺達の敵だった。今はまだ記憶を失っているが、記憶が戻った時何しでかすか分かったもんじゃない」

蓮の脳裏によぎるのは、戦いをゲームと称して楽しみ、人の命を平気で弄び、蓮達を焚きつけては苦しめ、冷酷な笑みを浮かべるかつての芝浦淳だった。

「手塚。お前あいつを信用できるのか?」

蓮の鋭い視線が手塚をじっと見つめている。手塚もかつては芝浦と交戦した経験があり、苦い思いをしたのも事実であった。

しかし、占い師であり人の心を読むのに長けている手塚にとって、今の芝浦が敵に回るとは思えなかった。

心を落ち着かせるようにコインを弾き、その結果を見せると蓮に一言放った。

「大丈夫だ。俺の占いは当たる」

・・・

そんな出来事に思いを馳せていると、隣に座る石田に呼びかけられ意識を其方に向けた。

「手塚さん、どうしたんですか?考え事して…」

「何でもない、気にするな」

自分をリーダーとして親い、頼りにする彼に向かって手塚は優しく語りかけた。

「そもそもタイムリミットって言ってたけど、其れまでに戦いが付かなかったらどうなるんだ?もしかして、全員引き分けって事で帰してもらえるとか!?」

「そんな訳あるか、それだったらどれだけ楽だと思ってる」

蓮が呆れて真司に返答するが、対する手塚は逆にその疑問を真に受けると、考えを口から漏らした。

「でも確かに、あの女は期限までに勝負が付かなかった場合どうするつもりなんだ…?」

全員が考えを巡らせた時、車の窓に突然何かが張り付いた。

「うおおおおおおおおお!!?」

モンスターが逆さまの状態で車窓にぺったりとくっ付き、此方を見つめている。思わず急ブレーキを掛けるとモンスターが吹っ飛んでいったが、直ぐに周りの異変に気付く。

「来た!敵襲!」

そこには何十何百といったモンスターが湧き出るように現れ、ジリジリと此方に詰め寄って来ていた。

その異常な数に手塚達は合点がいく。

「…なるほど、勝負がつかないならモンスターを使って無理矢理決着を付けさせるつもりか」

「とにかくコイツらを片付けるぞ」

6人は車を降りると同時にデッキを掲げ、モンスターの大群に相対しながらポーズを決め変身態勢を取った。

「「「「「「変身!」」」」」」

デッキを装着して煌びやかな光に包まれた6人はライダーとなりモンスター達に向かっていった。

多種多様、様々な種類のモンスター相手にライダー達は怯まずに果敢に挑んでいく。

『SWORD VENT』

『STRIKE VENT』

『SPIN VENT』

それぞれの武器を召喚し、モンスター達を次々と薙ぎ払っていく。ライダーバトルも終盤。今まで数多の戦いを潜り抜けてきた彼らにとって今更手こずるような相手では無い。しかし、それは一体ずつであればの話だった。

切り捨てても投げ飛ばしても次から次へと溢れ返るモンスター達に対して流石のライダー達も一筋縄ではいかない状況だった。だが、ここを乗り越えなければこの戦いを止める手立てがないのも事実である。

この現状を打開する為、他より生物感が強く捻れた二本の角が特徴のライダー、インペラーが必殺技ードライブディバイダーを発動させる。

『FINAL VENT』

その音声を合図に何処からともなく無数のガゼル型モンスターが現れ、インペラーの周りにいるモンスターをくだしていく。そして、ひとかたまりにした瞬間に自慢の脚力で跳躍し、その内の一体に勢いよく膝蹴りをお見舞いする。喰らったモンスターは飛んでいく威力そのまま大群に突っ込んでいき、ボーリングのピンよろしく薙ぎ倒しながら爆発に巻き込んでいった。

モンスターを片付け着地したインペラーにすかさず攻撃が叩き込まれる。

「…楽しそうだなぁ、お前ら。俺も混ぜてくれよ…」

そう言って、王蛇がベノサーベルでインペラーを滅多斬りにしていく。

最早ライダーの数が限られ始めた中、この凶悪な男と迎合する可能性が上がるのは必然であった。モンスターとの戦いに釣られた王蛇はまず目に付いたインペラーに矛を向けたのだ。

「やめろ浅倉!」

インペラーを助け出そうと龍騎が駆け出すが突然の発泡に足止めされる。

攻撃の射線上には銃を構えた緑のライダーが立っている。

「ちっ!またお前かよ!」

王蛇を援護するゾルダにガイが向かっていく。ナイトやライアが王蛇やゾルダの元に向かおうとするが無数のモンスターの波を超えられず足止めを食らっていた。

「いい加減にしろ浅倉!ライダー同士の戦いは俺達が終わらせるんだ!」

「はっ…、冗談だろ?折角こんなにライダーがいるんだ…、最後まで戦わせろッ…!」

龍騎やベルデが王蛇に立ち向かうも敵わず退けられる。

容赦無い攻撃を受け続け満身創痍のインペラーが弱々しく這いつくばり、手塚に助けを求める。

「て、手塚さん…助けて…」

しかし、それを許す王蛇ではない。

『FINAL VENT』

無慈悲に響く電子音と共に空高く舞い上がる王蛇が毒液を纏って急降下してくる。

思わず背を向けその場を離れるインペラーだったが、王蛇の一撃が決まりデッキが外れ変身解除しながら遠くに吹っ飛ばされる。

傍らに落ちたデッキは電流を放って砕け散り、生身で放り出された石田を待っていたのはモンスターの群れだった。このミラーワールドでライダーの力を失った者が辿る運命は一つしか無い。

「あぁ…!手塚さんッ!!手塚さぁんッ…!!」

たちまちモンスターが群がり石田を食い散らかしていく。彼の断末魔が辺りに響き渡り、血の付着した眼鏡が龍騎の足元まで飛んできた。

「石田…!何で…」

込み上げる怒りと悲しみに堪え切れなくなったその時、真司の意識を何者かが乗っ取り始めた。

・・・

ーこれ以上誰かが傷付くのは見たくないんだろ…?

「やめろ…!来るな…!」

ーもうこの戦いを終わらせたいんだろう…?

真司の脳裏で邪悪な声が響く。

「俺から離れろ…!」

ーだったら俺が直ぐに終わらせてやるよ…!

「やめろ…ッ!!」

ー俺を受け入れろ…!

・・・

うああああああああああ!!!

龍騎が頭を抱えて叫び出すと再び漆黒の光に包まれ始める。光が止むとそこに龍騎の姿は無く、代わりに黒龍の力を宿す騎士が立っていた。

ー仮面ライダーリュウガ。

龍騎と違い漆黒のボディに身を包み、目に見えて分かる殺意を振り撒き続けている。その仮面からは一切表情が読み取れず、より一層不気味さを際立たせる。

「城戸…?お前、どうしたんだ…」

心配して駆け寄るベルデをリュウガは引っ掴むと問答無用で殴り始めた。

「がっ…!城戸、やめろ…」

「俺の為に死ね…ッ!」

ベルデの腹に膝蹴りを食らわせ怯んだ隙に首元を執拗に殴り、回し蹴りを喰らわせた。かなりのダメージを受け、倒れ込んだベルデに興味を無くし、誰彼構わず手当たり次第にリュウガが暴れ始める。

ライアを吹っ飛ばし、ゾルダを組み敷き、ガイにまで魔の手を伸ばす。

「ぐっ…!お前、ホントに城戸か…!?」

かつて自分を助けてくれた真司とは想像も付かないような冷徹で残酷な戦法にガイは思わず困惑する。

「よせっ!城戸ッ!」

止めようとするナイトの前にまたもやモンスターが立ち塞がり取っ組み合いを始める。

ガイを遠くに飛ばすと今度はナイトに向けてジリジリと歩を進め出す。

「待て…!城戸…!」

ボロボロのベルデがナイトを助け出す為力を振り絞って立ち上がるとカードを使う。

『FINAL VENT』

ベルデの背後に擬態していたカメレオン型モンスター・バイオグリーザが姿を現し、舌を伸ばしベルデの足に巻きつけると宙にぶら下げた。振り子の要領で勢いをつけるとリュウガの横を通り過ぎ、ナイトを妨害しているモンスターを掴むとそのまま高度を上げていく。上空まで行ったところで舌が外され、今度は真っ逆さまに落下しモンスターを地面に叩きつけ爆炎が巻き上がった。

これがベルデの必殺技ーデスバニッシュ。しかし、只でさえ大振りで隙の多いこの技を今の彼が使うのは無謀であった。

その時、拉致の開かないゾルダが周りを一掃する為に最強のカードを取り出す。

『FINAL VENT』

ゾルダの足元から身体中が武器となっている鋼の巨人ーマグナギガが現れ、背中にマグナバイザーを接続されると必殺技ーエンドオブワールドの発動態勢に入り、エネルギーの充填を始める。

リュウガはすかさずその場を離れ、モンスターを振りほどいてもらったナイトも逃げようとするが、先程の攻撃で力を使い果たしたベルデにはそんな力は残っていなかった。

今にも攻撃が発動されようとする中、ベルデはナイトに向けて思いを託した。

「城戸を…頼んだ」

「木村ッ!」

トリガーが引かれ目にも留まらぬ一斉射撃が襲う。他のライダー達は間一髪直撃は避けるも、動けぬベルデと知性のないモンスター達はその砲撃に飲み込まれた。

あまりの威力に焼け野原となった風景を前に、王蛇とゾルダはこの間に乗じて立ち去っていった。

傷だらけの木村が遠くまで吹き飛ばされ地面に倒れ伏していた。

そんな彼に生き残っていたバズスティンガー三体が近づいてくる。

「城戸…」

最早指一本動かす力も無い木村は最期の瞬間まで城戸を想い続けるとその意識が途絶えた。

・・・

攻撃の止んだ地点は、辺り一面が荒廃し、あちこちで火の手が上がっている。他のライダー達は直撃は免れてもその衝撃までは逃れられず、瓦礫に埋もれ地面を転がされている。

ガイが立ち上がると突然の頭痛に頭を抑えた。

立ち込める煙。鼻をつく硝煙。辺りで点々と燃え盛る炎。その光景が、芝浦の奥底で封じ込められていた記憶を呼び覚ました。

 

ーだって、楽しいじゃん

ー俺たちライダーな訳でしょ?お互い潰し合うのがルールじゃん

ーお前…俺が…ゲームを…面白くしてやったのに…

 

ー戦いはゲームなんかじゃないからな

 

かつての記憶が目まぐるしくフラッシュバックすると、芝浦は仮面の下で口元を歪ませた。

「…アンタってホント変わんないね。うざいぐらい」

ナイトも瓦礫を抜け出し、リュウガを探そうとしたところ突然の一撃を受け、下手人に向けて声を荒げた。

「芝浦…やっぱりお前…ッ!」

「大人しくしててよね。せっかくまたこのゲームに参加できたんだから」

ガイは子供じみた軽い口調で言うとメタルホーンを振るいナイトに攻撃を仕掛け始めた。

「芝浦…、記憶が戻ったのか…?」

ライアが交戦するナイトとガイに気付く。

「やはりお前は俺達の敵なのか…?」

愕然として思わずそう呟くライアの背後からリュウガが近づいてくる。

ライアが振り向くと同時に、黒いドラグセイバーを一閃しライアの装甲を切り裂いた。

それに気付いたガイがナイトとの戦いを中断すると、リュウガに近づき肩に手を乗せる。

「待って待って、そんな直ぐに決着付けちゃったら面白くないじゃん」

「何…?」

ガイのその言葉に思わずナイトもライアも絶句する。かつての愉快犯が間違いなくそこにいた。

リュウガが疑問を口にする中、ガイは話し出した。

「どうせなら、ちゃんとした場所で決着付けたいからさ。俺達が最初に目覚めた、あの広場に集まるってのはどう?」

「お前…正気か…!」

ナイトが怒りを露わにするが、ガイは気にせず続ける。

「今やったらコンディション悪いし、フェアじゃないじゃん。折角のゲームなんだからそういうとこしっかりとしないとね。アンタもそれで良いでしょ?」

ガイがリュウガに向けてそう呟くと、暫く沈黙した後リュウガは答えた。

「…いいだろう」

「じゃあ集合は明日の一時。そこでライダーバトルの決着が付く」

周りのライダー達にそう楽しそうに告げるとガイはリュウガの背中を追って立ち去っていった。

その場に残されたナイトとライアはあまりの出来事と怒りに呆然と立ち尽くしていた。

・・・

あの場を離れた後、芝浦は一人でミラーワールドを徘徊していた。すると、この前同様鏡が歪み出し、芝浦の前にサラが姿を現した。

「貴方は…戦いを止めるつもりでは無かったのですか…?」

「あぁ…それ?いや、そうだったんだけどさ、記憶が戻ったらそんな事どうでも良くなっちゃって、やっぱり進める事にしたんだよねー」

「…そうですか」

芝浦の言葉に何処かサラは困惑したようだった。そんな彼女に向かって今度は逆に質問を浴びせた。

「ねぇ、教えてよ。何でアンタはこんなゲームを起こしたの?」

「私は…ゲームを止める為に、このゲームを始めました」

「…どういう事?」

サラは語った。自身の事故の経緯と彼氏であり、今自分の為に罪を犯している加納達也という男について。そして、その為にライダーバトルを再び起こした訳を。

「ふーん。つまり、外で暴れるアンタの彼氏を止める為に、俺達を戦わせてたって訳か。現実世界に戻って代わりに戦ってもらう人を決める為に」

芝浦は納得がいった様だった。背を向けて立ち去ろうとするとサラが一言告げる。

「私の命もあと僅かです。どうか、最後の一人を決めてください」

そう言うサラに対して、芝浦は振り向くと答えた。

「心配しなくても、このゲームは俺が終わらせるよ」

・・・

次に芝浦が向かったのは北岡法律事務所であった。ここでは浅倉とその協力者である吾郎が拠点としており、芝浦はここで浅倉達にも提案を持ち掛ける。

「だからさ明日の一時、俺達が最初に集まった広場で決着を付けようって話」

「そんな事せずに…今戦えよ…?」

浅倉は事務所の椅子に踏ん反り返ったまま、芝浦に対して視線を向けた。しかし、そんな威圧など気にも留めず芝浦は続ける。

「だからさー、どうせやるなら皆んなでやった方が楽しいでしょ。ほら、戦いは人数が多い方が盛り上がるじゃない?」

そう言う芝浦に、浅倉は立ち上がって顔を合わせると不意に笑い出す。

「変わった奴だな…お前」

芝浦は笑顔を向けると部屋を去っていく。すると丁度お茶を運んでいた吾郎と遭遇し、彼の耳元で話し掛ける。

「アンタってさ、何で浅倉威に味方する訳?」

吾郎の目がピクリと動く。

「…お前には関係無い」

吾郎が鋭い視線と恐ろしく低い声で威圧する。しかし、それでも芝浦は動じない。吾郎の目を見て話を続ける。

「なんでもいいけどさ…自分がやりたい事は自分がやらなきゃ意味ないんじゃ無い…?」

そう言い残して事務所を後にする。吾郎は芝浦の背中をいつまでも睨み続けていた。

・・・

山奥の廃墟。かつては多くの仲間が集まっていたこの隠れ家には今や手塚と蓮の二人しかいなかった。

「芝浦…まさか裏切るとはな」

「だから言っただろ、あいつはろくな事はしないってな」

手塚の呟きに蓮が怒りを露わにして返す。手塚が言葉に詰まる中、蓮は廃墟の出口に向かう。

「秋山、何処に行く気だ」

「決まってるだろ、城戸を元に戻す」

そう答える蓮に対して思わず立ち上がった手塚が止める。

「無茶だ!アイツの力を見たはずだ、お前一人じゃ勝てない」

「分かってるさ。だが、城戸を助けるには行くしかない」

蓮は構わず歩を進めると後ろから手塚が駆け寄ってくる。

「なら俺も行く。二人力を合わせれば城戸を助け出せるかもしれない」

蓮は無言で手塚を見つめると一緒に廃墟を出発し、芝浦の言っていた集合場所に向かおうとする。

すると、意外な人物に二人は呼び止められた。

 

7日目…残り11時間

かつてライダー達が戦いを告げられた際に立っていた広場。その時は十数人の契約者とモンスターが集まっていたものだが、今は六人しかいない。

「さぁ、全員集まったみたいだし。そろそろ始めようか」

残る五人を尻目に芝浦が取り仕切る。全員から冷ややかな目線を向けられつつも構わずに広場の中央に立つ。

「貴様…何が目的だ」

「別に…?俺はただ面白いゲームが出来ればそれでいいんだって」

腹わたが煮えくり返っている蓮に対して芝浦は嘲笑気味に返す。その態度は蓮だけでなく他の者の不快感までも煽る。

「と、その前に」

すると突然芝浦は話を変えた。

「この前聞いたんだよね。ライダーバトルが再び始まった理由」

その話題に全員が意識を向けた。

「この戦いはあの女が外の世界で暴れている彼氏を止めてもらう為に起こした戦いなんだよ。つまり、勝ち残った人に今度は現実世界で戦ってもらうって話。俺に言わせちゃこれは敗者復活戦だね」

誰一人声を発しない中、芝浦は一人で話し続けている。

「アンタ達も全員覚えてるでしょ?俺達は昔、既にライダーになって戦って、そして死んでる。一度ライダーバトルに負けて脱落した俺達が再びこのゲームに参加出来て、勝ったら現実世界に生きて帰してもらえるなんて既に死んでる筈の俺達からしたらまたと無いチャンスじゃん。だったらやる事は一つしかないよね」

そう言ってポケットから犀の顔が描かれたカードデッキを取り出す。

「つまり自分が生き返りたいが為にライダーバトルをさっさと終わらせたい訳か」

手塚が芝浦に質問をぶつける。

「いや、俺が生き返らせたいのは…アンタ」

と言って、芝浦は真司を指差す。

「何?」

思わぬ一言に真司の中のリュウガも芝浦に視線を向ける。

「どうせだったらアンタを生き返らせた方が面白そうなんだよねぇ…。俺はここでゲームを目一杯楽しむからそれで良いや」

「呆れた奴だ。お前はどうしようもないな」

蓮と手塚も蝙蝠とエイのデッキを握る。

「フッ…面白い奴だ…。だったら望み通り俺が勝ち残ってやるよ…」

不敵な笑みを浮かべ、黒龍が刻まれたカードデッキを掲げる。

「何でもいい…俺を楽しませろ…」

浅倉と吾郎もデッキを出す。紫の大蛇と緑の牛が此方を睨んでいる。

全員の腰にベルトが装着され全員がそれぞれの思いを胸にポーズを取り叫ぶ。

「変身!」

戦友を取り戻す為に。

「変身!」

運命に抗い、戦いを止める為に。

「変身!」

己を満たす戦闘に心ゆくまで浸る為に。

「変身!」

ただひたすらに、恩師の為に。

「変身!」

現実世界に存在し続ける為に。

「変身!」

そして、この"ゲーム"を終わらせる為に。

ー変身した彼らは一同に会すると、武器を手に取り戦いに向かっていく。

今最後の戦いが始まった。

『SWORD VENT』

先手を切ったのは王蛇である。猛毒を放つ剣を握ると真っ先にリュウガに向かっていく。リュウガはそんな王蛇を目で捉えると同じく向かっていく。

『SWORD VENT』

『SWING VENT』

『STRIKE VENT』

ナイトとライアがそれぞれ槍と鞭片手にリュウガを止めようとするもそこにガイが立ちはだかる。

「どけ!あいつを止めるんだ」

「アンタらで勝てる訳ないじゃん」

メタルホーンで二人の攻撃をガードし、逆に押し返すと角による突きで圧倒していく。

王蛇とリュウガが一騎打ちを繰り広げる中、ゾルダはそれを遠目で見つめている。

ベノサーベルがリュウガの肩に一撃を放つが、リュウガは微動だにせずサーベルを掴むと逆に引き戻して攻撃をぶつける。

怯まず王蛇が迫る所をナイトが横入りするとウイングランサーで退ける。しかし、その隙にリュウガがナイトを背中から攻撃する。ウイングランサーがナイトの手を離れ遠くに飛ばされる。

一方、王蛇が立ち上がろうとしたその時、

『SHOOT VENT』

遠方で待機していたゾルダが両肩に砲台ギガキャノンを装着し、王蛇に向けて発泡した。堪らず王蛇が広場の外れに吹っ飛ばされるとゾルダが悠々とその後を追っていく。

王蛇とゾルダがこの場所を移動した事を確認すると、ナイト達に襲い掛かろうするリュウガに向かって、ガイが跳躍しその背中に渾身の一撃を放つ。流石のリュウガもこの不意打ちには対処できず思わずよろける。

「貴様…何の真似だ…?」

リュウガがガイを睨み付けるとガイはナイトとライアの前に立ち、答える。

「芝浦…?」

「悪いけど…勝ち残って欲しいのはアンタじゃ無いんだよね…。俺が生き残らせたいのは…"城戸真司"だ」

すると、ガイがナイトの前に立って手を貸す。

「城戸真司を助け出してライダーバトルで生き残らせる、それがこのゲームを終わらせる方法だ。あんた達も手を貸してよ」

「あぁ…分かった」

ナイト、ライア、ガイが並んで武器を構える。

「フン…馬鹿が…」

リュウガが容赦無い攻撃を向けてくる。

・・・

諸に食らった砲撃によって吹っ飛ばされ、転げ回る王蛇をゾルダは冷ややかな目で侮蔑している。

「…あぁ、どういうつもりだ…?お前…?」

王蛇は煙を上げゆっくりと立ち上がる。

ーゴローちゃん…俺やっぱり、浅倉と決着付けなきゃいけないと思うのよね

ー行かせてよゴローちゃん…そうでも無いと、何か死に残していくみたいで、嫌なんだよね…

吾郎の脳裏には恩師である北岡秀一の最期の言葉が遺っていた。そして、もう一つ。

ー自分がやりたい事は自分がやらなきゃ意味ないんじゃ無い…?

芝浦のこの一言が今まで時を待ち続けていた吾郎の背中を押したのかもしれない。憎き浅倉に向かって吾郎は言い放つ。

「浅倉…お前は、俺が倒す」

「あはぁ…誰でも良い…戦えぇぇぇぇぇ!!!」

サーベルを握る王蛇が狂乱しながら向かってきた。

・・・

『TRICK VENT』

ナイトは六人に分身すると、リュウガを翻弄し始める。ライアとガイもそれに合わせて援護し、リュウガに一切隙を与えない。

『ADVENT』

しかし、徐ろにデッキからカードを取り出すと契約モンスターを呼び出した。現れた黒龍ードラグブラッカーが尻尾を振り回してナイト達を薙ぎ払う。一撃で地に付され、鏡の幻影も一瞬で消滅する。

まだまだ襲い掛かるドラグブラッカーにガイがカードで対抗する。

『CONFINE VENT』

ドラグブラッカーが霧となって消え、その間にナイトがカードを入れる。

『NASTY VENT』

今度は上空からダークウイングが飛んできて、超音波を発し始める。ライアとガイはナイトの仲間とみなされている為、その攻撃はリュウガにのみ適用される。リュウガが呻くその隙にライアが王手をかけんとカードを使う。

『FINAL VENT』

桃色のエイーエビルダイバーが回遊してきた所をライアは飛び乗り、必殺技ハイドベノンを決める。

『GUARD VENT』

苦しみながらもすかさずカードを入れ、ドラグシールドを使って防御する。しかし、威力を殺しきれず吹っ飛ばされる。

「城戸!」

エビルダイバーから飛び降り、倒れ込んだリュウガに駆け寄る。

「大丈夫か城戸…?」

「手塚…?」

リュウガが歩み寄るライアに視線を向けると、落ちていたウイングランサーでライアの腹部を貫いた。

「ガハッ…!」

「手塚!」

ガイがリュウガに向かってくるもあっさり組み敷かれ、返り討ちにされる。

『STRIKE VENT』

形勢逆転し、カードを取り入れるとドラグクローをキャッチし力を溜める。

倒れ込むライア、そして射線上にいるナイトに向かって昇竜突破( ドラグクローファイヤー )を放つ。背後に立つドラグブラッカーと共に発射された黒炎がナイト達に向かっていき、爆発が起こる。

勝利を確信したリュウガだったが、突如構えたドラグクローを掴まれ困惑する。

「ん!?」

「悪いな…近くに俺がいるぜ…!」

そこにはあまりのダメージに電流が走りながらも片手でドラグクローを掴むガイがいた。その背後には無傷であろうナイトとライアがいる。

リュウガはすぐに気付く、コイツはゼロ距離で攻撃を喰らい耐えたのだと。

憤るリュウガが目の前に立つガイを殴り倒し、一枚のカードを取り出す。チラリと映るその絵柄は黒龍のエンブレムがぼぉっと浮かび此方を嘲笑っている。

『FINAL VENT』

再三現れたドラグブラッカーがガイの足元に黒炎を放つ。するとその炎は膠着し、ガイの下半身を搦めとる。動きを封じられたガイを余所にリュウガが浮き上がり、ドラグブラッカーがその周りを回遊する。死期を悟ったガイにはその光景がまるで黙示録の審判のように映った。

運命の瞬間が訪れ、リュウガがキックの態勢で吐き出された黒炎と共に突っ込んでくる。

ガイの脳にはまるで走馬灯のように目まぐるしく様々な映像が駆け抜けていった。

 

ーくそ…ここで脱落かよ…

ーでも、人の命を守るって"ゲーム"も…

 

ー案外楽しいじゃん…

 

ナイトとライアの眼前で爆発が起き、ガイのデッキの破片がナイトの足元に飛び散った。

巻き起こる煙の中、リュウガが立ち上がりナイトの方に向かって歩いてくる。

ナイトは絶叫して拳を握ると目の前の悪魔に向かっていった。

・・・

王蛇とゾルダの因縁の対決は白熱の戦いの末、遂に決着が着こうとしていた。

『FINAL VENT』

『FINAL VENT』

刹那の差で同じカードが装填され、それぞれモンスターを呼び出すと必殺技を放つ態勢に映る。

王蛇は飛び上がり、ベノスネーカーの毒液の濁流に乗る。ゾルダはマグナギガにエネルギーをチャージし、数多の光弾を発射する。二人のファイナルベントはぶつかり合い、とてつもない衝撃波が巻き起こった。

しかし、その威力から王蛇が押し負け、落下して地面を転げ回る。

吹っ飛ばされた王蛇が起き上がろうとする瞬間、ゾルダがさらにカードを一枚入れる。

『SHOOT VENT』

「お…?」

ふらふらと立ち上がった王蛇の腹部にギガランチャーが押し当てられる。

「浅倉ァァァァァァァァ!!!」

長年の殺意と憎悪を込めた絶叫と共にギガランチャーが火を噴く。

眼前で王蛇が炎に包まれ、瀕死の浅倉が転がっていた。

「…先生」

変身を解くと吾郎を満足げに呟く。

その瞬間、浅倉の目が見開かれ吾郎の首に両手を滑り込ませる。

瀕死の重傷を負っているとは思えない怪力で吾郎を締め上げる。突然の出来事に吾郎も完全に不意を突かれ対処が出来ない。

粒子化しながらも力を一切緩めない浅倉は地獄の底にも響き渡るような笑い声を発しながら塵となって消えた。

首を縛る悪しき両手が消え、吾郎が力無く倒れ込んだ。しかし、その目は見開かれたままであり、その口はもう恩師の言葉を発さない。

恩師の無念を晴らし満足した男は間もなく粒子となって消滅した。

・・・

リュウガに圧倒され続けるナイト。リュウガは拾ったウイングランサーでナイトを執拗に攻撃し続ける。対するナイトにはダークバイザーしか無く攻撃力的には明らかに向こうの方が上である。

がら空きになった腹部にウイングランサーが突き刺さる。

「ぐっ…!」

リュウガは邪悪に笑うとグリグリとその傷を抉っていく。

すると地に付すライアがカードを取り出しバイザーに読み込ませる。

『COPY VENT』

するとリュウガの持つウイングランサーが複製され、それをナイトに手渡す。

「秋山…!」

すかさずキャッチしたナイトがダークバイザーとの二刀流でリュウガのウイングランサーを弾き飛ばす。

丸腰になったリュウガが距離を置くとカードを装填した。

『SWORD VENT』

今まで温存していたこのカードを使い、ドラグセイバーを召喚するとナイトがすかさず一枚のカードを取り出した。

「今だ!」

『CONFINE VENT』

たちまちリュウガの握っていたドラグセイバーが消える。

「何!?」

ナイトが本来持つはずの無いカードを使った。突然の事態に動揺したリュウガの一瞬の隙を狙ってナイトが全体重を掛けた渾身の一撃を放つ。

「いい加減目を覚ませ!城戸ォォォォォォォォォォ!!!」

ウイングランサーとダークバイザーの一撃がリュウガの胸にヒットする。

「うぐああああああああ!!」

リュウガは倒れ込み、真司の姿に戻る。ナイトは武器を地面に手放し、変身解除すると倒れたライアに駆け寄った。

「手塚…おい、手塚…!」

ライアを抱き起こすとボロボロの手塚に変わった。

「ぁ…秋山…、城戸は…?」

「あぁ…、元に戻った…。お前達のおかげだ…。お前と…芝浦のおかげでな…」

手塚は安堵した顔を見せると、ガイのデッキの破片に目をやる。そこには確かに命を賭けて真司を助け出すチャンスを作ってくれた男がいた。

「芝浦…、あいつがいてくれたおかげだ…」

広場に集合する前、廃墟に現れたサラによって渡されたカード、『CONFINE VENT』。

自分の戦力を削ってまでリュウガを止めるきっかけを芝浦は作ってくれていたのだった。

見事やり遂げ安堵した手塚の体が粒子に還り始める。蓮の腕の中で手塚は言葉を紡いだ。

「秋山…、城戸…を…頼…む…」

息を引き取ると同時に手塚の身体は霧散し、蓮の腕には何も残らなかった。蓮は手塚の遺した言葉を胸に、強く拳を握った。

・・・

蓮が手塚を看取った後、気を失っていた真司がゆっくりと目を開けた。

「城戸…」

「れ…ん…?蓮!俺…今まで…。手塚…!おい!手塚達はどうした!?」

目を覚ますないなや蓮に向かってまくし立てるように聞く。一瞬黙り込むとやがてゆっくりと吐き出すように喋った。

「手塚と芝浦は…、モンスターに、やられた…。間に合わなかった…」

「…そう…か」

蓮の咄嗟に着いた嘘に気付いたか気づかなかったか、真司は複雑な表情を浮かべるが、上空に群がるモンスターの巣窟を捉えると直ぐに立ち上がり戦闘態勢に入る。

「モンスター…!蓮、一緒に行く…ガッ!」

蓮の横に立った真司の鼻に肘打ちが決まった。

「痛ってぇ…、おい、蓮!いきなり何すんだ…」

突然の行動に真司は怒るが、蓮の足元に滴る血を見て思わず言葉を飲み込んだ。

「蓮…お前、怪我を…」

「あぁ…、俺もボーッとしててな」

傷を隠すように前に立つと後ろの真司に語りかける。

「城戸…お前は現実世界に戻れ…」

その一言に真司は狼狽える。

「れ、蓮はどうすんだよ…?」

「…俺はこのモンスターを片付ける」

「何言ってんだよ!そんな体じゃ無茶だ!俺がモンスターを倒して…」

「駄目だ!お前は外の世界で戦ってくれ」

そう言う蓮の目を見て、真司は言葉が出なかった。

「俺はもう…無理だ…。だから城戸…」

蓮が真司の手を掴む。

「戦ってくれ。俺達の為に」

そう言って真司に一枚のカードを託す。

その時、真司の脳裏に過去の記憶が混ざ混ざと蘇る。

初めて会った時。

くだらない事で喧嘩した時。

時にライダーとして戦った時。

それでもモンスター達と共に戦った時。

そして、最期の別れの時。

全て思い出した真司は漸く分かり合えた親友を見る。

蓮もそれを察すると真司を背にデッキを掲げる。

「変身…!」

ナイトに変身すると真司の方を向く。

「いつか…また逢おう」

そして、カードを一枚装填する。

『FINAL VENT』

ダークウイングを背中に纏いマント状にすると、ウイングランサーを構えモンスターの群れに向かって飛び上がった。

「うおおおおおおおおお!!!」

「れぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」

真司は渡されたダークウイングのカードを強く握り締め、飛び立つ蓮の背中に向けて大きく叫んだ。

ナイトの必殺技ー飛翔斬はモンスターの群れに飛び込んでいくとやがて大空に大爆発を起こした。

爆発の止んだ空には雲一つなく澄んだ青空が広がっていた。

 

 

 

やがて他のライダーの意思を託された真司は、現実世界で勃発する殺人ゲームを止める為立ち向かい、未来の若者達に自分の力を受け継がせ、本当の人生を取り戻した。再び戦友と逢う時を待ちながら。

 

 

 

殺人ゲームを終わらせるべく、その命を掛けた者がいた。

戦いはゲームじゃない

その言葉に突き動かされた彼は結果としてその目的を果たす事ができた。

かつてはゲームで他人の命を弄んだ男が、ゲームを止める為に命を掛けて他人を守り抜いたのだった。

・・・

鏡の中に存在する反転世界、ミラーワールド。

つい先程まで苛烈な殺し合いが行われていた広場。

そこに足を踏み入れるのはこの場所で散った主人を持つモンスター、メタルゲラス。

唯一遺された形見とも言える砕けたデッキの破片を見やると、メタルゲラスは目一杯咆哮を上げた。

ガイの死を悲しむ叫びが無音の世界に響き渡る。

叫び終わると大人しくなったメタルゲラスは、まるで役目を終えたかのようにノイズが走り始め光の粒子となって消えていった。

それはライダー同士の血みどろな戦いを繰り広げる為に再び開かれたミラーワールドの終焉を意味していた。

 

モンスターさえ居なくなり完全なる静寂を取り戻したミラーワールドは、ライダー達の戦いの跡を遺し再び閉じられたーー。




ご一読ありがとうございました。
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