東京エリア38区の対策本部、いやな思い出がある。
俺は養子だ、本当の優秀な弟と区別され、気付いたら圧倒的は差をつけられ……
その悔しさと愛情への枯渇を原動力に頑張ったけど、それでもアイツには……
やがて俺は騒動に乗じ向日家と同じルーツを持つ言わば親戚みたいな関係の少女が一人で運営している民警に飛ばされた、しかしそれは拒否する余地が残されていた以上は自分の意思で選んだ選択、内心あの家から逃げ出したかったのだ。
東京エリアの郊外38区の内地に位置する対策本部、その構造はシンプルでそれでいて機能に適ったビジュアルだ。人はその構造にサバイバルナイフのような機能美を想起させる。
真っ白な絵の具のパレットみたいな壁は陽の光を反射し白い光沢を放っている。
その対策本部の最上階に位置する階層、弟の自室に向日とその連れは立っていた。
「あーあ、出会っちまったな。」
髪をクシャクシャしながら眼前に真っ白なブレザーのような礼服に身を包んで立っている弟を見やる。
弟は向日よりも年下なのに身長が176cmと高い。遺伝のせいだろうか、その為同じ姿勢でいる見下すという形になるのだ。
「兄さん、もう、やめませんか。そういうの父ももういません。無理に反抗期を演じる必要性はないんでさよ。」
東京エリアの大金持ちの一人息子。向日 総司。
ガストレアが攻めてくるずっと前から埼玉に大きな屋敷を構えていた大富豪の一族の頂点に立つ、討夜の弟だ。
「ッチ……いちいちイラつく野郎だなお前は、俺のこの口調や性質は根付いちまったもんなんだよ。俺の素なんだ。」
「もう!二人とも会えなかった分の確執の埋め合わせなんかしなくていいから!早く本題に入りましょう!」
七美が仲介に入る。心無しか焦っているように思える。向日の性質上、ヒートアップすると大権力者である総司を殴りかねないからだ、もしそんなことになったら、どうなるかわからない。
「…はい。向日家の権限でもって兄さんを呼び出したのは他の誰でもないこの僕なのですから。交渉を円滑に進めたいというのは当たり前の欲求ですからね。」
「交渉…?」
向日はあん?という態度を取りながら総司の言葉の1部を汲み取る。
「ええ、交渉です。俗世に疎い兄さんでも知られていることかと思いますが。昨今は元埼玉辺りの外周区を中心にガストレアを肯定しているカルト教団がプロモーターを殺害しイニシエーターを誘拐する、といった活動をしているんです。」
「で?」
ニコニコした顔で事情を伝える総司に向けてガンを飛ばしながら一言決め込む。
「ですから。兄さんとイニシエーターの女の子でそのテロリスト集団に偵察、端的に言えばスパイ活動をしてもらいたいんです。」
「ふーん民警ってのは随分と都合のいい職業なんだなー。俺は統治者様のメイド執事なんですねハイ。で報酬はいくらデスカ?」
すっかり舐めきった口調で鉄のような固い笑顔を崩さない弟、総司に詰め寄る。その様を見ている七美はポカンとした顔で魂の抜けたような感じで地面にピタリと太ももを落としている。
目の前の粗野で野蛮な不良崩れは天下の統治者にこんな無礼な口を聞いているのだから。それは当然の反応である。
「うーん、東京エリアの38区、ここら一帯は比較的落ち着いててあまりプロモーターに仕事を頼むことは無いので相場と言うのが分かりません。そうだ、結果に準じた報酬をしんぜよう。と言うのはどうでしょう。」
手をポンと叩きながら一言、総司のこういう肝心なところが抜けている点は昔から何一つ変わらない、それに対し向日は燃える目を向け一言。
「その組織潰してやる。って言ったらいくらまで出せる?」