それでも風見幽香は仮面を付け続ける   作:ていん?が〜

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初投稿です。
原作の設定やキャラの性格改変を大幅に含みますので
ご容赦ください。


第1章「地底世界の風見と幽香」
第1話「ある男の終わり」


        世界があなたを忘れ去ろうとも、私はあなたと生きた証を守り続ける

                  ―――風見幽香―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男は旧地獄街道を歩いていた。活気ある声が鳴り響き、すれ違う妖怪のどれもが面白おかしく笑い合う中、男だけはまるで能面を付けてるかのような無表情で歩いていく。

 

 上等な白い装束を着こなし、夜空のように長く美しい髪を後頭部で結んだその男は人間である。

旧地獄街道、別名旧都に人間が迷い込むことはそうそうない。旧都を含む地下世界と地上の間には不可侵条約が結ばれており、双方の住人は基本的に行き来できないことになっている。しかし極稀に人間が地下世界に踏み込むことがある。単に迷い込んだり、自らの意思で入ったなど理由は様々あるが、再び地上に戻ってきた者は誰もいない。

 一歩踏み込めば、足場が悪い上に崩れやすい鍾乳洞の世界が延々と続き、運良く旧都に辿り着いたとしてもそこは人食い妖怪達の巣窟。煌びやかで賑わいのある旧都に足を踏み入れた者はそのまま凶暴な本性を剥き出しにした地底妖怪達の腹の中へ歩を進めることになるだろう。地底世界は人間にとっては文字通りの地獄であり、並みの神経を持ち合わせている者ならば恐怖でその場に蹲ったまま動けなくなってもおかしくないのだ。

 

 しかし男はそのようなことなど意に介してないのか、淡々と歩を進めていた。

歩いていく内にやがて住宅街の一角に差し掛かり、男はその角を曲がろうとした。その時、正面からドンッと強い衝撃が男を襲った。

 

 予想外の強い衝撃に少しふらつきつつも衝撃の原因を探ろうと男は前を見た。そこにはニヤニヤと薄笑を浮かべた3匹の妖怪達が立っていた。

 

 3匹の内、男の真正面に立っている妖怪は肩を押さえながら口を開いた。

 

「おいおいおい兄ちゃんよぉ、あんたが勢いよくぶつかってきたせいで俺の肩にひびが入っちまったじゃねえか。いったいどう落とし前つけてくれんだぁ?」

 

 肩を押さえながら大袈裟に呻く妖怪は岩石のように頑強な身体つきであり、人間である男がぶつかったところで怪我をするどころか逆に男の肩が粉々に砕けてしまうことだろう。

 

「ネッ! ネッ! 岩鬼(いわき)の兄貴! コイツ人間ダヨ! 食ッチャオウヨ! 食ッチャオウヨ!」

 

 肩を押さえる岩鬼の左隣にいる妖怪は剣山のようにびっしりと生えそろった牙をカチカチと鳴らしながら嬉しそうに飛び跳ねる。

 

「おっ! 確かにこの匂いは人間じゃん! ダンナ! 久しぶりに人間にありつけやすぜ!!」

 

 岩鬼の右隣にいる妖怪は犬のような鼻を鳴らしながらヨダレを垂らす。

 

「そう急かすな、燗吉(じゅんきち)次狼(じろう)。おい兄ちゃん、ここがどこだかわかってるだろ? この地底にひとたび足を踏み入れれば生きて地上に戻ることなんてありゃしねぇ。更にお前はこの幻想郷最強の種族である鬼が一人、岩鬼様にぶつかった。自分で言うのも何だが、俺は哀しいぜ。何せこの時点でお前の死は確定してるからよぉ。」

 

 岩鬼はもう片方の手で目を覆い、オイオイとこれまた大袈裟に泣く仕草を見せる。

 

「普通ならお前はとっくに彼岸に渡っちまってるし、これから渡ることになる。だが奇跡的に今の俺は機嫌がすこぶる良い。肩にヒビが入っちまったがその代償にお前の命を貰おうなんてしねぇ。もっと安いモンで勘弁してやろうと思ってるんだ。」

 

 そう言い終わるや否や、岩鬼はバッ、と勢いよく男の両肩を指差す。

 

「そう、お前の肩だ。俺の肩に怪我させたからそのぶつかった肩を差し出すことで償う。わかりやすいだろう?ちなみにぶつかってない方は迷惑料ってことで貰ってくぜ。まぁ、二度と箸を持てなくなるが、椀に口突っ込んで飯を食えばいいだけだ。最も飯を食う時が来ればの話だがな。」

 

「まっ、そう言う訳だから恨むなら自分の不運を恨みな。おい燗吉、次狼! こいつの両肩を根元から抉り取ってやれ!」

 

 岩鬼の怒号とともに燗吉は男の右肩を、次狼は左肩を抉り取ろうとジリジリと男に近寄る。そして手と手が触れ合うかの距離まで近づいた時、燗吉は大口を開け、次狼は刀のように鋭い爪を振りかぶり、それぞれ男の肩目掛けて飛び掛った。

 

 

 

 

 

 

「へ?」

 

 次狼はあるはずの感触が無いことに面食らいながら地面に倒れこんだ。おかしい、自分はあの男の左肩を自慢の爪で抉り取ったはずだ。なのに今の自分は骨ごと肉を切り取るあの甘美な感触を味わうことなく地面に無様に倒れている。

 そこで次狼は気づいた。あの男は自分の爪が当たる寸前のところで避けたのだ。そうだと分かった瞬間、頭に血が昇り顔に青筋が浮かぶのを感じた。妖怪である自分がただの人間にコケにされた。この事実が次狼の頭の中をグルグル回るとともに男への殺意が浮かび上がるのに時間はかからなかった。

 

「てめぇ!! よくもこの俺をコケにしやがったな!! ズタズタに引き裂いてやる!!」

 

 次狼はバッ、と勢いよく後ろを振り返った。そこにはあの男が飛び掛る前と同じ位置でこちらに背を向けて立っていた。自分のことなど眼中にないとも取れる男の行為に次狼はますます怒りをたぎらせ男を八つ裂きにするべく飛び掛ろうとした。

 

「……あ?」

 

 飛び掛ろうと立ち上がった時、次狼は異変に気づいた。あの男を八つ裂きにしようと腕を振り上げたはずなのだが、腕を振り上げた感覚がいつまで経ってもやって来ない。それにさっきは頭に血が昇って気づかなかったが、何やら額にヒラヒラしたものが張り付いている。次狼は額に張り付いたそれを剥がそうとした時、「あっ…」と声を漏らす。

 

「俺……腕ねぇじゃぼべぇっ!?」

 

 一連の流れを見ていた岩鬼は絶句していた。男は飛び掛ってきた燗吉と次狼をかわすと同時に、懐から出した札を燗吉と次狼に貼り付けた。顔と腹に札を貼り付けられた燗吉は地面に着地することなく爆発し、辺りに肉をぶちまけた。額と両肩に札を貼り付けられた次狼は両肩だけ破裂し、その後立ち上がった瞬間、遅れて額の札も爆発した。

 ものの数秒の間に岩鬼の取り巻き二匹は肉をぶちまけ死んでしまった。そして男は次はお前の番だと言わんばかりに岩鬼を見据えていた。しかし岩鬼の顔に焦りや不安は無く、むしろ玩具を見つけた子供のような満面の笑みを浮かべていた。

 

「いやぁ、驚いたぜ。俺の子分達を瞬く間に殺っちまうたぁ、ただの人間じゃないな。」

 

「…………………………」

 

「さっきは悪いな兄ちゃん、弱者と見くびって脅しかけてよぉ。人間なんて戦うに値しねえ雑魚だと思ってたが、こりゃ認識を改め……お?」

 

 岩鬼は男に対して揚々と語っていたが、何かに気づいたのか口を閉じる。見れば、岩鬼と男の周りに旧都の妖怪達がゾロゾロと集まってきているではないか。恐らく先程の騒ぎを聞きつけ集まってきたのだろう。その数はもはや通りを埋め尽くす程だった。

 

「こっちに強い人間がいるぞ!」

 

「あの人間の前に立ってるのは岩鬼じゃねえか!」

 

「鬼と人間の一騎打ちが見れるなんて何年ぶりだ!?」

 

「岩鬼やっちまえっ!!」

 

 集まった妖怪達は口早に岩鬼と男の戦いを求める声を飛ばしていた。人間が妖怪に挑むことは珍しくない。だが幻想郷最強と名高い鬼に戦いを挑んだ人間など幻想郷創設からさかのぼっても『()()()()()』を除いて両手で数える程しかいない。圧倒的な力で全てを捻じ伏せ、支配してきた鬼に戦いを挑むなど自殺以外の何物でもない。理性無き者でもない限り、鬼に戦いを挑むという選択は存在しない。

だが岩鬼の前に立つこの男はどうだろうか。岩鬼の取り巻きを殺したことで岩鬼に目をつけられることは明白なのに、逃げ出すどころか岩鬼と相対しているのだ。今から最高に苛烈で愉快な戦いが繰り広げられるに違いない。娯楽に飢えた旧都の住人達は期待に満ちた目で両者を見守っていた。

 

「おうおう、観客も集まったことだし早くおっぱじめようじゃ「……くだ。」……あん?」

 

 

 

 

「貴様じゃ役不足だ。」

 

男は初めて口を開いた。だがその言葉はこの場にいる誰もが想像にしないものだった。

 

「……てめぇ、今なんつった?」

 

「貴様じゃ役不足だと言った。何度言わせる、愚図。」

 

「てめえええええええぇぇぇぇ!!!!!!」

 

男の淡々とした侮蔑を皮切りに岩鬼は旧都全体に響き渡る程の怒号とともに大きく拳を振り上げた。そして……

 

「ッラアアアアアアア!!!!!!」

 

岩鬼は高々と振り上げた拳を男に向けて思い切り振り下ろした。その瞬間、全てを揺らがす衝撃と鼓膜が破れん程の轟音が地底世界に響き渡った。

男と岩鬼の戦いを見ようと集まった旧都の住人のほとんどが衝撃によって吹き飛ばされ、周りの家屋は粉々に砕け散った。

 

「ふぅー……ふぅー……ふぅー……」

 

未だに舞い上がる砂煙の中、岩鬼は衝撃の中心地を見据えていた。怒りにより我を忘れ、加減無しの一撃を叩き込んだ。男の生死などもはや確認する必要も無いし、岩鬼の頭に男のことなど既に無かった。だがその代わりにある事が岩鬼の頭を占めていた。

 

「…これ、どうすっかなぁ……」

 

岩鬼が漏らした『()()』とは周りの被害状況のことだ。岩鬼を中心に広く深いクレーターが出来ており、その周辺には元は建物だったものが瓦礫と化していた。『()()()()()』に劣るとは言え、幻想郷最強種族である鬼の渾身の力を込めた一撃を叩き込んだのだ。その結果、旧都の約二割が壊滅した。

 

「あ〜…『()()()』になんて説明すりゃいいかねぇ」

 

バツの悪い顔で岩鬼は元締めへの言い訳を考えながら踵を返す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やはり貴様程度では役不足だったようだな」

 

 

背後から聞こえた声に気付いた岩鬼が振り返ると、眼前には幾重もの札が飛んで来ていた。

 

 

「ぐっ!…がああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

咄嗟に右横に避けようとした岩鬼だったが、回避は間に合わず左半身に札の爆撃を喰らった。

 

 

「……ほう、腐っても鬼か」

 

燗吉と次狼を瞬く間に葬り去った札の爆撃を受けた岩鬼だが、流石は鬼というべきか爆撃を受けた箇所は欠損しておらずボロボロの肉体から血が流れ落ちる程度だった。

だがそれでも岩鬼には十分なダメージが入っており、もろに爆撃を喰らった左腕は使い物にならず、左足も立っているのが精いっぱいだ。

 

「ハァ…ハァ…ハァ………てめぇ」

 

ダメージと引き換えに岩鬼の顔に怒りが満ちていく。怒りに比例して筋肉は膨張、ビキビキと血管が裂け、更に血が流れるが、そんなこと今の岩鬼には見えていなかった。

 

「よくも…よくも……よくもよくもよくもこの俺様をコケにしやがったなあああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」

 

格下だと思っていた人間に攻撃が通らなかったばかりか、重いダメージとともに格下認定された。

鬼としてのプライドを踏みにじられた怒りに支配された岩鬼は耳をつんざくばかりの咆哮とともに男に向かって突進した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「止めろ、岩鬼」

 

 

 

岩鬼の背後で淡々とした声が聞こえた。

その瞬間、岩鬼はピタリと止まり、憤怒から一変して顔色は真っ青になりガクガクと震えながら振り返った。

 

 

そこにいたのは枯れ枝のように痩せ細っており、そして首が異様に長い三本角の鬼だった。

 

「きょ…鏡月(きょうげつ)の兄さん……で、でもよぉ………」

 

ガチガチと歯を震わせ、絞り出すように声をあげる岩鬼。

そんな岩鬼を鏡月はジロリと冷たい眼で見下ろす。

 

「元締めからの言伝だ」

 

「ッ!!?」

 

岩鬼の震えは更に大きくなった。

 

「これ以上その人間に構うな、とのことだ」

 

淡々と、しかし身体の底から凍りつくような冷たい声だった。

 

鏡月の出現に男も驚愕していた。

さっきまで圧倒していた岩鬼とはまるで格が違う。

男が今まで出会った妖怪が束になっても恐らくこの鏡月という鬼の足元にも及ばないだろう。

 

「同族が迷惑をかけたな、退魔師の人間」

 

ピクリと男の表情が変わる。あっさりと男の素性がバレてしまった。

 

「まぁ待て、俺はお前と事を構えるつもりは無い。『()()』に用があるのだろう?」

 

「!!」

 

鏡月の言葉に空気が静まり返る。

 

「この街道をまっすぐ進むと洞穴が見える。その奥に風見はいる。この一帯の連中にはお前に手出ししないように言ってある。道中でちょっかいをかけられることは無いだろう」

 

「……その言葉、嘘ではないな?」

 

「お前は鬼というものを知らないのか?鬼は嘘をつかない、天に誓ってもいい」

 

男は鏡月を睨むと、鏡月に教えられた道に歩を進める。

やがて男が見えなくなると、緊張の糸が解けたように岩鬼は尻餅をつく。

 

「い、いいんですかい兄さん…?あの風見の元に人間を送っちゃって……」

 

「元締めからの命令だ、何も問題は無い」

 

鏡月は男が進んだ道を眺める。

 

 

「いつの時代も最後には妖怪は人間に討たれた」

「……だが風見にそれが通用するとは限らんぞ?」

 

 

鏡月は憐みを含んだ笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鏡月に言われた洞穴を見つけるのにさほど時間はかからなかった。

その道中でちらほらと妖怪を見かけたが、そのどれもが遠目から見てくるだけで近づこうともしてこない。

確かに鏡月という鬼が言ってたことは本当だな、と男は思った。

そして目の前の洞穴の中にお目当ての妖怪がいる。

ニィ、と獲物を見つけた捕食者のように男は口元を歪ませ笑う。

 

 

男は人里でも歴史のある退魔師の家の生まれだ。そして男は一族始まって以来の群を抜いての天才だった。

物心つく頃には師であり先代退魔師の父と並ぶ程の才覚を発揮し、翌年には軽々と飛び越えた。

男自身も己の才覚を自覚しており、力試しと称して数多の妖怪を葬り去ってきた。

そんなある日、男は屋敷の蔵で興味深い文献を見つけた。

かつて幻想郷を滅ぼしかけた風見という妖怪が地底のどこかに封印されている、というものだ。

男は心躍った。地上の妖怪では歯応えが無くなってきたところだ。

もしこの風見という妖怪を討ち取れば、あの博麗の巫女を超えたと証明できる。

そうすれば名実ともに幻想郷最強になることができる。

そして男は地底へと足を運び今に至るというわけだ。

 

洞穴に入りしばらく道なりに進んでいると男はギョッと目を見開いた。

 

男の視線の先の天井、壁、床のあらゆるところに札が隙間無く張り付けられており、その先の道までずっと続いていたのだ。

よく見るとその札の一枚一枚が強力な退魔の力を宿しており、並の妖怪なら1枚触れただけでも瞬時に消し飛んでしまう程である。

そんな札を数えきれないほど使っても封印しかできなかったというのか。

予想を超える展開に男はブルル、と武者震いする。

討ち取る獲物の実力が高い程、期待が高まるというものだ。

とはいえここまで力の強い退魔札の領域をそのまま進むと人間とはいえ無事では済まないので

自身に退魔無効の術をかけて男は先を進んだ。

 

そうしておおよそ1刻(2時間)程歩いた頃だろうか、洞穴もついに終着地点まで辿り着いた。

薄暗く見えづらい洞穴だが、札以外何も無くそして一本道であったため

迷わず最奥まで辿り着いた。

だが奇妙なことに妖怪はおろか生物の気配すら無い。

あの鬼に騙されたか?

ふと、行き止まりの壁に目を配るとぼんやりとだが、積み重なったボロボロの布切れのようなものが見えた。

はっきりと見るために、洞穴に入る前に着けたたいまつで布切れを照らそうとした。

 

カラン…

 

たいまつが音を立てて落ちた。そして、

 

「ぎぃやあああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

たいまつを持っていた左手に激痛が走った。

思わず左手を抑えるとあるはずの感触が無い。

肩ごと左手が千切れていた。

そしてふと地面に落ちたたいまつに視線を向けると

たいまつの明かりに照らされて布切れがもぞもぞと動いていた。

布切れは千切れた男の左手にかぶさっており、バキバギムシャリ、と音を立てていた。

 

「私の腕を喰らうな物の怪がああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!」

 

男は懐からありったけの退魔札を取り出し、布切れに投げつけた。

 

 

 

 

ボギリ、と鈍い音が洞穴に響く。

 

男の姿を見た者は誰一人いない。




以上です。
初回でオリキャラ祭りなのはご勘弁を。
次回からは少しずつ原作キャラ出てきます。

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