まさか1日に3話も投稿できるとは思いませんでした。
また、軽度の性的未遂描写が出てきますのでご注意を。
華扇には状況がつかめなかった。
100年前の厄滅異変以来、消息が途絶えたと聞いていた。
命を落としたと思っていた。
だが目の前にいるのは紛れもなく星熊勇儀そのものだ。
今にも死にそうなほど弱り切っており、かつての力強さは欠片も感じない。
信じられない光景だが、『
『
(だが解せないのはそこでは無い)
風見と勇儀の関係だ。
勇儀が風見の名前を知っているということは、風見も勇儀のことを知っているかもしれない。
確かあの異変が始まる前に風見は鬼と交戦していたと聞く。
その時に知り合っていてもおかしくない。
しかし考えれば考えるほど2人の関係性が見えてこない。
久しぶりに出会っただけか?それとも定期的に出会っているのか?
いや、この場で重要なのはそんなことではない。
(いや、厳密には目撃者ではない。見たところ勇儀は首すら動かせない模様だ。私の姿は見られていない可能性はある。風見の声が聞こえたから風見には気付いた。だがそうであるなら、風見は私がやろうとしたことを勇儀に知らせる可能性がある。それだけは避けねばならん。この場にいるのがクズであれば、口封じに殺すことは容易い。だが勇儀は『
勇儀に喋られる前に風見を殺す。
華扇は勇儀に悟られないように気配を殺し、再び拳を振りかざす。が…………
「おい!そこの路地ででかい音がしたぞ!!」
「なんだなんだ!喧嘩か!!」
(なっ!?)
華扇はあからさまに動揺した。大通りとは目と鼻の先とはいえ、この路地には人払いの結界を構築するための術札を貼ってある。ここでの様子が見られることはおろか、音さえ漏れることは無い。
だが現状はどうだ?大通りの妖怪が気付き始めている。
(人払いの結界が解除されたというのか…?)
ありえない、結界を構築する術札には退魔の力も込めてある。並みの妖怪には触れることすら叶わない。だが現実はそうだ。騒ぎを聞きつけた野次馬達は今にもここに押し寄せることだろう。そうなれば風見の暗殺は不可能になる。野次馬が来る前に風見を殺す?いや、間に合わない。
苛立ちを隠せない華扇は舌打ちをし、地面に倒れた風見を睨みつける。
「童、1度だけチャンスをやる。今は見逃してやるが今後貴様が問題を起こせば必ず殺す。今日のことを他言しても殺す。絶対にだ」
それだけ言うと華扇は懐から札を取り出し、ボソボソと何かを呟く。すると華扇の姿は一瞬で消えた。
「ゴホ…ゴホ……今の声は、華扇…?風見…何が、ゴホ…どうなってるんだい…?」
「……さあな」
その場には血まみれで倒れた風見と何も事情を知らない勇儀。
瞬く間に押し寄せてきた野次馬達。
「…………………………………」
そして、くしゃくしゃになった札を数枚咥えた1羽の地獄烏が遠目からじっとその様子を見続け、やがて飛び去った。
薄明りが灯る部屋。開いた窓から部屋に入った地獄烏は床に降り立つと、次第に人型となる。
肩まで伸びた艶のある黒髪。中性的な容姿をした地獄烏の青年、
「だだ、旦那ぁ…い、今帰りましたぁ……」
どもりつつもオドオドした様子で述べる虚。
「ごくろうだ…俺の可愛い虚。報告をしろ」
虚が話しかける先には首の長い鬼、鏡月が薄ら笑みを浮かべている。
「は、はい…風見は、幽香を黒谷診療所に預けて出かけた後、け…賢者の、茨木華扇に襲われました…。そ、そして…その最中で茨木華扇が周囲に貼っていた人払いの術札を剥がしていたら、茨木華扇がゆ、勇儀姐さんの家の壁に風見をた、叩き付けて、壁を壊しました…。そ、その音に気付いた大通りの妖怪達が、勇儀姐さんの家に押しかけて…で、でもその前に茨木華扇は突然消えて……野次馬が押し掛けた頃には…風見と、ゆ、勇儀姐さんだけ、が、残ってました……」
「……ほう、念のために『
ニヤニヤと笑いながらテーブルに置かれた酒を少しだけ飲む鏡月。
対する虚は不安で目が泳ぎ続けている。
「だ、旦那ぁ……妖怪の賢者まで動くなんて…もう無理ですぅ…。何の取柄も無いお、俺なんかすぐにここ、殺されますよぉ……」
ガタガタと震え出す虚。だが鏡月は薄ら笑みを崩さない。
「確かにお前は他の部下と比べても筋力も妖力も大きく劣っている。だが能力の一点に関しては大きく
ナナフシのように細長い腕を伸ばし、虚の頬を撫でる鏡月。虚はうつむきつつも満更でもないように表情が緩む。
「褒美だ、虚。可愛がってやる」
その言葉を皮切りに、虚は卑屈な笑みを浮かべ、身に着けていた服を脱ぎ始める。
「いやぁ~!食べた飲んだ遊んだ!!もう言うこと無し!!」
「クエーッ!!」
酔いで顔を真っ赤にした少女は、フラフラと飛ぶ久米の背中に乗り、帰路についている。
あたりはすっかり日が落ちており、朝に出かけた少女達がどれだけ自由を満喫したかを物語っている。
そうこうしている内に屋敷が見え、久米はフラフラと降り立つ。
「クエー…?」
「師匠にバレやしないかですって?だーいじょうぶよぉ!どうせ師匠はまだ帰ってきやしないんだからぁ!後は修行してるふりしながら帰りを待ってればバレやしないって!!」
「ほう…バレないのか?」
「そーそー!真面目な顔しとけば頑固師匠なんてコロッと騙せ…る……?」
少女達の後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。ギギギ、と後ろを振り向く少女。
そこには少女の師匠、茨木華扇が腕を組んで立っていた。
「おかえり、
「し…師匠は…ずいぶん早いお帰りで……」
アハハ、と乾いた笑顔で応対する文。だが華扇の表情は変わらない。冷たい眼で文と久米を見つめ続けている。
「キュンキューン……」
久米は寝そべり華扇に自身の腹を見せる。野生動物が行う絶対的強者への降伏の証だ。
すぐさま文も久米と同じ体勢を取る。
「驚いたな…私が出かけている間に、畜生にまで堕ちたというのか」
しかし華扇の眼は依然として氷のように冷め切ったままだ。
「仕方ない…貴様らをあるべき姿に戻してやる……覚悟しろよ?」
その日、華扇の屋敷がある山では大鷲の悲痛な鳴き声とごめんなさああい、という悲鳴が響き渡った。
終わりです。
毎回見て下さる方々、ありがとうございます。
次話も出来次第、投稿します。
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