ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~ 作:フリッカー
「ヌードルは、あたしを殺しに来たんでしょ?」
笑顔の仮面を介したライノの発言に、俺はどきりとした。
「あたし知ってるよ。ヌードルが監視役って事。もしもの時は殺しに来るって事も。そんな人に、どうしてあたし変な期待なんかしちゃったのかなあ……」
な、に……!?
俺の立場に気付いていたのか、ライノは……!?
「だから、ここで殺してよ。左胸を一発ズドーンって。ヌードルに殺されるなら、いいかなって」
ライノは、さあ撃って、とばかりに両手を上げる。
笑顔の仮面を介したその言い分に、胸が苦しくなるのを感じた。
ライノはただ、トムキャットが羨ましいだけなんだ。
本当は、悔しくて泣きたいのかもしれない。
それでもライノは、こうして笑う事しかできない。
目の前にいるのは、人の姿をしたオートパイロットなんかじゃない。
喜怒哀楽の『怒』と『哀』を出したくてもできない、哀れな少女──
「……バカ言うんじゃねえ!」
俺は震えていた拳を大きく開いて、ライノの頬をひっぱたいていた。
乾いた音が、夜明け前の砂漠に響く。
ひっぱたかれたライノは、何をされたのかわからないとばかりに目を見開いていた。
俺は、感情に任せるままに叫ぶ。
「ライノはただの機械じゃない……! 今ここで、生きているじゃないか! なのに、どうして変な所だけ、機械ぶってるんだよ!?」
「……生きている?」
「生きているって事はな、自分で鍛える事ができて、自分で成長できるって事だ! 機械みたいに人の手で改造してもらう必要なんかないんだ! そんな事にも気付かないで、あきらめてどうするんだ!? ライノは悔しいんだろ!? なら、精一杯足掻いてみせろよ! どうすれば強くなれるのか、ろくに考えもせずに逃げるなよ! その頭は、ただの飾りじゃないだろ!?」
ライノは、ぽかんと俺を見ていた。
散々叫びまくって息が荒くなった俺は、一度整えてから続ける。
「……少なくとも俺は、ライノが弱いなんて思ってないぞ。
「……それって、女の子としても負けてないって事?」
その質問に、どきりとした。
女の子としての魅力もそうなのか、って事だよな?
変な事言ったら気持ち悪がられそうだから、慎重に言葉を選ぶ。
「そ、そうだな……それもライノの気持ち次第だ、な。少なくとも、名前がダサいってくらいで凹んでたらかっこ悪いぞ。それだったら、
「……あ」
「ある古いエースパイロットはな、こんな事を言ってたんだ。『悔しさが、惨めさが、悲しさが男を作る。強大な敵こそが、真に偉大な男に作り上げる』って。これ、女の子にだって言えると思うぞ。わかったら凹んでないで、自分を磨く努力をするんだ。何なら俺だって、できる範囲で力になる」
「ヌードル……」
ライノは、それだけぽかんとつぶやいた。
ふと、ばばばば、と人工的な羽音が聞こえてくる。
飛行場から来たヘリコプターだ。
やっと向こうも、気付いたらしいな。
地平線の彼方から、日の光が差し込み始めたのは、ちょうどそんな時だった。
* * *
かくして、ライノは一晩で家出から帰ってきた。
見つけた時は気付かなかったが、ライノは夜の砂漠の寒さに大分参っていたようで、日が昇って気温が上がり始めた途端、くしゃみをし始めていた。
いや、ほんと日が昇るまでに見つけられてよかった。
「よかった、無事だったんですね! 占い通りになったと思って、昨夜は落ち着いて眠れなかったです……」
トムキャットは、俺達を出迎えるや否やそんな事を言った。
おいおい、トランプ占いの事ずっと気にしてたのか。
ちょっとトムキャット、占いを信じすぎじゃないのか?
「だから言っただろ、あまり本気にするなって。確かに占い通りに逃避したかもしれないが、ライノはこうやって帰ってきたんだ」
「え、占いって何の話?」
「ああライノ、簡単に言えば、トムキャットも心配してたんだよ。ライノの事をな」
そんな話をしていると、トムキャットの後ろから、猫背の男がやってきた。
シャンケルだ。その表情は険しい。
「よく連れ戻してきたな、アンダーソン君」
「まあ、奇跡みたいなものでしたが」
そう答えると、はあ、とため息をつくシャンケル。
安堵からなのか、面倒事が増えたからなのか。俺にはその両方に見えた。
そんなシャンケルは、改めてライノをにらみつける。
「ライノ、どうしてあんな事をしたんだ。どこかドーターの調整に納得いかない所でもあったのか」
おい、開口一番にそれはないだろう。
ライノはトムキャットが羨ましかっただけなんだ。ドーターの調整は関係ない。
こいつ、ライノの開発に関わった割には何もライノの事をわかってないな。
ま、親ってものは子供の気持ちがわからんものなのかもしれないが。
「そうだねー。納得できない事はひとつあったかなー」
って、あったのか!?
ライノは相も変わらず笑顔の仮面で、物騒な事を続けて言う。
「それをやってくれないなら、あたしまた出て行くよ? 本気で」
お、おいおい一体何のつもりなんだライノ!?
この期に及んでわがままか?
俺は嗜めようとしたが、ライノは俺を横目で見るや否や、なぜかウインクした。
大丈夫だよ、と言わんばかりに。
何だ、何か策でもあるのか?
「な、何なんだね、それは? できる範囲でならするぞ」
「本当に?」
「ああ、本当だ」
「神に誓う?」
「あ、ああ。とにかく言ってみろ」
まるで子供のようなやり取りの後。
深く息を吸って、ライノは要望を口にする。
「あたしとヌードルを同調させてよ。先輩みたいに」
……は!?
(続く)