ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~   作:フリッカー

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ALT.13 不吉な夢

 そこは、異様な世界だった。

 曇天の空は、この世のものとは思えない不気味な色。

 辺りには、人気が全く見当たらない。

 その空で、2機の戦闘機が戦っていた。

 片方は、ライノだ。

 だが、その姿は見慣れたものではない。

 色が青一色ではなくなり、紫などが混じった不気味な姿になっている。

 そしてもう1機は、見た事のない赤いデルタ翼の戦闘機。小柄なそのシルエットに見覚えはあるが、機種が思い出せない。

 あれは、ドーターか?

 どうしてドーター同士が戦っている?

 これは、──ではない、──なのに。

「……やめろ」

 2機は、普通の戦闘機ではあり得ない機動を繰り返し、追いかけっこを続ける。

 ライノの動きは、俺の知っている動きよりかなり鋭い。

 あれは、俺の知っているライノじゃない。

 どうしてなのか。

 その動きに、俺が戦ってきたザイのものが重なってしまうのは。

「……やめろ」

 届かぬ言葉は、どちらに向けてのものか。

 赤いデルタのドーターは、一瞬の隙をついてライノに機首を向け、ミサイルを発射。

 ライノは回避を試みる。

 だが、相手はドーターのもの。

 機体と同じく不規則な動きをして執拗に追尾する。

 かわせない。

 ミサイルが、ライノに吸い込まれる──

「やめてくれええええええええ!」

 俺の叫びも空しく。

 ミサイルは容赦なく装甲コックピットを貫き、ライノは爆散した──

 

     * * *

 

「……ヌードル! ヌードルってば!」

 誰かの声がして、ふっと目を覚ました。

 最初に目に入ったのは、視界いっぱいまで近づいているライノの顔──

「……うわっ、ラ、ライノ!?」

「よかった、起きた! どうしたの? あたしの事呼びながらうなされてたけど?」

 いつものように笑顔を見せながら問うてくるライノ。

 それしかできないとは言っても、その屈託のない笑顔が眼前にあると、滅茶苦茶心臓が高鳴ってしまう。

 というか、俺がライノを呼んでた?

「い、いや、俺にもよくわからん……」

 目を逸らしつつ、何とか言葉をひねり出す。

 それしか、答えようがなかった。

 なんでライノがやられる夢を見たのか、俺にもよく理解できてないんだから。

 俺は、居間にある椅子に座っていた。

 そうだ。模擬戦ですっかり体が参っちまったせいか、兵舎に戻った後寝ちまったんだ。

「激しい訓練続きで、体が参っちまったかな……?」

 とりあえず水を飲もうと、椅子から立ち上がる。

 起きたばかりでふらふらな頭を手で押さえつつ。

 幸い、このアニマ用兵舎は冷蔵庫も完備している。いつでも冷たいミネラルウォーターが飲める。

 そのペットボトル1本を開けて、一気飲み。

「あ、それあたしのだよ?」

 が。

 その一言で、一気に飲み込もうとしていた水が入ってはいけない所に入り込んでしまった。

 思わず乱暴に吹き出してしまい、げほげほと咳き込んでしまう。

 ちょ、ちょ、ちょっと待て。

 このボトル、ライノの……!?

「間接キスになっちゃったなー♪」

 他人事みたいにライノは笑ってるが、おい。これは一大事だぞ!?

 く、くそ、寝ぼけた頭でこんな事をやらかすとは、一生の不覚だ……!

「そうだ! ねえヌードル、疲れてるなら今度デートしようよ! あたしと!」

 そして。

 間髪入れずにライノの爆弾発言。

 危うくボトルを落としそうになったぞ。

「お、おい、あのなあ……それはどういう事かわかっての発言か?」

「うん。いっぱい遊んで、あたしが元気にしてあげる♪」

 ……何なんだ、この子は。

 どこまで本気かわからない事言いやがって。

 とりあえず、適当にごまかすか……

「わかった。訓練のがんばり次第で行ってやってもいい」

「え、本当!? って事は、今日先輩と引き分けたくらいじゃダメって事だよね……じゃあ本気を出した先輩に勝ったらでいい?」

「ああ、いいぞ」

 俺は適当に答えた。

 ライノが本気を出したトムキャットに勝てる日は、まだまだ来ないだろう。そう思って。

「やったー♪ じゃあどこに行くか考えておかないとなー♪ ヌードルは行きたいとこある?」

 だが本気にしたのか、ライノはルンルンだ。

 え、これで話終わりかと思ったが、まだ続くのかこれ?

「何の話ですか?」

 そんな所に、別の声が割り込んできた。

 トムキャットだ。

 お、いい所に来てくれた。話題を逸らすにはちょうどいい。

「おお、いい所に来てくれたトム。ちょっと話したい事があるんだ。部屋に来てくれるか?」

「え、中尉さんの部屋に、ですか?」

「……べ、別に、変な気はないぞ? いいから来てくれ」

 少し戸惑った様子のトムキャットを、俺は手を取って強引に自室へ連れて行った。

 後ろからのライノの視線が、妙に痛く感じたが。

 

「ライノが撃墜される夢を見た、のですか?」

 自室で、俺はトムキャットと向かい合って床に座りながら、さっき見た夢について説明した。

「ああ、赤いデルタ翼のドーターみたいな戦闘機にな」

「赤いデルタ翼のドーター……まさか」

 すると、トムキャットは何か心当たりがありそうな感じで、顎に手を当てた。

「知ってるのか?」

「……それはまさか、グリペンではありませんか?」

「グリペン?」

 トムキャットが出した名前に驚いた。

 グリペンっていえば、スウェーデンの小型戦闘機。確かにあれもデルタ翼だが──

「グリペンもドーター化されているのか?」

「わたくしの記憶が正しければ、日本が保有するドーターのはずです」

「日本? おいおい、日本はグリペンなんて保有してないはずだぞ?」

 思わず持っているスマホで検索をかけてみる。

 さすがに出てくる訳ないだろ──と思っていたら、出てきた。

「ウソだろ……!?」

 目を疑った。

 地元の航空ファンが撮影したという、グリペンのドーターの写真がそこにあった。

 夢で見た通りの、赤いボディ。その胴体と翼には、立派な日の丸が描かれている。

 他にもいくつか写真が出てくる所を見ると、加工写真ではなさそうだ。

 夢で見たドーターは、太平洋を隔てた向こう側にいるって言うのか……?

 そういえば、トムキャットの記憶を見た時、似たような奴を見た気が──

「間違いない。夢でライノを撃墜したのはこいつだ……だが、なんで日本がグリペンのドーターを保有してるんだ?」

「それはわかりません。ですが、イラン出身のわたくしだって、今こうしてアメリカにいるのです。日本で似たような事があっても不思議ではありません」

「そうか……」

 考えてみれば、日本はザイに占領された中国のお隣さん。

 敗戦によって中国軍機が多数逃げ込んできたって話を聞いた事がある。

 そんな事を踏まえればあり得ない話だが、中国の近くでグリペンを保有していた国なんてあったか?

 いや、そんな事はどうでもいい。

「それにしても、なんでこいつがライノと戦ってたんだ……? というか、夢に出てきた奴が実在してたなんて──」

 そう。小さい頃から見ていた夢みたいだ。

 あの時見ていた青い戦闘機がライノとして実在していた、という前例。

 似たような事が2回も起きるなんて、偶然にしちゃできすぎだ。

 あの夢は、まさか予知夢……?

 そう思うと、途端に不安になる。

「とりあえず、カードに聞いてみましょうか」

 ふと、トムキャットが懐からトランプを取り出した。

「あ、ああ、頼む」

 俺は占いを妄信するタイプではないが、何だかありがたい。

 これで違う結果が出れば、とりあえず気は紛れるだろう。

 トムキャットは、丁寧にトランプをシャッフルし、そこからカードを裏にしたまま床の上に並べていく。

「では、行きます」

 トムキャットが、1枚目のカードをひっくり返す。

 途端、トムキャットは息を呑んだ。

 現れたのは、スペードのA。

「これは──」

「どういう意味だ?」

「『不幸』や『死』を意味する、不吉なカードです」

 

(続く)

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