ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~ 作:フリッカー
俺の見立ては甘かった。
ライノの奴、宣言した次の日に本気モードのトムキャットに勝ちやがったんだ。
どうやって勝ったのかは、正直言うと俺もわからない。
あまりにもの激しい機動で、恥ずかしながら俺は失神していた。
あいつら、熱が入りすぎて9G以上の機動を出しやがったんだ。
アニマにとってはお茶の子さいさいらしいが、同乗しているこっちはたまったもんじゃない。
だから俺は訳がわからない内に口から血を出して失神しちまって、気が付いたらライノが勝っていた、って感じだ。
当然俺は病室に担ぎ込まれたが、本当にライノが勝ったのか知りたくて、機動計測装置が記録したデータだけを見せてもらった。
確かに勝っていたが、しかし。
もう滅茶苦茶だった。機動が。
人が作ったものが、こんな動きできるのかよって思うくらいのもので、もはや異次元の領域。俺には理解が追い付かなかった。
最近のライノの成長には目を見張るものがあったが、ここまで成長するとは。
これだけの動きができるなら、ザイとの実戦にも充分通用するだろう。
「どう? 凄いでしょ」
ベッドの横で、ライノが見たか、と得意げに胸を張る。
「いや……これは本当に凄いな。俺の予想以上だ……」
「じゃ、ヌードルとのデートけってーい!」
くそう、まさかこんなにも早く成し遂げるとは。
ずっと先の事だと思っていただけに、心の準備なんかできてる訳ない。
だが、言ってしまった以上、今更「あれは嘘だ」なんて言えない。
どうやら俺は、腹をくくるしかないらしい。
「……しょうがないな。じゃあ聞くが、ライノはどこか行きたい所とかあるか?」
「え、行きたい所? そうだなー……」
ライノはしばし頭に手を当てて考えた末、こう答えた。
「きれいな星空が見れる所!」
「きれいな星空? それは、プラネタリウムって事でいいのか?」
「そうじゃなくて、生の星空!」
生の星空……
随分ハードルが高い要求をするなあ。
それを叶えるんだったら、この辺りの砂漠以外だと山奥に行くしかないぞ?
そんなのをデートにしちゃっていいのか?
デートって言ったら、普通街に繰り出して映画見たりとか、おいしいもの食べたりとか、そういう事をしたがると思ったんだが──
「……わかった。要望に応えられるように善処する」
「やったー!」
無邪気に喜ぶライノ。
その姿が、不覚にもかわいく見えてしまって、あいつが喜ぶならまあいいか、と思ってしまった。
ああ、でもどうすんだよ。
俺、ライノの要望に応えられる自信がない……
ライノが足軽に出て行った後、入れ替わりでシャンケルが病室にやってきた。
とは言っても、決してお見舞いに来た訳じゃない。
本来は俺が研究棟へ出向かなきゃならない所を、俺がぶっ倒れたもんだから向こうから来てくれたのだ。
「ライノの実戦投入が決まった」
至極冷静に告げられた言葉に、俺は息を呑んだ。
実戦投入の決定。
それは、ライノがそれに耐えうるまで成長したという証であると共に、あの過酷な戦場へ飛び込むという事を意味していた。
「君の努力のおかげで、ライノは無事IOCを獲得した。今後、太平洋艦隊へ合流し、最前線でザイとの交戦を行う事になる」
IOC──すなわち初期作戦能力。
これはおおむね実戦への投入が可能になった事の証明だ。
いつかはたどり着く事になる地点。
それはわかっていたが、いざ着いたとなると複雑な気持ちになる。
「それは、トムキャットもですよね?」
「そうだ。それに加えて、オーストラリアからもドーターが合流しタスクフォースを編成する予定だ」
念のため確認する。
トムキャットだけじゃなく、オーストラリアからもドーターが加わるのか。
全員揃ったら、待っているのは過酷な実戦。
こうやって砂漠の真ん中でのほほんとしてられるのも、今の内という事か。
「……浮かない様子だな。ザイとの戦いに不安な要素でもあるのかね?」
く、シャンケルに見抜かれちまった。
不安な要素?
女の子を戦場に送る事か?
いや、それよりも、ライノが撃墜されるあの夢。
そして、不吉なカードが出たトムキャットの占い。
そんな事があったものだから、嫌な予感が止まらない。
だがそれを、シャンケルに言った所で信じてもらえる訳ない。
どうしたものか──そうだ。
「あの、ひとつ質問したい事が」
「何だね?」
「実戦に出る前に、休暇をもらう事ってできます? アニマ達と一緒に」
「……アニマ達と?」
アニマの名前を出されて、シャンケルの顔が露骨に曇った。
なんでそこでアニマを出すんだ、と言わんばかりに。
「なぜそんな事を聞く?」
「なぜって、あの子達は女の子──いえ、ひとりの兵士です。ならば、兵士と同じく心のケアも必要でしょう?」
「アニマに心のケアが必要だと、君はそう思うのかね?」
「だって、そうでしょう? 心がボロボロになってPTSDを起こしてからじゃ遅いですよ?」
「アニマは戦闘機の魂が具現化したものだとしたら、生まれ持った使命である戦いにためらいはないはずだ。戦いでPTSDを起こすようでは本末転倒だと思うが?」
何だよ、こいつは。
やっぱりこいつは、アニマの事をただのロボットとしか思ってない。
「……ライノの家出から、何も学んでないんですね」
「何?」
「ライノは、自分がトムキャットより弱いとか、それを高官達に見せつけられた無様さに耐えられなくなって家出したんですよ? アニマだって、失敗作だと言われたら人と同じように傷付き悩むんです! それがどうしてわからないんですか! アニマは量産できないんでしょう!? なら、使えなくなるまで酷使する悪い経営者のような考え方はよくないですよ!」
感情に任せるまま叫んでいた。
シャンケルは、それをしばし黙って聞いていたが。
「……なるほど。筋の通った意見だな」
意外と、納得したような返答をした。
「ちょうど私も、アニマの精神面について研究しようと思っていた所でね。せっかくだからデータを取るいい機会かもしれんな」
「え?」
「どこか行きたい所はあるか? できる範囲で応えよう」
……え? 話に乗ってくれるのか?
(続く)