ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~ 作:フリッカー
グアム島・アンダーセン空軍基地。
空軍の爆撃機がアジアをにらむための重要拠点であるここは、激化する対ザイ戦においても大きな役割を持ち始めている。
そんな基地が、今の俺達の拠点だ。
戦闘を終えた後、機体を降りた俺は早速ライノに絡まれていた。
「ねえねえヌードル、あたしの活躍見てた?」
まるで子供みたいに笑いながら。
「ちゃんと見てたよ」
「何それ? ちゃんと見てたのー?」
そうは言うが、ライノは相も変わらず笑っている。
それを見ると、俺は複雑な気持ちになるから、目を逸らし続ける。
そんな時、別の声が割り込んできた。
「俺は見てたぞ。単独行動であえなく全滅の危機。まさに大活躍だったな、悪い意味で」
警戒機から聞こえていた声が。
振り返ると、そこにはフライトスーツを着た黒人の男がいた。
両腕を組んで、まるで不快な虫を見るかのような目で、ライノを見下ろしている。
「オーストラリア軍の援護があったからよかったものだが、完全な負け試合だ。見てもらうような活躍ではなかったな」
「いやー、もっと続いてたら挽回する気だったんだけどね♪」
「人形風情がへらへらした口を利くな! 頭のネジを締め直してもらった方がいいんじゃないのか貴様!?」
男の怒鳴り声で、ライノが怯む。
俺は、ライノを庇うように反射的に誤っていた。
「申し訳ない、ジョンソン」
「わたくしからも謝らせてください」
トムキャットも、一緒に謝ってくれた。
彼──ジョンソンは、警戒機に乗って俺達の部隊の指揮を務めている指揮官だ。
だが、どうも信用していない節がある。
だが、彼の目は変わらない。
その広い顔をいきなり目の前に近づけてきた。俺を威嚇するように。
「貴様も人形遊びに興じている暇があったら、少しは奴らをしつける努力をしろ。それとも何だ、抱いた女は厳しくしつけられないか?」
く。
黙っていれば上から目線で言いやがって。
だが、俺に反論する隙はない。
俺の責任である事は、疑いようもない事実なのだから。
「ま、せいぜい今の内に酔いしれとけ。悪魔との契約にな」
そんな言葉を残して、ジョンソンは俺の横を通り過ぎていく。
「やれやれ、あんな奴らに希望を託さなければならないとはな……世も末だ」
去り際に、そんな独り言を残して。
やれやれ。
俺もすっかり、『人形遊びにうつつを抜かしてる変人』『悪魔に魂を売った奴』扱いされたもんだ。
結局は身から出た錆なのだがら否定しようがないのが厄介な所だ。
いざ実戦参加してみると、ジョンソンみたいにアニマに否定的な見方をする者がなんと多い事か。
無理もない。アニマはザイのコアを転用して生まれたのだから。
ましてや実戦に出すのは初めてだから、そりゃ信用できないってヤツも出てくる。
俺達の背中を撃つなんて事はないよな? とか何度言われたか。
「……中尉さん」
「いや、気にしなくていい。これはこっちの問題だからさ」
トムキャットに心配されてしまった。
とにかく戻って体を休めて──ってライノどこだ?
ちょっと目を離した隙にどこへ──
「あ、あそこにいます」
トムキャットが指差す先。
いた。
何か見つけたのか、どこかへ足早に駆けていく。
おいおい、急にどこ行く気だ。
俺達は慌てて、その後を追いかけていた。
「これは……!」
ライノがいたのは、先程空で俺達を助けてくれた恩人の目の前だった。
俺達も、思わず足を止めてその姿を見入ってしまう。
「これが……グラウラーのドーター」
マゼンタ色のドーター・EA-18G-ANM。
改めて見ると、本当にライノと瓜二つだ。
それもそのはず。
元々、ライノをベースにして作られた派生機なのだから。
当のライノはと言うと、ぽかんと眺めているだけですっかり黙り込んでいる。
まあ、自分のそっくりさんが目の前に現れたら、困惑もするだろう。
そもそも、ドーターは1機種につき1機しか作れないはずなのだから。
「電子戦機のドーターは初めて見ますよね」
「ああ、どんな力を持っているのか想像もつかない」
トムキャットとそんなやり取りをしていると。
「うちのドーターは他のものとアプローチが違うんですよ」
不意に、聞き覚えのある男との声がした。
はっと振り返ると、そこにはフライトスーツ姿の若いパイロットがいた。
爽やかな印象の男だが、その若さに見合わず落ち着いた雰囲気を纏っている。
肩に貼られたパッチは、オーストラリアの国旗だ。
「戦闘の支援に特化したドーターでしてね。敵のミサイル誘導をジャミングするのはもちろん、戦闘飛行中のザイが相手であっても、正確かつ広範囲な終末誘導を行えます。まさに守り神です」
「君は──あの時の」
「ええ、オーストラリア空軍・ウーメラ隊のナイジェルと申します。貴方の話は聞いていますよ、ヌードルさん」
「ああ、そうだったのか。よろしく」
握手を交わす。
こんな若い男がリーダーとは、正直驚いた。
「で、君達がアメリカ軍のドーターだね」
ナイジェルが2人のアニマに顔を向ける。
トムキャットが反射的に敬礼。
ライノも、少し遅れて慌てて敬礼する。
「2人のアニマと仲良くできるとは、羨ましい人です」
「いや、そういうのじゃなくてだな──」
微笑みながら、からかってくるナイジェル。
ただのお世辞かもしれないが、シャンケルに聞かれたら疑いの目を向けられかねない。
とっさに話題を逸らす。
「ところで、向こうのアニマは出てこないのか?」
前から気になっていた事。
グラウラーのアニマが、未だに出てきていないのだ。
「ああ、彼女が降りるのには、少し時間が必要でしてね」
「時間が必要?」
すると、普段滅多にお目にかかれないものが現れた。
クレーンだ。射出座席を外す時に使うための。
それが、開けた装甲キャノピーの上に構えられ、コックピットの座席と接続される。
おいおい、クレーンを持ち出して何するつもりなんだ?
クレーンによって、コックピットから座席が丸ごと引っ張り出された。
そこには、小さな女の子が座っていた。
機体と同じマゼンタ色のショートヘアー。この機体のアニマか。
しかし、結構小さい。10歳行っているか行かないかくらいのように見える。
機体が機体なせいか、ライノとそっくりだ。髪の色を除けば、ライノの幼少期そのもののイメージだ。
そんな彼女は、座席もろともクレーンでぶら下がったまま一言も喋らず動かない。
クレーンが降ろされる先には、何やら奇妙な車いすが。
座席だけすっぽりと外れているのだ。
そこに、コックピットから外された座席がすっぽりと収まる。
簡単に、女の子が座る車いすの完成だ。
「あの子、もしかして──」
「ええ、彼女は四肢が完全に麻痺していましてね。ああしないと乗り降りもままならないのです」
ナイジェルがそう言うと、女の子の下へ歩み寄る。
「……お兄ちゃん!」
女の子がナイジェルに気付いた。無邪気な笑みを見せて喜んでいる。
お兄ちゃん? と驚く俺をよそに、ナイジェルは彼女の頭をなでる。
「グラウラー、今日もよくがんばった。ありがとう」
えへへ、と笑う女の子はご満悦そうだ。
まあ、見かけは病人を見舞いに来た家族のような様なのだが。
女の子は体を全く動かさない。
四肢麻痺というのは、本当のようだ。
「グラウラー、紹介するよ。彼女達がアメリカのアニマ達だ。しっかり挨拶して」
「あ、うん。わたし、EA-18G-ANMグラウラー。よろしく」
いかにも子供っぽい、純真な自己紹介だった。
だが、空にいた時とは随分イメージが違う。
あの時聞いた声は、もっと機械みたいな無機質さがあったのだが──
ロビーのベンチにて。
「お兄ちゃん、ヘッドホン」
「はい、どうぞ」
グラウラーの頼みに答えて、ナイジェルが大きなヘッドホンを付けてあげる。
「ねえコブラ、音楽かけて」
『再生リスト1番を再生します』
車いすの手すり部分に付いているスマートスピーカーが反応、ヘッドホンから音楽が流れ始めた。
なんでわかるんだって? 結構音漏れしてるからだ。
「へい! へい! へーい!」
聞いているのは何とロック。
リズムに合わせて首を振りながら叫ぶグラウラーは、相当ノリノリだ。
見かけによらず随分変わった趣味してるんだな、この子……
「意外ですか?」
ナイジェルが、俺の様子に気付いたらしい。
「いや、空の時と大分イメージ違うなって……」
「まあ、無理もありません。ドーターに接続している間は感情に抑制がかかるようになってますからね」
「操縦桿握ったら荒っぽくなる、みたいなもんか?」
「そうですね。今はいわば『オフ』の状態だと思っていただいて結構です」
そう言って、ナイジェルはコーヒーを一杯飲む。
隣でグラウラーが「へいへい!」とか「おういえす!」とか相変わらず騒がしい中、俺は気になった事を聞いてみた。
「ところで、グラウラーはどうして全身麻痺状態なんだ?」
「……少し前に事故を起こしてしまいましてね。その影響、とでもしておきましょうか」
とでもしておきましょうか?
俺はその言い方が少し気になった。
なんでそんなごまかすような言い方するんだ?
「大変でしたよ。最悪修復が断念される可能性もありましたが、また飛べるようになってくれてよかったです」
ナイジェルの話を聞きながら何気なく視線を投げると、廊下の向こうで人だかりが見えた。
何だと思って見ると、おいおい、ライノとトムキャットじゃないか。
基地の男に絡まれてる。様子からしてナンパだろう。
2人は迷惑そうにしているが、向こうも結構しつこい様子。
「……どうしました?」
ナイジェルの問いかけに答えないまま、俺はベンチを立ってそこへ向かった。
なあなあいいだろ、とか言っている男どもの間に、俺が割って入る。
「悪い、残念だがお断りだ。こいつらは俺の女だからな」
ライノとトムキャットの間に入り、2人の肩を寄せる。
あっ、と2人が驚く声。
無論、演技だ。
こうでもしねえと、男どもが諦めてくれねえんだ。
「あ、あの、中尉さん……!?」
トムキャットが困惑している。
ライノに至っては目を泳がせながら黙り込んでしまっている。
「おいおい、本当かよ? 嫌がってるように見えるぞ?」
男どものひとりが挑発してくるが。
「いえ! わたくしはもう、中尉さんのものです!」
トムキャットが、そう言って俺の腕にしがみついた。
豊満な胸が押し当てられて、どきりと胸が高鳴った。とりあえず、演技に乗ってくれた事は嬉しいが。
「……という訳だ、行くぞ」
何とか平常を保って、俺は2人を連れて行く。
男どもは、ちぇっ、悔しそうに去っていく。
とりあえず、乗り切ったみたいだな。
「すまねえ、変な事しちまって」
とりあえず、2人を離す。
「い、いえ。助けてくださり、ありがとうございます……」
ぎこちないトムキャットのお礼。
何だかこっちもどう答えたらいいかわからなくて、おおう、と変な返事しかできなかった。
ライノに至っては、さっきから落ち着きなさそうにうつむいて黙りっぱなしだし。
「ねえ、お姉様」
そんな時だった。
グラウラーの声が聞こえたのは。
お姉様って誰だ? と俺は一瞬思ったが。
「ライノお姉様」
「……あたし!?」
ライノが、珍しくすっとんきょうな声を挙げた。
「お暇なら、わたしとお話しましょう?」
妙に遜った言い方をするグラウラー。
そうか。
ベース機なんだから、向こうから見ればライノは立派なお姉さんって事か。
「えーっと……姉、姉──姉って、どういうものだっけ……?」
困ったように俺を見るライノ。
おいおい、俺に話を振るのかよ。
「せっかくだから、相手してやったらどうだ? お喋り好きだろ?」
「え!? いやあー、そう言われても──」
「そんな事気にしないで相手してみろ、ほら」
妙に遠慮しがちなライノの背中を、俺が押してやった。
他のアニマと親睦を深める、いい機会だからな。
「では、わたくしも行きますね」
すると、トムキャットも自分から混ざりに行った。
ライノをフォローしに行くのか。いい心構えだ。
とりあえず、アニマ達から解放されて、ほっと胸を撫で下ろす。
ふと、ナイジェルに妙に意味ありげな視線を向けられているのが気になったが。
(続く)