ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~   作:フリッカー

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ALT.22 オペレーション・イッポンヅリ

 俺は、適当に見つけたベンチに腰を下ろした。

 見上げる空は分厚い雲で覆われている。

 風が妙に生暖かい。こりゃ雨が降るかもな。

「くそっ、何なんだよ。アニマを人扱いして、そんなにおかしいのかよ……!」

 俺は、そう呟きながら、がっくりと頭を下げた。

 どうしてアニマを人形扱いするのが正解なのか、俺には理解できない。

 アニマの事をアンドロイドか何かだと思ってる奴が多いが、生まれはともかく、アニマ達はみんな立派な人間なんだ。ちゃんと一人の兵士として扱ってやらないきゃダメだろ。

 俺は太平洋軍所属だったころ日本へ配属された事があるが、日本は「カロウシ」が社会問題になってるほど働く人間の扱いが悪い事で有名だ。

 日本は、とにかく人件費をケチりたがるらしい。

 あそこには「滅私奉公」という他者に尽くす心構えがあるらしいが、それが完全に仇になって仕事で散々こき使われ、心がボロボロになる人間が当たり前のようにいる。

 あそこもあそこなりに改善しようとはしているらしいが、外国人を呼んだり、ロボットにやらせようとしたりしているばかり。違うそうじゃないって言いたくなるレベルだ。

 日本人だってそうなってるんだから、このままじゃアニマも同じように心がボロボロになる奴が出てきてしまうぞ。

「アニマを好きになって、何がおかしいってんだよ……!」

 トムキャットは、俺に好きだって言ってくれた。

 それが、本当に嬉しかった。だから少しだけだけど愛し合えた。

 あれが全部紛い物だとは思えない。機械的に人間の真似をするだけで、あんな事言う訳ないだろ。

 ライノだって、自分が弱いと認識しただけで家出なんかしたり、トムキャットに乱暴したりする訳ないだろ。

 あの子だって、あの子なりに悩んでいたんだ。なんでその事に誰も気付かない?

 なんで俺が、アニマに毒されているなんて言われなきゃいけないんだ──

 

「……愚かな。そんなにアニマを我が物としたいか、男」

 と。

 突然、急に偉そうな女声がして、はっと顔を上げる。

 瞬間、息を呑んだ。

 目の前に、あの時の虚無僧がいた。

 い、いつからここに!?

「やめておけ。アニマをそなたの物とした所で、待っている結末は破滅だけだ」

 籠で素顔が見えないはずなのに、強く睨まれている感じがした。

 まるで人ではない何かのような得体の知れない雰囲気に、身動きが取れない。

「ど、どういう事だ?」

「そなたは考えた事があるか? 人がなぜ環境保護を訴えながら環境破壊を続けるのかを」

「……は?」

「そんな事をした所で、誰も得しないからだ。人は口ではきれいごとを語っておいて、その実自分達の利益になるかどうかでしか行動できない矛盾した生物だ。人にとって本当に重要なのは、明日の利益より今日の利益なのだ。今が良ければそれでいい、とな」

「な、何が言いたい?」

「そなたの身が大事なら、今の内にアニマを手放しておけ。そう遠くない未来に身を滅ぼしてから後悔しても遅いぞ?」

 虚無僧は、ゆっくりと歩みを進める。

 俺の座るベンチの隣を、通り過ぎようとする。

「余計なお世話だ! というか、あんたは何者だ!?」

 虚無僧の足が止まる。

 すると、その手を被っている籠にゆっくりとかけ。

「いずれ、わかる」

 くい、と素顔が見えるように持ち上げて俺に見せた。

 途端。

「──!?」

 息が止まった。

 顔の下は、確かに女だった。

 だが。

 その肌には。

 結晶のようなものがいくつも生えていて。

 俺をにらむその瞳は。

 死人のように生気がなくて。

 どうして。

 それが。

 新手のゾンビのように見えてしまったのか──

「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

「──っ!?」

 目が覚めた。

 な、何だ、夢か。

 俺、ベンチに座ったまま不貞寝しちまったのか。

 こんな所で寝ちまうなんて、どうかしてるな。

 それにしても、何だったんだあの夢は。

 あんな夢、ホラー映画でもなかなかないぞ。

 というか、夢にしては妙にリアルだったな。

 あの、やけにはっきり覚えてる──やばい、思い出したら身震いしてきたからやめよう。

「ヌードルー!」

 ふと、俺を呼ぶ声がした。

 顔を上げると、遠くでライノが手を振っている。

 まるで、親しい友達でも見つけたみたいに。

「作戦ミーティングだってー! 早くしないと遅れるよー!」

 

「今回の作戦指揮を担当するフレッチャーだ。では、ブリーフィングを開始する」

 ライノやトムキャット、ナイジェルやグラウラー、そしてジョンソンも集まって席に座り、ブリーフィングが始まった。

「この度発見された、ザイの潜水空母の破壊命令が下された」

 プロジェクターで、先の戦闘で捉えられた潜水艦の写真が映し出された。

 ザイを回収していた、あのバカでかい潜水艦だ。

「まず確認するが、潜水空母とは何かわからない者はいるかね?」

「はーい」

 指揮官であるフレッチャーの問いに、グラウラーが答えた。ナイジェルが、その片手を上げてあげている。

「そんな事も知らないのか、このガキは」

「ジョンソン、今説明するから口を挟むな。潜水空母とは、空母としての航空機運用能力を持つ潜水艦だ。かの太平洋戦争で旧日本軍が使用していたものが有名だな。艦内に艦載機を格納し、浮上した時に発進させる事ができる。空母の航空打撃力と潜水艦の隠密性を併せ持った夢のような船だが……そこで問題だ。その潜水空母は、なぜ現在存在していない?」

 フレッチャーの問いかけに、一同はしばし沈黙する。

 すると、トムキャットが答えた。

「搭載量の制限、ですか」

「正解だ。旧日本軍が実用化したものは、せいぜい2、3機の搭載が限界だった。当然だ、普通の空母のように露天駐機させる事などできないし、狭い潜水艦に格納するためには普通の艦載機以上にコンパクトにする必要があるからな。だからすぐに廃れてしまった──だが、それが70年以上経った今復活した訳だ。それも、理想的な形でな。シャンケル博士、説明を頼む」

 フレッチャーが、改めて映し出された写真に目を向ける。

 そして、入れ替わる形でシャンケルが説明を始めた。

「この潜水空母は規格外だ。映像から分析するに、そのパワープロジェクション能力は正規空母と同等以上と言っていい。しかもこの潜水艦自体もEPCMを発していて、探知が極めて難しい。最近中国大陸から遠く離れたマリアナ諸島にザイが頻出していたのは、間違いなくこの潜水空母によるものと思っていいだろう。潜水艦であれば、日本の防衛ラインを秘密裏に突破してマリアナに到達できても不思議ではない。ザイは中国大陸からしか出現しない、という常識はもはや通用しない」

「……という事は」

 俺が思わずつぶやいたのに合わせて、シャンケルが続ける。

「このまま放置していれば、オセアニアにアフリカ、ハワイ、そしてアメリカ大陸西海岸までも標的にされる。ザイの脅威からの絶対安全圏など存在しなくなるだろう」

 そういう事か。

 空母の一番恐ろしい所は、海の上ならどこからでも艦載機を飛ばせる事。

 つまり、相手する側からすれば、艦載機がどこから飛んでくるかわからないという事だ。

 しかもそれに潜水艦の隠密性が加わったとなれば、まさに恐るべき相手になる。潜水艦が搭載する核ミサイルが核抑止に大きく貢献しているのと、理屈は同じ。

「故に、我々は何としても、早急にこの潜水空母を破壊しなくてはならない。では作戦を説明する」

 フレッチャーが説明を交代する。

「相手はEPCMで探知困難だが、全く探知できない訳ではない。発するEPCMは強く、居場所をある程度絞り込むのは容易だ。現在哨戒機がイスラエルのドーターの支援を受けて、探索を行っている」

 イスラエルのドーター。スーファの事か。

 あの子は今も、休みなしで飛び続けているのか。

「居場所を発見次第、ドーター部隊には出撃してもらう。ほぼ24時間待機になるだろう」

「あの、具体的にはどうやって破壊するんです? 発見できても、到達前に逃げられてしまったら元も子もないでしょう?」

 俺が素朴な疑問を投げかける。

 すると、シャンケルが答えた。

「そこでグラウラーの出番だ」

 名前を呼ばれたグラウラーが、わたし? と首を傾げる。

「グラウラーのEPCMを使って、潜水空母を海面へ釣り上げる」

「EPCMで釣り上げる? そんな事可能なんですか?」

「理論的には可能だ。ロシアはかつて、EPCMがザイの通信も兼ねている事を突き止め、それを利用してザイを引き寄せる研究を行っていた事が流出した情報で判明している。計画名は『誘蛾灯』、強力なEPCMでザイを大量におびき寄せた所を、核ミサイルで一網打尽にする計画だったそうだ。もっとも、あまりに荒唐無稽すぎたからか、実用化したという情報はない。これを、グラウラーでやってもらう訳だ」

 俺は思わず、グラウラーに目を向けた。

 さっき説明されたよくわからない事が、この子にはできるって言うのか。

「そして、トムキャットが上空援護を行いつつ、ライノが対艦ミサイルで動けない潜水空母を撃沈するという訳だ」

 うわ、本当に釣りだな、これは。

 釣り上げた所を銛で一発。まるでクジラ漁だ。

「作戦名は『イッポンヅリ』だ。オペレーション・イッポンヅリ、必ずや成功させなければならない」

「今回の作戦にあたって、ライノ、トムキャット、グラウラーでタスクフォースを編成し、統合運用を行う。相応の働きを期待するぞ」

 フレッチャーとシャンケルがそれぞれ説明すると、映されていた写真が消された。

「何か質問は?」

 フレッチャーが質問するが、誰も手を上げない。

 俺は自然と、ライノに顔を向けていた。

 そういえば、ライノはこういうのだけは結構真面目に聞くよな。何かおしゃべりとかしてきそうだったのに。

「ライノ、大丈夫か?」

「え、別にー」

 ライノの返事は、相変わらず飄々としていた。

 

(続く)

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