ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~   作:フリッカー

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ALT.03 ザ・キャット・イズ・バック

 イランのトムキャット。

 それは、イランがまだアメリカと仲が良かった頃に購入したもの。

 間もなく、イランはアメリカと対立するようになり、アメリカの支援は当然ながら打ち切られてしまう。

 それでも、直後に勃発したイラクとの戦争では、部品不足に苦しみながらも、イラク軍相手に圧倒的な活躍を見せ、イランを守り抜いた。

 その活躍たるや、イラク軍に大きなトラウマを植え付け、後の湾岸戦争では本家アメリカのトムキャットを非常に警戒して近づかず、アメリカのトムキャットはろくに戦果を挙げられなかったという風評被害(?)を受けたほどだ。

 そんなイラン最強の戦闘機が、ドーターとして生まれ変わるのは、ある意味当然だったと言える。

 いや、それはそれでいいんだが──

「おおー! トムキャットと言えば、海軍を支え続けた伝説の名機! あたしの大先輩だね! あたしはF/A-18F-ANMライノ!」

「こちらこそ、お会いできて光栄です。ライノ」

 俺の目の前で、がっちりと握手を交わしているライノとトムキャット。

 だが、俺はまだそんな挨拶ができるほど、心の整理がついていなかった。

「き、君、アニマだったのか!?」

「あ、あなたはあの時の」

 そんな俺にトムキャットは、愛も変わらず穏やかに声をかけた。

「え、知り合い?」

「ここに来る旅客機で席が隣同士でした」

 うぐ、ライノに説明されるのがなんか恥ずかしい。

 こうなったら、俺もちゃんと挨拶しておかないと。

 こほん、と咳払いして、俺はトムキャットの前に出る。

「俺はアンダーソン中尉だ。一応、ライノの教育係って事になってる」

「よろしくお願いします、中尉さん」

 ライノと同じように、握手を交わす。

 手の握り方は、とても丁寧だ。

 随分礼儀正しい子だなあ。

 振る舞いも笑顔も自然で、ライノとは全然印象が違う。

 この子もアニマなら、ライノと同じように刷り込みがされているはずなのだが──

 

 今回、トムキャットはグルームレイクでの初のテスト飛行に挑む。

 彼女がドーターのコックピットに入った時、俺はなぜかシャンケルに招かれた。

「せっかくだから君も見てみるといい。ドーターの中身がどんなものなのかを」

 そう言われて。

 俺はシャンケルと共にタラップを昇って、トムキャットのコックピットを見せてもらった。

 途端、俺は息を呑んだ。

 ドーターのコックピットには、操縦桿がない。

 他のレバーどころか、スイッチさえない。

 まさに、未来のコックピットと言った印象だ。

「どうやって操縦するんですか、これ」

「側面に手を置いているパネルがあるだろう? あれがNFI──神経融合インタフェースだ。あれを介してアニマはドーターとダイレクトリンクし、機体の末端まで自らの感覚器を拡張して操縦する」

「つまり、考えるだけで操縦できるって事ですか?」

「そういう事だ」

 何と、考えるだけで操縦できるとは。

 本当に未来のシステムだな、ドーターというものは。

「ダイレクトリンク、開始します」

 トムキャットがつぶやくと、手を置いた側面のパネルに光が走った。

 途端、あらゆるディスプレイが起動し始める。

 機体に電源が入ったのだ。

 同時に銀色のボディにも、赤く光る幾何学模様が浮かび上がった。

 おお、と俺は思わず声を上げた。

 こんな事ができるなら、俺も是非ともやってみたいものだが。

「これを使うには、やはり特殊な訓練が?」

「いや、できるのはアニマだけだ。そもそもドーターは、EGGという固有の周波数でアニマと同調している。適合したアニマ以外に操縦する事などできない」

 その機体は、シャンケルの淡々とした説明であえなく打ち砕かれた。

 

 俺達が機体を離れると、いよいよエンジン始動シークエンスに入った。

 トムキャットが右腕を挙げて人差し指を立ててみせると、エンジンが唸り声を上げ始めた。

 機体の尾部から陽炎が立ち込め始める。

 右エンジンが始動した。

 今度は左手の人差し指を立てて見せ、左エンジンも始動。

 エンジン始動は、問題なく完了した。

 それから、エルロン、スタビレーター、ラダーをぱたぱたと動かして、動作チェック。

 それが一通り終わった後、トムキャットは俺達に向かって軽く敬礼。

 すると、装甲キャノピーがゆっくりと自動で閉じられた。

 誘導員の指示に従って、タキシング開始。

 エンジン音を響かせながら、ゆっくりと滑走路へ向けて動いて行く。

 その後ろ姿を見届けながら、俺はふと思った。

 そういえばトムキャット、ヘルメット被っていなかったな、耐Gスーツ着てなかった気もするな、と。

「彼女、ヘルメットとかGスーツないですけど、大丈夫ですか?」

「アニマは普通の人間とは違う。なくても大丈夫だ」

 俺の疑問に、シャンケルは淡々と答えるだけだった。

 

 滑走路から轟音が響いた。

 アフターバーナーに点火して、離陸滑走を始めたのだ。

 可変翼をいっぱいに広げたトムキャットは、ふわりと滑走路から浮かび上がった。

 車輪(ギア)を引き込みながら、まっすぐ加速を続け、それを利用して力強く上昇。

 太陽の光を反射して、銀色のボディがきらりと輝く。

 反転して戻ってくると、可変翼がゆっくりと下がり、矢尻型のシルエットを作り出す。

 そのままスピードに乗った旋回を披露。

 とても軽やかな動きだった。

「どうだトムキャット、調子は?」

 シャンケルがレシーバーを通じて呼びかける。

 返ってきたトムキャットの声が、感嘆に満ちていた。

『すごいです。体が軽い……こんな感覚初めてです……!』

「そうか、改修を施した甲斐はあったようだな」

 轟音を轟かせ、踊るように舞い続けるトムキャットは、まるで喜びを全身で表現しているように見えた。

 俺も、自然とその機動に見入っていた。

 これが、トムキャット。

 約10年前にアメリカから姿を消し、今はイランにしかいない、伝説の戦闘機──

「これで、後は記憶さえ引き出せれば完璧なのだが……」

 シャンケルが何か言ったような気がしたが、轟音が響く中でそれを確かめる事はできなかった。

 

(続く)

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