ライノ~ガーリー・エアフォース・アポクリファ~   作:フリッカー

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ALT.08 5枚のカードに全てを賭けろ

 という訳で始まっちまった。米伊アニマのポーカー対決。

 ディーラー兼解説は俺、ヌードルでお送りする。

 今ライノとトムキャットは、テーブルを挟んで5枚のカードを手にしてにらみ合いを続けている。

「よし、あたしは残り全部賭けるっ!」

 ライノがチップを追加した。

 残り全部、と言えば聞こえはいいが、追加したのは5枚だけ。

 そう、ライノはこれまでトムキャットに負け続けている。

 もう後がない、まさに背水の陣だ。

「コールです」

 対するトムキャットは、ライノが追加した分と同じ5枚だけ追加する。

 その手元にはチップががっぽりだ。

 彼女の手さばきはとても冷静。

 たとえ1回くらい負けたとしても致命傷にはならないという勝者の余裕を感じる。

「あれー? 先輩は残り全部を賭けないのかなー?」

「あら、そんなルールありました?」

「大人げないなー。もう守りに入って逃げちゃうのー? クイズショーみたいに一発逆転のチャンスくらいないと、こっちのやる気がへし折られるんだけどー?」

「そう思うのは、ライノの勝手でしょう?」

 というか思ったんだが。

 傍から見ていても、両者の役が全く読めない。

 片や笑ってばかりいるライノ。

 片や常に落ち着いているトムキャット。

 どっちもポーカーフェイス、しかもその間に激しい火花が散っているのが見える。

 やばい。

 これは怖い。

 普通ににらみあってるより怖いぞ。

「守りに入った奴は本物にはなれない、貪欲な奴の方がいい、って聞いた事あるよ? 本当に勝てる自信あるなら、残り全部賭けたって平気だー! ってくらいアピールしなきゃ。ねえヌードル?」

「はあ?」

 なんでそこで俺に振るんだライノ。

 変な声出ちゃったじゃないか。

 というか、ライノは随分強気な気がするんだが……?

「……わかりました。では残り全部賭けましょうか」

 って、トムキャットが乗った!?

 残ったチップを全部場に出しやがった!?

 何だかライノの挑発に乗っちまったようにも見えるが、大丈夫か?

 へへ、とライノが不気味に笑う。

「よーし! 勝負(ショーダウン)ッ!」

 待ってましたとばかりにライノは椅子を倒すほどの勢いで立ち上がり、手札を1枚ずつ場に出していく。

「スペード10! スペードJ! スペードQ! スペードK! スペードA! ロイヤルストレートフラッシュ! どーだー! まいったかー!」

 腰に手を当てて、かんらからからと笑いながら勝利宣言。

 最強の役を作れたのなら、そりゃ強気にもなるか。

「……いや、それはストレートだ」

 だが、俺は冷静に指摘する。

「え?」

「10をよく見てみろ」

 ライノは気付いていない。

 10のマークが、スペードではなくクラブになっている事に。

 マークが揃っていなければ、最強の役も一気に格落ちだ。

「……ああああああああああっ!?」

 ようやくその事実に気付いたライノは、この世の終わりでも見たかのような声を上げた。

「わたくしの勝ちですね」

 トムキャットが丁寧に手札をテーブルに置いて披露する。

 10が3枚、4が2枚のフルハウスだ。

 ストレートよりも上位の役。勝負あった。

「では、いただきます」

「ああー!」

 ライノがおもちゃを取り上げられた子供みたいに手を伸ばすのも空しく、目の前でチップを全て持っていかれてしまう。

 かくして、すっからかんになったライノの負けだ。

 トランプ勝負という決闘を申し込んだチャレンジャー・ライノは、一発も傷付ける事ができぬまま、ディフェンディングチャンピオン・トムキャットに退けられた。

 空でのデモンストレーションの時と、同じように。

「あはは、また完敗しちゃった……」

 力なく膝をついてテーブルに突っ伏せたライノは、苦笑いしている。

 あれだけ自信ありながら些細なミスで負けてしまったら、俺ならもっと悔しがると思うんだが、そうでもないのか?

 やれやれ、と思いながらとりあえず雰囲気を出そうと。

「という訳で、勝者トムキャット!」

 ボクシングでやるみたいに、トムキャットの手をとって高く上げた。

 あ、とトムキャットがちょっと驚く。

「あ、あの、中尉さん、人が見ている前で、それは──」

 どこか恥ずかしそうなトムキャットの声。

 え、と思って何気なく廊下に目を向けた時、俺は見てしまった。

 2人のアニマのポーカー対決を、高官達が見ていたのを。

 向こうは何呑気にやってるんだこっちの苦労も知らずに、と言わんばかりの忌々しい視線が、俺達を貫いていた。

「……す、すまん! 嫌だったか!?」

 しまった! 女の子の手を勝手に握るなんて、俺はなんて事を!

 俺は、慌ててトムキャットの手を離した。

「いえ、そういう訳では、ありませんけど……」

 トムキャットは、俺に握られた手をさすりながら、恥ずかしそうにうつむいて視線を泳がせている。

 そんな彼女の姿を、突っ伏したライノが上目遣いで見つめていた──

 

     * * *

 

 夕方になってやっといろいろ一段落着いた頃、俺は何気なくベンチに座っているライノを見かけた。

 両足を投げ出して、ぼんやりと夕焼け空を見上げている。

 何だかたそがれているようにも見えた俺は、近くの自動販売機でコーラを買い、それを持っていく。

「これ飲むか」

 コーラを差し出すと、一瞬目を丸くしたが、すぐに受け取ってくれた。

「ありがと」

 どこか元気なさそうな答え。

 缶を開けて、そのままぐいっと一気飲み。

 それにしても本当にコーラが好きだな、こいつ。

 食事の時も毎日コーラ飲んでるし。

 それでも、何だか浮かない様子なのは、やっぱり──

「……負け続きはしんどいか?」

 隣に座って、あまり刺激しないようにできるだけ優しく問いかける。

 すると、ライノはまた空を見上げながら答えた。

「しんどい」

 だが、その顔は笑っていた。

 しんどいというのはある種の冗談で言っているのか、それとも本気なのかが読み取れない。

 たそがれてるように見えたのは気のせいだったのか?

 笑顔の仮面は、彼女の本心を読み取りにくくしている。

「先輩って凄いよねー。遠・中・近どの距離でもめちゃくちゃ強いんだもん」

「そりゃそうだ。あらゆる距離で敵を圧倒できるように造られた防空戦闘機だからな」

「しかも可変翼でスピードと機動性を両立できるとか、反則だよ。あたしにも可変翼あればなー」

「あんな過去の遺物付けたら重くなるし複雑化するぞ?」

 愚痴なのかそうじゃないのかわからない気楽な話に、とりあえず付き合ってやる。

 顔は見ずに。

 ふと、ライノとトムキャットの違いについて考えてみる。

 機体として見れば、確かにライノの方が世代としては新しい。

 だが、新しいからと言って性能も上とは限らないのが現代の戦闘機だ。

 そもそも戦闘機の機体性能は、トムキャットの世代である第4世代でひとつの完成を迎え、それ以上あまり発展の余地がなくなってしまった。

 だから機体性能以外の要素──電子機器とかステルス性で勝負しようとなったのがライノの世代である第4.5世代以降となる。

 だから、第4.5世代機が第4世代機に機体性能で劣っている部分がある事は珍しくない。

 実際、ライノは今の戦闘機としてはスピードが出ない方だ。スピードが命の防空戦闘機と比べたら、スピードで差を付けられるのも当然。

 その上で中身の優位がなくなれば、世代の差などいくらでも埋められる。これが現代の戦闘機なのだ。

 そういえば、ライノの正式化に当たってライバルとなったのは、トムキャットの改良型だったらしいな。

「なんで新型のあたしが旧型の先輩に勝てないのかなー? 知名度補正?」

「そんなゲームみたいな理由があるか。多分『年の功』って奴じゃないか? シャンケルから聞いたぞ。確かアニマって、ドーター化する前の記憶も持ってるんだろ? ならあいつは、祖国のために10年近く続いた戦いを生き抜いた大ベテランだ。空中戦なんて数え切れないほど経験してるだろうさ」

「ええー、じゃあザイが出てくるまでろくに空中戦してないあたしはどうなるのさー? 先輩に何か弱点ってないの?」

「そうだな……エンジンがパワー不足気味っていうのは有名だが、チューンされたドーターだからなあ。今どうなってるかは知らん」

「じゃあ付け込む隙なんて無いじゃん」

 ライノが、不意に立ち上がった。

 どうしたのかと思って顔を上げると、ライノが俺の前に立っていた。

 彼女は、澄んだ笑みを見せながら、凄くどうでもいい事のように、こんな事を聞いてきた。

「ヌードルって、先輩といる時なんか楽しそうだよね」

 ……は?

 何だ、その変な質問は。

 そんな顔で言われると、俺は返答に困るんだが。

「な、何言ってるんだライノ?」

「……何でもない!」

 ライノはそう言って、笑いながら背を向けてしまった。

 一体何が聞きたかったんだ、あの子は?

 ただ、あんな質問をしてきたライノの笑顔に、俺はどこか違和感を覚えていた。

 

(続く)

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