命の意味~Per connetterti con te~   作:Anmary

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Fino ad ora e in futuro

「キリエ! その人だぁれ?」

 

 

 家に入ると玄関とほぼ同時にリビングが広がっていて、そこに10人ほどの年齢層はバラバラな子供達が思い思いのことをして過ごしていた。彼らは一斉に振り返って、見知らぬ新入りを物珍しそうに眺める。

 

 フォルトゥナの閉鎖的な社会の表れだろう。彼等は見知らぬ人間に対する耐性があまりないと思われた。その中で好奇心旺盛な少年がキリエに向かって声を上げる。それに対してキリエは優しく目元を緩めて答えた。

 

 

「ネロのお父様よ、皆失礼のないようにお行儀良くできるかしら?」

 

「できたらチョコラータ作ってくれる?」

 

「そうね、みんなが仲良くおとなしくいい子にしていられたらとびきり美味しいチョコラータと、フルーツもサービスしてあげるわ」

 

 

 やったー!と無邪気に彼らは喜んで、キリエにいい子アピールをするべく仲良く、煩過ぎない程度に静かに遊び始めた。おそらくチョコラータとやらはそれだけの効力がある魅惑のメニューなのだろう。

 

 

「大丈夫なのか、キリエ……今月もあまり余裕ないって言ってたじゃないか」

 

 

 こっそりネロが問う。パッと見た限り裕福とはいえなさそうだとは感じていたが、やはり若い二人で懸命に助け合って生きているのだろう……キリエが纏っているのは着古されたワンピースだし、ネロも普段着にはぼろが見え、子供達の服も継ぎ接ぎが目立つ。

 

 

『あんたラッキーだな、晩飯ならあるぜ。キリエはいつも作りすぎる』

 

 

 ふと、あの時ネロがかけてきた言葉を思い出す。ガレージの外に得体のしれない男が立っていてなおそんな言葉をかけてくることに面喰ったものだったが、そういう助け合いの精神で育てられてきたのだろうと思えば納得してしまう。普通の人間からしてみれば異様な容姿の孤児だった彼を受け入れ、一人前に育てた家族だ。そういう方針だったとしても何ら不思議ではない。

 

その容姿や背景、悪魔に追われ続ける血筋のせいで人間に受け入れられた経験が皆無であるバージルには容易に理解できない考え方ではあるが。

 

 

「大丈夫よ、心配しないで」

 

 

 対するキリエはやはり穏やかに微笑んで答えた。それでも心配せずにはいられないらしいネロは勢いよくこちらを振り向いてこう言い放つ。

 

 

「そういうわけだ、親父。協力しろ」

 

「何にだ」

 

 

 バージルは思わず聞き返す。とはいえ今から何を言われるかは何となく察してはいたが。

 

 

「俺の手伝い。この辺りの悪魔の掃除だとか、何でも屋(Devil May Cry)の仕事だ」

 

「駄目よネロ、バージルさんはお客様だもの」

 

「構わん、宿代くらいは稼ごう」

 

 

 実の父親にあんまりな対応だと嗜めようとしたキリエだが、直後にバージルから了承を受けてしまえばそのまま口をつぐんでしまう。

 

 もとよりタダで寝泊まりするつもりなどなかった、ここにいつまで留まるかは決めていないがいつかは出ていくつもりだったし、それまでは何かしらの形で返す予定だった。むしろネロがその宿代の形態を提示してきただけ好都合だ。キリエはそれ以上反対せず、むしろ相手の申し出を喜ぶ素振りすら見せた。

 

 

「ありがとうございます、実は地獄門はなくなっても時折悪魔が出没する場所があって……目撃され次第ネロが討伐してくれているのですが」

 

「それでも週に一度あるかないかの頻度で悪魔が出るんだ、たぶんあの辺りに時々小さい穴が開くんだと思う。どいつもこいつも雑魚いから苦労はしないだろうけどな」

 

「そうか、ならば早急に悪魔をせん滅し穴の場所を特定し、塞げばいい」

 

 

 こともなげに言ってのけるバージルにネロは面喰ったように言い返そうとした。どうやって穴をふさぐのだ、と。しかしそこではた、と思い至った。そしてバージルもまた彼が思い至ったのと同じことを告げる。

 

 

「閻魔刀の力で一つ一つ塞ぐことは可能だ、ただし全てを塞ぎ切れるかどうかは断言できんが」

 

 

 雑魚悪魔の定期的な出現は、魔剣士スパーダがこの地を封じてから相当長い年月が過ぎたのと、以前の事件で幾つもの地獄門と閻魔刀によって強制的に魔界と繋がる穴、それも巨大な規模のものを開かれたことから地相自体に与えられた影響が表れたものだと推測される。その代わりに開く穴のサイズが抑えられているからこそ(ネロ曰く)雑魚の悪魔くらいしかそこをくぐることができないのだろう。ネロもそこは同意らしく、『ベリアルやエキドナレベルの悪魔が出てくることはまずないと思う』と頷いた。やはりそれなりの悪魔がくぐろうと思えばそれなりのサイズの門が必要なのだ。

 

 キッチンの方へと消えていたキリエがトレーを持って戻る。トレーの上には湯気を立てる飲料と、先ほど彼女が「カントゥッチ」と呼んだものだと思われる焼き菓子が乗っていた。これは彼女の手作りだろうか?恐らくそうだろう。

 

 長机の長辺で向かい同士に腰を下ろすネロとキリエ、そしてネロの隣にバージルが座る形となり、ネロが真っ先に一つ焼き菓子を手に取り、ぽいと口に放り込む。紅茶にも口をつけながら咀嚼し、そうしながら更に話題を続ける。

 

 

「悪魔が出る場所は大体決まってる。森か、城か、あとは時々街中。最低でも街中の分は全て封じ切りたい、それさえ済めば他はどうにでもなるしな」

「そうか」

 

 

 明日から取り掛かるぞ、と告げるネロの声はあまり明るいものではない。きっとこれからのことを案じているのだろう。減らない悪魔、危険に晒され続ける人々。バージルという援軍によりそれらの危険が減るとはいえ(事実ダンテとバージルのはた迷惑もしくは悪魔迷惑な大喧嘩で魔界の悪魔は確実に減ったらしい)、この先この街がかつてスパーダに守られていた時のように安心して暮らせる時は果たして来るのだろうかと、ネロは以前に零していた。

 

 彼にとってフォルトゥナの住人は必ずしも良い人ばかりではないが、それでもキリエが愛しクレドが守ったこの街を、今度は俺も愛して守っていきたいんだ、と。

 

 

『スパーダに成り代わりたいとか、そういうことじゃないんだ。あの糞爺と同じことを考えてるわけじゃなくて……ああくそ、よくわかんねぇ』

 

 

 考えをまとめるのがかなり苦手な様子であるこのスパーダの末裔の青年を見守るのも、きっと自分にできることなのだろう。バージルは聞き上手ではないが、フォルトゥナへの旅路は100%聞き役に回っていた。

 

 いろいろ難しく考え込んでいるのだろう、険しい表情をしているネロにキリエは優しく微笑みかける。そうして腰を上げ、そのまま手を伸ばし指先で彼の眉間に軽く触れた。

 

 ネロはとたん険しくしていた表情を、まるで毒気が抜かれたかのようにきょとんとさせる。彼女は微笑みそのままに言った。

 

 

「また険しい顔をしてる、そのままじゃ眉間にしわができるわ」

 

「気を付けるよ」

 

 

 冗談めかした声音から察するに彼を案じてわざと空気を壊そうとしたことが伺える。彼もそれがわかったのか思わず口角を上げて、ネロは頷いた。

 

 

『食事の時くらい、そのしかめっ面止めたら? そのうちしわが取れなくなるよ』

 

 

 突然脳裏に響いたセリフにバージルはふと持っていたカップを置いてしまう。

 

 久しく忘れていた、そういえば同じようなことを指摘されたことがあったのだった。

 


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