明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第1話

「…はぁ。」

ピピピと鳴り響く目覚まし時計を立った状態で眺め、戸山明日香は盛大にため息をついた。布団から起きて目覚まし時計を止めたのではなく、立った状態、つまり、隣の部屋から鳴って、なかなか鳴り止まない目覚まし時計を止めに来たのであった。

「まだ8時じゃん。お姉ちゃん、また目覚ましなる前に起きて…。」

また小さく、「はぁ。」とため息をついた。明日香はすっかり目が覚めてしまった為、リビングに向かう。

「あれ?あっちゃん!おはよ!休みなのに早いね!」

「お姉ちゃん!また目覚まし時計止めてなかったよ!まだ寝たかったのに。」

明日香はまた「はぁ。」とため息をつきながら言った。注意された姉である戸山香澄は「えへへ~。ごめんごめん~。」と分かっているのか分かってないのか微妙な返答をした。

「今日も練習?」

「うん!楽しみだから早く有咲のとこに行くんだ~!」

香澄は笑顔で答え、立ち上がると、背中のランダムスターが小さく揺れた。

「あんまり、市ヶ谷さんに迷惑かけたらダメだよ。」

「分かってるよ~。あっちゃん!行ってくるね!」

少し、振り返り笑顔で香澄が言うと、あっという間にいなくなった。その姿を再び「はぁ。」とため息をつき、明日香は見送っていた。

「あら?おはよう。早いわね?」

「おはよう。お母さん!聞いてよ!またお姉ちゃん、目覚まし時計を止め忘れたんだよ~!」

明日香がリビングの食卓につくと、スマホを操作し出した。

「そうなの?全く、あの子はそそっかしいわね。はい。牛乳。」

「ありがとう。」

明日香は出された牛乳を飲みながら、スマホでニュースを読んでいた。

「明日香?食べる時くらいスマホ置いたら?」

「…はぁい。」

「今日は何か予定あるの?」

「うん。六花と遊ぶ予定だよ。」

目を擦りながら明日香は出された食パンにかぶり付いていた。

「そう。高校でも、お友達ができて嬉しいわ。」

「…うん。まぁね。」

いつも通りの朝を過ごす、戸山明日香は「ふぁ。」と欠伸をした。

「何時から遊びに行くの?」

「昼からだよ。それまでは勉強してるね。」

「勉強頑張っているわね。」

「うん。その為に羽丘に入ったんだし。良い大学にも行きたいしね。」

明日香は表情を変えず、パンを食べながら言った。

「そう。明日香は将来は何になりたいの?」

「え?…う~ん。大学行ってから考えるよ。」

「そう。」

明日香は母親から言われた事をボーとしながら考えた。

「(将来…かぁ。考えた事ないなぁ。…まぁ。いいか。…お姉ちゃんは将来の夢とかあるのかな?)」

再び「ふぁ。」と欠伸をし、明日香はゆっくりと朝を過ごすのであった。

 

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「それでね、そん時の香澄さんがでらかっこ良くて!」

「六花、分かったから。早く食べないと冷めちゃうよ?食べたかったんでしょ?」

興奮気味にPoppin`Partyの良さを語る六花の前には湯気が消えかけたパンケーキがあった。2人は会ってすぐに、喫茶店に来ていた。六花が「都会のパンケーキを食べたい!」と言った為だった。

「わわわっ!は、早く食べんと!」

六花はそう言うと、急いでフォークとナイフを持って、パンケーキを切り出した。

「ところで、六花。バンドは組めたの?」

順調にパンケーキを切っていた六花の手が止まり固まった。

「…まだ。…明日香ちゃん!やっぱり一緒にバンドやろっ!」

「…前にも言ったけど、勉強があるから…。ゴメンね。」

「そうだよね…。」

「ところで六花?パンケーキ冷めちゃうって。」

明日香が苦笑いを浮かべると、六花はまた慌てて、パンケーキを口にするのであった。1口食べては美味しいと目を輝かせ、あっという間に食べ終えてしまった。

「はぁ~!幸せ~!でら美味しかった~!」

六花は満足そうな表情を浮かべていた。

「六花?」

「なぁに?」

「六花って、将来の夢とかある?」

六花が食べ終わった事を明日香は確認し、質問をした。

「わ、私?う~ん。ギター…かな?」

「ギター?」

「ギターを仕事に出来たらなぁって。具体的な事は何も考えてないけど…。」

えへへ。と頭を掻きながら六花は言った。

「そっか…。」

「明日香ちゃん?急にどうしたの?」

「ううん。何でもないよ。気にしないで。」

明日香は氷が溶けかけたオレンジジュースをストローでグルグル回しながら言った。

「明日香ちゃんは将来の夢とかあるの?」

「朝、お母さんにも聞かれたんだけど、私も特になくて。とりあえず、良い大学だけは行きたいなぁって思ってるの。…大学で将来やりたいこと、見つかれば良いかなぁって。」

オレンジジュースを1口飲み、窓の外を明日香は見た。休日である為、家族連れ、カップルなど様々な人が歩いていた。

「(いつかは結婚も…するのかな?)」

漠然とした未来に何の想像も出来ない。

「なるほど…。それで私に将来の夢を聞いたんだね。」

六花が言うと、明日香は小さく頷いた。

「まぁ、まだ高校1年生が始まったばかりだし、あんまり考えてもしょうがないような気がする…。」

再び、明日香は外を眺めた。

「明日香ちゃんはしっかりしているから大丈夫だよ。」

「私って…しっかりしているかな?」

「う、うん。私から見る限りは…。」

「…そっか。」

明日香の中途半端な反応に、何か悪いことを言ってしまったのではないかと六花は焦った。そんな六花に気付かず、明日香は「(本当に…こんな将来が漠然としてて良いのかな?)」と考えていた。

 

─────────────────────

カフェを出た明日香と六花は当てもなく河原を歩いていた。要は散歩をしているのである。

「うーん!風が気持ちいい!」

「5月だもんね。はぁ。今からどんどん暑くなるのか…。」

「そうだよね。東京の夏はめたんこ暑いんだろうなぁ。」

はぁ~。とため息をつきながら六花は言った。

「岐阜って夏は涼しいの?」

「どうだろ?東京よりは涼しいかも?」

腕を組み、う~んと考えた六花だが、東京の夏をちゃんと体験していない六花には分かるはずのない事であった。

「あれ?」

その後も他愛ない会話を続けていたが、明日香が足を止めた。

「どうしたの?」

「桜が咲いてる。5月なのに?」

六花は明日香の視線を追うと、数十メートル前にピンクの花を沢山付けた木がポツンと1本だけ生えていた。

「あれは…。八重桜だね。普通の桜より咲くのが遅いんだよ。」

「そうなんだ。六花詳しいね。」

「た、たまたま知ってただけ…だよ。」

明日香が六花に言うと、六花は照れながら言った。ちなみに、八重桜は4月下旬~5月上旬まで咲き、その花の形から牡丹桜(ぼたんさくら)とも言われている。

「綺麗だね。」

明日香が八重桜を見ながら呟くように、目を細めながら言った。風に揺れた桜はヒラヒラと花びらを落として言った。

「明日香ちゃん?」

「ごめんね。何でだろ。桜が散っているの見てたらちょっと切なくなっちゃって。」

明日香は苦笑いをしながら言った。そして言ってから「(本当に何でだろ。)」と思っていた。

「六花。行こっか?って、本当にどこに行こうか?」

空気を入れ換えるように明日香は手を「パン!」と叩きながら言った。

「え?う、うん。本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。ごめんね。変な空気にしちゃって。」

「私は大丈夫。…えっと、何処に行くかだよね?商店街にとりあえず、行く?」

「うん。良いよ。」

六花の提案に明日香は頷きながら言う。2人はまた歩き出したが、明日香は何回か後ろを振り返り、風に揺れる淡いピンク色を確かめるように見ていた。

 

─────────────────────

「ねぇ!君達可愛いね!何してるの?良かったらご飯食べに行こうよ!奢るからさっ!良いでしょ?俺、友達も呼ぶからさ!」

商店街に到着した2人は本屋にでも行こうという事になり、向かっていた。その途中で声をかけられ、返事をしたらこれである。

「(はぁ。最悪。)」

明日香は睨んでみるも、男は見えてないのか、気付かないフリをしているのか、それともバカなのか、なり振り構わず、ずっと話しかけていた。

「え?えっと…。」

「気にする事ないよ。行こう。」

明日香は六花の手を取り、無視しようとしたがナンパをした男は諦めが悪かった。

「ちょっと。無視しないでよ。名前は?何歳?」

「朝日…六花です。」

「ちょっと!六花!?」

思わず答えてしまった六花に明日香は慌てて、止めようとしたが、時既に遅かった。

「へぇ。六花ちゃんって言うんだ。ねぇ。君は?なんて名前なの?てか、遊ぼうよ!絶対楽しいから!」

矢継ぎ早に飛ぶ質問に明日香は「(はぁ。よくこんなに舌が回るなぁ。無視して行こう。)」と思い、再び、六花の手を引き、男から逃げようとした。

「おい!無視するなよ!」

「きゃっ!」

明日香の態度が気にくわなかったのか、男は明日香の肩を掴んだ。まさかそこまでするとは思っていなかった明日香は小さく悲鳴をあげた。

「ちょっと!辞めて下さい!」

明日香は、自分の肩を持つ、男の手を払いのけながら叫んだ。

「うるさい!」

ナンパをした男は顔を赤くし、叫んだ。そして、右手を挙げた。

「(え?殴られるの?)」

明日香はそう思った瞬間、急に恐くなり、身体を強ばらせた。

「辞めろよ。おっさん。」

ナンパした男の後ろから、突然、別の男が現れ、殴ろうとしていた男の手を掴んだ。

「な、なんだよ!おめーは!」

突然現れた男にナンパしていた男は驚きながら叫んだ。

「ナンパは良くないなぁ。おっさん。俺は飛川素生(とびかわもとき)だ。おめーって呼ぶな!」

素生は叫びながら、自身の左手をグーにして、ナンパした男に殴りかかった。そこまでは良かった

「ぐはっ!」

しかし、素生の渾身の左ストレートはあっさりナンパした男に受け止められた。そして、あっさり顔を殴られ、素生は2メートルほど飛び、その場に倒れてしまった。

「…弱っ。」

「…え?」

ナンパした男は呆れたように呟き、明日香もあまりに早い退場に目を丸くしていた。しかし、素生の行動は無駄になることはなく、商店街にいた人々が騒ぎに気付き集まりだしていたのだった。

「…くそっ。」

流石に、しつこかったナンパした男も、沢山の人に見られている状態では退散するしかなかった。

「た、助かった…の?」

状況が把握しきれない六花は回りをキョロキョロとした。

「…みたいだね。あの人大丈夫かな?」

明日香は未だに伸びている素生を見ながら言った。

 

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その後、遊ぶ雰囲気ではなくなった明日香と六花は大人しくそれぞれの家に帰宅していた。

「あの人、大丈夫だったかな?」

ソファーに寝転び、スマホを操作していた明日香はふと思い出し、呟いた。

「名前…なんだっけ。言ってたけど…。」

ナンパをしてきた男に向かって叫んでいたが、明日香は思い出せないでいた。

「お礼も言えなかったなぁ。」

ナンパした男が舌打ちをし、立ち去った後、明日香と六花は殴られ伸びている、素生に近づき、身体を揺さぶり、起こそうとした。その甲斐もあり、素生は直ぐに起きたが、「大したこてない。ども。」と言い、凄い早さで何処かに行ってしまったのだった。

「てか、あの人…。不良…だよね?」

明日香は目を瞑り、容姿を思い出していた。辛うじて分かる、かなり着崩した学ランに、耳にはピアスをしており、髪の毛もツンツンに立てていた。

「やっぱり、不良…だよね?それも一昔前の。」

明日香はスマホの検索エンジンを開くと、不良の服装と打つのであった。

「やっぱりそうだ。…てか、普通、あの場面で助けに入ったなら、あのナンパしてきたあいつをやっつけるんじゃないの?なのに、逆にやられるって…。」

よくある漫画や小説の一場面である、主人公がヒロインをかっこ良く助ける姿を想像しながら、明日香は苦笑いするのであった。そんな事を考えていると、玄関の扉がガチャッと開き、廊下を物凄い音を響かせながら香澄が帰ってきた。

「あっちゃん!大丈夫!?」

「あっ。お姉ちゃん。おかえり。早かったね。」

「えっと…。今、はぐから聞いたんだけど、ナンパされたんだって!?大丈夫?怪我はない!?」

香澄はすぐに明日香に抱きつき、怪我の有無を確認する為、ペタペタと身体のあちこちを触った。

「お、お姉ちゃん!くすぐったいよ!大丈夫だよ。怪我なんかしてないよ。」

「そ、そう?はぁ~。良かった~。」

香澄はホッとした表情で言った。

「…心配してくれて…ありがとう。あのね。助けてくれた人がいたんだ。」

明日香はナンパされた詳しい経緯を香澄に話した。話を聞いた香澄はニヤニヤしていた。

「あっちゃんはその男性に恋しちゃったのかなぁ?」

「はぁ?何でそうなるの?」

「だって、助けて貰ったんでしょ?漫画とかならそうなるじゃん?」 

「はぁ。あり得ないし。」

明日香はため息をつきながら言った。香澄も本気で言った訳では無く「あはは。」と笑っていた。

「そうだ!あっちゃん!さーやからパン貰ったから、一緒に食べよ!」

香澄はカバンからやまぶきベーカリーと書かれている袋を取り出した。明日香は「うん。」と頷き、パンを受け取った。そして、朝からずっと気に掛けている事を香澄にも聞いた。

「ねぇ、お姉ちゃん。将来の夢とか…ある?」

「夢?うん!武道館!」

「武道館?」

「ポピパの皆でライブするの!」

ニコニコしながら高らかに言う香澄に、明日香は目を伏せた。自分の姉があまりにも眩しすぎて見えてしまったのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 




第3段の小説となります。
親から将来の事を聞かれ、漠然と不安になることってありますよね。
クールな明日香と不良の素生がこれからどのように絡んで行くのでしょうか。
乞うご期待!

感想&評価もよろしくお願いします。

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