明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第13話

明日香とさくらが歩き始めて20分後、明日香の自宅に到着した。さくらが通っている保育園はさくらの家からは遠く、明日香の家の方が近かった。なぜ送り迎えをする素生にとってこんな辺鄙な保育園にさくらが通っているのか明日香は考えてみたが、思いつかなかった。

「ただいま。」

明日香が中に入ると、見慣れたローファーが玄関にある事に気付いた。

「あっちゃーん!おかえ…り?」

「お姉ちゃん、ただいま。今日、早いね。」

日本の大体の家では玄関が一段低くなっている為、明日香は香澄を見上げながら言った。しかし、香澄の目線はかなり下がっていた。しかも、かなり不思議そうな、驚いているような、なんとも言えない表情をしていた。

「あっちゃん…。その子は?ま、ま、まさか…ゆ、誘拐…。」

「そんな訳ないでしょ!?」

香澄の発言に明日香は大声を出した。その瞬間、さくらはビクッと身体を震わせた。

「あ!さ、さくらちゃんごめんね?」

「び、ビックリしたけど大丈夫…。明日香お姉ちゃん、このお姉ちゃん…誰?」

さくらは明日香の足を掴むと、スッと明日香の後ろに隠れた。

「あっ。そうだよね。前に私にお姉ちゃんが居るって話をしたの覚えてる?」

「うん…。じゃあ、このお姉ちゃんが?」

「そうだよ。私のお姉ちゃんだよ。」

「お姉ちゃんのお姉ちゃん?」

「そうだね。香澄って言うんだよ。」

明日香がさくらに目線を合わせ、さくらの頭を撫でながら説明すると、さくらは香澄の方をジーッと見つめた。

「香澄…お姉ちゃん?」

さくらは首を傾げながら言った。

「お姉ちゃん。さくらちゃんに挨拶してよ。お姉ちゃん?」

「可愛いー!」

今まで、俯いたまま黙っていた香澄だったが、突然叫んだと思うと、さくらを引き寄せ、ギュッと抱き締めた。

「さくらちゃん。こんにちは!あっちゃんのお姉ちゃんの香澄だよ!よろしくね!」

香澄の持ち前のコミュニケーション力が発揮され、一気にさくらの距離を縮めにかかった。しかし、さくらはと言うと、突然抱き寄せられるという普段あまりない経験に驚いたように固まってしまった。

「お姉ちゃん。さくらちゃん、ビックリしてるよ?」

「え?う、嘘っ。」

香澄はパッと手を離すと、さくらはピューと逃げ、再び、明日香の後ろに隠れてしまった。

「…お姉ちゃん?」

「ご、ごめんね?」

「この子、さくらちゃんって言うんだけど、飛川さんの妹だよ?」

「へ!?…あっ。そう言えば、小さい妹がいるって言ってたような?」

香澄は腕を組むと「う~ん」と考えながら言った。そんな香澄をさくらは怯えたように見ていたのだった。

 

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すっかり香澄に怯えてしまったさくら。明日香にべったり…とはならなかった。

「香澄お姉ちゃん!」

「さくらちゃんな~に?」

「はぁ~。」

あの怯えた姿は何だったのか。そう聞きたくなるくらい、さくらはあっという間に懐いていた。香澄がコミュニケーション力が高い事は明日香も重々承知していたが、まさか自分に怯えてしまった子供の心を開かすとまでは思わなかった。

「…面白くない。」

明日香は2人に聞こえないように呟いた。その間にも香澄とさくらの会話が続いていた。

「香澄お姉ちゃんは明日香お姉ちゃんのお姉ちゃんなんだよね?」

「うん!そうだよ!」

「香澄お姉ちゃんの方が妹みたい!」

時々、子供は悪気がなく真実を言って仕舞いがちだが、今のさくらもそうだった。いつもなら「え~?」と誤魔化す香澄だったが、この時は苦笑いを浮かべる事しか出来なかった。

「さくらちゃん。何して遊ぶ?って言っても本当に遊ぶ物は何もないんだよね。」

明日香は苦笑いをする香澄を無視し、さくらの目線に合わせながら言った。

「う~ん。あっ!さくら、またお勉強がしたいっ!」

「お勉強?良いよ!じゃあ、私のお部屋に行こう?」

さくらの提案に明日香は微笑むと、手を広げた。それを見たさくら一目散に明日香の胸に飛び込んだ。

「べ、勉強するの!?」

「香澄お姉ちゃんは勉強しないの?」

驚くように言った香澄にさくらは首を傾げながら不思議そうな表情を浮かべた。

「え~と…。す、するよ?」

「なら、香澄お姉ちゃんも一緒にお勉強しよっ!」

さくらはそう言いながら香澄の手を引っ張ると香澄は眉を八の字に下げ、苦笑いを浮かべながらさくらに着いて行くのであった。

「お姉ちゃん大丈夫?さくらちゃんに教わらないようにね?」

「それは無いよ!…多分。」

明日香の言葉に香澄は再び、苦笑いを浮かべた。

「香澄お姉ちゃんはお勉強苦手なの?」

「そ、そんな事ないよ!さくらちゃん!私に任せて!」

香澄は苦笑いのまま胸を張った。

「あはは!勉強が苦手なのはお兄ちゃんと一緒だ!」

そんな香澄を見てさくらは笑うと香澄も明日香も顔を見合わせ「あはは!」と笑うのであった。

 

─────────────────────

「いや、マジで助かったよ。」

「良いよ~もっくん!気にしないで!」

バイトが終わった素生はさくらを迎えに戸山家まで来ていた。素生は時間も時間であった為、すぐにお邪魔する予定だった。

「…暗くなりますよ?帰らないんですか?」

「え?いや。帰るつもりだったけど…。」

「もぅ!あっちゃん!良いじゃん!私が上がってって言ったんだから!」

香澄はそう言うと、素生の腕を持ち、ギュッと抱きついていた。今の流れで分かったかも知れないが、すぐにさくらと帰ろうとした素生を香澄が無理矢理、家に上げたのであった。

「お、お姉ちゃん!?だ、抱きつかないでよ!抱きつくのが好きなのは知っているけど、お、男の人に抱きつくなんて!」

明日香は香澄に注意しながら素生を見ると、素生はニヤニヤと笑いながら鼻を伸ばしていた。

「…最っ低。」

素生の表情を見た明日香は思いっ切り嫌悪感を顔に出し、呟くように言った。

「あ、あっちゃん?どうしたの?」

「お姉ちゃんはもっと危機感を覚えて!そして、飛川さん!…最低っ!変態!」

「ちょっと!俺、ただ悪口言われただけじゃん!」

明日香の怒鳴り声がリビングに響く。そんな怒鳴り声をさくらの前で上げた為、さくらを驚かせたかもしれないと明日香は思い、さくらの方をパッと向いた。しかし、さくらはソファーにちょこんと座ったまま明日香の方をジッと見ていた。

「さくらちゃん?」

「明日香お姉ちゃん!怒ったらメッ!だよ!」

「へ?」

「怒ったらメッ!」

さくらは驚いてビクビクはしていなかったが、変わりに、頬をプクッと膨らませて明日香を指し、怒っていた。

「え、えっと…。ご、ごめんなさい。」

さくらにこんな事を言われては明日香も折れるしかなく、さくらの目線に合わせて屈むと頭を垂れた。

「あはは!明日香ちゃんもさくらには敵わないか!」

ガックリしている明日香が面白かったのか素生が笑いながら言うと、明日香はキッと素生を睨んだ。そして、睨んだ際にまだ香澄が素生の腕に絡みついているのに気付き、眉間の皺を濃くさせるのであった。

 

─────────────────────

例の如く「嫌!帰りたくない」と号泣するさくらをなんとか説得して素生とさくらは帰宅して行った。それから2時間後、戸山家ではまだ明日香の怒りが収まっていなかった。

「あっちゃん。いつまで怒ってるの?」

「お姉ちゃんがあんな事するからじゃん!それにあいつ鼻の下なんか伸ばして。」

明日香はさっきの光景を思い出し、またイラッとしていた。

「あっちゃん、落ち着いてって。」

「落ち着いてられないよ!大体、お姉ちゃんはなんであの変態の腕に抱きついてたの!?お姉ちゃん、スタイル良いんだからむ、胸があの変態の腕に当たるに決まってるじゃん!」

「そっか!それでもっくんデレデレしてたんだ。」

「はぁ!?気付いてなかったの!?」

明日香は力の限り怒鳴り声を上げるが、怒られている香澄は1人「そっか。」と納得している様子だった。

「はぁ。お姉ちゃん、あの変態がなんで嬉しそうだったか気付いてなかったの?」

「うん!全然!もっくんが好きなのはあっちゃんなのに、なんで私が抱きついて嬉しそうなんだろうって思ってた。でも、お陰で分かったよ!ありがとう!」

香澄はあははと笑いながら言った。明日香は本気で怒っていたが、香澄の態度にだんだんと毒素が抜かれていく不思議な感覚に陥っていた。

「はぁ。なんか疲れた…。てか、お姉ちゃんはなんであの変態の腕に抱きついたの?」

「え?好きだから…かな?」

ほんの今まで、ニコニコと喋っていた香澄だったが、「好き」と言う言葉を発した瞬間、頬をパッと紅色させていた。

「はぁ。あんな変態の何処が良いんだか。」

明日香はため息をつくと、立ち上がった。

「あっちゃん?どうしたの?」

「牛乳飲むけど、いる?」

「いるー!」

香澄の返事を聞いた明日香は台所に向かい、冷蔵庫から牛乳を取り出し、カップに注いだ。

「ねぇ!あっちゃん!」

「何?」

「あっちゃんも、もっくんの事、好きなんでしょ?」

「はぁ!?」

香澄の発言に明日香は顔を上げ、眉間に再び皺を寄せた。牛乳をカップに注いだまま…。

「あ、あっちゃん!牛乳!」

「へ?…あっ!」

時既に遅し。カップからは大量の牛乳が溢れ出していた。

「あっちゃん大丈夫!?」

香澄が慌てて、台拭きと雑巾を持って、台所に走って向かった。

「だ、大丈夫。てか、お姉ちゃんが変な事言うからじゃん!」

香澄から雑巾を受け取ると、明日香は屈み、床に零れた牛乳を拭き始めた。

「え?もっくんの事好きじゃないの?」

「そんな訳無いじゃん!」

「だったら、あっちゃんはなんで怒ってるの?」

「それは…。お、お姉ちゃんが急に抱きついたからだよ!は、はしたないって思ったからだよ!」

香澄からの質問に、焦りながら明日香は言葉にした。しかし、明日香の答えに香澄はニヤリと笑うと

「怒った理由は…それだけ?」

と言った。

「へ?」

「私の記憶が正しかったらだけど、あっちゃん、始めはもっくんに怒っていたよね?私じゃなくて。」

「そ、そんな事…ない。」

「あるよ~。ねぇ。あっちゃん?なんでもっくんに怒ったの?」

ニヤリと笑みを零しながら、明日香に質問を繰り返す。ちなみにだが、2人とも喋りながらも零れた牛乳をテキパキと拭いていた。

「そ、そ、それは…。だ、だらしない顔をしてた…からで…。」

「なるほどねぇ~?」

「もう!お姉ちゃん何が言いたいの!?はっきり言ってよ!」

ニヤニヤ笑いながら、質問と言うより尋問を繰り返す香澄に明日香は怒りながら言った。しかし、この言葉を発した直後に「しまった」と心の中で思った。明日香は次に放たれる香澄の言葉が分かってしまったからだった。

「あっちゃん。本当は私が抱きついて嫉妬してたんじゃない?てか、普通、嫌いな人にあんなに怒らないよね?」

明日香が思ってた通りの言葉が香澄の口から飛び出した。それを受けた明日香は何も発言できずに、口をパクパクと動かすだけだった。

「あっちゃん?どうしたのかな?もっくんが私にデレデレしてたから怒ったのかな?」

相変わらずニヤニヤと迫ってくる香澄に明日香は「お姉ちゃんのバカ!」と叫び、自分の部屋に向かって走り出した。

「あっ!あっちゃんが逃げた。うわっ!」

香澄が明日香を追う為に振り返ると牛乳がなみなみと入ったカップに手が当たってしまった。そのままカップは重力に逆らう事もなく、パタンと倒れ、台所は大惨事になってしまった。

 

─────────────────────

牛乳を香澄が零した結果、逃げ切る事が出来た明日香は疲れきり、そのまま寝てしまっていた。しかし…。

「あれ?ここは…。」

明日香は久しぶりにあの桜の夢を見た。しかし、夢とは分かっていてもあまりの出来事に驚きを隠せずにいた。いや、夢なのだから隠す必要もないのだが…。

「なんで、私…。あの桜の枝に座ってるの?」

今まで見てきた桜の夢はまず、靄がかかった何もない場所から桜を探すところから始まっていた。しかし、いきなり桜を見れ、しかも触れる事も出来なかった桜にいきなり座っているのだから驚くのも無理はない。

「えっと…。なんで?」

明日香は戸惑いながらも、高いところから見る景色に心地よさを感じていた。

「う~ん。細かいことはいっか。夢なんだし。それにしても、なんか気持ちいいなぁ。…そう言えば、桜の周りは靄が無いんだなぁ。」

明日香はそう呟くと目を細めた。

「なんか…。桜の夢って悪い夢ばかりだったけど…。やっと良い夢が見れたなぁ。…ってまだ良い夢って決まった訳じゃないか。」

苦笑いしながら明日香は今までの夢を思い出していた。穴に落ちたり、靄に包まれたり、散々な目にしかあっていない。

「例えば…。この枝が折れたりとか。」

明日香は自分が座ってる枝を擦った。しかし、座っている枝はかなり太く、しっかりしている為、折れる気配は全く無かった。

「まぁ、気にしてもしょうが無いよね。…私の見てた桜ってこんなに大きかったんだ。…ふぁ~。眠たくなって来ちゃった。」

夢なのに眠たくなる状況に可笑しくなりながらも明日香は静かに目を閉じた。この夢の世界に太陽はないが、不思議と太陽に照らされているようなポカポカとした暖かさが包み、明日香は安心しきった表情を浮かべながら夢を終えていった。

 




やっと更新出来ました。
気付けば物語は中盤を超えつつあり、クライマックスに進みつつあります。
前の物語も忘れてるかもしれないくらい更新期間が空いてしまった事を謝罪します。
更新ペースを上げたい…。
とりあえず、この小説に深く関わっている「桜」が散るまでには終われば良いなぁ~と思っています。

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