明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第15話

深夜2時ともなれば辺りは真っ暗になり、ほとんどの人が眠りについている頃である。そんな中、明日香はと言うと、バッチリ起きていた。

「…寝れない。」

身体や精神的には疲弊しているはずだったが、頭の中は妙にスッキリしており、目もバッチリ開いていた。

「…寝なきゃ…。」

そう呟き、目を閉じてみる。しかし、目を閉じると、パッと素生の顔が浮かんできて、明日香はすぐに目を開くのであった。

「…これが、恋…なんだ…。」

素生の事を考えると心臓が高鳴る。身体が熱くなる。呼吸も早くなる。まさかこんな事になるなんて、素生の事が大嫌いだった頃の自分が聞いたらどう思うだろうか。

「…ふふっ。」

そんな事を考えていると、明日香は自然とニヤけてしまうのであった。しかし、翌日も普通に学校がある日であった為、いつまでもニヤけている訳にもいかず、目を改めて閉じて、無理矢理、寝ようとしていた。

「…ん?…何の音?」

深夜の静寂でなければ、絶対に聞こえないくらい小さな声みたいなものが明日香の耳に届いた。

「…本当に…何の音?…いや、声かな?」

もし声だとするならば、聞こえてくる可能性が高いのは横の部屋の香澄だろう。そう判断した明日香は身体を起こし、壁に耳を当てた。

「…ぐす。」

「え?お姉ちゃん?」

明日香は声の正体が香澄の泣き声だと気付くと、すぐにベットから降りて、香澄の部屋に小走りで向かった。

「お姉ちゃん。入るよ?」

部屋の前まで来た明日香は香澄の部屋から灯りが漏れているのを確認すると、慌てていたが、深夜という事を思い出し、なるべく小さな声で言い、ドアを開けた。

「あっちゃん?…どう…したの?…っ。明日学校だよ?早く寝なきゃ?」

「学校なのはお姉ちゃんもでしょ?そ、それよりどうしたの?」

明日香がベットに座っている香澄を見ると、香澄は膝に中学生の頃の卒業アルバムを置いており、涙を一生懸命、抑えている状況であった。

「な、なんでもないよ?…寝れなかっただけ…だよ?」

「泣いてるのが聞こえて、慌てて飛んで来たんだよ?なんでもないのに泣くの?」

明日香は香澄の部屋に入り、ドアを閉めた。

「それは…。聞こえちゃった…んだね。ごめんね?起こしちゃった?」

「ううん。私もたまたま寝れなかったから。」

明日香はそう言うと、俯きながら「そっか」と呟く香澄の横に座った。そして、香澄をギュッと抱き寄せた。

「…あっちゃん?」

「…いつものお返し…だよ。話してくれる?」

明日香は声を震わしながら言った。香澄を安心させる為、抱き寄せたが、手も小さく震えていた。

「あっちゃん?どうしたの?…寒い?…冷房、切ろうか?」

香澄は鼻声で、眉を八の字にしながら言うと、明日香は首を振った。

「違う。寒いんじゃない…。お姉ちゃんのそんな弱々しい姿を見てると…。前に喧嘩した事を思い出しちゃって…。」

明日香は香澄を抱き寄せている手に強く力を加えるた。

「…っ。そうだよね…。ごめんね。」

「だ、大丈夫…。それで…さ。なんで泣いてるの?」

「…あっちゃん…。結局、もっくんの事は好き…なの?」

明日香の質問に香澄は質問で返した。そんなやり取りに、明日香は一瞬、返答に詰まるも、小さく「うん。」と答えた。

「やっと…。認めた…。認め…ちゃった…。」

一瞬、笑顔を作った香澄だったが、言い終わる頃にはダムが決壊したように涙が溢れ出ていた。

「あれ…。なんでっ…。涙が…と、止まらない…。嬉しい…のに…。」

止め処なく流れる涙に香澄はなんとか言葉にした。

「お姉ちゃん…。」

「あっちゃん…。私…。失恋…しちゃった。なんかの雑誌で…みたけど…初恋って、叶わないんだね…。」

明日香の胸に顔を埋めながら弱々しく話す香澄に明日香はどんな言葉をかけたら良いか分からなかった。好きな気持ちに気付き、浮かれていた自分を殴りたい気分になっていた。

 

─────────────────────

それからしばらくして、香澄は顔をあげた。目は真っ赤になり、人相が変わるくらい腫れてしまっていた。

「あっちゃん。ごめんね?」

「ううん。お姉ちゃんは何も悪くないよ。」

ひとしきり泣いて、落ち着いたのか、香澄は苦笑いを浮かべた。

「はぁ。あっちゃんがもっくんの事、好きになったのなら、私は敵いっこないね。…ねぇ。あっちゃん。いつからもっくんの事が好きって気付いたの?」

「さっき…だよ。飛川さんの事、嫌いって言ったら、胸が締め付けられたように苦しくて…。嫌いって嘘でも言えないって事は好きなんだなぁって。」

明日香は頬を赤く染めながら言った。改めて、自分の気持ちを言葉にすると、恥ずかしくて仕方がなかった。

「そっか…。告白はするの?」

「こ、こここ、告白!?む、無理に決まってんじゃん!」

明日香は目を見開きながら言った。素生の事を想像しただけで恥ずかしくなるのに、告白なんて夢のまた夢のように感じていた。

「あはは…。はぁ~。」

「お姉ちゃん…。大丈夫?」

「私は大丈夫。…大丈夫だから。だから、あっちゃんは私の事は気にしないでね?失恋で凹んでるだけ…だから。」

香澄はニコッと笑うも、軽く突いただけで壊れそうなくらい、とても弱々しいものだった。

「また…。太陽が隠れちゃった…な。」

明日香が本当に小さく呟いた。あまりに小さい声だった為、香澄は「ん?」と聞き返したが、明日香は慌てて「なんでもない!」と言った。

「変なあっちゃん。…あっちゃんが好きって気付いたのってあの桜の夢のお陰だね。」

「そうなるのかな?…桜の夢…。あっ。」

「どうしたの?いきなり驚いた顔してるけど…。」

香澄とは対照的に柔やかな表情で喋っていた明日香だったが、急に目を見開いた。

「桜の夢…。私が最初に見た…。桜の夢って…。」

「最初に見た夢?なんだっけ?」

香澄は思い出してみたが、日にちが経っていた為、思い出すことが出来なかった。

「私ね。最初に、色の薄い桜の夢を見てたんだよね。色の薄い桜の夢占いって、好奇心が低下していて、されるがまま、世間に流されているらしいの。しかも、昨日見た桜も色が薄かったの。」

明日香は言い終わると、両手で顔を覆った。

「あぁ。そうだったね。…えっと、それで?」

香澄は明日香の言葉を聞いて、思い出したが、明日香が何を言いたいか理解まではしていなかった。

「…えっとね。私も、お姉ちゃんとか、最近見た桜に登る夢とかに…流されて、飛川さんの事を好きになっちゃってるだけなんじゃないかと…。」

先程まで、香澄を励ます方だった明日香だったが、今はすっかり、落ち込んでしまっていた。

「え、えっと…。桜の夢の事は分からない…けど…。」

あたふたしながら香澄は言うが、上手く言葉が出て来なかった。

「大丈夫…。ゆっくり考えて…みるから。」

明日香は「はぁ。」とため息をつきながら言った。

「そ、そう?なら…良いけど…。」

「うん…。えっと…。ゴメンね。お姉ちゃん。暗くしちゃって。」

「ううん。あっちゃん、気にしないで?さて!学校もあるし、早く寝よ?今…何…時…。」

香澄の言葉が途切れ途切れになった。

「お姉ちゃん?どう…した…の…。」

明日香は香澄の方を向いた時に気付いてしまった。カーテンの隙間から太陽の光が漏れており、雀が元気よく「ちゅんちゅん」と鳴いていた。

「お姉ちゃん…。どうしよう…。」

「…どうしよっか?」

香澄と明日香は苦笑いしながら言った。しかし、明日香の見えない位置にあった香澄の右手はギュッと握り拳を作っており、プルプルと震えていた。

 

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「おはよう…。」

制服に袖を通した2人はノソノソとリビングに降りていた。

「おはよう。」

いつものように朝食を作っていた母親は挨拶を返した後、2人の表情をマジマジと見ると小さく「はぁ。」とため息をついた。

「2人とも。明日はちゃんと学校に行くのよ?」

「…へ?」

母親の発言に2人ともポカンとしていると、母親はそれぞれの高校に欠席の電話をしていた。

「え、えっと…お母さん?」

「2人とも夜遅くって言うか、明け方までお喋りしてたでしょ?ダラダラ喋ってただけなら学校に行かすつもりだったけど、違うみたいだから今日は休みなさい。」

「なんで分かるの!?」

香澄は驚いたように言うと、母親は「顔」と一言で返した。明日香と香澄は顔を見合わすと、「はぁ。」と安心したように息を吐くと、リビングの椅子にゆっくりと身を預けるように座った。

「そうそう。あえて聞かなかったんだけど、最近、何があったの?大事な娘の事だから気にしてるのよ?」

流石は2人の母親である。最近の変化は全てお見通しであった。隠しているつもりはなかったが、まさかここまで母親が理解しているとは思ってなかった2人は苦笑いを浮かべた。

「まぁ、すぐにとは言わないから、話せる時に教えてね?」

母親はそう言うと、またせっせと朝ご飯を作り始めていた。完全に緊張の糸が切れた2人なリビングに顔を伏せると、そのまま静かに寝息を立て始めた。

「2人とも?ご飯、出来た…あらあら。」

母親は2人が仲良く寝ているのに気付くと、スマホを取り出して、パシャリと写真を撮るのであった。

「2人が何に悩んでいるかまでは分からないわよ?でも、2人が成長する為に悩んでいる事を願うわ。」

2人の寝顔を改めて見つつ、母親は微笑みながら小さく呟いた。そして、両手を広げると、2人の頭を優しく撫でるのであった。

 

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「…ん?」

明日香は目を覚ました。近くにあったスマホの電源を直ぐにONにし、時間を確認する。

「10時…。結局3時間寝たのか…。」

明日香は身体を伸ばしながら言うと、「ふぁ~。」と欠伸をした。机に伏せたまでは覚えているのだが、いつの間にか移動したのか、目覚めた時はソファーの上だった。チラッと横を見ると香澄はまだ寝息を立てていた。

「…はぁ。私は…本当に、飛川さんの事が好きなのかな?」

昨日の夜の確信はなんだったのかと聞きたくなるくらい、明日香の心は激しく揺れていた。

「あっちゃん?」

明日香が起きた物音で目を覚ましてしまったのか、香澄が寝転んだまま明日香に声をかけた。

「あっ。ごめん。起こしちゃった?」

「ううん。大丈夫…。」

香澄はそう言うと身体をうんと伸ばした。流石は姉妹と言ったところか、身体を伸ばした時の体勢はソックリだった。

「お姉ちゃんは、飛川さんを好きになったきっかけって何かあるの?」

「きっかけ?う~ん。これって言ったのはないよ?ただ、クラス替えで、始めて喋ってた時に、キラキラドキドキしたの。」

「…だから、私はそのキラキラドキドキが分からないんだって。」

明日香が苦笑いをしていると、香澄は首を傾げ「おかしいなぁ。」と呟いた。

「ねぇ?あっちゃん?」

「なに?」

「お腹…空かない?」

朝ご飯を眠ってしまった為、食べ損ねたので、香澄は空腹感を覚えていた。2人がチラッとテーブルを見るとラップが掛かった朝食が置いてあるのを発見した。

「私、食べるけど、あっちゃんはどうする?」

「…私、食欲ない。」

明日香はそう言うと、スマホを取り出した。そんな明日香を横目に、香澄は立ち上がると、リビングのテーブルに腰掛けた。

 

─────────────────────

「…お姉ちゃん。私ってさ。どんな性格なんだろ?」

香澄が朝食を食べ終わるのを待っていたかのように明日香は口を開いた。

「あっちゃんの性格?優しくて、しっかりしてて、可愛い!」

「…最後のは置いといて、私って優しいかな?しっかりしてるのかな?」

「急にどうしたの?…あれ?あっちゃん似たような事を前から言ってなかった?」

香澄は顎に指を置き、思い出すように言った。

「…そうだね。私、ずっと同じ事を悩んでるんだね。…昨日、改めて思ったんだけど、夜にさ、お姉ちゃんから飛川さんの事、好きってリビングで聞かれた時に、嫌いって答えたじゃん?」

「うん。」

「あの時、私って、素直じゃなくて、皆に迷惑かけてるって思ったの。私は人からクールとかしっかりしてるとか言われるんだけど、全然そんな風に私は思わなくて…。私ってどんな性格なんだろうね。」

「あっちゃん?」

「自分の事が分からないのに、将来の夢なんて見つかる訳ないよ…。」

明日香は目からポロポロと涙をソファーに落としていった。

「あっちゃん…。本当にどうしちゃったの?」

「桜の夢のように私ってずっと世間に流されて生きて行くのかな?」

「あっちゃんは優しいよ?私が泣いてるのに気づいて部屋まで来てくれたんでしょ?それって優しくないと、来ないよ。」

香澄が口を開くと明日香は「たまたまだよ。」と言った。

「さくらちゃんを保育園に迎えに行ったのだってそうだよ。あれもさくらちゃんが心配だったからでしょ?」

また香澄が口を開くが明日香は「気分が乗っただけ。」と答えた。

「あっちゃん…。」

「はぁ。私って…どうなるんだろ…。」

「いい加減にしてっ!」

明日香がソファーに横に倒れるように横になると、頭上から香澄の怒号が響いた。香澄の声はリビングに木霊し、家が揺れるような錯覚を明日香は感じていた。

 

 




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