翌日、2日連続休む訳にはいかないと、きちんと寝て、明日香は登校していた。午前中の授業が終わり、いつものように六花と昼食をとっていた。
「明日香ちゃん。…体調悪いの?」
「へ?朝、言ったじゃん。昨日、休んだのは体調不良じゃないよって。」
明日香はそう言うも、六花は腑に落ちない様子で、首を傾げながら弁当の蓋を開けた。
「六花?何か言いたい事があるの?」
「…えっと…。」
「はっきり言いなよ。」
明日香の言葉に目を明らかに逸らしながら戸惑う六花。六花の言いたい事が分からず、明日香は首を傾げた。
「あ、あのね…。なんで、そんなに機嫌がいいの?」
「え?」
「だから、なんで機嫌がいいの?ずっとニヤニヤしてるよ?授業中もニヤニヤしてて…気持ち悪い…。」
「六花!?」
「ひっ!」
「あっ…。ごめん…。大声出しちゃった。」
明日香はそう言いながら、買ってきたジュースのパックにストローを刺した。ニヤニヤしていると言われ、頬を密かに動かし、普通の顔に戻るように意識していた。
「それで…。なんで、機嫌がいいの?」
「…飛川さんと付き合うことになったから…。」
「そっか。飛川さんと…って…えぇっ!」
六花は食べようとしていた唐揚げをポロッと落とすと、立ち上がり、叫び声をあげた。
「ち、ちょっと!六花!?驚き過ぎだよ!」
「驚くよ!だって、大嫌いって言ってたよね!?」
「あ、あの時は…嫌い…だっただけで…。」
「いつ、好きって気づいたの?」
「えっと…。一昨日…かな?いや…。」
「どうしたの?」
六花の質問に明日香は考え込んでしまった。はたして、自分はいつから好きだったのか。本当に一昨日、考えこんだ時なのか。
「えっとね…。かなり前から…す、好きだったかも…?」
「え?だって、大嫌いって…。」
「う、うん。そう言ったけど…。よくよく考えたら…。」
明日香は言葉を切ると、両手で顔を覆った。明日香の様子に六花は泣き出したと慌てたが、明日香の耳が真っ赤な事に気づき、照れているだけと思い直していた。
「それで、いつから好きなの?」
「多分…。ちょっと前に、飛川さんに好きって言われてから…かも…?」
「そうなの!?」
「もぅ、わかんない!」
明日香はそう言うと、下を向いた。しかし、表情はニヤけており、かなりだらしなくなっていた。
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一方、その頃香澄は、ベットに横になっていた。明日香は元気よく、学校に向かったが姉である香澄は、とても学校に行く気になれず、休んでしまっていた。
「…みんな心配してくれてるなぁ。」
香澄はPoppin`Partyのメンバーから届いていたLINEをスクロールしながら読むと小さく、ため息をついた。
「…それにしても…。みんな、驚き過ぎだよ。」
香澄は「大丈夫?」と言うLINEに対して「好きな人にフラれた。明日は行く。」と返信していた。そして、既読が付いたかと思うと、一斉に「はぁぁぁ!?」や「嘘!?」や「あの香澄が!?」と反応が返ってきたのだった。
「私が恋してたのって、そんなに意外なのかな?そう言えば、あっちゃんも驚いてたっけ…。」
香澄はまた小さくため息をつくと身体を起こした。
「あっちゃん…。もっくんとどうなったんだろ。昨日は、聞けなかったからなぁ。」
香澄は昨日の夜、明日香を起こし、自分の部屋に戻って、ベットにダイブし、一頻り泣くとそのまま眠ってしまったのである。なので、明日香と話せずにいた。
「…早く、帰って来ないかな。気になる…。」
香澄はそう呟くと、自分の相棒とも呼べるランダムスターを手に取った。適当にコードを押さえ、ジャカジャカと鳴らしていた。
「…ちょっと鈍っちゃったかな?色々あって弾いてない日も多かったもんなぁ。」
香澄は弾きながら、違和感を覚えていたが、その違和感も、15分も弾けばすっかり無くなっていた。
「はぁ。もっくんの事もこの違和感と同じくらいスッキリすれば良いのに。」
アンプに繋いでいないエレキギターの音はとても貧相に聞こえるが、今の香澄にとっては、丁度良い音の大きさなように感じていた。
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「…お兄ちゃん?」
「どうした?さくら?」
「学校…お休みにして…ごめんなさい。」
「大丈夫だって!気にせず寝てなって。お兄ちゃんが傍にいるから。」
素生はそう言うと、布団に入っているさくらの頭を撫でた。額には冷却シートが貼ってあり、さくらの顔も桜色を通り越して、赤くなっていた。ここまで書けば分かると思うが、さくらは熱を出してしまっていた。
「…お兄ちゃん?」
「どうした?」
「…ニヤニヤしてて、気持ち悪い…。」
「さくら!?ニヤニヤなんてしてないぞ?」
「してるもん。」
ぷくっと頬を膨らませながらさくらは言った。その頬はとても柔らかそうであり、熱のせいで、赤くなっているのも相まって、素生は「あっ。桜餅、食べたくなってきた。」と思っていた。
「お兄ちゃん!何かいい事があったの?」
「まぁ…うん。さくら落ち着いて?寝ようよ。」
「眠くないもん。」
さくらの性格は優しくもあるのだが、誰に似たのか分からない程、頑固である。1度言い出すと納得するまで言うことを聞かない。いい所でもあるのだが、悪い所でもあり、素生や母親を困らせていた。
「…はぁ。明日香ちゃんが彼女になったよ。」
「…ホントに!?」
子供は熱があっても、ぐったりしている事は少なく、本当に熱があるの?と聞きたくなるくらい元気に遊んでいたりする。逆にぐったりしていると、物凄く熱が高かったりする。さくらもその例に漏れず、満面の笑みで布団をめくり、ガバッと起きていた。
「さくら。寝なさい。」
素生はさくらの肩を掴むと、ゆっくりと布団に戻した。
「ねぇ!本当に!?本当に明日香お姉ちゃんが彼女になったの!?いつおうちに来てくれるの!?」
「だから落ち着きなって!さくらのお熱が下がらないと来てくれないよ。」
「さくら、大人しく寝る!」
さくらは布団を頭まで被ると、そのまま微動だにしなくなった。
「やっと…。大人しくなった…。」
素生はそう呟くと、スマホを開いた。すると、明日香からLINEが届いている事に気づき、タップした。
“ 今日、バイトですか?素生さんが良かったら会えませんか?”
素生は文章を読むとニヤニヤと笑っていた。
「素生さんだって。本当に彼女になってくれたんだなぁ…。」
素生は明日香に会いたくて仕方が無かった。しかし、さくらの体調が悪い為、もちろんそれは出来ない。
「まぁ…。またいつでも会えるしね。」
素生はそう呟くと、文章を作成した。
「えっと。会いたいけど、さくらが熱を出して看病しているから、また今度ねっと。」
素生は誤字がないか確認すると、明日香に返信をした。そして、さくらの横に寝っ転がると、素生も静かな寝息を立てていた。
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「明日香お姉ちゃん!ありがとう!」
「ううん!さくらちゃん元気そうで良かったよ!」
明日香は寝たままのさくらの頭を撫でた。嬉しそうにさくらは笑いながら、明日香の手を気持ちよさそうに受け入れていた。
「明日香ちゃん。ありがとうね。でも、本当に来なくても良かったんだよ?さくらの熱が移ったら大変だからさ。」
「いえ。大丈夫です。さくらちゃんが心配だったので。」
「そっか。放課後にわざわざ寄ってくれてありがとうね。」
素生はそう言うと、手で目を擦った。さくらが寝た事を確認した素生はうたた寝をしていたが、インターホンに起こされていた。始めは起こされた事に苛立ちを覚えたが、来訪者が明日香と分かると、大歓迎で受け入れたのである。
「明日香ちゃん。昨日はその…ありがとう。」
「い、いえ…。あ、あの。私…本当に素生さんの彼女になったんですよね?」
「そうだよ。どうしたの?」
「なんか…。現実味がなくて…。」
明日香はそう言いながら目線を左下に向けた。心臓は暴れ回り、手足も痺れ、まるで自分の身体ではない感覚に陥っていた。
「明日香お姉ちゃんもお兄ちゃんも顔、真っ赤だよ!」
2人の間に挟まれて寝ているさくらは無邪気にキャッキャッはしゃぎながら言った。さくらにそう言われ、明日香はますます顔を赤くした。
「…好かれているみたいで嬉しいよ。」
「…好き…です。」
今まで、明日香から塩対応しか受けていなかった素生にとって、しおらしい明日香の態度は破壊力抜群であり、叫びそうになるのをなんとか堪えていた。
「俺の彼女が可愛すぎる。」
「か、か、可愛くなんかないです…。」
「いや…。可愛い…よ?」
「そう言えば…。素生さんは…私のどこが良くて好きになったんですか?」
明日香は恥ずかしさからモジモジしながら言った。ちなみに、この僅かな間にさくらは寝てしまった。さっきまでテンション高かったのにと素生は思っていた。
「昨日…。お姉さんにも聞かれたんだ…。恥ずかしいなぁ…。」
「聞きたい…です。」
「笑顔だよ。」
「笑顔?」
「明日香ちゃんの笑顔が本当に素敵で…。まぁ、俺にはなかなか見せてくれなかったからさ…。余計に見たくなって…。好きになってた。」
好きな人の好きな所を言うのは本当に恥ずかしい事であり、素生はどうして良いか分からなくなり、俯いていた。
「素生さん。」
そんな素生に、明日香は声をかけた。素生が「なに?」と言い、顔をあげ、明日香の方を見ると、明日香は頬は赤いままでニコッと微笑んでいた。その微笑みはまさに、素生が惚れた笑顔であり、初めて自分に向けられた微笑みに、素生はクラっと目眩を起こしたような感覚になった。
「…それは…ずるいよ…。」
「ふふっ。素生さんが喜んでくれるなら、いくらでも笑顔を向けますよ?だから、私がずっと笑顔でいられるように、お願いしますね。」
明日香はそう言うと、素生は「もちろん。」と小さく言った。本当は堂々と胸を張って言いたかったが、素生にそんな体力は残されていなかった。
「ふぅ…。明日香ちゃんは?」
「へ?」
「明日香ちゃんは俺となんで付き合おうと思ったの?てか、大嫌いだったよね?最低って何回言われたか。」
素生はさっきのお返しと言わんばかりに、明日香に質問をした。聞かれた明日香は腕を組むと「う~ん。」と考えていた。
「明日香ちゃん?」
「えっと…。夢占い…。」
「へ?こ、これも夢占いなの?」
「そ、そうなんです。実は話していない夢占いがありまして…。桜の木に登る夢なんですが…。」
「それはどういう夢なの?」
明日香は夢占いの説明を始めた。桜に登る夢、それは素敵な恋の予感。
「…と言う訳です。」
「つまり、夢のお陰で、意識し出したってこと
?」
「あとは…お姉ちゃんのお陰です。お姉ちゃんに言われなきゃ、多分、素生さんのことを考えもしなかったです。」
「そっか。…で?」
「え?で…って?」
「いや、好きになったきっかけは分かったけど、結局、俺のどこが好き…なの?」
素生は苦笑いを浮かべた。明日香が素生の質問に答えているようで答えていなかった為だ。
「えっと…。優しいところ?」
「なんで疑問系なの?」
「え?…えっと…。」
「ま、まさか…分からない…とか?」
素生は苦笑いを更に苦くしたような表情で明日香に尋ねた。明日香はぎこちなく頷いていた。
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明日香は素生の家から帰路についていた。さくらも寝てしまい、素生の質問もきちんと答えられず、居ずらくなった為である。
「…ただいま。」
昼間、学校でルンルンだった頃の自分は何だったんだろと思いながら、扉を開けた。
「あっちゃん。おかえり。」
「お姉ちゃん。体調はどう?」
「大丈夫だよ。あっちゃん、遅かったね?」
「うん。素生さんの家に行ってたんだ。さくらちゃん、熱出しちゃって、心配でね。」
明日香はそう言いながら、靴を脱ぎ、香澄の横に立った。
「あっちゃん。もっくんと付き合うことになったの?」
「…そ、そうだよ。」
「そっか…。そうだよね…。」
「お姉ちゃん?」
「あっちゃん!ごめん!」
香澄は頭を膝につけるのではないかと思うくらい下げた。明日香から表情は見えなかったが、きっと、申し訳なさそうな顔をしていることは容易に想像出来ていた。
「お、お姉ちゃん!?ど、どうしたの?」
「…昨日…ね。あっちゃんが寝てる間に、もっくんに告白したんだ…。」
「え?」
「もちろん、フラれちゃったけど…。応援するって言ったのに、本当にごめんなさい。」
明日香は香澄の告白に口をポカンと開けて固まってしまった。
「あっちゃん?」
「あぁ。ご、ごめん…。驚いて固まってたよ。お姉ちゃん、本当に?」
「…うん。」
「…平気…なの?」
明日香は俯く香澄を心配そうに覗き込んでいた。
「フラれた直後は平気じゃなかったよ。でも、今はスッキリしてるかな?逆に、告白してなかった方がずっと後悔してたかも。…許してくれる?」
「許すもなにも、怒ってないよ。お姉ちゃんが素生さんに告白するのを私が止める権利なんて無いし。」
明日香はそう言い終わると、香澄がガバッと明日香に飛びついていた。
「ち、ちょっとお姉ちゃん!?く、苦しいよ~…。」
「あっちゃん、ありがとう。そして、おめでとう!」
「…ありがとう。」
「これで、あっちゃんの悩みは解決!だよね?」
香澄はそう言うと、抱きついていた腕を解き、明日香の目を見た。てっきり、明日香と目が合い、スッキリとした表情を見れると思っていた香澄だったが、明日香は目を背け、眉を8の字に下げていた。
「嘘…。」
「えっと…。お姉ちゃん…ごめんね?」
「まだ解決してないの!?」
香澄の驚きの声は夕暮れの空に響くのであった。
後書きに書くことがない笑
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また次回をお楽しみに!