明日ありと思う心の仇桜   作:ぴぽ

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第19話

明日香は珍しく、放課後の教室に残っていた。西日に照らされながら、明日香は頭を抱えていた。

「はぁ。やっちゃった…。」

明日香はそう呟くと、目の前に広がったノートやプリント、そして教科書を眺めていた。プリントには「将来の夢を英語で書きなさい」と温かみが全く感じられない文字が並んでいた。その文字に目を通すと、明日香は小さく「はぁ。」とため息をついた。以前に出されていた課題を明日香はすっかり忘れてしまっていたのだった。

「本当にどうしよう…かな?それにしても居残りはないでしょ?」

手に持っていたシャーペンを雑に転がすと、明日香はプクッと頬を膨らませた。忘れた方が悪いのだが、悪態を付けずにはいられなかった。

「文章は思いついているけど…。英文にするのが…。」

プリントには要約すると「将来の夢はないので、今は勉強を頑張る」と日本語で書いてあった。以前、明日香の家で素生に相談をして導き出した答えであった。しかし、複雑に日本語を書いてしまっていた為、明日香は苦戦を強いられていたのだった。

「…素生さん…何しているかな?」

明日香は休憩と言わんばかりに伸びをして、夕日を眺めながら呟いた。時計の針は12と5を指していた。

「私…素生さんの何処が好きなのかな?」

さくらが熱を出した際に答えられなかった素生からの質問。あんな見た目だが、優しいのは間違えないし、明日香の事も大事にしてくれている。

「…でも…。好きになった理由は違う気がする…。」

明日香は「う~ん。」と腕を組んで考えて見たが、答えは出そうになかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

なんとか、課題を終えた明日香は「疲れた…。」と思いながら帰路に着いていた。空をオレンジ色に染めていた太陽は1日の役割を終えたと言わんばかりに沈もうとしていた。もし、太陽の気持ちになるなら、バイトがあと10分で終わる学生のような気持ちだろうか。

「気持ち悪い。」

明日香は電車に乗ると、服をパタパタと動かし、風を送っていた。外は少し歩いただけで汗ばむようになっており、ジメジメとした空気が肌にまとわりつくようだった。

「夏…か…。」

もう少しで夏休みに入る為か、電車の広告は旅行関係の記事が電車の振動に合わせて揺れていいた。明日香もその記事に目を向けるとエメラルドグリーンの海の写真が大々的に掲載してあり「恋人と最高の思い出を…。」と謳い文句が書いてあった。

「恋人…。」

そう聞くと、もちろん明日香は素生の事を思い浮かべる。もし、素生とこんな海がある場所に旅行出来たら楽しいだろうなぁと思ったが、すぐに激しく首を振った。

「海って、水着になるじゃん。無理無理。は、恥ずかしい…。」

明日香は顔が暑くなるのを感じていた。付き合ってから数週間経ち、その間に予定さえ合えば2人は会っていたが、その時にキスの1つもなかったのだ。そんな明日香に、素生の前で水着になれと言うのは酷な話であった。

「…水着…。水泳をやってた時は平気だったのに…なんでだろ。」

明日香はまた腕を組んで「う~ん」と考えた。この時、顔を赤くしたり、眉間に皺を寄せて考え込む明日香を周りの乗客たちは「何事か」と思いながら、明日香を眺めるのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

それから数週間後、明日香達は夏休みに入っていた。この間も、明日香と素生は定期的に会っていたが、何も進展はなく、会ってもただ、喋っているだけという日々が続いていた。

「あっちゃーん!」

「…なに?」

そんなある日、たまたまPoppin`Partyの練習が休みだった香澄は、ソファーでアイスキャンディーを食べながら、ネットサーフィンをしている明日香に体当たりをする勢いで雑誌を持ち、リビングに飛び込んで来た。

「見て!これ!凄くない!?」

香澄が明日香の目の前に雑誌を広げた。しかし、本当に目と鼻の先に雑誌を広げた為、明日香には雑誌に書いてある内容が一切、見れなかった。

「ち、ちょっと!お姉ちゃん!落ち着いて!」

明日香が香澄を引き離すと、香澄は「ごめんね。」と言い、両手を胸の前に合わせた。

「それで何?」

「そうだった!あっちゃん!コレ見て!」

香澄は再び、興奮したように言うと、満面の笑みを浮かべながら、雑誌を開いた。そこには、以前、明日香が電車の中で見た、海の広告と同じ物が映っていた。

「あっ…。ここ…。」

「知ってるの?」

「うん。電車の広告で見たよ。…ここがどうしたの?」

明日香は改めて、雑誌に載っている海の写真を見た。相変わらず、眩しいくらいのエメラルドグリーンの海はやはり、あの時と同じように見てみたいと思わせるほどだった。

「あっちゃん、そこに行きたい?」

「え?…行きたいけど…。てか、ここって何処なの?」

「えっとね…。伊豆だよ!」

「伊豆…。無理だよ。私、バイトしてないし、お金ないもん。」

明日香は非現実的なことを言われ、呆れた表情を浮かべていた。しかし、いつも突拍子もない事を言う姉に慣れているのも事実で、適当にあしらうつもりでいた。

「お金が大丈夫なら行きたい?」

「え?それは…行きたいけど。」

「じゃあ、行ってきてよ。」

「だから、そのお金…が…。」

いつもなら、明日香の現実的な発言に引く香澄なのだが、今日は違いに得意気な表情で会話を続けていた。そんな香澄に明日香は、現実を知ってもらおうと、語気を強めてお金がない事を言おうとした。しかし、香澄がテーブルにチケットを2枚出した所で、明日香は驚き、言うのを止めてしまっていた。

「これって…。」

「この雑誌に載っている海に近い所にある旅館の宿泊券だよ!1泊2食付き!」

「ど、どうしたの!?これ…。」

明日香は宿泊券をマジマジと見ると、旅館の外装が印刷されており、見るからに「高級です。」と言っているようなものだった。

「商店街の福引で当てちゃった!」

「…マジ?」

香澄はそのポジティブな性格のお陰かどうかは分からないが、時に驚くほど幸運を呼び込む事がある。

「だから、あっちゃん。もっくんと行ってきたら?」

「はぁ!?お姉ちゃんと行くんじゃないの!?」

「私は、ポピパの練習とかあるから。それに、最初に行ってきたらって言ったよ?」

「そんな…。」

いきなりの提案に明日香の声は驚きから上擦っていたが、そんな声に矛盾し、表情はニヤニヤとだらしなく笑っていた。しかし、すぐに頭を回転させ、直ぐに困ったような表情に変えた。

「お姉ちゃん、ダメだよ。高校生のカップルが旅行なんて、お母さんが許さないよ。」

「良いって言ってたよ?」

「もう聞いたの!?」

明日香は再び驚き、目を丸くした。この短時間で何度驚いただろうか。

「待って!お母さんに聞いたって事は、私に彼氏が出来た事も言ったの!?」

「うん。あれ?言ったらダメだった?お母さん喜んでたよ?お父さんも泣いて喜んでたよ。」

香澄の発言に明日香は頭を抱えた。決して内緒にしてた訳ではないが、思春期が邪魔をして、なかなか言い出せなかったのだった。

「…まぁ、知られちゃったらしょうがないか…。いつ喋ったの?」

「昨日の夜だよ。あっちゃん、すぐに自分の部屋に行っちゃったから話す機会がなくて、先にお母さん達に言ったんだよ。それにしても、まさかお父さんが泣くほど喜ぶなんて!」

「お父さんは…多分、喜んで泣いたんじゃないと思うよ?」

明日香は苦笑いを浮かべながら言うと、香澄は「え?」と言いながら首を傾げた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

「急に会いたいって言ってすみません。」

「全然良いよ!」

明日香の謝罪に対して、素生は笑顔で言った。しかし、持っていたタオルで額の汗を拭っているところを見ると、急いできたことが分かり、明日香は申し訳ない気持ちを募らせていた。

「それで話って?」

「あ、あ、あの…。その…。」

「ん?…まさか…別れ話…?」

「ち、違います!素生さんの事は…その…一応、好きです。」

「一応…?喜んで良いのか、悪いのか…。」

素生は「あはは」と乾いた笑い声をあげると、明日香は慌てて「ち、違う!」と言った。

「まぁ、良いよ。話って言いにく事?」

「言いにくいと言うか…。恥ずかしいと言うか…。」

「恥ずかしい?キスがしたいとか?」

素生が「キス」という単語を言った瞬間、明日香の顔はアニメみたいに「ボン!」という音が鳴ったと錯覚するほど、一瞬で顔を真っ赤にした。まさか、自分がこんなにも初心だなんて思わなかった明日香は穴を今すぐ掘って一生冬眠したい気持ちになっていた。

「ち、違い…ます…。」

「あはは!冗談だよ。明日香ちゃん、可愛いなぁ。」

「可愛く…ないです…。」

この人は私を褒め殺す気なのかと明日香思いながら、更に顔が暑くなるのを感じていた。これが自室ではなく、学校だったら熱があると勘違いされて早退が出来ただろう。

「もう…。喋らないと、更に恥ずかしい事を言われそうなので、言います。…旅行に行きませんか?」

「旅行?」

「はい。お姉ちゃんが商店街の福引で当てて、伊豆の方なんですが。」

明日香はそう言うと、旅館の宿泊券を素生に差し出した。明日香は素生もさぞかし喜んでくれると内心ワクワクしていた。しかし、素生の表情は明日香の予想に反して、難しそうな表情を浮かべていた。

「素生さん…?嬉しくないの?」

「ううん。嬉しいし、凄く行きたいけど…。さくら…がね?」

残念そうな表情を浮かべる素生に明日香は「あっ。」と小さく呟いた。香澄から旅行の話を聞いた時、冷静になっているつもりでいたのだが、やはり、舞い上がっていたらしく、大事な事を失念していた。

「そうですよね…。さくらちゃんを置いてはいけませんね。」

明日香にとってもさくらは可愛い可愛い、妹のような存在である為、残念ではあるがしょうがないと思っていた。

「それにさ、明日香ちゃんにしては珍しいミスをしてるなぁって。」

「ミスですか?何ですか?」

「これ。」

手に持っていた宿泊券を素生は明日香の方に向け、指した。素生の指を目で追った明日香は再び、顔を真っ赤にした。旅館券には「9月20日のみ有効」と書いてあった。

「ち、ちなみに9月20日は…?」

「平日だね。学校サボって行くの?」

素生の表情は付き合う前に明日香をからかった時と同じ表情をしていた。その表情に明日香はイラッとしたが、今回は事実を言われた為、何も言い返せず、奥歯をギリっと噛み締めるだけだった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

学生の夏休みの1ヶ月は普段学校がある時の夏休みに比べて、とても早く感じるものである。これは普段でも、平日よりも休日の方があっという間に過ぎてしまうのと同じではないかと思う。ちなみにだが、夏休みは夏季休業と言い、明治14年から始まり、夏休みを始めた目的は明確には分からないと言う事らしい。

「最近…夢見なくなったなぁ。」

学校が始まる9月1日の朝、明日香は布団の中でふと思い出していた。明日香が悩めるきっかけともなった桜の夢、そして、素生と付き合うきっかけをくれた桜の夢。しかし、将来の不安も、勉強を頑張るといった曖昧な解決しかしておらず、素生の事も、何処が好きになったのか分からないままであった。

「まぁ、会いたいとか定期的に思うから、好きなんだろうけどなぁ。」

明日香は布団の中でう~んと伸びをした。そしてスマホで時間を確認すると時刻は5時半であった。基本的に計画的な明日香は、夏休みに体内時計がズレている事を気にして、かなり早く就寝していた。そのせいで、いつもなら有り得ないくらい早く目が覚めてしまったのだが。

「夏休み、いっぱい会ったなぁ…。」

素生の事を思い出したせいか、夏休みに素生に会った事を思い出していた。しかし、どの場面を思い出しても、2人で談笑しているところしか思い浮かばなかった。

「…もうちょっと、恋人らしい事をしないと…嫌われるかな?」

嫌われると思った瞬間に明日香の胸はギュッと掴まれたように苦しくなった。そう思うという事はやはり好きなのかなとも思っていた。そして、足元に丸まった布団を手繰り寄せると、抱き枕の容量でギュッと抱きしめた。

「キスって…どんな味なんだろ…。」

試しに、抱き寄せた掛け布団にキスをしてみるも、もちろん味なんて分かるはずも無かった。

「…何しているんだろ。」

ふと我に返ると、自分が恥ずかしい事をしているんだと感じ、抱きしめていた掛け布団をポーンと蹴ってしまった。そして、誰にも見せられない行動を自分も忘れる為に頭をブンブンと振ると、身体起こし、頬をパンパンと叩いた。

「夏休み、勉強頑張ったし、夏休み明けのテスト、頑張ろう!」

再び、明日香はう~んと伸びをした。9月になったが、日差しは容赦なく降り注ぎそうであったが、これから始まる未来に明日香はほんの少しだけ期待するのであった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

~おまけ~

「お姉ちゃん!この宿泊券の有効日、学校がある日じゃん!」

「あ、あれ?そこまで見てなかったよ。ご、ゴメンね~。」

「もう!素生さんに言われて、恥ずかしかったんだからね!」

こんな姉妹のやりとりを母親は微笑ましく眺め、父親は心底ホッとした表情で眺めるのであった。

 

 




バンドリ3周年、おめでとうございます。
これからも1ファンとして、楽しくプレイし、楽しくアニメを見ながら応援したいと思います。
バンドリを通して、様々な輪が出来た事を大変、嬉しく思っています。
これからも、沢山の輪を大切にしていきたいと思います。
次回、予定では最終話ですが、内容次第では変わる可能性があります。
その時はTwitterでお知らせします。
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