明日香はキョロキョロと辺りを見渡した。見渡す限り、草原が続いており、回りには靄がかかっている。その靄のせいである程度までしか視界が効かなかった。
「ここは…?」
突然、現れた景色に困惑したが、すぐに明日香は「あぁ~。」と納得をした。
「これは…夢か。夢見てるんだ。」
非現実的な風景を見ながら明日香は「はぁ。」とため息をついた。
「何でこんな夢?まぁいいか。止まっていてもしょうが無いし…。」
明日香は一歩ずつ、確かめるように歩を進めて行った。
「これは?桜?」
どれだけ歩いただろうか。数十分とも感じるし、一瞬にも感じていた。そして、それは突然現れた。靄が一カ所だけ、急に晴れ、明日香の目の前には立派な桜が咲いていたのであった。
「綺麗…。だけど…。あれ?色が薄い?」
明日香がボソッと呟いた。しかし、その瞬間、明日香の足下だけ、ポッカリと穴が開いてしまった。
「え?嘘っ!」
明日香はその穴に吸い込まれるように落ちて行ってしまった。
「きゃぁぁぁぁぁ!」
ガバッと、掛け布団を盛大に蹴った明日香は「はぁはぁ。」と呼吸を荒げながら起き上がった。外はまだ薄暗く、起きる時間はまだまだ先だと言うことが分かった。
「はぁ~。…酷い夢…。」
明日香が頭を抱えた。額にはしっとりと汗をかいていた。
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「…おはよ。ふぁ。」
欠伸をしながら、明日香は教室に入っていた。あの夢に起こされてから結局、一睡も出来なかったのである。
「明日香ちゃん、おはよ!って、あれ?元気ない?」
明日香の姿を見つけた六花が近づき、首を傾げながら言った。
「あぁ…うん。ちょっと嫌な夢を見てね。」
「そうなの?どんな夢だったの?」
「桜の夢だよ。でも、桜にしては色が薄かったんだよね。あれ、本当に桜だったのかなぁ?」
明日香は首を傾げながら言った。
「桜の夢?それが悪い夢なの?」
「うん。綺麗だなぁって思ってたら、いきなり穴が開いて落ちちゃってね。」
苦笑いを明日香は浮かべた。本当に意味の分からない夢だなぁと喋りながら明日香は思っていた。
「ちょっと調べてみるね。」
「調べる?」
「うん。夢占いってやつ。」
六花はそう言いながら、スマホを開き、「桜 夢占い」と打ち込み、検索していた。しかし、少し待っても、六花は口を開かなかった。表情もどうしようか困っていると言った感じであった。
「六花?どうだったの?結果は。」
明日香はカバンから教科書を出しながら言った
。
「え、えっとね?明日香ちゃん、占い信じる方かな?」
「どうだろ?内容によるかな?って、どうだったの?そこまで引っ張られたら気になるよ?」
明日香がそう言うと、六花はおずおずとスマホを明日香に渡した。
「この夢を見るあなたは、好奇心が低下しているようです。
されるがまま、世間に流されているということです。」
スマホにはそう書かれており、明日香は無表情のまま読んだ。
「あ、明日香ちゃん?」
「うん。六花の反応を見てたら良い結果じゃない事は分かってたよ。大丈夫だよ。」
心配そうな表情をしている六花に明日香はニコッと微笑みながら言った。
「ところで、六花?それ何?」
明日香は六花の手に握られていた本を見て言った。
「これ?恋愛小説だよ!凄く面白いの!是非読んで!」
よくぞ聞いてくれましたと言いたげに興奮した様子の六花に明日香は苦笑いをした。
「恋愛小説?あまり読まないかも。タイトルは『月明かりに照らされて』?」
「うん!この作者さんの小説は本当に面白いの!その他にも、『僕と、君と、歩く道』とか『幸せの始まりはパン屋から』とかあるんだよ!」
力説する六花に明日香は興味を抱いた。
「そうなんだ。なら読んでみようかな?貸してくれるんだよね?」
「もちろん!その為に持ってきたんだから!」
六花は満面の笑みで言った。
「そうそう、今度『image』っていう小説も出るから読んだら持ってくるね!」
「うん。分かった。ありがとうね。」
明日香はパラパラと小説のページを開きながら言った。その時、ホームルームの開始を告げるチャイムが鳴り響き、1日の始まりを告げていた。
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それから5日後の金曜日、結局あの夢は何だったのか忘れるくらい、変わりない日常を明日香は過ごしていた。いや、変わった点ならある。それは、六花から借りた小説が予想以上に面白かった事だった。結局、借りた小説はすぐに読み終わり、今日、新たに新しい小説を借りたところだった。
「(早く帰って読まなきゃ。…でも…)」
明日香は傘の隙間から空を見上げた。朝からずっとシトシトと雨が降り続いていた。この雨のせいでいつもより、明日香の足は遅くなり、帰宅時間を遅らせていた。
「(まぁ、ゆっくり帰ろう。急いで帰ってもしょうがないし。)」
明日香は逸る気持ちを抑えて、ゆっくりと歩を進めるのであった。
「(そう言えば…。あの不良…。大丈夫だったのかなぁ?)」
恋愛小説の事を考えていた明日香は昔、読んだ不良のギャップにやられる女の子のストーリーを思い出した。そのシーンから先日の不良を思い出した明日香は「う~ん。」と唸った。
「(あんな目立つ恰好なんだら、もし見つけたら気付くよね。一応、助けて貰ったし、お礼言いたいなぁ。)」
そんな事を漠然と考え、歩を進めていた明日香だったが、次の角を曲がった瞬間、足を止めてしまった。目の前にはこの雨の中、傘もささずに、子犬を抱きかかえている人がいたからだ。服装は制服をかなり着崩しており、耳にはピアスが開いていた。
「(え?何この少女漫画によくあるシーンは…。不良が、捨て犬を拾うって…あれ?待って、あの人って…。)」
ほんの少し前に考えてた人物が目の前にいた。しかもびしょ濡れで子犬を抱いて…。
「あ、あの!」
「はい?何でしょうか?」
明日香が気付いた時には声をかけていた。相手の不良は丁寧で柔らかい声で答えていた。
「あ、あ、あの!あ、あの時はありがとうございました。」
「あの時?」
明日香がガバッと頭を下げるも、不良、もとい、素生は首を傾げた。
「覚えてませんか?日曜日にナンパから助けて貰った者なんですが…。」
「…あぁ。ごめん。あれ、恥ずかしいから、あまり…。」
素生は罰の悪そうな表情で言った。殴られ、一発退場したのが恥ずかしかったのだった。
「でも、助かったのは事実なので…。」
「いやいや。次があったらもっとちゃんと助けれるようにするよ。そう言えば、名前は?」
「戸山です。戸山明日香と言います。高校1年生です。」
「そっか。俺は飛川素生だよ。2年生だよ。」
お互いに自己紹介をすると、沈黙になり、雨の音だけが響いていた。お互いに「それでは。」と言って、離れれば良かったが、何故かそうはしなかった。そして、この沈黙に耐えれなくなったのは素生の腕に抱かれ、濡れないように服で覆われた子犬で、「ワン!」と鳴いた。
「すまんな。すぐに帰ろうな。」
素生は優しい声でそう言うと、明日香の方を見た。
「その犬、飼うんですか?」
素生は帰ると言う為に、口を開こうとしたが、明日香が傘を素生の方に傾けながら言った。
「え?そうだよ。…どうかした?」
「いえ。気になって。ところで、傘はどうされたんですか?」
明日香は改めて、びしょ濡れになっている素生を見た。以前、見たときは髪をツンツンに立てていたが、今は、雨に濡れたせいで、見る影もなく、垂れていた。
「だって、濡れた方が格好いいじゃん?」
「…は?」
素生の斜め上を行く発言に明日香は眉間に皺を寄せた。心の中では「何言ってんだこいつ。」とも思っていた。
「え?格好良くない?」
「…全然です。」
明日香がそう言うと、素生は首を傾げながら「おかしいなぁ。」と呟いていた。
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昨日の雨が嘘のように、晴れ渡った土曜日。明日香は朝から六花に借りた小説を読んでいた。ストーリーに入り込んでいるのか、目には涙を溜めていた。
「あっちゃーん!あれ?なんで泣いてるの?」
「お、お姉ちゃん?何?今、良いとこなんだけど。」
明日香は一度、小説を置き、ティッシュで涙を拭いていた。
「小説で泣いてたんだ。気になるから私にも読ませて!」
「これ、六花のだから。私も、この小説買おうと思っているから、買ったら貸すよ。…それで、何の用?」
涙を溜めている明日香が珍しいのか、香澄はマジマジと明日香の顔を見ていた。
「そうだった!あっちゃん!買い物行かない?」
「買い物?何買うの?」
「ギターの弦とかだよ。ついでにどっか行こうよ~!」
香澄は明日香の腕を取るとブンブンと振り回した。これではどちらが姉か分からなかった。
「わ、分かったから。私も、ノートとか買いたかったから良いよ。後、本屋もね。」
「やったー!あっちゃんとデート!」
香澄は笑顔で喜んだ。あまりに嬉しかったのか、明日香にガバッと抱きついていた。
「ちょ、ちょっとお姉ちゃん!?抱きつかれたら準備出来ないじゃん!」
明日香は抗議するも、香澄の耳に届いてはいなかった。それから数分後、香澄から解放された明日香は準備を整え、商店街に向けて、歩いていた。
「全く。お姉ちゃんは…。ポピパの皆さんにも抱きついてるの?」
「もっちろん!」
「はぁ。お姉ちゃん、もうちょっと落ち着きなよ。」
明日香はため息をつくも、香澄は全く気にすることなく、ニコニコしながら歩いていた。
「あっちゃん?学校は楽しい?」
「え?うん。まぁまぁかな。」
「キラキラドキドキすること見つけた?」
「…私、そのキラキラドキドキって分かんない。」
明日香はプイっと顔を背けながら言うと、香澄は「えー?」と苦笑いしながら言った。それから2人は談笑しながら歩いた。そして、明日香はいつもより到着が早く感じられていた。
「(やっぱり、お姉ちゃんと話しながらだと楽しいなぁ。)」
と思っていた。
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一通り、買い物が済み、2人は喫茶店で休憩をしていた。香澄の横には沢山の紙袋が置いてあった。
「お姉ちゃん、服、沢山買ったね。お小遣い大丈夫なの?」
「大丈夫じゃないよ…。でも、全部キラキラドキドキしたから満足!」
香澄は一瞬、残念な表情をしたが、すぐに笑顔に戻っていた。
「もっと、計画的にお金使わないと。…でも、お姉ちゃんのそういうとこ、羨ましいな。」
明日香は「ふぅ。」と息を吐きながら、以前と同じ様に、オレンジジュースを混ぜながら言った。カランコロンと氷がコップに当たる音が響いた。
「あっちゃん?」
「ううん。何でもないよ。気にしないで。」
「う、うん。何か悩み事があるなら言ってね?…頼りないかもだけど…。あはは。」
苦笑いしながら香澄は言った。
「頼りないなんて、ありえないよ。お姉ちゃんは凄いと思うよ。私のない所沢山持ってるもん。」
「なんか照れるなぁ~。」
普段、そんな事を言わない明日香に香澄はかなり表情を緩ませていた。
「でも、もうちょっと落ち着きなよ?」
明日香がニヤっと笑いながら言うと、2人は「あはは!」と笑った。
「そういえば!あっちゃん、どの辺りで、ナンパにあったの?」
香澄は手をポンっと叩いて言った。
「あぁ。あれね。実は、この店の目の前なんだよね。」
「そ、そうなの!?…やっぱり恐かった?」
「う~ん。どうだろ?その後が強烈だったからなぁ。」
明日香は吹き飛ばされた素生の事を思い出していた。
「あぁ!あの言ってた不良さんだよね?」
香澄も、明日香から聞いた話でかなり興味を持っている様子だった。
「そういえば、昨日、会ったんだよ?」
「そうなの?話したの?」
「うん。ちゃんと助けて貰ったお礼も言ったからスッキリしたよ。でも、話した感じが、不良ぽく無かったんだよね。」
明日香は再び、素生の事を思い出していた。初めて会った時は素生の見た目のインパクトからただの不良だと思っていた。しかし、昨日、話した素生は物腰も低く、柔らかい口調だった。
「変なの。」
「あっちゃん?」
「あっ。ごめんね。考え事してた。…その不良ね。…飛川さんって言うんだけど、なんか見た目は不良なんだけど、性格はそうじゃない気がしてね。」
明日香がそう言うと、香澄は驚いたように目を見開いていた。
「ま、待って!今、飛川くんって言った?」
「うん。そうだけど?」
「…飛川って名字って、そんなに居ないよね?」
「多分ね。って、お姉ちゃん知ってるの?」
香澄の反応に、明日香も驚いた表情をしていた。
「うん。多分だけど…。」
「確か、お姉ちゃんと歳は一緒だったよ。2年生って言ってた。」
「う~ん。まぁ、たまたま名字が同じだけかもだけど…。素生って名前じゃないでしょ?」
「ううん。合ってるよ。」
明日香が呟くように言うと、香澄は目を見開いた。
「え!?本当に!?なら、間違いなく素生君だ!あれ?でも…。」
香澄はそう言うと「う~ん。」と考え込んでしまった。
「お姉ちゃん?」
「私が知ってる素生君なら優しい人で、そんな不良みたいな服装じゃ無かったはずだけど…。」
香澄が呟くように言う。明日香は素生に対して大きな謎を残すのであった。オレンジジュースの氷が溶けて、カランとまた店内に響くのであった。
2話でした。
謎が深まる主人公回でした。
さて、六花が「面白い」と言って、明日香に貸した小説は全て、ハーメルンで小説を投稿している「小麦こな」さんの作品です。
大ファンで、尊敬している方です。
この度も、小説のタイトルだけを載せたいと聞いたら二つ返事で承諾して頂きました。
実は、明日香の小説を書くきっかけを下さったのも、小麦こなさんで、この小説の主人公の名前を付けて下さったのも、小麦こなさんです。
本当に感謝しかありません。
小麦こなさんの小説は伏線が張られていて、それを綺麗に回収しています。
読んでいて非常にワクワクします!
と、紹介しましたが、かなり人気のある方なので、皆さんご存じですかね?
感想&評価もよろしくお願いします!
「月明かりに照らされて」
https://syosetu.org/novel/170174/
「君と、僕と、歩く道」
https://syosetu.org/novel/175730/
「幸せの始まりはパン屋から」
https://syosetu.org/novel/182630/
「image」←連載中!
https://syosetu.org/novel/189307/